実験器具の準備について
国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟でアジアントライゼロG(以下ATZ-G)2025の実験を実施するにあたり、ISS船内に無い実験器具は、ロケットで打ち上げて輸送します。2025年3月にATZ-G2025に採択された11件の実験テーマに必要な実験器具の準備が行われました。このISSへ送られる物品を「フライト品」と呼び、地上で手順を検証するためのフライト品と同じ物品を「地上品」と呼びます。

宇宙で使用する実験器具は、JAXAと、今回のATZ-Gに企業として連携している株式会社デジタルブラスト(以下DB)が準備をしました。
すべての物品が揃った段階で、ロケットで打ち上げるための「フライト化」という作業を行いますが、物品をフライト化するには多くのステップがあります。
すべての物品が揃った段階で、ロケットで打ち上げるための「フライト化」という作業を行いますが、物品をフライト化するには多くのステップがあります。
フライト品の検証と改良
学生が提案した実験を宇宙で実施するためには、実験器具が宇宙環境でも使えるかを検証し、必要に応じて改良を行います。今回のATZ-G2025では、例えば日本の学生が提案した紙飛行機の実験では飛びやすい折り方にしたり、タイとUAEの学生それぞれが提案した実験については、共通の物品を使うことで2つの実験を1つの実験道具で実現できるよう、双方の実験目的を満たす実験器具を作りました。また、学生が観察したいバネの振幅や振動を確認できるよう、宇宙実験に適したバネを選定し、振動を見るためにバネを2つ用意してバネの間に重りを繋げました。さらに、学生が考案した紐の代わりに軽量耐熱性ロープを使うことで振幅を観察しやすくするなど、両実験テーマの目的を達成できるようにしました。(図2)

重量の測定
貨物全体の重心が偏っているとロケットの打上げ軌道に影響を与える可能性があるため、貨物全体のサイズや重さを正確に計測することが重要です。ATZ-G2025で使用されるフライト品は軽いものばかりとはいえ、筑波宇宙センター(以下TKSC)でDBがそれぞれの物品の寸法と重さを丁寧に測定して、ロケットへの積み込みを担当するチームへと引き渡しました。
実験物品の名前付け
ISSには大量の物品が保管されているため、ある作業に必要な物品(道具や装置)をその中から探さなければなりません。誤った物品を使用しないようにするために、軌道上運用に特化した物品名称であるOpNom(オプノムと呼びます)でISS全体として共通管理されています。
今回のATZ-G2025に必要な物品にもOpNomを指定し、それぞれのOpNomが記載されているラベルをすべての物品に貼付しました。ラベルが適切な場所に貼付され、物品名称が宇宙飛行士を混乱させないようにするために、この作業もフライト化の際に必要となります。
今回のATZ-G2025に必要な物品にもOpNomを指定し、それぞれのOpNomが記載されているラベルをすべての物品に貼付しました。ラベルが適切な場所に貼付され、物品名称が宇宙飛行士を混乱させないようにするために、この作業もフライト化の際に必要となります。
安全要件の検証
すべてのフライト品について安全要件が検証されました。DBは各物品の製造会社から材料情報を収取し、「材料識別使用リスト(MIUL)」を作成しました。このリストでは、可燃性、毒性、アウトガス(真空環境下において有機材料等から放出されるガス)など、ISSの安全要件を材料レベルで満たしていることを検証し、軌道上で問題なく使用できるかどうかを照合・検査します。加えてDBは、実験中に発生しうる危険な状況を識別し、それらをどのようにコントロールするかを検討しました。検討結果は「安全評価レポート(SAR)」と呼ばれる文書にまとめました。この文書はJAXA内部の安全管理委員会に提出され、承認を受けました。
今回打ち上げる物品の中には、安全基準を満たしつつ、提案者の実験意図を最大限に反映できるよう、DBが実験器具や用具を工夫して準備したものもあります。バングラデシュの学生が提案した「Shaping Water Experiment(微小重力環境でのステンレスワイヤーを使用した水の形状観察)」がその一例です。この実験では、丸、四角、三角などの形をしたワイヤーに色水を入れ、微小重力下でどのような形になるかを観察します。ワイヤーを丸や四角に形付ける際に、ワイヤー先端を同じワイヤーに巻き付けて形を作りますが、安全性を確保するため、巻き付けた部分の鋭利な先端をヤスリで丸め、その上にポリイミド粘着テープを巻いて、宇宙飛行士が安全に扱えるように工夫しました。(図3)

ISSへの輸送について
ISSへフライト品を届けるためには、ロケットで輸送します。今回は、種子島から打ちあがる新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)にフライト品を搭載して運びます。打ち上げた物品は軌道上で保管され、油井亀美也宇宙飛行士によって2026年1月頃に実験が行われることを目指し、引き続き準備を進めています。
作業分担
今回のフライト品準備作業は以下の作業分担で実施しました。
作業項目 | 株式会社デジタルブラスト | JAXA |
実験器具の準備 (物品の選定、製作など) |
〇 | - |
フライト品の検証と改良 | 〇 | - |
重量の測定 | 〇 | - |
実験物品の名前付け | 〇 | - |
安全要件の検証 | SARの作成 | 承認 |
ISSへの輸送 | - | 〇 |
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA