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2023.05.16
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Asian Try Zero G 2022の成果報告会が開催されました!

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概要

Asian Try Zero G(ATZG) 2022の成果報告会が、2023年3月17日にオンラインで開催され、全6実験の提案者が実験の解析結果を発表しました。成果報告会には、2023年1月17日の軌道上実験を実施した若田宇宙飛行士と実験当日に筑波宇宙センターで提案者と共に立ち会った大西宇宙飛行士も参加し、8か国・地域(バングラデシュ、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ)から45名が参加しました。
図1:成果報告会の様子

成果報告会は大西宇宙飛行士の開会あいさつで始まり、実験提案者による結果発表のあと、特別講演としてきぼう利用センター黒澤研究開発員から、Hourglassミッションが紹介されました。

10:00 開会
10:05 成果報告
1. 日本
2. フィリピン
3. シンガポール
4. 台湾
5. タイ(毛細管実験)
6. タイ(水球実験)
11:05 基調講演
・Hourglassミッション
11:20 授賞式
・Kibo-ABCアワード(賞)
・クルーアワード(賞)
11:25 閉会

開会

写真1:開会あいさつをする大西宇宙飛行士
大西宇宙飛行士による開会のあいさつで、成果報告会が開始されました。

成果報告

1. 粉体ガスの自己組織化と3次元パターン形成(日本)

提案者

東京大学 理学部物理学科4年 王方成さん
筑波大学 医学群医学類2年 紺谷昌平さん
日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科5年 宮本汐里さん

図2:粉体ガスの自己組織化と3次元パターン形成の実験結果
粒径1mm程度の銅粒子の動態を2台のカメラで観察する実験で、初期状態では、銅粒子の移動速度、移動する銅粒子の数、移動する銅粒子の衝突が減少していくことが観察できました。銅粒子の衝突後、形成されると予測した銅粒子群(クラスター)は、静電気によってケース内面に粒子が貼り付く結果となり、観察することができなかったという結果でした。次回実験の機会を得た時に向けて、より最適な実験条件を検討することができたとのことです。

今回参加したことにより、ISSでの実験装置を作る難しさや参加国・地域の学生との交流により、より宇宙産業で働くことへの情熱が高まったとのコメントがありました。

2. 微小重力環境におけるダンベル型物体の回転運動(フィリピン)

提案者

フィリピン大学 ウィリアム・ケビン・L・アブランさん

図3:微小重力環境におけるダンベル型物体の回転運動の解析結果
両端の重量バランスが均一で重心が物体中心にある剛体と、重量バランスが異なって重心が物体中心にない2つの剛体の様々な回転状態を観察、比較する実験。横軸回転も縦軸回転も安定的に連続して回転する様子が観察されました。また、ジャベニコフ効果は当初予測の通りありませんでしたが、両端への荷重が不均衡であったことから並進運動と二次回転が観察されました。
今回の結果を踏まえ、より複雑な物体の回転が新たな実験として検討しています。

3. 宇宙二重振り子(シンガポール)

提案者

シンガポール・カトリック高校 リー・チン・エン・ブライアンさん
シンガポール・カトリック高校 カレブ セオウさん
シンガポール・カトリック高校 ロー・シュエン・カイ・ジョヴァンさん

図4:宇宙二重振り子の映像の解析結果
今回、参加した最年少のチームです。彼らの実験は、地上ではカオスと言われる動きで知られる「関節付きの振り子(二重振り子)」が微小重力環境でどのように動くか、という実験です。振り子のアーム部が同じ長さのため、関節はちょうど中間にあります。振り子の先端から支持点まで4等分した点を押すことによって振り子の動作を観察しました。実験の様子を記録した映像と地上で回転させたときの動作のシミュレーションを比較し、分析しました。その結果、微小重力環境では地上よりも複雑な動きにならない、その理由としては、関節部の摩擦力が振り子の動きに支配的であることが原因と考察しています。

彼らはこの結果を踏まえて、ボールベアリングによって摩擦係数をできるだけ軽減すること、長さの違うアームの二重振り子での実験を次の実験として検討しています。

4. 微小重力環境における水の渦の観察(台湾)

提案者

国立中央大学宇宙科学工学科 Jr-ツゥィン・ツァイ(ロジャー)さん

図5:微小重力環境における水の渦の観察の実験Aの解析結果
回転力によって生じる渦が微小重力環境ではどのように発現するか(実験A)をはじめ、横回転(実験B)や、細かくボトルを振ることで生じる気泡の挙動観察(実験C:シンガポールと協力)など、全部で3つの実験を行いました。
解析の結果では、いずれも当初の予測通り、微小重力環境では、渦は真ん中が空洞になり、ボトル表面に水が付着する(実験A)、ボトル内で水が2つの側面に分離する(実験 B)、小さな気泡が水中に残る(実験 C)という結論に至りました。また、実験Aでは回転軸に沿って気泡が移動する様子を観察することができたとのことです。

元々、宇宙技術エンジニアを志向して、英語スキルの向上も目的に参加した今回、宇宙開発への想いがより一層強まったとコメントがありました。

5. 微小重力環境における水球擾乱の観察(タイ)

提案者

マヒドン ウィッタヤヌソーン スクール ジンナ ワイワッタナさん

図6:微小重力環境における水球擾乱の観察結果のその1(運動エネルギーと表面張力)
表面張力で球形を維持する水球に対し、木製、鉄製の2種類の材質の球体を衝突させて、その状態を観察しました。結果、木製より質量が大きな鉄製の球体は、表面張力よりも大きな運動エネルギーを得るため、水球に対して直進するが、木製の球体は表面張力の影響をより大きく受けて水球表面に沿って移動することが分かり、接着力(Adhesive force)と凝集力(Cohesive force)について検討されました。表面張力と濡れ性(Surface tension and Wettability)について議論を深めるよう宇宙機関からアドバイスがありました。

また、当初は水球表面に回転体(木製のコマ)を接触させた状態で回転させる実験も計画していましたが、宇宙実験では当初計画時間を大幅に超過していたことから、残念ながら実施できず、次回の機会があった場合にはぜひ行いたいとのコメントがありました。

6. 微小重力環境における毛細管現象の観察(タイ)

提案者

タマサート大学 インティラポーン チャオディーさん

図7:微小重力環境における毛細管現象の考察結果
今回、予備を含めて6種類の材質・系のチューブで実験を計画しましたが、時間の都合からそのうちの5種類のチューブでの実験となりました。微小重力環境では地上の1.1倍の毛細管現象が発現すると予測を立てましたが、今回の実験では5種類の全てのチューブで毛細管現象の発現を確認することができませんでした。

この結果について、接触角が大きな要因としています。提案時の事前検証では水への接触角が極めて低いガラス製チューブ(接触角がプラスチックの半分以下)で検証していました。しかしガラス製チューブは破損した際の危険性から、宇宙実験で使用することはできませんでした。

今回の参加では宇宙実験の難しさを知ったということですが、将来は材質の検討のほか、表面処理やチューブ形状を検討することで再挑戦したいとのコメントがありました。

表彰式

Kibo-ABC参加国・地域の審査員による厳正な採点の結果、「粉体ガスの自己組織化と3次元パターン形成(日本)」と「微小重力環境における水球擾乱の観察(タイ)」の2テーマが同点となり、Kibo-ABCアワード(賞)を受賞しました。Asian Try Zero G2022で最も参加者数が多かったタイのDr. ナムチャイ チェワウィワット氏が、Kibo-ABCを代表してKibo-ABCアワードの発表を行いました。
写真2:Kibo-ABCアワードを発表するDr. ナムチャイ チェワウィワット氏
写真2:「粉体ガスの自己組織化と3次元パターン形成」の王方成さん、宮本汐里さん(日本)
写真2:「微小重力環境における水球擾乱の観察」のジンナ ワイワッタナさん(タイ)
また、軌道上で実験を行った若田宇宙飛行士がクルーアワード(賞)を選考し、大西宇宙飛行士が発表を行いました。クルーアワードは、「微小重力環境における水の渦の観察(台湾)」が受賞しました。「無重力での水の挙動を把握するための手順が明確に示されており、現象の可視化の工夫がなされていた」との選考理由でした。
写真3:クルーアワード発表する大西宇宙飛行士と受賞したJr-ツゥィン・ツァイ(ロジャー)さん(台湾)
表彰式後、軌道上で行ったクルーとの記念撮影の様子をみんなで視聴しました。
写真4:軌道上での記念撮影の様子

閉会

閉会式では、白川きぼう利用センター長より、今回のユニークな実験提案と成果報告に対する謝辞と、次の機会となるAsian Try Zero G 2023が計画されていることが述べられました。
写真5:閉会あいさつを行う白川きぼう利用センター長
最後に、若田宇宙飛行士より、特別に参加者に対する謝辞と、Kibo-ABCアワード(賞)を受賞したジンナ ワイワッタナさんの言葉を引用して、実験後の解析結果がさらなる興味を呼ぶことがまさに科学の発展につながること、また微小重力環境という地上と異なる特殊環境が科学的に新たな価値を生むことから、興味を持ち続けていくことの大切さが伝えられました。
写真6:特別メッセージを発表する若田宇宙飛行士

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA