有人与圧ローバー
人が生活できる探査車

重力天体における居住機能と移動機能を併せ持った
「世界初」の宇宙機
「有人与圧ローバー」は、宇宙飛行士が乗り込み、ローバー内で生活しながら、月などの天体表面を探査することができる探査車です。無人期間も含め、月面の地質・資源の調査などをより広い範囲で行うことができ、持続的な月探査を目指すアルテミス計画の中で、非常に重要な役割を持ちます。有人与圧ローバーは、世界で初となるシステムであるだけでなく、日本初の単独で機能する「有人宇宙船」でもあります。
ミッション目標
アルテミス計画への貢献
アルテミス計画は米国主導の国際協力体制のもとで、月面への有人着陸及び長期滞在を通じた持続的な月面探査を目的としたプログラムの総体のことを言います。2021年4月には日米間で「有人与圧ローバーによる月面探査に関する文部科学省と米航空宇宙政策局との実施取決め」が署名され、日本が有人与圧ローバーを開発して10年間運用する役割を担うことや日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会が約束されました。アルテミス計画を実現する様々な宇宙機のうち、有人与圧ローバーを日本が提供することで国際貢献を果たし、宇宙開発における日本のプレゼンスを発揮します。
(参考)
人類の活動領域の拡大
有人与圧ローバーの開発を通じて獲得した技術を発展させ、取得した月面に関するデータを公開・活用することで、 将来月面での水資源プラント、推薬生成プラント、月拠点等の構築、民間との連携等の月面活動が促進され、さらなる人類の活動領域の拡大に貢献します。

新たな科学的価値の獲得
有人与圧ローバーは宇宙飛行士滞在時(有人時)のみならず、無人時も地球からの遠隔操作により探査を行えます。また、搭載するサイエンス機器にローバーの電力や通信のリソースを提供することで、単独打上げと比較して容易に月面科学が実現可能となります。有人時には宇宙飛行士によるサイエンス機器の設置・組立、チューニング、操作・修理等が、無人時には広域探査能力を活用したサイエンス機器の運搬やロボットアーム等による設置、地盤掘削、サンプル採取が可能となることから、科学的知見獲得に貢献します。
将来の有人火星探査に向けた技術の事前実証及び獲得
有人与圧ローバーの開発で得られた低重力環境下での走行技術や越夜に必要な燃料電池等の技術やデータを将来の探査機開発等に活用することで、将来の火星探査に向けた技術の事前実証や技術獲得が可能になります。
主なミッション要求
継続的かつ広域な月面探査
有人与圧ローバーは月面の移動手段として「10年以上、継続的に有人・無人での探査」を行うことが求められます。また、有人探査は「1年のうち連続31日以上」可能とする能力や、地上からの遠隔操作で無人探査を行えることも求められます。
有人与圧ローバーは、南極域の探査を行う予定ですが、将来的には低緯度への探査領域を拡大できるようにすることも予定されています。
有人による月面探査
有人探査期間中は、宇宙飛行士2名が与圧されたローバー船内にてシャツスリーブで生活することが求められます。また、ローバーに乗って探査するだけでなく、宇宙服を着て船外活動を行うことも可能です。
多様な月面利用・サイエンスへの対応
宇宙飛行士やロボティクスにより、探査地点の調査、サンプルや資源の探索・回収を行うことが求められます。
また、月面利用やサイエンス等に必要な利用機器・実験機器を搭載し、月面の指定場所に設置、これらの機器を宇宙飛行士や地上から運用します。さらに、月面データ(環境、地形、地盤特性・レゴリス特性等)やローバー車両データ、レゴリス評価、自立制御評価データ等、様々なデータを取得し将来活用することを計画しています。
有人与圧ローバーが晒される「月面」の環境
月の重力は地球の1/6ほどしかない
地球よりも重力の小さい月ではブレーキをかけても止まりにくいなどの課題があり、1/6の重力環境でも安定して走行できる技術が必要です。地球上で月の重力環境を再現することは難しく、地上試験とシミュレーション技術を組み合わせた検証手法を確立することも求められます。
昼と夜の温度差は200℃以上
月は昼夜の寒暖差が非常に大きく、低温時は-200℃近く、高温時は30℃になるため、この温度差に耐えなおかつ、キャビン内は人間が過ごせる環境を維持する技術も必要です。
月の1日は地球の29.5日間に相当
月と地球では昼と夜の長さが異なります。場所や時期にもよりますが、昼が2週間程度続いたあと、夜が2週間程度続きます。南極域の日照条件のよい場所でも太陽光の当たらない期間が約8日程度続きます。夜は気温も下がり、太陽による充電もできないため、夜を越せる能力(越夜能力)が必要不可欠です。
月の表面はレゴリス・岩石・クレータがいっぱい

レゴリスとは月面に積もった岩石由来の粒子やダスト等の総称のことを言います。月は風が吹かないため、細かなレゴリスが岩石の上のゆるやかに積もった状態です。そのような地面でもタイヤが沈み込まずに走行する技術や走行とともに舞い上がるレゴリスへの対策も必要になります。また、岩場やクレータなどの障害物を避けて走行する技術も必要です。
過酷な月面での探査を可能にする技術
広域探査を可能にする走行システム
有人与圧ローバーは1日当たり26㎞、10年間で10,000㎞走れる能力を備えることを目指しています。宇宙飛行士による手動操縦のみならず、宇宙飛行士が搭乗していない無人期間にも探査を行えるよう、遠隔操縦や自動操縦できる機能を備えます。また、岩やクレータなどの障害物が存在する月面を安全に走行できるよう障害物検知・測距センサとしてLiDARを搭載しています。
越夜を可能にする再生型燃料電池システム
有人与圧ローバーは太陽電池パネルで発電を行います。しかし、夜間は発電できず、蓄電にも限界があるため、長い夜を超えるためには高エネルギー密度の蓄電が必要になります。そこで、有人与圧ローバーでは再生型燃料電池(RFC)を採用します。RFCは太陽電池パネルから得た電気を使って水を水素と酸素に電気分解し、その水素と酸素を使って燃料電池として発電をします。さらに、この発電時に水が発生するので、その水を水電解することで水素と酸素に分けて再び発電できる再生システムです。
展開と収納を繰り返す太陽電池パネル展開収納機構
有人与圧ローバーは停車時に10m級の太陽電池パネルを広げて電気を発電・蓄電し、走行時に太陽電池パネルを収納します。
衛星は一度太陽電池パドルを展開したらそのままですが、有人与圧ローバーは走行・停車のたびにパネルを出し入れするため、1500回以上の展開・収納を安定的に行える機構を備えます。

厳しい温度変化に対応可能な熱制御システム
月面は温度差が激しく過酷な環境ですが、キャビン内(船内)は、シャツスリーブで過ごすことができます。そのためには、有人与圧ローバーは走行時や再生型燃料電池で水電解を行うときに発生する熱を空気のない月面環境で排熱する必要があります。月面が熱い昼間の走行時でもオーバーヒートしないように外部のラジエータにより冷却をし、月面が冷たく自身のエネルギーも限られる夜間は排熱を抑え船内を温めるよう制御します。
船内をシャツで過ごせる環境を支える生命環境維持装置
月面は温度差が激しく過酷な環境ですが、キャビン内(船内)は、シャツスリーブで過ごすことができます。キャビン内の温度や湿度をコントロールするエアコンや、宇宙飛行士の呼吸に由来する二酸化炭素を除去する生命環境維持装置を搭載します。
プロジェクトリレートーク 有人与圧ローバー
有人与圧ローバープロジェクトチームのメンバーにプロジェクトの詳細や開発秘話などを聞きました。インタビュー記事「月社会実現に向けて先陣を切る、「有人与圧ローバー」開発の現在地は?」は、こちら

有人与圧ローバーが拓く”月面社会”勉強会
~有人与圧ローバー チームジャパン~
有人与圧ローバーを議論の出発点として、将来の月面社会のビジョンについて、様々な業種間で横断的に意見交換しませんか。
本勉強会は、有人与圧ローバーを議論の出発点として、将来の月面社会のビジョンについて、様々な業種間で横断的に意見交換を行い、持続的な月面活動の実現に向けた検討を促進することを目的としています。

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