実験器具の準備について
国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟でアジアントライゼロG2023の実験を実施するにあたり、ISS船内に無い実験器具は、ロケットで打ち上げて輸送します。2023年8月に採択されたアジアントライゼロG2023の16件の実験テーマに必要な実験器具の準備が行われました。このISSへ送られる物品を「フライト品」と呼び、地上で検証するためのフライト品と同じ物品を「地上品」と呼びます。
一部の実験器具は提案者が作成してJAXAに送り、残りの実験器具はJAXAが準備をしました。すべての物品が揃った段階で、ロケットで打ち上げるための「フライト化」という作業を行いますが、物品をフライト化するには多くのステップがあります。
重量の測定
貨物全体の重心が偏っているとロケットの打ち上げ軌道に影響を与える可能性があるため、そのロケットに載せる貨物全体のデータを測定することが重要です。アジアントライゼロG2023のすべてのフライト品は軽いものばかりとはいえ、筑波宇宙センター(以下、TKSC)ではJAXAがそれぞれの物品の大きさや重さを測定しました。
物品への名前付け
実験で使用するすべての物品に、OpNomと呼ばれる軌道上運用向けの名称を指定しました。ISSには大量の物品があるため、ある作業に必要な物品や道具・装置はその中から探さなければなりません。物品捜索に時間がかかることや、誤った物品を使わないために、軌道上運用に特化した物品名称であるOpNom(オプノムと呼んでいます)がISS全体として共通管理されています。
今回のアジアントライゼロG2023に必要な物品にもOpNomを指定し、OpNomが記載されているラベルをすべての物品に貼付しました。ラベルが適切な場所に貼付され、物品名称が宇宙飛行士を混乱させないようにするためにこの作業もフライト化の際に必要となります。
今回のアジアントライゼロG2023に必要な物品にもOpNomを指定し、OpNomが記載されているラベルをすべての物品に貼付しました。ラベルが適切な場所に貼付され、物品名称が宇宙飛行士を混乱させないようにするためにこの作業もフライト化の際に必要となります。
安全要件の検証
すべてのフライト品について安全要件が検証されました。JAXAはそれぞれの物品製造会社から材料の情報を集め、材料識別使用リスト(MIUL)を作成しました。これは可燃性、毒性、アウトガスなどのISSの安全要件を満たしていることを材料レベルで検証することにより、打ち上げて問題ないかどうかを照合・検査するためです。加えて、JAXAは実験中に危険な状態になりうる事象を識別し、それら危険な状態をコントロールする方法を検討し、それらの検討結果を安全評価レポート(SAR)と呼ばれる文書に記載しました。この文書はJAXA内部の安全管理委員会に提出し、承認されました。
今回打ち上げる物品の中に、提案者の実験意図を考慮した実験を、安全基準をクリアしなおかつ最大限の実験成果を発揮できる状態で実施するためにJAXAが実験器具や用具をアレンジし準備をしたフライト品がいくつかあります。バングラデシュが提案した「磁力線の観察」がその一例です。この実験は磁力線を可視化することにより、磁力線の形が地上と微小重力下でどう違うかを比較することが目的です。提案者は鉄粉を使うことを提案していましたが、鉄粉のような細かい粉体は船内に漏れた場合に宇宙飛行士が吸い込んでしまう危険性があるため、JAXAは鉄粉の代わりにチップサイズの大きい磁力線チップを使うことにしました。(図2)
別の例は台湾が提案した「吹いた息で動こう」という実験です。提案者は当初宇宙飛行士が使用する筒を紙製のものにしようと考えていましたが、紙製の筒は運搬の過程や強度の観点で問題が生じる可能性があったため代わりにプラスチック製のパイプを使用することにしました。
また水を使う実験では、結果が見やすいように色水を使い、実験に使うストローに撥水材を塗布する加工も行いました。
また水を使う実験では、結果が見やすいように色水を使い、実験に使うストローに撥水材を塗布する加工も行いました。
ISSへの輸送について
ISSへフライト品を届けるためには、ロケットで運送します。今回は、米国のドラゴン補給船にフライト品を搭載して運ぶことになりました。
2023年9月15日、TKSCではジョンソン宇宙センター(JSC)に配送するためにフライト品が梱包されました。フライト品は2023年9月27日にNASAジョンソン宇宙センターに到着し、ドラゴン補給船運用29号機(SpX-29)に積み込むためケネディー宇宙センター(KSC)に輸送されました。
フライト品は2023年11月10日にSpX-29で打ち上げられ、翌11月11日にISSへ無事ドッキングしフライト品が無事に届けられました。現在は古川聡宇宙飛行士によって実験が行われることを目指して準備を進めています。
2023年9月15日、TKSCではジョンソン宇宙センター(JSC)に配送するためにフライト品が梱包されました。フライト品は2023年9月27日にNASAジョンソン宇宙センターに到着し、ドラゴン補給船運用29号機(SpX-29)に積み込むためケネディー宇宙センター(KSC)に輸送されました。
フライト品は2023年11月10日にSpX-29で打ち上げられ、翌11月11日にISSへ無事ドッキングしフライト品が無事に届けられました。現在は古川聡宇宙飛行士によって実験が行われることを目指して準備を進めています。
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA