宇宙実験のためのインフラストラクチャー
実験ラックとは?
国際宇宙ステーション(ISS)で使用する実験装置は、「実験ラック」に搭載され宇宙へ運ばれます。そして、「きぼう」日本実験棟などの実験室に取り付けて実験を行います。実験ラックは、日常生活で例えると「ロッカー」や「書棚」にあたります。また、電気を実験装置へ分配したり、実験装置を冷やしたりする「分電盤」や「エアコン」の機能もあります。つまり、実験ラックはいくつかの「実験装置」と、それらに電気などを供給する「実験支援機器」からできています。
ロッカーとしての役割-実験装置の搭載
ISS内部は重力がほぼゼロで、宇宙飛行士は浮遊状態にあります。宇宙飛行士から見て、実験装置が引っ込んでいたり、出っ張ったりしていては、操作しにくく、また宇宙飛行士が凹凸に引っかかり危険です。そこで、実験ラックは、実験装置を宇宙飛行士にとって操作しやすい位置に配置・固定する役割を持っています。
また、スペースシャトルや宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle: HTV)で実験ラックをISSに輸送する際には大きな振動や加速度がかかりますが、実験装置を振動や加速度から守り、装置が実験ラックから飛び出さないようにする役割も果たしています。
実験支援としての役割-電気、空気、通行手段などの提供
実験装置が動くには、まず電気が必要です。電気を使うと熱が発生するので、これを冷やすための冷却水や冷却用の空気も必要となります。実験によっては窒素や二酸化炭素といったガスを使用する場合や実験装置内のガスを排気する場合もあります。さらに実験の進行状況を地上の研究者が観察するため、実験のデータ(実験サンプルの温度や圧力、実験サンプルの様子を写したビデオ画像など)を地上に送信しなければなりません。
これらの役割を担うのが、実験ラックに搭載される実験支援機器です。実験支援機器は、船内実験室本体から電気や冷却水やガスを受け取り、実験装置に供給するとともに、実験装置のデータを「きぼう」経由で地上に送信します。さらに、実験装置の異常や火災発生を検知して、実験装置の電源を遮断したり、異常を「きぼう」の中央コンピュータに通報する役割も持っています。
宇宙で実験装置の交換や修理が可能
実験ラックは、宇宙で新しい実験装置と交換できるものもあります。また、CCDカメラやヒータなどの部品が故障した場合でも、交換や修理が可能です。実験ラックをISSで運用する期間は3年以上と非常に長いため、実験装置の交換や部品の修理といった保全が重要なのです。
日本の実験ラック
研究者の多様なニーズに応え、いろいろな実験に利用できるよう工夫して開発されています。
温度勾配炉搭載ラック(勾配炉実験ラック)
微小重力を利用した半導体材料の結晶成長など、材料実験を行う実験ラックです。
細胞培養装置搭載ラック(細胞実験ラック)
動物、植物などを用いて生命科学に関わる実験を行う実験ラックです。
溶液結晶化観察装置・タンパク質結晶生成装置・流体物理実験装置・画像取得処理装置搭載ラック(流体実験ラック)
溶液、タンパク質などの結晶成長に関する基礎研究、流体実験および取得した実験画像を符号化・圧縮する実験装置を搭載した実験ラックです。
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