公開 2021年4月28日
筑波大学医学医療系 高橋 智教授、工藤 崇准教授らの研究グループおよび宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田 理沙研究開発員、芝 大技術領域主幹らは、2016年に「きぼう」日本実験棟で実施した35日間のJAXAの第1回小動物飼育ミッション(MHU-1)※1において、帰還したマウス後肢の骨格筋(ヒラメ筋)を詳細に解析しました。
- 地上研究にて筋萎縮に関与することが報告されている一群の因子(Atrogene:アトロジーン)について遺伝子発現変化を調べたところ、宇宙環境で引き起こされる筋萎縮は分子レベルで地上の筋萎縮と類似していることを明らかにしました。
- 宇宙での人工重力1G負荷は、宇宙環境で引き起こされる上記Atrogeneの発現変化を防ぐことだけでなく、ヒラメ筋の遺伝子発現が地上1Gとほとんど変わらないくらい、筋萎縮を抑制(防御)することを明らかにしました。
- さらに、筋萎縮のトリガーとなる新たな遺伝子(Cacng1)を見出し、この遺伝子を培養細胞およびマウス骨格筋に遺伝子導入することで、この遺伝子の発現増加が筋萎縮を引き起こすことを実験的に確認しました。
今後の展望
本研究成果は、宇宙での小動物飼育ミッション成果が、寝たきりなどの地上でみられる筋萎縮のメカニズムの一端を明らかにする鍵となることを示しました。さらに、宇宙での人工重力1G負荷が遺伝子レベルでほぼ完全に筋萎縮を抑制(防御)するという結果は、将来の月・火星などに向けた有人探査に向けた基礎データとなることが期待されます。人工重力負荷機能は「きぼう」にしか設置されておらず、マウスの宇宙飼育ミッションが、筋萎縮という加齢様現象のメカニズム研究に有用な環境(加速的モデルの場)となっています。本データは、ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(JP-US OP3)のもと、2020年2月にNASAとの間で共同実施が合意された、JAXA-NASA共同の低重力ミッションでも活用される計画です。
本研究成果は、2021年4月28日に英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」に掲載されました。
論文情報
雑誌名
Scientific Reports
論文名
著者名
Okada R, Fujita SI, Suzuki R, Hayashi T, Tsubouchi H, Kato C, Sadaki S, Kanai M, Fuseya S, Inoue Y, Jeon H, Hamada M, Kuno A, Ishii A, Tamaoka A, Tanihata J, Ito N, Shiba D, Shirakawa M, Muratani M, Kudo T#, Takahashi S# (#:共責任著者)
DOI
10.1038/s41598-021-88392-4
関連リンク
- 世界初、宇宙空間でμg から1g を可変できる実験環境"MARS"が完成(2017年9月8日)
- [プレスリリース]日本独自の宇宙マウス飼育システムの令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰及び本システムを用いたJAXA-NASA共同低重力ミッションの実施合意締結について (2020年4月14日)
- 小動物飼育装置(Mouse Habitat Unit: MHU)
- 筑波大学 高橋研究室