なぜ宇宙で実験を行うのか?
小動物の宇宙飼育を通じたヒトの健康長寿に関連する研究への貢献
超高齢社会である我が国は、2025年には全人口に対する高齢者の割合が30%を超えることが予測されており、健康長寿への取組みは我が国にとって重要な施策の一つです。宇宙環境は、骨量減少、筋萎縮、内耳機能(バランス感覚)低下、免疫機能低下など、地上の高齢者や寝たきりの状態に類似した生物影響の加速的な変化を提供できると考えられるため、「きぼう」ではこれまで様々なモデル生物を用いて、地上の加齢様現象の機序解明や対策法確立等を目的として、微小重力による生体への影響に関する研究が行われてきました。
2016年度から開始した「きぼう」でのマウス飼育ミッションは、世界初の遺伝子ノックアウトマウス、中枢神経系の炎症疾患モデルマウスなどを含め、これまでマウス長期飼育後の全匹生存帰還に連続して成功すると共に、加齢様疾患などの対策法の検証や疾患関連因子の同定の研究推進など、健康長寿研究支援プラットフォームの中核としての有効性を示しています。
引き続きヒトへの還元を第一の目標と掲げ、JAXAだけが有する可変重力下でのマウス飼育環境等を最大限に活用するとともに、より先進的・省リソースでのミッション実施に向けた向上を図り、健康長寿研究支援プラットフォームとしての研究成果の蓄積を目指します。
- (詳細)きぼう利用戦略:健康長寿研究支援プラットフォーム [PDF: 8.3 MB]
- きぼう利用戦略
研究アイデアから宇宙ミッションへ
本プラットフォームを活用し、マウス飼育ミッションを中心としたJAXAの生命科学・宇宙医学実験技術などによる個別化予防、先制医療などの次世代医療研究を推進し、地上での健康維持や高齢化社会への対応などの健康長寿社会形成に貢献します。これまで実施されてきた宇宙ミッションテーマは研究公募により選定されています。
本プラットフォームにおいては、民間企業による利用創出を目指しつつ、引き続き、公募テーマと国の研究機関などとの連携による利用に100%を割り当てるものとし、民間企業などからの利用要求が生じたときには民間利用へリソースを割り当てる予定です。
サービス紹介
軌道上でマウス等を長期(約30日程度)飼育し、生きたまま回収することができます。飼育ケージはマウスのストレス軽減のため個室となっており、微小重力環境下と人工重力による1g環境下でそれぞれ6匹のマウスを飼育して、ビデオカメラにより地上でライブ観察ができます。重力以外は同じ環境なので、純粋に重力の差に着目した観察が可能です。
JAXAの装置は、以下のような他国にない特徴を有しています
- 軌道上の微小重力環境と遠心機による人工重力環境の両方で飼育でき、両群の比較により重力の影響を詳細に調べることが可能です(ISSでの哺乳類の人工重力実験は世界初)。なお、人工重力区画は回転を停止することにより微小重力区としても利用可能です。
- 帰還した生存マウスは、研究者(専門家)による科学的な解析や状態の回復過程の観察等が可能です。
- 「きぼう」船内でのマウスは個別ケージ内での飼育により、雌雄や系統に大きな制約がありません。またモニタによりマウスの状態や行動が詳細に観察できます。
サービス紹介パンフレット
タイトル | サイズ | ID |
---|---|---|
"Kibo" Utilization Services #3: Introduction for Mouse Rearing in Microgravity 2020,English | [ pdf: 5.3 MB] | 71619 |
「きぼう」利用サービス紹介3・微小重力環境でのマウス飼育と回収サービス 2020年版 | [ pdf: 6.9 MB] | 67815 |
トップサイエンスを支えるJAXA独自の宇宙飼育装置
- (装置紹介)細胞培養装置(CBEF)
- (装置紹介)細胞培養装置追加実験エリア(CBEF-L)
- (装置紹介)小動物飼育装置(MHU)
- (装置紹介)遺伝子機能発光イメージング解析装置(TELLAS)
- 「きぼう」船内実験室利用ハンドブック(「小動物飼育装置」の項を参照ください) [PDF: 9.5 MB]
宇宙ミッションテーマと未解析サンプルの活用
プロジェクトの流れ
公募選定されたテーマ
現在募集中のテーマ
宇宙生命科学統合バイオバンク「ibSLS」
宇宙ミッション実施にはテーマ選定後、十分な準備期間が必要となります。すでに実施済みミッションから得られた成果(特定組織のトランスクリプトーム解析結果など)は順次ibSLSに蓄積されており、宇宙ミッションを実施していない研究者でも、それぞれがターゲットとしている因子の宇宙での変化を予測・検討することが可能となっています。さらに、このデータは東北大学東北メディカルメガバンク(ToMMo)のコホートデータとの連携解析が可能です。
- 宇宙と地上の研究をつなげるヒト・マウス統合データベース「ibSLS 」(外部HP: ToMMoへ)
宇宙ミッション推進におけるJAXAの役割 ~装置開発とユーザーインテグレーション
研究者のアイディアから宇宙ミッションの実現へ
宇宙は地上と異なる環境のため、研究アイディアをそのまま実施することは難しく、研究者だけでは宇宙ミッションを実施するのは非常に困難です。微小重力や放射線の影響、ISS船内外のさまざまな制約や条件の下で宇宙ミッションを実現させるためには、過去の宇宙ミッションを通して豊富な経験を積んだ各分野の専門家たちのサポートが不可欠です。
JAXA小動物飼育ミッションでは、実験条件の検討や予備実験の実施等のユーザーインテグレーションを担うサイエンスチームと飼育装置や解析装置の技術開発・管理運用するエンジニアチームとが密接に連携して、宇宙ミッションを推進しています(上図:プロジェクトの流れ「宇宙ミッションテーマ」をご参照ください)。
さらに、実験計画を審査する動物実験委員会、外部有識者から構成されるアドバイザリ委員会、JAXA有人宇宙技術部門の各種審査会等のほか、ISS国際パートナーのNASAや国内外のミッション支援企業等による協力体制が宇宙ミッションを支えています。
安全かつ確実に宇宙ミッションを成功へと導くために、今後も宇宙ミッション推進におけるJAXAの役割を果たしていきます。
インタビュー:ミッションを支えるスペシャリストたち
- 充実度が高まるマウスの飼育ミッション ~解析結果のデータベースも公開~(有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 研究開発員 岡田 理沙)
- 宇宙におけるマウスの行動解析手法を開発、さらに精緻な行動分析や宇宙酔いの解明などにも期待!(有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 客員研究員 下村 道彦)
- 質の高いデータが得られるよう「きぼう」での実験を最大限サポートしたい(有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 技術領域主幹 白川 正輝)
関連トピックス
研究成果(論文・表彰・研究協力等)
- 第5回宇宙マウス飼育ミッション(MHU-5)成果:微小重力及び人工月面重力環境がマウスの骨格系や免疫系に与える影響を解析したデータが発表されました(2024年11月25日)
- 2022年度選定「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ「低重力環境における口腔歯科医学展開にむけた基礎研究基盤」の組織解析の成果が論文に掲載されました(2024年7月19日)
- Medical Proteomics研究の成果が公表されました
~⻑期宇宙滞在ミッションに伴うヒト⾎清プロテオーム変化を解明~(2024年1月30日) - 「きぼう」を活用したアジア科学利用の拡大 ~タイとの「きぼう」利用マウスサンプルシェア協定の締結~(2023年9月4日)
- 小動物飼育ミッション成果:宇宙ストレスによる炎症・微小血栓形成をNrf2が抑制!(2023年9月 1日)
- 2件の「きぼう」利用ミッションが2023年のISS Research Awardsを受賞!(2023年8月31日)
- [プレスリリース]人類の月面生活実現への新たな一歩となる月面重力下におけるマウスの筋肉の量と質の変化の違いを解明(2023年4月21日)
- 筋肉を速筋タイプにする転写因子を同定
〜加齢や病気で低下した筋機能の改善方法開発に期待〜(2023年3月29日) - 宇宙生物科学統合バイオバンク「ibSLS」の公開データを拡充(2023年1月11日)
- 第1回宇宙小動物飼育ミッション(MHU-1)成果:微小重力環境がマウスの中枢神経系(脊髄)に与える影響を解析したデータが発表されました(2022年7月27日)
- 2018年度および2020年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ募集からの成果:皮膚組織の解析データが発表されました(2022年7月27日)
- 宇宙生物科学統合バイオバンク「ibSLS」の公開データを大幅拡充(2022年5月31日)
- 4件の「きぼう」利用ミッションが2020年、2021年のISS Research Awardsを受賞(2022年3月28日)
- ストレス対応で宇宙環境に身体をアジャスト! (2021年12月10日)
- 宇宙旅行によって血圧や骨の厚みが変化するしくみを解明(2021年11月29日)
- 2019年度選定「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ「含硫代謝物および遺伝子発現を指標にした無重力が酸化還元状態に及ぼす影響の解明」の組織解析の成果が論文掲載されました(2021年11月25日)
- 宇宙小動物飼育ミッション:父親の宇宙滞在経験が、子供の遺伝子発現に影響することを発見(2021年7月 6日)
- 宇宙マウス飼育のデータから骨格筋の性質維持にはたらくNrf2の新たな機能を発見(2021年6月29日)
- 宇宙環境で引き起こされる骨格筋萎縮は人工重力1G負荷により防ぐことができる(2021年4月28日)
- 宇宙ライフサイエンス研究は新たなステージへ ~宇宙生命科学統合バイオバンク「ibSLS」の公開とCell誌掲載~(2020年11月26日)
- Integrated Biobank for Space Life Science(2024年9月12日)(リンク先英文)
- [プレスリリース]宇宙マウス研究から健康長寿のヒントを発見―宇宙環境で加速する加齢変化を食い止める遺伝子―(2020年9月9日)
- [プレスリリース]日本独自の宇宙マウス飼育システムの令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰及び本システムを用いたJAXA-NASA共同低重力ミッションの実施合意締結について(2020年4月14日)
- 宇宙滞在による免疫機能低下の機構を解明 -無重力環境が引き起こす胸腺の萎縮と人工重力による軽減-(2019年12月27日)
- 国際宇宙ステーション・「きぼう」でのマウス飼育により宇宙滞在が精子受精能力に及ぼす影響を解析(2019年10月18日)
- 「きぼう」のマウス飼育システムが2019年のISS Research Awards(Innovation in Biology and Medicine分野)を受賞!!(2019年8月8日)
- 宇宙でのマウス研究システムMARS(Multiple Artificial-gravity Research System)を改良し、餌介入試験に成功(2019年7月11日)
- 平成27年度選定「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマ「新規な質量分析イメージングによる筋・骨格系疾患の発症機構解明」のFSの成果が論文に掲載されました(2019年5月17日)
- きぼう利用を通じた健康長寿社会への貢献「ToMMo×JAXA連携」協定締結式が行われました(2019年2月21日)
- [プレスリリース]健康長寿社会実現への貢献を目指した「きぼう」利用に係る東北メディカル・メガバンク機構との連携協定の締結について(2019年2月8日)
- 「きぼう」で行われた日本の研究成果が、ISS R&D Conference において、"2018 ISS Award for Compelling Results"を受賞しました(2018年7月27日)
ミッション実施・進捗
- JAXA-NASA共同低重力ミッション(MHU-8):有人宇宙探査活動に向けた知見獲得を目指し、「きぼう」で4つの異なる重力環境での長期小動物飼育を完了(2023年4月28日)
- 遺伝子機能発光イメージング解析装置(TELLAS)の準備作業を行いました(2021年12月21日)
- 「きぼう」小動物ミッションの飼育能力が倍増。新規飼育ラック・新規大型遠心機を用いた日米協力ミッションのベースラインとなるデータを蓄積 ~第5回JAXA小動物飼育ミッションが成功裏に完了~(2020年5月18日)
- 世界初!月の重力環境を国際宇宙ステ―ションで実現してマウスを長期飼育~深宇宙への人類の活動領域拡大に向けた第一歩~(2019年6月21日)
- 小動物飼育ミッション:世界初、「炎症疾患モデルマウスによる病原体や免疫細胞などが中枢神経系等に入りやすい侵入口(ゲート)解明ミッション」を実施。4回連続の全数生存帰還を達成。(2019年6月7日)
- 世界初、遺伝子ノックアウトマウス(特定遺伝子を欠失したマウス)の全数生存帰還に成功(2018年5月11日)
- 「きぼう」にて、第3回小動物飼育ミッションが開始されました。(2018年4月6日)
- 第2回マウス長期飼育ミッションの終了後3か月速報(2017年12月28日)
- 第2回マウス長期飼育ミッションの終了後1か月速報(2017年10月25日)
- 世界初、宇宙空間でμgから1gを可変できる実験環境"MARS"が完成(2017年9月8日)
- 35日間の長期飼育で骨や筋肉の量が顕著に減少 ~「きぼう」における、長期飼育マウスの地上分析速報~(2016年12月5日)
- 国際宇宙ステーション・「きぼう」における、長期飼育マウスの全数生存帰還の世界初の達成ならびに次世代仔マウスの誕生について(2016年10月13日)
テーマ公募・選定・プロモーション関連
- 2020年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの最終報告について(2023年12月20日)
- [インタビュー] 充実度が高まるマウスの飼育ミッション ~解析結果のデータベースも公開~(2023年6月30日)
- [インタビュー] 宇宙におけるマウスの行動解析手法を開発、さらに精緻な行動分析や宇宙酔いの解明などにも期待!(2023年4月27日)
- 2022年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ募集の選定結果について(2023年3月10日)
- 2019年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの最終報告について(2022年12月21日)
- 2022年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの募集について(2022年12月16日)
- 2018年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの最終報告について(2022年2月25日)
- 2020年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ等募集の選定結果について(2020年2月10日)
- 2020年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2021年4月 7日)
- 2020年度「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマの募集について(2020年9月30日)
- 2020年度「きぼう」利用マウス特定解析課題研究の募集について(2020年9月30日)
- 2020年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの募集について(2020年9月30日)
- 2019年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2020年3月26日)
- 2019年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ募集の選定結果について(2020年1月27日)
- きぼう利用ネットワーク・クロス~「きぼう」利用の歩み・研究成果の紹介、新たなテーマ募集に関するセミナー~(2019年9月20日)
- 2019年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマの募集について(2019年10月 1日)
- 2019年度「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマ募集について(2019年10月 1日)
- 2018年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2019年3月11日)
- [インタビュー] きぼう」の小動物飼育装置をあなたの研究にも活かそう!(2019年3月7日)
- 2018年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ募集の選定結果について(2019年2月20日)
- 2018年度「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマおよびマウスサンプルシェアテーマの募集について(2018年8月3日)
- 平成29年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2018年3月23日)
- [インタビュー] 質の高いデータが得られるよう「きぼう」での実験を最大限サポートしたい(2018年12月22日)
- 平成29年度「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマの募集について(2017年8月3日)
- 平成28年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2016年11月30日)
- 平成28年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマの募集について(2016年4月25日)
- [プレスリリース]平成27年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2015年12月22日)
- 平成27年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマ募集の選定結果について(2015年12月22日)
- 平成27年度「きぼう」利用フィジビリティスタディテーマの募集について(2015年6月8日)
- 平成24年度「きぼう」利用テーマ募集 重点課題区分の選定結果について(2012年11月22日)
- 平成24年度「きぼう」利用テーマ募集について(2012年4月10日)