概要
各参加国・地域で一次選考を実施し、その後、参加国・地域の全機関が参加する最終選考会を経て、分野Aでは11件、分野Bでは5件が選定されました。(選定テーマは表1、表2にて記載、詳細は最終選考欄にて記載)
※2 参加国・地域(アルファベット順): オーストラリア、バングラディシュ、インドネシア、日本、ネパール、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ
表1 分野A(簡易物理実験)選定テーマ(国・地域名アルファベット順)
国・地域 | テーマ名 |
オーストラリア | 十字物体のひねり回転実験 |
バングラデシュ | 磁力線の観察 |
インドネシア | 微小重力下でLato-latoの動きを試してみよう |
インドネシア | Lato-latoによる宇宙での完全弾性衝突 |
日本 | 微小重力環境の毛細管現象における液面上昇加速度の変化 |
フィリピン | 微小重力下でのオロイドの動き |
シンガポール | 微小重力下でのマグナスグライダーのループ |
シンガポール | Zero-G サイフォン |
台湾 | 微小重力下におけるマグナス効果 |
タイ | 水球と静電気力 |
タイ | 紐と二つのボールの動きの観察 |
表2 分野B(エクササイズ)選定テーマ(国・地域名アルファベット順)
国・地域 | テーマ名 |
日本 | 空気椅子でゴム体操 |
日本 | ロープを使った柔軟体操 |
フィリピン | ゴムバンドを使った無重力エクササイズ |
台湾 | 吹いた息で動こう |
タイ | 無重力下でのヒトデ体操 |
一次選考について
今回、応募件数がもっとも多かったタイでは、国立科学技術開発庁(NSTDA)がAsian Try Zero G 2023プログラムを運営し、NSTDA宇宙教育プログラムマネージャー、国立遺伝子工学・バイオテクノロジーセンター(BIOTEC)、国立金属・材料技術センター(MTEC)、国立電子・コンピューター技術センター(NECTEC)の専門家を含む委員会によって審査されました。(写真1)。
最終選考について
すべての参加機関による最終選考会(写真4)では、一次選考を通過した32テーマについて、上記コメントを参考として共通の評価シートを用いて評価し、分野Aから11件、分野Bから5件のテーマ※3 を選定しました。
選定したテーマは、古川宇宙飛行士により実施される予定です。
アジアントライゼロG 2023選定テーマ(分野A)
十字物体のひねり回転実験(オーストラリア)
提案者 | Australian National University(1名) |
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実験内容 | 回転している物体の運動量の変化は、回転軸の変化につながる。十字になっている棒をゴムで結んで並行にし、微小重力環境で投げたときの回転軸の変化を観察する。 |
<選定ポイント>
これまで微小重力下での回転軸の変化を観察する実験は実施したことがあるが、ユニークな器材を使用した提案である。
地上での動作に対し、微小重力環境での動作の差異を観察する。
磁力線の観察(バングラデシュ)
提案者 | Homeschooled(1名) |
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実験内容 | 微小重力環境において鉄チップ等が入った透明な容器に磁石を近づけたときの磁力線の変化を、3次元的に可視化して観察する。 |
<選定ポイント>
ISSでの簡易実験としての磁力線に関する実験は行われておらず、興味深い提案である。
微小重力下でLato-latoの動きを試してみよう(インドネシア)
提案者 | University of North Sumatera(2名) |
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実験内容 | 微小重力環境でLato-Lato (インドネシアの子供たちの中で流行している遊びで、日本ではアメリカンクラッカーとして知られる)が実施できるのか確認する。 |
<選定ポイント>
地上でも難しい動作を微小重力環境では実施できるのかという単純な内容であるが、これまでAsian Try Zero Gでは実施したことがなく、Lato-Lato(アメリカンクラッカー)の動きを予測することは興味深い内容である。
Lato-latoによる完全弾性衝突(インドネシア)
提案者 | The Republic of Indonesia Defense University(2名) |
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実験内容 | 微小重力環境でLato-Latoを実施した時の手のふり幅、手を振る速度が地上と比べてどのように変化するか実験する。 |
<選定ポイント>
地上でLato-Lato(アメリカンクラッカー)を動かそうとすると、実施者に関わらず一定の手の振り幅となるが、微小重力空間では地上と異なる振り幅となることが予想される。
微小重力環境の毛細管現象における液面上昇加速度の変化(日本)
提案者 | 東京学芸大学付属高校(13名) |
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実験内容 | 微小重力環境で毛細管現象についての実験をする。キャピラリの直径、流体の粘性の違いが液面の上昇速度にどのように影響するか観察する。 |
<選定ポイント>
本提案者が、落下塔を用いて実験を実施した時に、キャピラリの径の違いにより液面上昇速度に違いが見られた。径が大きいほど上昇速度が高い結果はとても興味深く、ISSでの検証に値すると考えられる。
微小重力下でのオロイドの動き(フィリピン)
提案者 | Rizal Technological University(1名) |
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実験内容 | オロイドとは幾何学的に展開可能で、尖った形をしているにもかかわらずボールのように滑らかかつまっすぐに転がることが可能な形状の物体。また、平面を転がるときオロイドの重心は左右の一定の距離を入れ替わりながら滑らかに動く。微小重力環境でオロイドを投げたとき、転がしたときの動きを検証する。 |
<選定ポイント>
地上でも独特な動きをするオロイド形状の物体の微小重力環境での挙動を観察することは、シンプルかつ興味深い内容である。
微小重力下でのマグナスグライダーのループ(シンガポール)
提案者 | NUS High School of Math & Science(1名) |
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実験内容 | 地上においてマグナスグライダーはループ形やアーチ形の軌跡で飛行することが知られている。微小重力環境でマグナスグライダーを飛行させたときにどのような軌跡で飛行するのか検証する。 |
<選定ポイント>
リソースの限られる軌道上で、紙コップと輪ゴムという簡単なシステムを使いマグナス効果を有効に観察することができる提案である。
Zero-G サイフォン(シンガポール)
提案者 | Catholic High School(2名) |
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実験内容 | 微小重力環境において水にストローを指す。水とは反対側の近くで別のストローを使用して息を吐いたときの水の動きを検証する。 |
<選定ポイント>
地上では一定の水面上昇しか見られないが、微小重力環境では水面が上昇し続けるのではないかという提案者の推測であり、微小重力環境でしか観察のできない興味深い提案である。
微小重力下におけるマグナス効果(台湾)
提案者 | National Taiwan Normal University(1名) Emory University & Georgia Tech(1名) PU TAI Senior High School(1名) |
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実験内容 | 地上においてマグナスグライダーはループ形やアーチ形の軌跡で飛行することが知られている。微小重力環境でマグナスグライダーを飛行させたときにどのような軌跡で飛行するのか検証する。 |
<選定ポイント>
リソースの限られる軌道上で、紙コップと輪ゴムという簡単なシステムを使いマグナス効果を有効に観察することができる提案である。
水球と静電気力(タイ)
提案者 | Suankularb Wittayalai School(1名) |
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実験内容 | 水は静電気によりひきつけられる。微小重力環境で大きさの異なる水球を作り静電気を帯びているものを近づけたときに、その水球を動かすことができるのか、また水球の形が変化するのか検証する。 |
<選定ポイント>
水と静電気の関係を効果的に観察することができる提案である。
紐と二つのボールの動きの観察(タイ)
提案者 | Yupparaj Wittayalai School(4名) |
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実験内容 | 微小重力環境において、2つの球を紐で結び回転させたときの動きを検証する。 |
<選定ポイント>
二つのおもりがついた紐を回すというシンプルな提案であるが、微小重力環境での挙動の違いを観察するユニークな提案である。
アジアントライゼロG 2023選定テーマ(分野B)
空気椅子でゴム体操(日本)
提案者 | 新居浜工業高等専門学校(1名) |
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実施内容 | 高齢者向けのゴムバンドを使った体操を微小重力環境で実施する。地上では椅子に座りながら実施するが、軌道上では空気椅子で実施してみる。ゴムバンドを使用することで、ゴムの収縮力を利用して上半身・下半身の運動が可能になる。 |
<選定ポイント>
宇宙飛行士が単独でエクササイズでき、準備が簡易であり、宇宙に適していると思われる。
ロープを使った柔軟体操(日本)
提案者 | 明石市立野々池中学校(4名) |
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実施内容 | 長さの異なる紐を用意し、微小重力環境でその紐を使って体の周りを一周(足の下、背中で回す、前に戻す)させることができるのかを検証する。 |
<選定ポイント>
微小重力環境では関節への負荷が減るため、関節が動きづらくなってしまうことが知られている。本提案は関節を動かしながらする動作のため、宇宙に適するエクササイズになると期待される。
ゴムバンドを使った無重力エクササイズ(フィリピン)
提案者 | Bataan National High School Senior High School(8名) |
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実施内容 | 微小重力環境において、ゴムバンドを使用してスクワットやストレッチを実施する。 |
<選定ポイント>
宇宙飛行士がゴムバンドを用いて単独で実施できるエクササイズである。準備が簡易であり、宇宙でのエクササイズとして適していると思われる。
吹いた息で動こう(台湾)
提案者 | Taichung Municipal Taichung Girls' Senior High School(2名) |
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実施内容 | 径の異なるパイプから息を吹き出して体を動かしたり回転したりできるか実証する。 |
<選定ポイント>
ストロー状のものを口に咥えて、息を思い切り吐き出すことで反動をつけて体を回転させる。軌道上では息を吐き続ける動作は少ないため、体の回転と相まって、ユニークな提案である。また、物理実験的にストロー状のものの径を変えるアイデアも面白い。
無重力下でのヒトデ体操(タイ)
提案者 | Rayongwittayakom school(2名) |
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実施内容 | 両足に1本、片足片手に1本ずつ(両手両足)ゴムバンドを取り付けて手や足を広げてトレーニングを実施する。 |
<選定ポイント>
宇宙飛行士がゴムバンドを用いて単独で実施できるエクササイズである。準備が簡易であり、宇宙でのエクササイズとして適していると考えられる。
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA