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2021.03.24
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様々な分野で応用が進む超小型衛星 さらなる活用のために、今、何が求められているのか?

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国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟には、機器を船外に出し操作するための独自のエアロックやロボットアームがあります。これらを利用してすでに258機の衛星放出が行われており、今後も「きぼう」を用いて数多くの超小型衛星が低軌道に投入されていくと期待されます。教育やビジネスなど多方面で超小型衛星を活用していくには何が求められるのでしょうか。これまで日本の超小型衛星開発を牽引してきた、東京大学の中須賀真一教授、九州工業大学の趙孟佑教授、東北大学の桒原聡文准教授に活発な議論をしていただきました。

大学の宇宙工学教育にパラダイムシフトが起こっている

司会:近年、活発になってきている超小型衛星の開発、打ち上げの意義について、皆さん、どのようにお考えでしょうか?

中須賀:世界ではすごい勢いで超小型衛星の活用が始まっています。人工衛星の開発は従来、宇宙機関や大企業に限られていたのですが、昨今は大学、ベンチャー企業、自治体、これから本格的に宇宙開発に取り組もうとする新興国も乗り出してきています。こうした状況をつくり出した背景には、開発コスト、打ち上げコストが大幅に安くなってきたことが関わっています。以前は数十億から数百億かかっていたのに、超小型衛星だと数千万円でできますし、開発期間も短縮されています。かつては45年も要していたのが、半年から1年、長くても1年半ぐらいでできるようになっています。

:安く、早く開発できるようになったことで、多くの衛星を連動して運用する、いわゆる“コンステレーション”が可能になります。これは大きな衛星ではなかなか難しい。それに安くなったことで教育にも使えるようになってきました。私が学生の頃は、自分が開発したものを宇宙に打ち上げられるなんて考えられませんでしたが、今は軌道上でできる実験を思いついたら、さっさと衛星を開発して打ち上げればいいんですからね。本当に大学の宇宙工学教育にパラダイムシフトが起きていますよ。

桒原:用途の多様化も進んでいまして、私自身、2000年の大学入学以降、一貫して超小型衛星の研究開発に取り組んできましたが、地球観測やデータ中継のほか、人工流れ星衛星のような宇宙エンターテインメントでの利用も進んでいます。

中須賀:趙先生が紹介された、多くの衛星を打ち上げられるという特徴は本当に意義深くて、大きな衛星1機だけだと、特定の場所を観測するのに、衛星が戻ってくるまで20日とか、40日とか待たなくてはなりません。しかし、超小型衛星をたくさん打ち上げることによって、世界中の特定の場所を1日に1回、12時間に1回といったように、リアルタイムに近いペースで観測できるようになります。自然災害が起こった時に被災状況を確認したり、気候変動による変化をとらえたりすることができるので、私たちが直面している社会問題の解決に超小型衛星が貢献できると期待しています。

桒原:「きぼう」の存在も超小型衛星の利活用への参入を後押ししています。従来のロケットから直接衛星を放出するのと違って、「きぼう」にあるエアロックから放出する場合、衝撃を抑えるソフトパックに搭載されて打ち上げられるためマイルドな条件で軌道に投入できます。「きぼう」は新しく参入するプレイヤーを増やすのに貢献してくれていますね。

図1:「きぼう」からの衛星放出 ⓒJAXA/NAXA

小さなプロジェクトで失敗を経験して現場感覚を磨いていく

司会:超小型衛星の利用が活発になってきますと、開発を担う人材の育成が求められます。国内の大学における教育活動や国際協力を通じた人材育成について、皆さん、どのようにお考えですか?

桒原:超小型衛星を題材にした大学での宇宙教育は2000年前後から始まり、その後、勢いを増すとともに、大学で培われた超小型衛星技術を商用レベルにまで押し上げ、優秀な人材を輩出してきました。こうした流れの中で大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)が誕生し、宇宙教育に取り組む国内の大学はUNISECを通じて緊密に連携を取っています。

図2:UNISEC総会・活動報告会2017 ©UNISEC

最近では地球の周回軌道に衛星を投入するだけでなく、月や惑星、さらには深宇宙を探査する小型宇宙機の開発が提唱されるまでになっています。

中須賀UNISECは素晴らしい取り組みで、UNISECがあったからこそ、日本で50以上の大学衛星を打ち上げられたのだと評価しています。ある大学が画期的な衛星を打ち上げたら、「あの大学が成功したのに、俺たちはこれでいいのか」と切磋琢磨(せっさたくま)し合う関係ができていて、飛躍的に超小型衛星技術が進歩しました。そこで同様の組織を世界的につくってはどうか…という話になってUNISECグローバルができました。いろんな国に参加を呼び掛けたところ、すでに54カ国が参加して、19カ国では独自にUNISECのような組織ができていて、超小型衛星を用いた宇宙教育は世界へと広がっていっています。

:人材育成という点で九工大の取り組みを紹介させていただきますと、大学院の修士課程2年間で超小型衛星の開発から打ち上げまでを行っていまして、毎年、数機の衛星を打ち上げています。

図3:BIRDS-4衛星 ⓒ九州工業大学

最初の3カ月でミッションを策定し、1年と23カ月で衛星本体を開発し、打ち上げまで行って修士課程を修了するのですが、こうした活動ができるのはISSに物資を輸送する定期便があるからで、いつ打ち上げられるかわからないのではスケジュールの見通しが立ちませんからね。それに修士課程2年間で打ち上げまで行うので、修士1年目は1年先輩の取り組みを見て、2年目は1年後輩を指導するため、知識の伝承だけでなく、人材交流もできるので良い教育環境となっています。

中須賀:宇宙開発は挑戦的なことをやらないといけないので失敗はつきものです。ただ、失敗はプロジェクトが小さいうちにやっておかないといけないし、小さいうちなら失敗しても許されます。小さなプロジェクトで失敗を経験して、なぜ失敗したんだろう、どうすれば失敗を回避できるのか、と真剣に考えることで大きく成長するんです。ですから、学生時分に小さなプロジェクトで失敗を経験させることは、宇宙開発の現場感覚を磨くという意味でとても重要ですよ。

JAXAと大学の双方にメリットのあるコラボ関係を築きたい

司会:超小型衛星の開発が活発になっている中で、今後、JAXAに何を期待されていますか? 「きぼう」の活用についてもご意見をお聞かせください。

桒原:先ほど、「きぼう」からの衛星放出で多くの新規のプレイヤーが参入しやすくなっていると申しましたが、国内の研究教育機関からは、まだハードルが高いという声が聞こえてきます。衛星の開発から打ち上げまでやってこその人材育成だと思いますので、特に打ち上げ実績のない、これから新規参入しようとする研究教育機関に対しては、引き続き廉価な打ち上げ機会を提供し続けていただければありがたいと思います。

中須賀:桒原先生が話されたように、今後も多くの大学に打ち上げの機会を提供されることを期待していますが、もう一つ、人材交流もお願いしたい。NASAに興味深いプログラムがありまして、大学に衛星開発の提案を打診しているんです。その大学が提案してきたら、開発資金の提供にとどまらず、NASAの職員を派遣するんです。週の半分ぐらいは大学に行って、学生たちと一緒に衛星開発に取り組み、NASAの試験設備を使う調整役まで買って出てくれます。大学にとっては、研究開発費を提供してくれるだけでなく、NASAの施設を効率的に使えるようにしてくれるので、とてもありがたいわけですが、NASAにとっても大学で行われている衛星開発を間近に見て学ぶことができます。両者にとって良いコラボ関係になっていますから、日本でもJAXAと大学の双方にメリットのあるコラボレーション関係を築いていけたらいいなと考えています。

:中須賀先生が紹介されたアメリカの取り組みに似たことが、過去に九工大で行われています。九工大で最初に衛星を開発した時のことです。「鳳龍弐号(ほうりゅうにごう)」という衛星をH-Aロケットの相乗りで打ち上げられることになったのですが、その前に大学衛星が失敗していたので、JAXAの新事業促進部が心配して、職員を派遣してくれました。週の半分ぐらいは来られていたんですが、時々、「鳳龍弐号」の開発を進めていた学生プロジェクトマネージャーが呼ばれて、3時間ほどみっちりと指導を受けて大変勉強になったようです。この時は大学側だけが得をしていて、JAXA側にリターンがないのはいけないと思いますが、中須賀先生が提案されたような、超小型衛星の開発でJAXAも、大学も得をする枠組みができるといいですね。

桒原:私たちに超小型衛星の打ち上げの機会を提供してくれているJAXAも主体的に超小型衛星を開発、運用してはいかがでしょうか。超小型衛星の技術レベルは、今やビジネスに応用できるまで高まっていて、深宇宙の観測を行う宇宙機の開発も提案されるようになっています。JAXAが主体的に開発に乗り出してくだされば、大学で衛星開発に取り組む者にとっても大きな刺激になると期待しています。

対談の様子【写真左から 土井 忍 技術領域主幹(JAXA)、中須賀 真一教授(東京大)、趙 孟佑 教授(九州工業大)、桒原 聡文 准教授(東北大)】

超小型衛星は宇宙業界に多様性をもたらす非常に良いツール

司会:最後に超小型衛星の開発、そして、「きぼう」利用を検討している潜在ユーザーの皆さんに、それぞれメッセージをお願いします。

桒原:今や誰もが宇宙を利用できる時代になっています。その点で、「きぼう」からの超小型衛星の放出は宇宙利用を始める第一歩を提供してくれる貴重な機会になると考えています。今後、有人月探査をはじめ、宇宙開発はますます活発化していくといわれていますが、超小型衛星は宇宙開発に欠かせないツールになっていくことでしょう。超小型衛星を通じて、これからの宇宙開発を担いたいと考えている方がいらっしゃるなら、研究教育機関にいる者として最大限、ご支援させていただきたいと考えています。

:超小型衛星は宇宙業界に多様性をもたらす非常に良いツールだと思っています。超小型衛星に関しては、すでにベースができていますから、一から開発する必要はありません。ミッション機器だけをつくって衛星のベースに乗せれば、1年ほどで打ち上げることができるようになっています。何か宇宙で試したいアイデアを思いついた方は、ぜひJAXAや大学に相談されて、「きぼう」をプラットフォームとして宇宙に参入されてはいかがかと思います。

中須賀:「きぼう」の衛星放出はとても重要な機能で、今後とも多くのユーザーに使ってもらいたいと思っていますが、ISSの利用価値はそれだけではありません。例えば、船外実験プラットフォームにカメラを設置しておけば、常に地球を撮影できるんですよね。問われているのは、その画像をどのように使用していくかです。教育に使えるかもしれないし、テレビ局は「今日の地球は…」という感じで報道に使ってもいいでしょう。アイデア次第で、まだまだISSの利用の幅は広がっていくので、何か思いついたら、JAXAでもいいし、宇宙開発に関わっている大学でもいいので、お声掛けいただいて、一緒に実現していきましょう。

司会:今日はありがとうございました。

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プロフィール

中須賀 真一(なかすか・しんいち)
東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授

1961年生まれ。1983年、東京大学工学部航空学科卒業。1988年、同大学大学院博士課程修了。その後、コンピュータメーカーに就職し、人工知能や自動化工場に関する研究に従事。1990年に東京大学に戻り、航空学科講師、同大学先端科学技術研究センター助教授、アメリカでの客員教授を経て2014年より現職。

趙 孟佑(ちょう・めんう)
九州工業大学大学院工学研究院宇宙システム工学研究系 教授

1962年生まれ。1985年、東京大学工学部航空学科卒業。1992年、アメリカ・マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。神戸大学助手、フランス・国際宇宙大学助手、九州工業大学助教授などを経て、2004年より現職。

桒原 聡文(くわはら・としのり)
東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 准教授

2005年、九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻修士課程修了。2009年、ドイツ・シュトゥットガルト大学大学院博士課程修了。同大学研究員、東北大学大学院工学研究科特任助教を経て、2015年より現職。2017年より株式会社中島田鉄工所、および株式会社ALE技術顧問を、2020年よりUNISEC理事長を兼務。