- 第5回小動物飼育ミッションで、JAXAが新規開発した飼育ラック・大型遠心機を用い、地球のおよそ1/6の月の重力環境を模擬し、マウスの長期間飼育を実施しました。また、これらマウスの全数生存帰還に成功しました。5回連続の100%の生存帰還達成となります。
- 今回帰還したマウスの変化を、第1回小動物飼育ミッションで実施した微小重力環境(μG)、人工重力環境(人工1G)および第4回小動物飼育ミッションで実施した人工重力環境(1/6G:月の重力環境)での変化(2019年6月21日webリリース※1)と比較し、解析を行う計画です。第4回ミッションと本ミッションでは同じ1/6Gで飼育をしていますが、人工重力を発生させるための遠心機の回転半径が異なり、遠心機内の重力勾配の影響も評価します。
- JAXAの有するこれらの実施データは、月重力を模擬した環境影響を比較できるため、将来の有人宇宙探査・人工重力の生体影響研究の礎となる成果となることが期待されます。
- JAXAは、ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(Japan-U.S. Open Platform Partnership Program: JP-US OP3)のもと、低重力ミッションの共同実施を米国航空宇宙局(NASA)との間で、本年2月に合意しています(2020年4月14日プレスリリース※2)。本ミッションおよびこれまでのミッションで得たデータは、JAXA-NASA共同低重力ミッションのベースラインデータとして活用されます。
ミッション概要
月・火星に向けた国際宇宙探査へのステップとなる技術実証として、月と同じ1/6の低重力環境下で野生型マウス6匹の宇宙での長期飼育(2020年3月10日から4月7日まで28日間)を行い、ドラゴン補給船運用20号機(SpX-20)で全数生存帰還に成功しました。上空400キロの「きぼう」で、もっと遠くにある月や火星の重力環境を模擬した実験ができる、それは、日本だけの強みです。宇宙空間で微小重力環境(μG)から1Gまで重力負荷を可変できる実験環境"MARS"※3を有する日本が、将来の有人宇宙探査にむけた生体基礎データ蓄積の点で世界をリードする第一歩となることが期待され、「きぼう」を技術実証の場として使うミッションが増えてくることが予想されます。
5回目となる今回の小動物飼育ミッションでは、JAXAが新規に開発し2019年に「こうのとり8号機」で打ち上げたISSで最大直径を有する大型遠心機(直径約0.76m)やこれを搭載するためのラック(温度維持可能な筐体)を初めて使用しました。重力設定は、第4回小動物飼育ミッションと同じ1/6Gですが、遠心機は回転半径により重力勾配が異なります。今回直径が約2.2倍となる大型遠心機を用いたことで、重力勾配が緩和され、より厳密な重力設定が可能になります。また、本大型遠心機は、軌道上で、従来の小型遠心機(直径約0.35m)2つと交換可能であり、既存の遠心機付き生物実験装置と同時に使用することで、4つの異なる重力条件を設定できます(図参照)。飼育可能なマウスの匹数も2倍となり、JAXAのみが有する可変重力環境でのマウス飼育能力が格段に向上します。NASAとの共同低重力ミッションは、この形態を使用する予定ですが、今回取得した、新型実験装置の機能・性能評価や遠心機の回転半径に依存した影響に関するデータは、これまで"MARS"で取得したデータと合わせて、共同ミッションに向けベースラインとなる貴重な知見となります。
関連トピックス
- ※1 世界初!月の重力環境を国際宇宙ステ―ションで実現してマウスを長期飼育~深宇宙への人類の活動領域拡大に向けた第一歩~> (2019年6月21日)
- ※2 [プレスリリース]日本独自の宇宙マウス飼育システムの令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰及び本システムを用いたJAXA-NASA共同低重力ミッションの実施合意締結について (2020年4月14日)
- ※3 世界初、宇宙空間でμg から1g を可変できる実験環境"MARS"が完成 (2017年9月8日)
小動物飼育ミッションに関係する学術論文
宇宙ミッション
地上予備実験
- Horie K et al. Biochem Biophys Res Commun. 2018 Jun 27;501(3):745-750.
- Ishikawa C et al. PLoS One. 2017 Jun 7;12(6):e0177833.
- Morita H et al. J Physiol Sci. 2017 Jul;67(4):531-537.
- Shimbo M et al. Exp Anim. 2016 May 20;65(2):175-87.
- Tateishi R et al. PLoS One. 2015 Oct 29;10(10):e0141650.
- Morita H et al. PLoS One. 2015 Jul 29;10(7):e0133981.