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2024.09.24
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ISS・「きぼう」での実験をより身近に、気軽に ~ポテンシャルを秘めた船内ドローン「Int-Ball2」

有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員 山本竜也
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員 山口正光ピヨトル
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員 井上翔太
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国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」の中を飛行して、写真やビデオの撮影を行うドローンロボットの定常運用がもう間もなく開始されることをご存知でしょうか?

2023年6月に打ち上げられたJEM自律移動型船内カメラ「Int-Ball2(イントボール・ツー)」は、2017年に打ち上げられた初号機の機能を拡張した新型の船内ドローンロボットです。現在、各種機能の確認などを行う初期機能確認が終了し、いよいよ本格的な運用に向けた取り組みが進められているところです。

宇宙実験や技術実証などの写真・ビデオの撮影を中心に、ISSで活動する宇宙飛行士の負担を軽減することがInt-Ball2のミッションですが、これ以外にも、さまざまな活用の可能性を秘めているようです。Int-Ball2でできることや、今後の展望について、Int-Ball2の開発・運用に携わるメンバーに聞きました。

宇宙飛行士の意外な負担! 撮影の手間を減らす船内ドローンの2号機を開発

Q:皆さんはInt-Ball2にどのように関わっているのですか。

山口我々が所属している有人宇宙技術センターのメインの業務はISS・「きぼう」の維持・運用・開発なのですが、私は入社時からロボティクス関連の業務を担当していて、Int-Ball2の設計が固まった段階でプロジェクトに加わりました。今は運用の主担当を務める山本さんのサポートをしています。

井上:私は民間企業からの出向というかたちでJAXAに来ています。Int-Ball2のプロジェクトには、設計の検討段階から加わり、さまざまな設計課題に対応しながら完成にこぎつけるところまで取り組みました。現在は運用と、どのように使ってもらうかという利用の部分を担当しています。

山本:私は、開発設計が固まったくらいのタイミングでJAXAに入社し、最初の1年は製造や試験などを担当して、モノとして完成するところまで、井上さんと一緒に取り組みました。その後は私がInt-Ball2の主担当として、ISSでの運用を担当しています。
Int-Ball2は、「JAXAで初めて」という要素が多いプロダクトなので、打上げからこれまでは基本的な機能がきちんと動作するかを確認する作業などを行ってきました。昨年度いっぱいで一通りの確認が完了したので、今は定常運用と呼ばれる、実際に使っていくフェーズに入った段階です。

Q:Int-Ball2は宇宙飛行士の代わりに撮影を行うドローンということですが、ISSでの撮影作業はそんなに大変なのですか。

山口:そうですね。ISSで実験をする際にはその様子を静止画やビデオで撮影するのですが、宇宙飛行士にその都度カメラをセットしてもらい、「もうちょっと右、もうちょっと左」と調整してもらうのは大変なことなのです。そうした撮影を地上から遠隔でできれば、宇宙飛行士に手間をかけずにできますよね。

初号機での経験をもとに、パワーアップしたInt-Ball2の機能とは?

Q:Int-Ball2の機能について教えてください。

山本:Int-Ball2のコンセプトは、宇宙飛行士の撮影作業をいかに代替するかです。「2」と言うからには初号機があるのですが、その機能拡張版がInt-Ball2だと思っていただければと思います。飛行する仕組みは初号機と同じで、機体の上や横にあるプロペラで推進力を出して移動します。

また、初号機の中には円盤を回転させる機構(超小型三軸姿勢制御モジュール)が搭載されており、これとプロペラで姿勢を制御していましたが、2号機はこの機構を搭載せず、代わりに回すプロペラの組合せを制御することで姿勢を変更させるトルク(回転力)を生んでいます。

大口径で強力なプロペラを搭載したことで、Int-Ball2は初号機より機敏に、正確に動けるようになりました。機能確認の期間中、ISSには古川聡宇宙飛行士が長期滞在していたのですが、帰還した古川宇宙飛行士からは、動く・止まる動作がしっかりできていて、撮影時も安定感があっていいねという評価をいただきました。

Q:定常運用に向けて、心強いコメントですね!

山本:さらに、自動で充電できるようになったこともポイントです。初号機はスマートフォンのように宇宙飛行士がケーブルをつないで充電していたのですが、Int-Ball2は自分で充電器に戻ります。

ISSで飛行チェックアウト中のInt-Ball2(Image by JAXA/NASA)

Q:ロボット掃除機のような感じですか。

山口:宇宙飛行士に手間をかけずに撮影するためのドローンなのに、充電ケーブルを宇宙飛行士に挿してもらうのだと、結局、手間をかけてしまうことになります。だから、自分で充電器に戻れるようにしたということですね。

Int-Ball2の外観。初号機より一回り大きいがそれ以上に多くの機能を盛り込んだ。
微小重力環境のISS内では上下がわかりづらいという初号機のフィードバックを踏まえ、
正面の「目」にあたる黒い部分を凸型にしてどちらが上か判別できるようにしている

山本:周囲の環境を自分で認識して、自分の位置を推定することができるようになったのも初号機との大きな違いです。初号機は、側面のカメラでISSのエアロック(出入り口)の前に貼り付けられた目印を捉えて自分の位置を確認していたのですが、物が置かれるなどして目印が隠れると位置が分からなくなっていました。

そこで、Int-Ball2では側面に人の目のように2つのカメラを付けることで立体的に周囲の景色を把握し、自分の現在地や過去にたどった経路が分かるようにしました。また、飛びながら周囲の景色を記憶することでISS内のマップを生成しています。船内の環境変化にも強い仕組みになっています。

Q:あらかじめISS内の見取り図を読み込んでおくだけでは足りないのですか。

山口:ISSでは限られたスペースの中でいろいろな実験をするので、機器のセットアップが頻繁に変わります。荷物もたくさん出し入れしますし、意外と状況が常に変化するのです。

井上:そういった環境の変化があるためInt-Ball2はあえてISS内のマップは持たせず打ち上げています。自分が飛行しながらマップを作製することで、その時々で船内環境が変わっても、都度マップをアップデートしながら飛べるようにしています。

Q:JAXAとして初めての要素も多かったということですが、どんな点が新しいのですか。

井上:JAXAとして守らなければならない開発のスタイルや、宇宙飛行士の横を飛ぶので機体のサイズを大きくしたくないといった制約はあるのですが、それを守りつつ、いろいろ新しい手法を試しながら開発を進めました。例えば、金属の3Dプリンティングを使ったり、地上の技術や民生品を転用するなどしたりしつつ、なるべく早く正確に確実なものができるようにしたところは、結構チャレンジングでした。

山本:宇宙で使用する部品などは専用設計の一点ものなので、事前に細部の検証ができたり、もし不具合が起きたとしても原因の特定に必要な情報を入手したりしやすいのです。民生品を使えば安くて早いのですが、やはり意図しない挙動が生じることなどはリスクで、どう折り合いをつけるかが重要です。

山口:つくっているときも、動かしてからも、いろいろありましたね(笑)。 もう一つ、2号機のコンセプトの中には、ロボットに詳しくなくても扱えるような、「使いやすさ」や常に宇宙飛行士がいるISSの強みでもある「拡張性」も入っていました。「きぼう」の中で運用して、そのフィードバックを得ながら、打上げ後でもソフトウェアを書き換えるなど、改良できるところはさらによくしていこうとしています。

井上:初号機の運用者から「もっと操作しやすいUI(ユーザー・インターフェース)がいいよね」というフィードバックがあったので、2号機は早い段階から運用の方々にも意見をいただき、誰でも直感的に操作できるUIを目指しました。

山本:「きぼう」で使う機器なので、基本的に訓練を受けた人が操作します。一方で、当初から誰にでも使ってもらいたいというコンセプトがあったとも聞いています。いろいろなユーザーに自由度高く使ってもらえるところを最終的なビジョンとしつつ、ルールとしてどこまでそこに近づいていけるかを模索しています。

カメラとしての利用はもちろん、ロボティクス分野での利用ポテンシャルも

Q:いよいよ本格的に運用が始まる段階になりましたが、Int-Ball2がどのように利用されるのか、期待を教えてください。

山口:一つ目は、カメラとしての利用です。ISSでの実験では、宇宙飛行士に作業を依頼して、後はデータや試料が戻ってくるのを待つというケースも多いのですが、研究者としては実際に実験をしているところを見たいわけです。実験中の撮影を、宇宙飛行士に手間をかけずに地上から操作してできるというのは大きな利点です。地上から操作して好きなところが見られるようになったので、まずはどんどん使ってほしいと思っています。

山本:もう一つは、Int-Ball2そのものを使ってもらうという方向性です。「きぼう」では、NASAの船内ドローン「Astrobee(アストロビー)」を使った教育プログラムや、ロボティクスの研究が行われています。Int-Ball2も同じような役割を担えるし、そういった需要があると考えています。

Int-Ball2は、JAXA外部ユーザーがプログラミングしたものをInt-Ball2の中で実行する環境や、外部デバイスを取り付けられる拡張性がある設計にしているので、USBケーブルでカメラやセンサーを差し込んで使えるようになっています。ロボティクス関係の方がもっと利用できるようなワンステップになればと思っていますし、そのための機能も持たせているので、これで何ができるだろう? と、ぜひユーザーの皆さんに考えていただきたいです。

今後、Int-Ball2自体を利用してもらうための枠組みや環境づくりもしていく予定なので、ご期待いただければと思います。

夢が膨らむ! さらに進化したInt-Ballを考えるとしたら…?

Q:これから定常運用が始まるところで、少し気が早いかもしれませんが、機能の追加や、後継機などについてアイデアはありますか。

山本:個人的には、後継機をつくれるならやりたいですよね。それに、Int-Ball2に参画してくれたメーカーさんはもちろん、新しい方々が参画してくださるなら、それもウェルカムです。初号機をつくった方々が考えたシリーズの展望というのもあって、最終的には船外に出るところまで考えられていたようです。

山口:腕を付けてモノ運びなど宇宙飛行士の作業を更にサポートできるようにしたり、宇宙飛行士が出るのが大変な船外に行って状況確認できるようにしたりと機能を増やすか、今のものをもっと小さく・賢くして機能を上げるか、方向性はいくつかありますよね。いろんなことを夢見てしまいますね。

井上:私はやはり「船外」ですね。もはや「Int(内)」じゃなくなってしまいますが(笑)。いずれにしても、皆さんにたくさん使ってほしい、役立つものにしたいので、愛される、喜んでもらえる方向性で進められたらいいなと思います。

アイデア次第で広がる活用法、コミュニティを広げて可能性を探る

Q:最後に、Int-Ball2や「きぼう」利用に関心をもつ研究者や企業の方へのメッセージをお願いします。

山本:Int-Ball2をJAXA以外の方にも広く利用していただきたいです。カメラロボットとして、宇宙飛行士の時間を節約しつつ、宇宙での実験をこれまでより多くの頻度・視野で見られるようになるので、実験の幅が広がるし、もっと気軽に宇宙で実験したいというニーズを満足させることができると思っています。

また、担当者としては、先ほどお話ししたようにInt-Ball2自身を使ってほしい気持ちが強いです。Int-Ball2の機能を生かして何かできないかを考えていただけると嬉しいですし、そこからさらに、Int-Ball2のようなものをビジネスとしてやってみたいという話に展開していけば、それはすごく素敵なことだと思っています。

井上:NASAのAstrobeeは研究者や企業の方が利用する仕組みができているのですが、それを見るとやはりニーズはあると感じます。やってみたいけれど参画の仕方がわからないという方もいると思いますので、そうした方々やニーズをまとめるコミュニティをつくろうとしています。こうしたコミュニティを広げて、日本の研究者や企業の方たちのモチベーションや技術の向上などにつなげていけたらと考えています。

山口:我々だけでできることは限られていますので、Int-Ball2を通じたコミュニティというか、多様な方がInt-Ball2を使うことで新しい技術を獲得できて、さらにそれがビジネスや新しい研究につながっていく流れができれば嬉しいですね。

関連リンク

プロフィール

左/山口正光ピヨトル(やまぐち・せいこう・ぴよとる)
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員

2019年JAXA入社。有人宇宙技術センターにて有人宇宙活動の自動化・自律化研究と国際宇宙ステーション「きぼう」のシステムインテグレーション業務を担当。「Int-Ball2」の開発・運用に従事。

中央/山本竜也(やまもと・たつや)
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員

2022年JAXA入社。入社当初からInt-Ball2の開発に携わり、2023年度からは主担当として運用業務に従事。本業務以外に「きぼう」の船外ロボットアームの補用品開発や船内荷物管理技術の研究なども担当。

右/井上翔太(いのうえ・しょうた)
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員

ソフトウェア開発を手がける企業からJAXAに出向、設計段階から「Int-Ball2」の開発に従事。さまざまな設計課題がある中で、小型、かつ安全な機体づくりに取り組んだ。現在は「Int-Ball2」の運用業務と将来のロボット実証プロジェクトを担当。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA