宇宙生物科学統合バイオバンク「ibSLS」の公開データを大幅拡充

公開 2022年5月31日

世界初!ワンクリックで宇宙滞在マウスのトランスレーショナル研究が可能に

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と共同で構築した、ibSLS(宇宙生命科学統合バイオバンク、Integrated Biobank for Space Life Science)に、新たにマウス血液代謝物(メタボローム※1)データを追加し、公開しました。

ibSLSは、ToMMoとJAXAとの「健康長寿社会実現への貢献を目指した「きぼう」利用に係る連携協定(2019年2月8日締結)※2」で得られた科学成果を含め、両機構の連携協力によって初めて実現可能な宇宙と地上の研究をつなげるためのヒト・マウス統合データベースであり、2020年11月26日に遺伝子発現データの公開を開始しました。

今回、2018年に「きぼう」日本実験棟で実施した第3回小動物飼育ミッション(MHU-3)で得られた血液のメタボローム解析結果の検索機能も追加し、大幅に機能を拡充しました。これにより、宇宙ミッションを実施していない多くの研究者でも、宇宙環境でマウスの生体内の代謝がどのように変化しているのかを容易に解析することが可能となります。さらに、ibSLSでは、ToMMoの有する日本人多層オミックス参照パネル(Japanese Multi Omics Reference Panel; jMorp※3)における加齢にともなう血液代謝物の変化とこの宇宙滞在マウスのメタボローム解析結果をワンクリックで比較することが可能となっており、ヒト(一般成人)とマウス(宇宙滞在)の比較から、加齢変化にともなう様々な疾患研究の加速になることが期待されます。

検索結果の一例(関連論文で着目した代謝物の1つであるPC aa C36:1)

任意の代謝物をキーワード検索することにより、実験群ごとの変動が棒グラフにより可視化され、個体ごとの値は表で結果が得られます。PC aa C36:1は、野生型地上コントロールマウス(WT-GC;水色)では、飛行前(pre-flight;左)飛行中(in-flight;中央)、飛行後(post-flight;右)を通して変化が小さいのに対し、野生型宇宙滞在マウス(WT-FL;青色)では、飛行中に顕著に増加することがわかります。(備考;ピンク色は同ミッションで実施したNrf2遺伝子欠損マウス地上コントロール、赤紫色はNrf2遺伝子欠損マウス・宇宙滞在のデータ)さらに、検索した代謝物について、ヒトにおける加齢に伴う血液代謝物の変化をワンクリック(jMorp IDをクリック)で表示することが可能。

関連学術論文

雑誌名
Communications Biology
論文名
著者名
Uruno Akira et. al.
掲載日:
2021年12月9日
DOI
10.1038/s42003-021-02904-6

用語

※1 メタボローム
  • メタボロームとは生体内に含まれる代謝物の総称。その種類や濃度を網羅的に分析する手法をメタボローム解析といいます。
※2 健康長寿社会実現への貢献を目指した「きぼう」利用に係る連携協定について
  • 2019年2月8日JAXAプレスリリース
    JAXAとToMMoは、健康長寿社会実現への貢献を目指し、相互に連携して取り組むための基本協定を締結しました。
※3 jMorp
  • jMorpでは、世界最大規模の総計4.6万人の血漿の網羅的メタボローム解析情報を取得、公開しています。

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