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2026.04.10
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「きぼう」船外で宇宙を飛び交う光と粒子を捉える ―MAXI、CALETとは?<前編>

鳥居祥二(早稲田大学)×三原建弘(理化学研究所)×吉崎 泉(JAXA)
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夜空に輝く星々を見て、穏やかな気持ちになる方は多いでしょう。きらめく星空は静謐な世界のように感じますが、それは宇宙の一側面にすぎません。

実際の宇宙空間では新星の爆発やそれに伴う高エネルギー粒子の放出、天体同士の衝突・合体など、ダイナミックな現象が絶えず起きています。

そんな人の目では捉えられない宇宙の姿を見つめる“2つの目”が、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟の船外に設置されていることをご存知でしょうか。

X線で宇宙の激動を捉える全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」と、高エネルギー電子・ガンマ線観測装置「CALET(キャレット)」、それぞれの開発と観測に携わり、目に見えない宇宙の動きを探究してきた鳥居祥二先生(早稲田大学)と三原建弘先生(理化学研究所)に、「きぼう」船外利用の促進に携わる吉崎泉研究開発マネージャ(JAXA)がお話を伺った模様を、2回にわたってお届けします。

幼い頃からの興味・関心を胸に研究の道を進んだ2人

吉崎:本日は、「きぼう」船外プラットフォームに搭載されている観測装置の開発や運用に携わる2人の先生にお話を伺います。
まずは先生方のご経歴を伺いたいと思いますが、鳥居先生、宇宙や物理学に興味をもたれたきっかけは何ですか。

鳥居:小学生の頃から、宇宙の果てはどうなっているのか、物質をどんどん細かくしていくとどうなるのか、ということに強い関心がありました。周りの大人に聞いても誰も確かな答えをくれなくて、「こんな大事なことも知らないでよく生きていられるな」と思ったものです(笑)。

京都の小学校の先生には個性的な方が多く、6年生のときに「卒業論文」を書くことになったのですが、私は原子力をテーマにして原子核分裂や核融合について書いたところ、先生にずいぶん褒められました。その体験をきっかけに、さらに物理学を深めてみようという気持ちになりました。

吉崎:小学生の頃から。すごいですね。大学では物理学の道に進まれたのですね。

鳥居:はい。京都大学の理学部に入学しましたが、1968年という大学紛争の時代で、通常の授業が行われなくなりました。そこで友人と一緒に自主的に勉強を始めたのですが、そのときに出会ったのが、1965年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者リチャード・ファインマンの『ファインマン物理学』です。

日本の教科書は法則が先に出てきますが、ファインマンの教科書は現象の説明から始まり、最後に法則が導かれます。実際の物理学の歴史と同じ流れで書かれていて、非常に感銘を受けました。

京都大学の物理は湯川秀樹先生の影響で理論が非常に優勢だったのですが、理論は一生懸命勉強してもそれが覆されることがままあります。それで、実験で事実を積み上げていこうと決心し、宇宙線物理学の道に進みました。気球実験や加速器での実証を積み重ねた末に、CALETの提案に至ったのです。

CALET計画では私が研究代表者を務め、装置の開発から運用、データ解析まで、国際チームのメンバーとともに取り組んできました。

早稲田大学 鳥居先生

吉崎:三原先生はどのようにして宇宙に興味をもたれたのですか。

三原:はっきりした出発点は自分でもわからないのですが、幼稚園の頃にアポロが月に着陸し、月の石を持ち帰ったことは大きかったと思います。日本中が宇宙ブームに沸いていた時代です。1970年に開催された大阪万博で月の石が展示されたときも、親に連れられて5時間も並んで見に行ったらしいのですが、覚えていません(笑)。

小学校に入学したとき、図鑑をいろいろ買ってもらった中で、『宇宙と地球』の巻だけ、ボロボロになるまで読みました。もう一つの柱が工作です。父がメーカー勤務だった影響もあり、プラモデルだけでなく、かまぼこ板を削って船をつくり、モーターとスクリューをつけて近所の川に浮かべて遊んでいました。望遠鏡も買ってもらって天文少年になり、高校・大学と天文部に所属していました。

大学では物理学科に進みましたが、そこで工作と宇宙という自分の関心を同時に満たしてくれる研究室に出会いました。自分でつくった装置を宇宙に上げて、自分のデータで星を見る、まさに理想の研究でした。

好きこそものの上手なれ、ですね。MAXIにしてもCALETにしても、提案から製作、打ち上げ、運用、論文まで10年がかりの仕事です。心の底から好きでなければ続けられません。逆に、本当に好きで思い続けていれば、いつかは実現するのだと、この歳になって実感しています。

理化学研究所 三原先生

「きぼう」船外から宇宙を見つめ続ける2つの装置

吉崎:それでは本日のテーマであるMAXIとCALETについて、それぞれどのような装置なのか、ご紹介いただけますか。

三原:「Monitor of All-sky X-ray Image」の略称で、日本語では「全天X線監視装置」と呼ばれており、人の目で捉えられる可視光ではなく、X線を発する天体の観測を行っています。

MAXIは「きぼう」船外実験プラットフォームの一番前方、最も見晴らしのよいポートに取り付けられています。90分に一度、全天をスキャンしているのですが、MAXI自体が動いているのではなく、ISSが約90分かけて地球を1周する動きを利用しています。2009年8月に観測を開始して以来、16年以上にわたり、刻々と変動するX線の宙(そら)を毎日監視し続けています。

「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されているMAXI(Image by JAXA/NASA)

鳥居:CALETは、「CALorimetric Electron Telescope」の頭文字をとった名称です。正式名称は「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置」というカロリメータ型宇宙電子線望遠鏡で、2015年に「きぼう」に搭載されてから、10年以上にわたって観測を続けています。

CALETは宇宙から飛来する高エネルギー粒子である宇宙線を観測する装置で、電子や陽子、原子核、ガンマ線などを精密に測定することができます。CALETのミッションは、日本が主導する国際共同研究で、宇宙線物理・高エネルギー天体物理の最前線を支える重要なものです。日本のほか、米国、イタリアなどから約80名の研究者が参加しています。

「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されているCALET(Image by JAXA/NASA)

目で見る姿とまったく違う、高エネルギーの宇宙を見る ―X線とは何か?

吉崎:X線と宇宙線、それぞれ違うものを観測しているのですね。そもそもX線とはどういうものなのですか?

三原:MAXIが観測しているX線は電磁波の一種で、可視光と同じ「光」の仲間です。ただし、エネルギーが桁違いに高いことが特徴です。レントゲン撮影でX線が使われているように、X線は体を通り抜けるほどのエネルギーをもっていますが、X線を含め、紫外線やガンマ線は地球の大気を通り抜けることはできません。だからこそ、宇宙に出て観測する必要があるのです。

吉崎:X線で宇宙を見ると、普段の星空とは違って見えるのですか。

三原:全く違います。2つ例をお見せしましょう。 まずはこちらの画像。赤道に天の川銀河が来るように撮影した全天の星空の様子で、上は可視光によるもの、下はMAXIが撮影したX線で見える同じ空の様子です(図1)。

図1 可視光とX線による見え方の違い
上/可視光で見た全天の様子。天の川銀河には約2,000億個の恒星があるとされている
下/MAXIが捉えたX線の全天の様子。中央近くに見える「さそり座X-1」は全天で最も強いX線を発する天体。
左側の「はくちょう座X-1」は日本の宇宙物理学者・小田稔先生が世界で初めてブラックホールだと指摘した天体(Image by RIKEN, JAXA, MAXI team)

吉崎:可視光とX線では、全然景色が違って見えますね。MAXIが捉えたX線の全天画像(図1)の中で、赤くモヤモヤと見えるものは何ですか?

三原:天の川銀河の中に広がる、温度の高いX線ガスです。
実は、このガスがどのくらいの距離にあるものかはわかっていません。100光年など、比較的近いところにあるかもしれないですし、銀河系の中心付近のように遠くにあるのかもしれません。そうだとすると、非常に大きいエネルギーをもっていることになるので大発見です。でも、まだ決着はついていません。

次に、オリオン座を例に見てみましょう(図2)。

図2 可視光とX線で見たオリオン座の周辺(コンピュータによる合成画像)(Image by MAXI team)

三原:左の可視光の画像では、中央におなじみの3つ星や、その左上に赤いベテルギウス、右下には青白いリゲルが見えますね。ところが、同じ場所をX線で見た右の画像では、ベテルギウスやリゲルは見えなくなり、別の天体が輝いて見えます。

中央上に光っているのは「かに星雲」です。1054年に爆発した超新星の残骸で、今も強いX線を放っており、その中心には毎秒およそ30回転する中性子星「かにパルサー」があります。

面白いのはシリウスで、可視光の画像の左下で一番明るく見えているのは太陽のような恒星であるシリウスAです。一方、X線の画像でも左下にオレンジの明るい星があり、シリウスAのように思えますが、実はこれはシリウスAの伴星・シリウスBなのです。

シリウスBは白色矮星で、可視光では8等星ですが、X線ではシリウスAより目立つ存在です。このように、X線と可視光では見える天体がまるで違います。

吉崎:X線を出す天体にはどんな特徴があるのですか。

三原:X線を出す天体は、温度にして約1,000万度。一方、可視光を出す太陽のような恒星は6,000度程度で、放出しているエネルギーに1万倍ほど差があります。このように強い電磁波は、中性子星のごく近傍やブラックホールの周辺、超新星残骸のような天体から出ています。

X線を発する天体を研究する「X線天文学」は、1962年に天体物理学者のリカルド・ジャコーニらが、月からの反射X線を調べようとロケットを打ち上げたところ、図らずも、全天で最も強いX線源である「さそり座X-1」を発見したことから始まりました。

何もないはずの場所から非常に強いX線が来ていたわけですから、彼らはさぞ驚いたことでしょう。この発見を機にX線天文学が発展し、ジャコーニらは2002年にノーベル物理学賞を受賞しています。X線で見ることで、可視光では見えなかった高エネルギーの宇宙があるということが初めて分かったのです。

高エネルギー宇宙の解明を目指す、正体不明の粒子を捉える ―宇宙線とは何か?

JAXA 吉崎(左)と早稲田大学 鳥居先生(右)

吉崎:続いて鳥居先生、宇宙線とはどのようなものなのでしょうか。X線とは違うのですよね。

鳥居:宇宙線は宇宙空間から地球に飛来する高エネルギーの粒子です。X線やガンマ線のような高エネルギーの電磁波は、宇宙線が磁場や光と相互作用してできるので、宇宙線とX線やガンマ線などの電磁波は「親と子」の関係にあるといえます。

吉崎:宇宙線はどこから飛んでくるのですか? 粒子というのは具体的には何でしょうか。

鳥居:その答えは後にして(笑)、まずはCALETの観測の仕組みをご紹介しましょう。

CALETは3つの検出器で構成されています。最上段には電荷を測定する「電荷測定器(CHD)」があり、宇宙線の電荷、つまり原子核の種類を判別します。その下にある「イメージングカロリメータ(IMC)」は、粒子が装置内で増殖する様子を可視化する装置です。そして最下段の「全吸収型カロリメータ(TASC)」が、入ってきた粒子の全エネルギーを測定します。

図3 CALETの概要
CALETは、「電荷測定器(Charge Detector:CHD)」、「イメージングカロリメータ(Imaging Calorimeter:IMC)」、
「全吸収型カロリメータ(Total Absorption Calorimeter:TASC)」という3つの検出器から構成されている(Image by CALET Team)

鳥居:この3つを組み合わせることで、どんな種類の宇宙線が、どの方向から、どのくらいのエネルギーをもって飛んできたのかを知ることができるのです。

さて、先ほどの粒子とは何かという質問の答えですが、粒子は陽子、原子核、電子などのことを指します。CALETでは陽子や原子核、電子、あるいはガンマ線を観測します。

吉崎:宇宙線を調べることで、どんなことが分かるのでしょうか。

鳥居:CALETの科学的な目的は主に3つあります。
1つ目は、粒子の起源と、その加速機構の解明です。宇宙線は、非常に高いエネルギーまで加速されているのですが、そのためには粒子を加速する物理過程、または機構が必要です。それを、エネルギースペクトルなどから探ります。

2つ目は、暗黒物質の探索です。今のところ、宇宙初期にできた「弱い相互作用」をする重たい粒子が暗黒物質の正体なのではないかいう説が有力視されていますが、もしそのような暗黒物質があれば、何らかの痕跡があるはずです。それを宇宙線の観測を通じて調べます。 暗黒物質については、後でまたお話しましょう。

3つ目は、太陽活動とそれに伴う太陽・地球圏の変動の観測です。長期的に観測することで、太陽活動周期に伴う宇宙線の変動を詳細に調べることができます。

図4 CALETで観測されたイベントの例
電子(左上)は全吸収型カロリメータの中で完全に吸収され、赤い部分が途中で終わっていることからそれが分かる。一方、ガンマ線(右上)は電荷をもたないため、電荷測定器ではシグナルが出ず、この点で電子とガンマ線を判別できる。陽子(左下)は電子と同じ絶対値の電荷をもっているため、電荷だけでは見分けられないが、陽子は「強い相互作用」とも呼ばれる核相互作用によって次々に粒子を生成し、これらの粒子が全吸収型カロリメータの中で長く存在するため、赤い部分が続くことによって見分けられる。鉄(右下)は電荷が26と非常に大きいので、電荷測定器で電荷を見ることで判別できる(Image by CALET team)

吉崎:粒子が加速されるというのは、どういうことですか。

鳥居:陽子、ヘリウムや星の元素合成(核融合反応)でできる鉄、ニッケルまでの原子核は、最初はほとんど運動エネルギーをもっていません。これらの粒子が超新星爆発などによって放出され、超新星残骸の衝撃波やX線を放射する天体であるパルサーによって高いエネルギーを得るのです。粒子を加速させる天体は通常の天体ではない高エネルギー状態にあるので、そうした特異な天体の研究にもつながります。

吉崎:宇宙で観測することの利点は何ですか。

鳥居:地上では、宇宙線が大気と衝突して生じた「空気シャワー」と呼ばれる二次的な粒子を観測することになるので、粒子の性質を判別するための情報が失われ、区別が非常に難しくなります。

その点、宇宙で観測すれば、宇宙線を直接捉えることができるので、粒子の種類、来た方向、もっているエネルギーを正確に知ることができます。宇宙線の性質を正確に知り、加速の仕組みを解明するためには、宇宙での観測が欠かせないのです。

(左)JAXA 吉崎、(中央)早稲田大学 鳥居先生、(右)理化学研究所 三原先生

関連リンク

#KiboXtalk vol.04 X線と宇宙線の観測(MAXI/CALET「きぼう」船外科学利用)・前編
#KiboXtalk vol.04 X線と宇宙線の観測(MAXI/CALET「きぼう」船外科学利用)・後編

プロフィール

鳥居祥二(とりい・しょうじ)
早稲田大学理工学術院 名誉教授、招聘研究教授

1972年、京都大学理学部卒業。1977年、京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学、1978年京都大学理学博士。1977年日本学術振興会奨励研究員(東京大学宇宙線研究所)、1979年東京大学宇宙線研究所研究員、1982年米国ユタ州立大学物理学科Research Associate、1983年神奈川大学工学部助手、講師、助教授、教授を経て、2004年より早稲田大学理工学研究所教授。2018年早稲田大学理工学術院先進理工学部物理学科(組織変更による)。2019年から2022年まで神奈川大学工学部特任教授。2019年より現職。専門は宇宙線物理学。

三原建弘(みはら・たてひろ)
理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 宇宙放射線研究室 上級研究員

1995年東京大学博士(理学)取得。1995〜1996年米国ウィスコンシン大学ポストドクトラルフェロー、1992年理化学研究所宇宙放射線研究室研究員補、研究員、先任研究員、専任研究員を経て、2026年より現職。立教大学大学院客員教授、芝浦工業大学大学院客員教授、JAXA客員研究員を兼任。専門はX線検出器とX線天文学。

吉崎 泉(よしざき・いずみ)
JAXA 有人宇宙技術部門 宇宙環境利用推進センター 研究開発マネージャ

1994年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。同年、宇宙開発事業団(現 宇宙航空研究開発機構)入社。2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(博士(工学))。2017年より現職。宇宙環境利用推進センターでは高品質タンパク質結晶生成実験担当を経て、現在は船外利用推進および利用計画・国際調整を担当。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA