概要
"ISS Research Award"は、国際宇宙ステーション(ISS)で優れた成果を上げた研究やイノベーションに対する表彰です。毎年米国で開催されるISS Research and Development Conference(ISS National Laboratory, NASA及びAmerican Astronautical Societyが主催するISSに関する世界最大の会議)の中で受賞者の発表と表彰式が行われてきましたが、コロナ禍のため2020年は表彰が中止され、2021年8月にオンラインにて2020年分、2021年分の受賞者の発表が行われました。
JAXAが関わるミッションとして以下が表彰されました。2016年以降6年連続の受賞となり、日本のISS利用活動が継続して高いレベルにあることが示されていると考えられます。
2020年分
- 小型光通信実験装置(SOLISS)の開発とISS-地上間光通信技術実証(技術開発・実証におけるイノベーション分野)
- 静電浮遊炉(ELF)の開発による革新的材料開発に向けた熱物性データ取得(物理科学・材料開発におけるイノベーション分野)
2021年分
- JAXA第3回マウスミッション(MHU-3)における遺伝子ノックアウトマウスを用いた宇宙ストレスに対する加齢様変化の解析とコホート研究との連携(生物・医学分野における優れた成果分野)
- 「きぼう」におけるアジアの学生向けロボット競技会(きぼうロボットプログラミングチャレンジ:Kibo-RPC)の開催とSTEMへの貢献(STEM教育におけるイノベーション分野)
各受賞の詳細は下記のとおりです。
受賞案件概要
1. SOLISS: 小型光通信実験装置の開発とISS-地上間光通信技術実証
- 受賞者 岩本 匡平氏、小松 宏光氏(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所)、澤田 弘崇、神田 大樹(JAXA宇宙探査イノベーションハブ)、池田 俊民(JAXA有人宇宙技術センター)
- 受賞理由 チームは、小型光通信実験装置(Small Satellite Optical Link for ISS:SOLISS)を開発し、将来の地球低軌道や月・火星探査に向けた有人宇宙活動における革新的な通信技術につながる、ISSと地上間の小型衛星光通信技術を実証した。
今回はこのような大変名誉ある賞をいただきまして、ありがとうございます。
レーザー通信はまだまだこれからの技術と考えている中で、このような賞をいただけたということは、とてもご期待いただけているとも感じております。これからもこの賞を励みに努力して、この先、誰もが利用でき、宇宙を創っていけるようなレーザー通信に、私たちのこの技術で貢献していければ、と考えております。
今回受賞にあたり、共同研究を一緒にしていただきましたJAXA宇宙イノベーション探査ハブの皆さん、そしてISSを利用することですごく御協力をいただきました有人宇宙技術部門の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
(岩本 匡平 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所)
2. ELF:静電浮遊炉の開発による革新的材料開発に向けた熱物性データ取得
- 受賞者 静電浮遊炉開発チーム(JAXA きぼう利用センター)
- 受賞理由 JAXAは、ISS/きぼうでの静電力を利用した無容器処理技術による材料の浮遊・融解・凝固が可能な静電浮遊炉(Electrostatic Levitation Furnace: ELF)を開発した。これにより、高融点材料の熱物性特性や過冷却状態からの凝固など革新的材料研究が可能となった。
静電浮遊炉(Electrostatic Levitation Furnace: ELF)は打ち上げた後も不具合が続いてとても苦労してきましたが、ここ最近はようやく安定した運用ができるようになってきました。
今後もELFを使用してたくさんの実験をして、多くの科学的、実用的な成果を出せるようにがんばっていきます。
(織田 裕久 JAXAきぼう利用センター 主任研究開発員)
3. MHU-3:JAXA第3回マウスミッションにおける遺伝子ノックアウトマウスを用いた宇宙ストレスに対する加齢様変化の解析とコホート研究との連携
- 受賞者 山本 雅之氏(東北大学 教授/東北メディカル・メガバンク機構 機構長)およびMHU-3ミッションチーム
- 受賞理由 山本教授らのチームは、JAXAの第3回マウスミッション(MHU-3)において、初めて遺伝子ノックアウトマウスを用いて宇宙飛行が加齢様変化を誘発することを明らにするとともに、ヒトコホートデータとの比較を行った。本研究は、将来の有人宇宙探査の制約となり得る宇宙によるストレスの低減に係る知見を与えるものである。
Nrf2遺伝子欠失マウスを用いた研究が評価され、ISS Research Awardを受賞できたことをたいへん喜んでいます。今回、このミッションを成功させることができたのは、JAXAや多くの関係者、皆様の献身的な貢献のおかげです。この機会に改めて、厚くお礼を申し上げます。
前世紀の後半から、数多くの遺伝子改変マウスが作出され、ヒト病態の解明に貢献してきました。本成果は、これらの遺伝子改変マウスを用いた宇宙実験を体系的に実施することが可能であることを実証したものです。本実験は科学研究の歴史の一頁を切り開いたものであり、今後の宇宙ステーション利用の可能性を切り開いたものでもあると思います。まさに、「宇宙マウスの時代(Decade of Space Mouse)」の到来を実感します。
私たちの宇宙マウス研究から、ヒトの老化や健康管理に関する成果が得られつつあります。JAXAと東北メディカル・メガバンク機構が協力して、宇宙マウス実験の成果をヒト健康長寿研究へ有効利用することを目的に、宇宙マウスのデータを広く収集・保管し、分譲・公開する宇宙生命科学統合バイオバンク(ibSLS: Integrated Biobank for Space Life Science) を設立しました。これまでに得られた解析データは、ibSLSを通して広く世界に公開されています。他のミッションの解析データも収納して公開する予定です。
今後、本ミッションの研究成果が基盤となって、多くの宇宙医学生物学実験が展開され、科学立国に向かって我が国が発展していくことの一助になることを期待しています。
(山本 雅之 東北大学 教授/東北メディカル・メガバンク機構 機構長)
4. Kibo-RPC:「きぼう」におけるアジアの学生向けロボット競技会(きぼうロボットプログラミングチャレンジ)の開催とSTEMへの貢献
- 受賞者 きぼうアジア利用推進室(JAXAきぼう利用センター)
- 受賞理由 JAXAは、NASAとの協力によりKibo Robot Programming Challenge: Kibo-RPCを開催した。これは、JAXAのInt-BallとNASAのAstrobeeを利用した教育的なロボット競技会であり、2020年に開催した第1回競技会にはアジアの7つの国/地域から、313チーム1168名の学生が参加し、STEM教育やSDGsに貢献している。
私たちのチームは、日本の国際貢献として、国際宇宙ステーション(ISS)という平和目的の財産を用いて、アジア太平洋地域の国々と共にISSを多様に利用し、その価値を共有することを目指して活動しています。
活動のなかには、ISS・「きぼう」の人材育成目的の利用があります。その1つの「きぼう」ロボットプログラミング競技会は、宇宙飛行士をサポートするために開発されたISS船内ドローンであるInt-Ball(JAXA)とAstrobee(NASA)のプログラミングを作成し、各種課題を解決する教育プログラムとなっています。2021年の第2回競技会では、11の国と地域から900名を超える学生が参加し、これら人材育成への貢献と、アジア太平洋諸国との取り組みを評価いただいたものと考えています。受賞を励みに、「きぼう」の国際協働を更に促進させていきたいと思います。
(谷垣 文章 JAXA きぼう利用センター 技術領域主幹)