有人活動の重要な技術の一つに、宇宙における火災安全技術があります。微小重力環境における固体材料の燃焼特性は地上とは大きく異なり、燃焼限界が低酸素濃度側に拡大する場合があるなど、重要なことが明らかになっていることから、宇宙での火災安全技術の重要性はますます高まっています。
固体燃焼実験装置(SCEM)は、固体材料上の火炎燃え拡がりが起こる限界酸素濃度や、電線のショートによる被覆材の発火が起こる限界電流条件等の取得が可能で、浮力による対流が無視できる微小重力環境下における固体材料の燃焼特性、および材料の燃焼限界に対する重力の影響を科学的に解明します。
材料の種類や形状、周囲流の向きや流速、雰囲気圧力の違いなど、様々な条件による影響を評価することで、次世代の宇宙活動における火災に対する安全対策に貢献します。
パンフレット
実験方法の概略
SCEMは、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟船内実験室にある多目的実験ラック(MSPR)に搭載して実験を行います。燃焼容器、実験インサート、カメラユニット、電源通信制御ユニットなどの複数の部品で構成されており、これらをMSPR内のワークボリューム(WV)という実験装置搭載用のスペース内で組み立てることによって使用可能となります。また、燃焼実験のための酸素は、MSPR内の小規模実験エリア(SEA)というスペースに取り付けられたガスボトルから、WVとSEA間のガス供給用の配管を経由して供給されます。
SCEMの組立作業は全て宇宙飛行士が軌道上で実施し、組立完了後の実験に関する作業は地上の要員が筑波宇宙センター(TKSC)から遠隔作業で実施します。
装置の構成
燃焼容器と実験インサート
燃焼容器の内部に搭載される実験インサートを交換することにより、異なる試料の実験を実施できます。実験インサートにはファンや整流用ハニカムが搭載されており、燃焼容器内部を循環式の風洞とすることができます。燃焼容器に取り付けられた観察窓を通して、燃焼現象をカメラで観察します。
実験インサートは、電線試料を扱う実験インサート1と、平板試料を扱う実験インサート2の2種類があります。実験インサート、イグナイタ(着火用の電熱線)などのSCEM構成部品、および実験インサート内に搭載して使用する実験試料は、宇宙飛行士が交換します。
実験インサート1は、リールに巻かれた約80mの電線試料を巻き取りながら試料を燃焼させることができます。燃焼の様子は図8で示すように、燃焼容器の周りに取り付けられたカメラで観察しますが、火炎の進む速度と試料を巻き取る速度が異なっているとカメラによる正しい撮影ができない、長時間の燃焼ができないといったことが起こります。そのため、カメラの映像から火炎の進む速度を解析し、試料巻き取り速度と火炎の進む速度をほぼ同じになるよう制御することにより、カメラの画角中央に火炎を維持する機能を持ちます。
実験インサート1(電線試料)
試料 | 電線試料 |
着火方法 | イグナイタによる外部着火、もしくは通電端子による通電着火(部品交換により実現) |
試料供給方法 | 試料リールに巻かれた試料を、試料送り機構により送り/巻取り操作を実施する |
試料交換方法 | 宇宙飛行士が試料リール単位で交換作業を実施する |
実験インサート2(平板試料)
試料 | 平板試料 |
着火方法 | イグナイタによる外部着火 |
試料供給方法 | カートリッジに装填された試料カードを1枚ずつ、試料送り機構により燃焼実験を実施するスペースに自動装填する。実験後は、試料送り機構の反対側に設置した回収用のカートリッジに自動収納する。 |
試料交換方法 | 宇宙飛行士が、カートリッジ単位で交換作業を実施する |
観察装置
燃焼容器の周囲には燃焼現象観察用に5台のカメラを設置しています。カメラの内訳は可視カメラ3台、高速度カメラ1台、赤外カメラ1台です。取り付けの構成を図8に示します。各カメラで撮影した静止画、動画は、地上からの遠隔操作によりTKSCにダウンリンクして確認できます。
主な仕様
項目 | 仕様 |
寸法 | 本体 : 幅約900mm×高さ約600mm×奥行約700mm(実験ラックへの搭載状態において) 燃焼容器(内寸):幅約220mm×高さ約375mm×奥行550mm |
質量 | 約160kg |
実験サンプル | 平板試料
電線試料
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カードホルダ | 装填試料枚数(1カードホルダ当たり)
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観察装置 | 可視カメラ:3台 赤外カメラ:1台 高速度カメラ:1台 |
関連リンク
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