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2024.07.23
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Asian Try Zero G 2023の成果報告会が開催されました!

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概要

Asian Try Zero-G(ATZ-G)2023の成果報告会が、2024年6月9日(日)にオンラインで開催され、11件の簡易物理実験テーマ(分野A)及び5件のエクササイズテーマ(分野B)の提案者が軌道上で実施された実験の結果や考察について報告しました。
成果報告会には、8つの国と地域(オーストラリア、バングラデシュ、インドネシア、日本、フィリピン、シンガポール、タイ、台湾)からの参加者(54名)に加え、2024年2月13日にISSで軌道上実験を担当した古川宇宙飛行士も参加しました。
図1:成果報告会の様子
成果報告会は、白川きぼう利用センター長の開会挨拶で始まり、実験提案者による事前予想と実施結果を比較した考察を発表後、アワード受賞式が行われました。最後に、古川宇宙飛行士による閉会挨拶でATZ-G2023の幕を閉じました。

表1:当日のスケジュール

内容 出演者
1 開会 司会:JAXAきぼう利用センター 主任 宮川弥生
2 開会挨拶 JAXAきぼう利用センター センター長 白川正輝
3 成果報告 各テーマ提案者
【分野A】
1. 十字物体のひねり回転実験 オーストラリア
2. 紐と二つのボールの動きの観察 タイ
3. 微小重力下でLato-latoの動きを試してみよう インドネシア
4. Lato-latoによる宇宙での完全弾性衝突 インドネシア
5. 磁力線の観察 バングラデシュ
6. 微小重力下でのマグナスグライダーのループ シンガポール
7. 微小重力下におけるマグナス効果 台湾
8. 水球と静電気力 タイ
9. 微小重力下でのオロイドの動き フィリピン
10. 微小重力環境の毛細管現象における液面上昇加速度の変化 日本
11. Zero-G サイフォン シンガポール
【分野B】
12. 吹いた息で動こう 台湾
13. ロープを使った柔軟体操 日本
14. ゴムバンドを使った無重力エクササイズ フィリピン
15. 無重力下でのヒトデ体操 タイ
16. 空気椅子でゴム体操 日本
4 Q&A コーナー JAXA宇宙飛行士 古川聡
5 授賞式
・Kibo-ABCアワード ・Kibo-ABCアワード 発表者
PhilSA/フィリピン宇宙庁 Dr. Gay Jane P. Perez
・クルーアワード ・クルーアワード 発表者
古川宇宙飛行士
6 閉会挨拶 古川宇宙飛行士

開会

JAXAの白川きぼう利用センター長による開会の挨拶で、成果報告会が開始しました。
図2:開会挨拶をする白川きぼう利用センター長

成果報告

分野A:簡易物理実験

1. 十字物体のひねり回転実験(オーストラリア)

アクリルスティックを束ねているゴムの復元力と、宇宙飛行士(クルー)が回転させながら投げることにより働く回転力の2つの力を加えたときに、アクリルスティックがどのように動くのか観察しました。軌道上では地上よりも回転運動を長い時間観察できた一方で、微小重力による影響のため予想を上回る速さで回転したことが分かりました。今回の実験を踏まえ、提案者は、微小重力環境下での実験の難しさだけでなく、次回の実験機会に向けて新たな改善点を見つけることができました。
図3:微小重力環境におけるアクリルスティックの軌道(Image by JAXA/NASA)

2. 紐と二つのボールの動きの観察(タイ)

2つの球を紐で結び回転させたときの動きを観察しました。実験結果は、提案者の仮説通り、両方の球がゆっくりと回転し上昇しました。一方で、予想していた平面上での回転ではなく、一番下に位置するボールは上の方向に働く張力に影響され、真ん中に位置するボールより早く上昇する様子が観察されました。この現象について提案者は、一番下に位置する球には上方向のみの張力が働くが、真ん中の球には上下方向に張力が働いていることから下の球のほうが真ん中の球よりも上昇が早くなると考察しました。
図4:微小重力環境における実験結果

3. 微小重力下でLato-latoの動きを試してみよう(インドネシア)

軌道上でLato- Lato(インドネシアの子供たちの中で流行している遊びで、日本ではアメリカンクラッカーとして知られる)が実施できるのか検証しました。実験では、紐の先についている球は微小重力下であっても弾性衝突をすることが分かりました。また、提案者は微小重力環境では球の衝突するときの強さが地上よりも小さくなると考察しました。
図5:成果報告会での発表の様子

4. Lato-latoによる宇宙での完全弾性衝突(インドネシア)

上述の提案に続きこの提案もLato-Latoを使用した実験でした。微小重力下での実験結果は、紐付きのLato-latoはボールの動きが不規則・予測不可能なため、長時間にわたり連続して実施することは難しいと考察しました。一方、プラスチック製のLato-latoは球までの距離が固定されており、あるタイミングで衝突するため、微小重力環境においても実施可能だと分かりました。また、提案者はLato-latoを実施するときの手の位置が実験結果に大きく影響することだけでなく、肘を伸ばした状態でLato-latoを実施する方が、肘を曲げた状態よりも、実施しやすくなることが分かりました。
図6:成果報告会での発表の様子
なお、この軌道上での実験は上述の「微小重力下でLato-latoの動きを試してみよう」とのコラボレーション実験として実施されました。

5. 磁力線の観察(バングラデシュ)

こちらは軌道上で磁力線チップが磁力線を可視化する様子を観察する実験でした。磁力チップが入っている透明な箱に磁石を差し込み、ゆっくり回転させて磁力線を観察した結果、磁力チップが3次元に磁力線を描く様子が観察されました。一方で、実験中の磁力線の形状が変わらなかったことから、当初予想していた天体からの磁場やプラズマの相互作用といった外部要因による磁力線への影響は観測されませんでした。この結果について、ISSでは外部磁場とプラズマの相互作用による影響が少ないためと考察していました。
図7:バングラディシュ「磁力線の観察」(Image by JAXA/NASA)

6. 微小重力下でのマグナスグライダーのループ(シンガポール)

マグナスグライダーは地上で飛ばすとループ形やアーチ形の軌跡で飛行しますが、今回の実験では輪ゴムの巻き数や飛ばす角度を変えて、微小重力環境でのマグナスグライダーの飛行軌跡を観察しました。進行方向に対して平行線上にマグナスグライダーを回転させた場合、強い揚力が生じ、不安定に上昇する様子が観察されました。マグナスグライダーを下向きに回転させた場合、円弧上の軌道を描きながら上昇したものの、ループする途中でISSの天井付近にとどまったのではないかと考察しました。提案者は次回の実験の機会に向けマグナスグライダーの初速度やカップのサイズなど、今回の実験の改善点を明確にしました。
図8:台湾「微小重力下におけるマグナス効果」、シンガポール「微小重力下でのマグナスグライダーのループ」(Image by JAXA/NASA)

7. 微小重力下におけるマグナス効果(台湾)

上述のシンガボールチームと同じく、輪ゴムの巻き数や飛ばす角度に条件を設けた上で、マグナスグライダーを飛ばす実験を行いました。マグナスグライダーを下向きに回転させた場合、地上でマグナスグライダーを飛ばした場合に観察できるピーク時の軌道とカーブ時の軌道が融合したような軌道を描いたと提案者は述べました。更に、微小重力の影響により、マグナス効果 (流体中に置かれた回転体に揚力が生じる現象)は起こらないと考察しました。
なお、この軌道上での実験は上述の「微小重力下でのマグナスグライダーのループ」とのコラボレーション実験として実施されました。
図9:マグナスグライダーに働く力

8. 水球と静電気力(タイ)

軌道上で静電気を帯びた定規を水球に近づけたり離したりしたときに水球へ起こる変化を観察する実験でした。実験では、水球が帯電した定規に引っ張られて水袋(water bag)から離れる様子や、水球表面全体が静電気力により引っ張られる様子を観察することができました。この現象について、提案者は水球における電場は殆ど均一であるため、水球全体が静電気力の影響を受けたためと考察しました。また、微小重力環境での実験を通して、地上では観測が難しい現象を観察することができたことを報告しました。
図10:水球表面に働く静電気力

9. 微小重力下でのオロイドの動き(フィリピン)

軌道上でオロイドと呼ばれる物体を、①浮かせた状態で回転させないで投げる条件、②回転させて投げる条件、③ラック表面で回転させる条件 の三回に分けて実験が行われました。最初にオロイドを浮かせた状態で回転させずに投げた場合、オロイドは回転せずに直線状に進みました。次に浮かせた状態でオロイドを回転させて投げた場合、オロイドは継続的に回転している様子が観察されました。最後にオロイドをラック表面上で転がした場合、オロイドは上方向に回転しました。条件の異なる3つの実験結果から提案者は微小重力環境では物体の重心の動きが変化し、地上での動きと異なると考察しました。
図11:微小重力環境でのオロイドの動き

10. 微小重力環境の毛細管現象における液面上昇加速度の変化(日本)

色水が入った容器にキャピラリを入れて、キャピラリ内の水位が上昇していく毛細管現象が微小重力環境でも観察されるのかを実験しました。軌道上での実験では直径の異なる3つのキャピラリを用いて、それぞれの水位の上昇速度の違いを観察しました。地上では細い管ほど吸い上げやすいのに対し、微小重力環境では中位の細さ(6mm)のキャピラリの液面上昇速度が最も速く、それに続き、最も細い(3mm)キャピラリ、最も太い(8mm)キャピラリとなりました。提案の原点となった落下塔実験も踏まえ提案者が予想していた結果とISSでの実験結果が異なっていたことについて、ISSでの微小重力環境の条件と地上での落下塔実験環境の違いが実験結果に影響したのではないかと考え、より精度の高い実験方法を取り入れていく必要性があると考察しました。
図12:微小重力環境における毛細管現象の実験結果

11. Zero-G サイフォン(シンガポール)

色水が入った容器にストローを挿し、そのストローに対して垂直に配置した別のストローに息を吹き込んだ際の色水の挙動を観察する実験でした。ストローに息を吹き込んだ直後は、色水が引き上げられず、代わりに容器から色水があふれる様子が観察されましたが、息を吹いているストローの角度を変えると色水が吸い上げられる様子が観察されました。しかし、提案者が予想していたストローの外まで吸い上げられる様子は観察されませんでした。これらの結果から提案者は、息を吹く角度と強さが色水の吸い上げに重要な要素であると考え、サイフォンの原理のように水が吸い上げられ続けることはないと結論付けました。
図13:微重力環境下でのサイフォン現象の仮説

分野B:エクササイズ

12. 吹いた息で動こう(台湾)

径の異なるパイプ(口径3cmと1cm)やストロー(5mm)を咥えて息を吹き出し続けるエクササイズで、吹き出し口の口径が変わることで体の動きや方向が変化する様子を見ることができました。このエクササイズでは提案者の予想に反し、吹き出し口の口径が小さいほど飛行士の体が顕著に反対方向に回転する様子は見られませんでした。この理由として、提案者は軌道上での様子と地上での比較検証を通して層流の仕組みに着目しました。口径が小さいほどパイプの内面と吹き込んだ息の流れの間で摩擦が生まれることが大きく影響したのではないかと考えていました。提案者はより効果的なエクササイズ実施のために、口径の最適化、使用するパイプの素材について検討しています。
図14:地上での比較検証の実験結果

13. ロープを使った柔軟体操 (日本)

両手に持った一本の紐の長さを変えながら、微小重力環境で体の周りを一周させるエクササイズでした。古川宇宙飛行士は、軌道上で両足の下、背面、頭上、体の前の順番で紐を体の周りに一周回すことに成功しました。古川宇宙飛行士は軌道上で提案者が予想していた50cmを上回る35cmで成功する結果となりました。提案者は、微小重力環境での身体の柔軟性向上、背中の痛みや肩こりの解消、代謝促進が見込める3つのエクササイズを追加で提案しました。
図15:エクササイズの例

14. ゴムバンドを使った無重力エクササイズ(フィリピン)

両脚をISS内に設置されているハンドレールに固定した状態で、ゴムバンドを用いたスクワットやストレッチ運動を3種類実施しました。提案者は、ゴムバンドの負荷強度を高めることが微小重力環境で生じる負荷減少の防止につながることを考えました。また、等尺性収縮運動など筋肉を活性化させるエクササイズを取り入れることや、体幹エクササイズに重点を置くことで姿勢を安定させ筋肉委縮を防ぐエクササイズを新たに提案しました。
図16:発表の様子

15. 無重力下でのヒトデ体操(タイ)

両足の間に一本、片足と片手に一本(両手両足分)ゴムバンドをつけて、腕を上に上げたり足を広げたりするエクササイズを実施しました。軌道上で実施した古川宇宙飛行士からは、上腕三頭筋、三角筋などをはじめとする筋肉の強化に適しているエクササイズであるとコメントがありました。提案者は、足を動かす際にゴムバンドがずり上がり、足全体の筋肉にアプローチできていなかったことを改善点としてあげ、バンドがずり上がらないようにバンドの付け方を変えてエクササイズを実施することを新たに提案しました。
図17:新しく提案するエクササイズの例

16. 空気椅子でゴム体操(日本)

ゴムバンドを使用したエクササイズで、ゴムバンドのつけ方を変えて3種類のエクササイズが行われました。また、このエクササイズは地上では椅子に座って実施するのに対して、軌道上では椅子を使わず足を固定して空気椅子のような状態で実施されました。3種類のうち2種類はゴムバンド一本で実施でき、軌道上でも腕の力を鍛えるエクササイズとして有効であることが分かりました。3つ目のエクササイズは空気椅子の状態で片足をハンドレールに固定して、もう片方の足を90°広げるものでしたが、軌道上では足を広げるに伴い体が回転してしまうので、古川宇宙飛行士は地上では普段使うことのない筋肉を使って体を安定させていました。提案者はこの体の回転を防ぐために手でハンドレールを握りながらエクササイズを実施することを新たに提案しました。
図18:エクササイズの例

表彰式

Kibo-ABC参加国・地域の審査委員による厳正な採点の結果、各分野の優れた提案に賞を授与しました。分野Aでは「磁力線の観察(バングラデシュ)」、分野Bでは「無重力下でのヒトデ体操(タイ)」と「空気椅子でゴム体操(日本)」が同率でKibo-ABCアワードを受賞しました。Kibo-ABCアワードの発表はフィリピンのDr. Gay Jane P. Perez氏がKibo-ABCを代表して行いました。

「磁力線の観察(バングラデシュ)」においては、実験の明確な目的が示されており、微小重力環境を上手く利用した磁力線の可視化の過程が非常に興味深かったと審査員からコメントがありました。

「無重力下でのヒトデ体操(タイ)」においては、エクササイズから得た気付きを踏まえた考察が素晴らしく、簡潔にまとめられた発表が分かりやすかったというコメントが、「空気椅子でゴム体操(日本)」においては、地上とISSでのエクササイズ効果の比較が素晴らしいとのコメントがありました。

クルーアワードは軌道上で実験及びエクササイズを実施した古川宇宙飛行士が選考し、「水球と静電気力(タイ)」が受賞しました。「水と静電気の関係を効果的に観察することができており、実験結果を踏まえての水球の形状変化に関する考察が素晴らしかった」とメッセージがありました。
図19:Kibo-ABCアワードを発表するDr. Gay Jane P. Perez氏(PhilSA/フィリピン宇宙庁)
図20:Kibo-ABCアワード(分野A)を受賞した「磁力線の観察(バングラデシュ)」提案者
図21:Kibo-ABCアワード(分野B)を受賞した「無重力下でのヒトデ体操(タイ)」提案者
図22:Kibo-ABCアワード (分野B)を受賞した「空気椅子でゴム体操(日本)」提案者
図23:クルーアワードを発表する古川宇宙飛行士と受賞した「水球と静電気力(タイ)」提案者

閉会

閉会式は、Kibo-ABCアワードとクルーアワードのそれぞれの受賞チームからのコメントの後、古川宇宙飛行士による閉会挨拶で終了しました。

古川宇宙飛行士は、参加者のこれまでの努力に敬意を表すと共に、柔軟な発想で実験アイデアを提案したことに感謝の気持ちを伝えました。また、参加者の多くにとって英語は母国語ではないため英語での発表はとても難しかったかもしれないと述べた上で、英語はコミュニケーションを行う上で重要な役割を果たすこと、英語での発表を通して自分が成長したことを実感できたのではないかと参加者に伝えました。最後に、「このプログラムを通して成長した皆さんを私は誇りに思っています。努力し続ければ夢は必ず叶います。」と熱い想いが古川宇宙飛行士によって述べられ、今回のATZ-G 2023の成果報告会の幕が閉じました。
図24:閉会の挨拶をする古川宇宙飛行士

謝辞

本イベントの開催に向けてご協力いただいた参加各国・地域の宇宙機関/研究機関のみなさん、ATZ-G 2023に応募してくださった全ての参加者の皆さんのおかげで、ATZ-G 2023も成功裏に終了することができました。

このイベントに参加した学生からは、「I'm so delighted and really appreciate this opportunity. It is a memorable experience of my life. (とても嬉しく、この機会に本当に感謝している。私の人生の中で忘れられない経験になりました。)」、「I was happy to have the opportunity to listen to presentations from people from various countries, which was a valuable experience. (いろいろな国の人のプレゼンテーションを聞く機会もあり、貴重な体験ができてよかったです。)」などのコメントをいただきました。このイベントを通して学んだことや経験したことが皆さんの将来に繋がることをスタッフ一同、願っています。

次回またATZ-Gが開催されましたら、皆様のご応募をお待ちしております。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA