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2026.04.10
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「きぼう」船外で宇宙を飛び交う光と粒子を捉える ―MAXI、CALETとは?<後編>

鳥居祥二(早稲田大学)×三原建弘(理化学研究所)×吉崎 泉(JAXA)
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国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外プラットフォームで、長期にわたり宇宙の観測を続けている、MAXI(全天X線監視装置)とCALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)。

前編では、2人の研究者が宇宙を目指した原点と、X線と宇宙線という異なるアプローチで高エネルギー宇宙の謎に挑む2つの装置の仕組みをお伝えしました。

後編では、長年の観測の中で生まれたスリリングな発見のエピソード、宇宙の質量の大部分を占めるとされる暗黒物質の探索、そして「ポストISS」時代に向けた展望について伺います。

16年間、途切れることなく宇宙を監視し続けるMAXI

吉崎:MAXIは2009年から16年以上、全天を監視しています。MAXIが観測したデータはどのように活かされているのですか。

三原:ISSの「きぼう」に搭載されたMAXIは、ISS自体が地球を1周する動きを利用して、90分に1回、全天をスキャンしています。

ISSに搭載されている利点は、リアルタイムにデータが降りてくることです。X線がMAXIで検出されると、約15秒後には理化学研究所(以下、理研)の計算機がデータを受信します。自動処理によってX線の新星だとわかれば、約30秒後にはその旨が全世界にメールで発信され、それを受けた世界の天文学者がすぐに追観測して確かめるという、非常にスピーディーな仕組みが構築されています。

最近では、「時間領域天文学」という言葉が使われており、中でもMAXIは1分や10分といった時間領域の観測を牽引しています。

そして、MAXIが取得したデータは、理研のホームページから全世界に向けて即時に公開されています。このこともMAXIが世界から支持を受けている大きな理由だと思います。

吉崎:30秒で世界に通知されるとは驚きです。これまでにどんな発見があったのですか。

三原:MAXIはおよそ16年間で37個のX線新星を発見しました。そのうちブラックホールが15個、中性子星が18個、白色矮星が1個、正体不明の短時間の現象が3個です。

発見した星には全てMAXIの名前が付いています。現在も平均して年に2個ほど新星を発見しており、MAXIは今この瞬間も、宙(そら)を監視し続けています。

理化学研究所 三原先生

実はスリリングなX線・宇宙線研究の現場!―思わぬ事象がもたらす発見

吉崎:MAXIが観測したものの中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

三原:2011年11月11日に、打ち合わせから研究室に帰ってスクリーンを見ると、真っ赤な星が現れており、「何だ、これは!」と驚きました。通常、赤い星というのはエネルギーが低く、しかも非常に明るいものは太陽以外にはなかったのです。

調べてみると、その星は、約20万光年先にある小マゼラン銀河で起きた爆発でした。20万光年も離れているのに、1,000光年程度の距離にある星と同じくらい明るく輝いていて、星の輝ける限界・エディントン限界光度の100倍を超えていたのです。一体何なのか、研究者の間でも2年にわたって議論を重ねました。

最終的に、それは前代未聞の「高速新星」であることが分かりました。普通の新星は爆発してから可視光で明るくなるまで1週間ほどかかり、約100日かけて消えるのに対し、MAXI J0158はおよそ1時間半で明るくなり、わずか6時間で消えてしまったのです。非常に重い白色矮星ではこのような現象が起きると理論家の方にも支持をいただき、この結論に決着しました。天体として全く新しいものを見つけたという意味で、とてもエキサイティングな経験でした。

吉崎:前例のない事象を発見したということですね。

三原:はい。もう一つは、2017年8月17日、中性子星同士が合体するという、重力波天体のイベントの発生です。

ブラックホール同士の合体は2015年に検出され、中性子星と中性子星の合体はその10年先と言われていたのが、わずか2年後に起きたのです。合体と同時にガンマ線が放出されると予測されていたのですが、実際にアメリカの衛星がガンマ線の同時検出に成功しました。

MAXIでもX線を捉えたかったのですが、調べてみたところ、スキャンは発生の1分後からで、すでにその場所を通過した後でした。あと2分ずれていれば観測できていたわけで、本当に惜しかったですね。次のスキャンでも入らず、4時間40分後に初めてスキャンの視野に入ったときには、X線はもう出ていませんでした。

図1 2017年8月17日に発生した中性子星同士の合体による重力波天体のイベント
赤枠が重力波天体のイベント位置。イベント発生した1分後にMAXIがスキャンした。イベント発生した1分後にMAXIがスキャンした。次の94分後のスキャンでも視野に入らず、初めて視野に入ったのは4時間40分後ですでにX線は出ておらず、惜しい結果となった。(Image by MAXI team)

三原:世界で初めてニュートリノの観測に成功した小柴昌俊先生は、「準備しているところに幸運の女神が来る」とおっしゃっていました。我々はちょっと準備が足りなかったということで、次回に乞うご期待ですね。ただ、X線による観測としては世界で一番早いものでしたので、論文にはなっています。

吉崎:MAXIと、NASAのX線観測装置「NICER」を連携させる「OHMAN」というシステムも開発されましたね。

三原:はい。ISSには、JAXAのMAXIのほかにNASAのNICERというX線望遠鏡が搭載されています。MAXIは広く浅く全天をスキャンして新星を見つけるのが得意で、NICERは一つの星をじっと詳しく観測するのが得意です。MAXIで新星を見つけたら、消えないうちにNICERを向ければ素晴らしい観測ができるはず、と誰もが考えました。

当初は、MAXIのデータを地上で解析して新星を見つけ、メールでNASAに連絡してNICERをそちらに向けるコマンドを送ってもらうという手順でしたが、時差の関係もあり、どうしても数時間から1日かかってしまいます。それならISSの中でMAXIでの発見からNICERへの指示まで自動でできるようにすればいいということで、JAXA、NASAの協力を得てISS内のPCでこれを実行できるシステム(On-orbit Hookup of MAXI and NICER:OHMAN)を2022年8月に実現し、運用を開始しました。実際に中性子星連星の爆発やX線パルサーの2分後からの観測に成功しています。

吉崎:鳥居先生、CALETも観測開始から10年が経ちました。思い出深い観測のエピソードは何ですか。

鳥居:実は、CALETで最初に発表した論文は当初の観測項目にはなかった、宇宙天気予報に関連するテーマでした。

地球の周りには、地球の磁場に閉じ込められた電子が溜まっているバンアレン帯という領域があり、宇宙天気予報に関連しています。ある日、オーロラや宇宙天気予報の専門家である片岡龍峰先生(現・沖縄科学技術大学院大学)が当番で、私と一緒に画面を見ていたところ、CALETの電荷測定器(CHD)のカウントレートが短時間で急激に変動しました。

「これは絶対に普通の現象ではない」と思って片岡さんに伝えると、彼も驚いて「これはレップ(Relativistic Electron Precipitation:REP)現象だ!」と。太陽活動などに伴う電磁波の影響で、バンアレン帯に溜まった電子が一気に地球に降り注ぐ現象です。

その後、電磁波の観測を行っている「あらせ」や米国の衛星との同時観測から、3種類のREP現象が存在することを突き止めました。10年以上もREPの観測データを蓄積し続けているのはCALETが初めてで、宇宙天気予報の精度向上にも役立つ重要なデータになっています。

図2 CALETやその他の観測衛星などによる太陽地球磁気圏の観測
衛星通信やGPSによる測位などが普及する中で、太陽活動による地磁気の変動を見る宇宙天気予報は重要性が増している。CALETの観測は宇宙天気予報の高精度化にも寄与している(Image by CALET team)

吉崎:前編でお話しいただいたように、理論から入るとこうした現象が起きることは思いつかない場合も多いでしょうから、観測から説明を導き出していくというのは、やはり説得力がありますね。
ちなみに、先の成果は当初想定していたものではなかったということですが、その他の研究結果も教えてください。

鳥居:CALETの高エネルギー宇宙線の観測結果は、超新星残骸やパルサー、活動銀河核といった極限的な天体現象の理解につながります。さらに、宇宙線は星間物質などと相互作用しながら伝播するので、粒子を識別できるCALETの観測は、銀河系の構造を探る重要な手がかりにもなります。

図3は、CALETをはじめとした宇宙および地上の観測装置が捉えた宇宙線のエネルギー分布を示したものです。高エネルギーの宇宙線ほど、量が少ないことがわかります。高エネルギーであるということは、粒子が非常に加速している、ということで、ごく一部の条件でしかそのようなことは起きません。少ない手がかりから、どうやって加速しているのか、そのメカニズムを調べているのです。

CALETは1ギガエレクトロンボルト(GeV)から1ペタエレクトロンボルト(PeV)にわたる幅広い領域のエネルギーを観測しています。

非常に高エネルギーの宇宙線は、地上の大規模な観測装置でなければ捉えることができませんが、そうした宇宙線は地上に届くまでに性質の情報が失われてしまいます。一方、宇宙での観測ではそれらの情報を保持したまま正確な観測ができるため、宇宙空間での観測が欠かせないのです。

図3 全宇宙線エネルギースペクトルとCALETの観測領域(1GeV-1PeV)
CALETやAMS-02、ISS-CREAM(現在は観測終了)など宇宙の観測装置に加え、地上からの観測も組み合わせることで、幅広いエネルギーをもつ宇宙線が観測されている(Image by CALET team)

「暗黒物質」の痕跡を追う!―CALETが探るその姿とは

吉崎:ここからは、宇宙の謎としてよく挙げられる「暗黒物質」についてお聞きします。銀河系の回転を考えたとき、暗黒物質がないと説明がつかないという話を聞いたことがありますが、どういうことですか。

三原:暗黒物質とは、光では見えないものの、確かに重力をおよぼしていると考えられている物質のことです。

その存在が最初に示唆されたのは1920年代のことで、銀河系の星の回転速度を調べた天文学者が、銀河の外側にある星が、ありえないほど速い速度で回転していることに気づきました。それほどの速度で回転しているということは、銀河全体に非常に強い重力源があるはずなのに、そこには何も見えません。この特徴は、あらゆる銀河で共通しているのです。

さらに、この特徴は銀河だけではありません。銀河が数百から数千個集まった「銀河団」でも同じ特徴が確認されており、さらにハッブル宇宙望遠鏡による銀河団の観測では、背景にある銀河の光が屈曲して見える「重力レンズ」現象も発見されました。アインシュタインの一般相対性理論によれば、空間が曲がると光さえも曲がりますが、その原因となる質量を計算すると、見えている星の質量だけでは全く足りないのです。

さらに、宇宙背景放射の観測結果にインフレーション理論を適用すると、宇宙全体のエネルギーのうち、我々が見える通常の物質によるものはわずか約4パーセントに過ぎず、約26パーセントが暗黒物質という結果になりました。残りの約70パーセントは、目に見えない「暗黒エネルギー」なのではないかと示唆されています。宇宙の大部分が「見えないもの」でできているということで、宇宙から偶然やってくる暗黒物質を捉える研究が行われていますが、まだ成功していません。

吉崎:なるほど…。あることは間違いないと考えられていますが、なかなか観測できないということですね。鳥居先生、CALETの観測で暗黒物質の手がかりは得られないのでしょうか。

JAXA 吉崎(左)と早稲田大学 鳥居先生(右)

鳥居:はい。暗黒物質の最有力候補は、大質量粒子「ウィンプス(Weakly Interacting Massive Particles:WIMPs)」だとされています。素粒子論における「弱い相互作用」をする粒子で、暗黒物質の性質を非常に説明しやすいというわけなのですが、加速器による実験では見つかっていません。

もし暗黒物質(WIMPs)が宇宙のどこかで衝突して対消滅すると、電子と陽電子の対が生まれ、暗黒物質の質量のほとんどが運動エネルギーに変わると考えられています。そうすると、その対消滅で生まれた電子・陽電子は特定の高エネルギー領域に集中して現れるはずです。

つまり、通常の天体起源の宇宙線は高エネルギーになるほど急激に減少していくのに対して、もし暗黒物質由来のものがあれば、その質量に相当するエネルギー付近に「余分なピーク」として姿を見せることが期待されます。CALETはまさにそのエネルギー領域で電子・陽電子を精密に観測しており、この痕跡を探しています。

吉崎:現時点で暗黒物質らしき痕跡は見つかっているのですか。

鳥居:現在のところ、有意なシグナルはまだ見つかっていません。ただし、観測を重ねることで「これ以上の量は存在しない」という上限値を着実に絞り込んでいます。上限値というのは非常に重要で、暗黒物質がどのような性質のものかを見極めるための情報になります。

観測精度がさらに高まれば、わずかな過剰も検出できるようになり、もしWIMPsの存在を否定する結果が得られたとすれば、暗黒物質にはさまざまな別の可能性が広がり、それ自体も大きな発見となります。どちらに転んでも、観測を続けることに大きな意義があるのです。

ポストISSの時代へ―次世代の宇宙物理学に向けたメッセージ

吉崎:ISSは2030年に退役する予定ですが、その後の天文観測についてどのようにお考えですか。

三原:X線天文学は宇宙から観測する以外に手段がなく、費用も準備期間もかかります。だからこそ観測継続と国際協力が不可欠です。ISSの退役後も、民間主導のポストISSなどで全天監視を続けていければと思っています。

X線は非常に変動が激しく、毎年新しい新星が現れますし、ブラックホールは1ミリ秒単位で変動しています。次の瞬間にどんな新しい物理現象が現れるか分からないが、その可能性をキャッチするためには、継続的な観測と準備が欠かせません。日本は16年以上にわたり全天監視のノウハウを蓄積してきましたから、その経験を活かして世界の新星発見役を続けられれば、非常に意義のあることだと思います。

鳥居:宇宙線の観測については、さらに大型で高性能な装置を宇宙空間に設置したいという希望があります。
また、イタリアのCALETの研究代表者は月面に宇宙線の観測所を置くという構想を提案しています。月面であれば、宇宙ステーションに比べて重量や面積の制約が大幅に緩和され、ほぼ半永久的に観測を続けることもできます。もし私が若ければ積極的に参加したいところですが、若い研究者の皆さんにはぜひこうした次世代の計画に加わってほしいと願っています。

吉崎:最後に、これから宇宙研究を志す若い方々へのメッセージをお願いします。

三原:この分野の実験は、研究の提案から観測装置の製作、打上げ、運用、論文執筆まで、10年がかりの仕事です。強い情熱がなければ、とても続けられないと思います。

逆に、本当に好きで思い続けていれば、いつかは実現できます。MAXIを提案した松岡 勝先生は大学院生の頃からの意志を何十年も持ち続け、定年の年にMAXIが採択され、その後もMAXIをリードし続けてくださいました。皆さんも自分の好きなこと、興味をもったことを大切に、夢を諦めず、それに向かって歩き続けてほしいと思います。

鳥居:私は、高エネルギー宇宙の解明は大きく進歩していると感じています。暗黒物質の問題や宇宙線の新たな加速天体の発見など、これからの時代、ますますエキサイティングになる分野です。ぜひ多くの若い研究者に、この分野に興味をもって飛び込んでほしいと思います。

「きぼう」のような場で、MAXIやCALETが長期間にわたる正確な観測とデータ取得を行い、そこから生まれた発見が宇宙の理解を一歩ずつ前に進めてきました。これからも、観測が中断しない連続的で高性能な装置による観測を続けていくことが重要で、こうした取り組みが新たな発見に続いていくと思っています。

吉崎:宇宙の謎はまだまだあるので、ぜひ若い世代の皆さんに仲間に加わっていただきたいですね。鳥居先生、三原先生、本日はありがとうございました。

(左)JAXA 吉崎、(中央)早稲田大学 鳥居先生、(右)理化学研究所 三原先生

関連リンク

#KiboXtalk vol.04 X線と宇宙線の観測(MAXI/CALET「きぼう」船外科学利用)・前編
#KiboXtalk vol.04 X線と宇宙線の観測(MAXI/CALET「きぼう」船外科学利用)・後編

プロフィール

鳥居祥二(とりい・しょうじ)
早稲田大学理工学術院 名誉教授、招聘研究教授

1972年、京都大学理学部卒業。1977年、京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学、1978年京都大学理学博士。1977年日本学術振興会奨励研究員(東京大学宇宙線研究所)、1979年東京大学宇宙線研究所研究員、1982年米国ユタ州立大学物理学科Research Associate、1983年神奈川大学工学部助手、講師、助教授、教授を経て、2004年より早稲田大学理工学研究所教授。2018年早稲田大学理工学術院先進理工学部物理学科(組織変更による)。2019年から2022年まで神奈川大学工学部特任教授。2019年より現職。専門は宇宙線物理学。

三原建弘(みはら・たてひろ)
理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 宇宙放射線研究室 上級研究員

1995年東京大学博士(理学)取得。1995〜1996年米国ウィスコンシン大学ポストドクトラルフェロー、1992年理化学研究所宇宙放射線研究室研究員補、研究員、先任研究員、専任研究員を経て、2026年より現職。立教大学大学院客員教授、芝浦工業大学大学院客員教授、JAXA客員研究員を兼任。専門はX線検出器とX線天文学。

吉崎 泉(よしざき・いずみ)
JAXA 有人宇宙技術部門 宇宙環境利用推進センター 研究開発マネージャ

1994年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。同年、宇宙開発事業団(現 宇宙航空研究開発機構)入社。2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(博士(工学))。2017年より現職。宇宙環境利用推進センターでは高品質タンパク質結晶生成実験担当を経て、現在は船外利用推進および利用計画・国際調整を担当。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA