宇宙マウス飼育のデータから骨格筋の性質維持にはたらくNrf2の新たな機能を発見

公開 2021年6月29日
筑波大学医学医療系 高橋智教授、工藤崇准教授、蕨栄治講師、東北大学大学院医学系研究科の山本雅之教授、および宇宙航空研究開発機構(JAXA)の芝大技術領域主幹らからなる研究グループは、2018年に「きぼう」日本実験棟で実施したJAXAの第3回小動物飼育ミッション(MHU-3)※1において、約1か月間の微小重力環境飼育後に帰還したNrf2遺伝子ノックアウトマウスと、同条件で飼育、帰還した野生型マウスの後肢骨格筋(ヒラメ筋)を比較解析しました。

  • 宇宙ストレスによって活性化する転写因子であるNrf2を欠損したマウスでは、宇宙環境で引き起こされる骨格筋の性質の変化が大きくなることがわかりました。これにより、Nrf2は宇宙環境での骨格筋の性質の維持に重要な働きをしていることを明らかにしました。
  • 一方で、宇宙環境で引き起こされる筋萎縮については、筋線維の太さ、筋萎縮に関与する遺伝子群(アトロジーン)の量ともに、野生型マウスと差がみられず、Nrf2は宇宙環境での筋萎縮には関与しないことがわかりました。

今後の展望

本研究成果は、宇宙環境や加齢、疾患で増加することが知られている酸化ストレスに対して生体保護的に働く重要な転写因子の1つであるNrf2に着目し、宇宙環境で骨格筋の性質が変化するメカニズムにNrf2が関与していることを明らかにしました。筋線維タイプの移行は宇宙滞在だけでなく加齢に伴う筋萎縮(サルコペニア)にも見られる症状ですが、これまでNrf2と筋線維タイプの関係について研究された例が少なく不明な点が多く残っていました。本研究によって、Nrf2を介した新しい筋線維タイプ移行の制御機構が存在することが判明しました。今後詳細な研究を進め、分子メカニズムを解明することで、筋線維タイプに及ぼされる重力影響の克服やサルコペニアなどの予防法の確立につながると期待されます。

本研究成果は、2021年6月24日に英国の科学誌ネイチャー(Nature)が提供するオープンアクセス学術誌「コミュニケーションズ バイオロジー(Communications Biology)」に掲載されました。

論文情報

雑誌名
Communications Biology
論文名
著者名
林 卓杜1、工藤 崇1、藤田 諒1、藤田晋一郎1、坪内鴻奈1、布施谷清香1、鈴木 陸1、濱田理人1、岡田理沙2、村谷匡史1、芝 大2、鈴木隆史3、蕨 栄治1、山本雅之3、高橋 智1 (1.筑波大学医学医療系、2.宇宙航空研究開発機構(JAXA)有人宇宙技術部門、3.東北大学大学院医学系研究科医化学分野)
DOI
10.1038/s42003-021-02334-4

大学プレスリリース

 


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