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2018.12.22
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自由な発想で船外実験プラットフォームの新しい利用形態を考えてください!

有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 技術領域主幹
松本 邦裕
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「きぼう」日本実験棟は、主に「船内実験室」、「船外実験プラットフォーム」という2つの実験スペースから成り立っている。松本主幹は、13年間にわたり「きぼう」船内実験室で行われるタンパク質の結晶生成実験に関わった後、2017年から「きぼう」船外実験プラットフォームの担当となった。すでに小型衛星の放出で定評を得つつある「きぼう」船外実験プラットフォームの、さらなる可能性について語ってもらった。

利用者に寄り添う小回りの利くサポートを

松本:2003年に、宇宙環境利用センター(現在のきぼう利用センターの前身)に開発部員として配属されました。最初の年は「いろいろな仕事を見なさい」という上司の指導から、会議の準備やパンフレットの作製など、事務方の仕事を一通り経験しました。2年目からは「きぼう」に搭載するタンパク質結晶生成装置(Protein Crystallization Research Facility: PCRF) の開発に携わり、それ以後、一貫してタンパク質の結晶生成実験 に関わってきました。

この実験については、2013年頃から外部の民間企業の利用を促進していくことになりました。私の仕事も少し変わり、時には営業部隊の一員として、製薬会社や、製薬会社が加盟している業界団体を訪ね「きぼう」の設備内容を紹介させていただきました。ただ、民間企業の方々にとって宇宙での実験は思いのほか敷居が高かったようで、なかなか利用は進みませんでした。そこで、その敷居を下げるための制度改革に取り組みました。

松本:2013年頃から民間企業の利用を促進...とお話しましたが、それ以前にもJAXAには「有償事業者制度」があり、民間企業が「きぼう」を利用することはできました。ただし、この制度での利用は、広告に「きぼう」内で撮影した映像を使用するといったものでした。このような使われ方だけではもったいないので、研究利用を促進するために地上でのサポートを充実させることになりました。

ご存じのように、「きぼう」の微小重力環境なら地上のような対流が起こらず、きれいなタンパク質の結晶を作ることができます。そのためには不純物を含まない試料が必要で、利用者が純度の高い試料を用意できれば問題ありません。しかし、利用者から提供される試料には不純物が含まれることもあり、そのままではきれいな結晶を得ることは困難でした。

そこで私たちは外部の企業に委託して、不純物を取り除くなどのサポートをしてもらっていました。とはいえ、利用者にとってはもっと身近な、より小回りの利く対応が望ましいはずです。そこでJAXAが専門スタッフを雇い入れ、装置の整備を始めとする、利用者に寄り添うきめ細かな支援ができるようにしていきました。

宇宙での実験に先立って、地上での予備実験を請け負うこともしています。無償のトライアル・ユース制度も設けました。この制度を利用すれば、有償の本格的な実験を行う前に、お試し版のタンパク質結晶成長実験に参加して「きぼう」利用の有効性を見極めることができます。

これらの制度が浸透し、利用者が増加していくのを自分の目で確かめたかったのですが、私自身は、2017年4月から船外実験プラットフォームを担当することになりました。そして、現在はこちらの利用促進に取り組んでいます。

小型衛星の放出で定評の船外実験プラットフォーム

Q:船外実験プラットフォームは、宇宙空間に曝(さら)されているところですね。どのような研究や利用ができるのでしょうか。

松本:船外実験プラットフォームが提供できるサービスは大きく分けて2つあります。1つ目は、小型衛星を打ち上げるための「小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer: J-SSOD)」です。

かつては大型衛星を打ち上げる際に、ロケットの空いた場所に相乗りさせてもらって小型衛星を打ち上げるのが一般的でした。しかし、この方法だと小型衛星を打ち上げたい事業者が、打上げ日を決めることはできません。大型衛星の開発が遅れると、小型衛星の打上げも遅くなってしまいます。

「きぼう」船内実験室の外部に設置されている「きぼう」船外実験プラットフォーム
その点「きぼう」からの放出であれば、年に8回ほどある国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送時に運び上げられますから、打上げのタイミングをより自由に選べるようになります。

従来の相乗りの場合、ロケットに搭載後は人の手に触れずに宇宙空間に放出されます。ですから、打上げ時の衝撃を抑える緩衝材で包むことはできません。これに対して、「きぼう」からの放出であれば、ISSに届いた後、宇宙飛行士によって準備が行われ、宇宙に放たれますから、緩衝材で包んでおくことも可能です。打上げ時の衝撃で小型衛星が故障するリスクも減るでしょう。

Q:それだけ利点があれば、小型衛星の打上げは、「きぼう」からの放出がスタンダードになりそうですね。

松本:すでにスタンダードになりつつあると言えます。実際「きぼう」からの小型衛星の放出を、アメリカで請け負っている民間企業のものと合わせると、2012年以降198機もの小型衛星が放出され(2017年10月時点)、今後も増えていくとみられます。近い将来、外部の民間企業に受付の窓口になってもらい、JAXAは運用だけを行うことも検討しています。

というのは、研究機関のJAXAが窓口になっていると「科学的な目的でないと受け付けてもらえないのではないか」と思われる心配があるからです。小型人工衛星については、民間のさまざまな分野の人たちに、私たちでは考えつかないような新しい利用形態を創出してほしいと考えています。民間企業が窓口会社になれば、JAXAが窓口になるよりもぐんと敷居が下がって、ユニークな利用も進むのではないかと期待しています。

小型衛星放出機構の実物模型を示しながら、バネで衛星を打ち出すシンプルなしくみを解説する松本主幹

松本:小型衛星の利用を希望する事業者は多くいらっしゃいますが、必ずしも衛星開発のノウハウをおもちというわけではありません。「きぼう」からの放出では、小型衛星を放出ケースに入れて宇宙に放つのですが、打上げ前に確かめてみると半分ぐらいの衛星がケースに入らないのです。筐体(きょうたい)は決められたサイズに収まっていても、ボルトが少し飛び出していてケースに入らないといったトラブルが多く、必ず事前にチェックするようにしています。

開発の後半になってからでは対策が難しくなりますが、早い段階で問題が発覚すれば、設計を見直すなどの修正ができますからね。私は設計図を確認するだけではなく、打上げを希望する方と会ってお話しすることにより、早い段階で問題の芽を摘み取るよう心がけています。

事前に利用料金を提示して宇宙実験をより身近に

Q:船外実験プラットフォームが提供する、もう1つのサービスは何でしょうか。

松本:宇宙空間の曝露(ばくろ)実験です。ISSが周回している約400km上空は、宇宙線が飛び交っているため、とても過酷な環境です。宇宙機に用いる資材はその環境に耐えることが求められますが、地上でできる模擬的な実験では信頼性は高まりません。そこで、「きぼう」船外実験プラットフォームに設置してもらって、一定期間、宇宙空間に曝す実験を行えるようにしています。

宇宙実験をより身近なものにする取り組みについて語る松本主幹

2つのタイプの曝露実験を行うことができます。1つ目は専用のアダプターに試料を乗せて宇宙空間に曝す「簡易曝露実験装置(Experiment Handrail Attachment Mechanism: ExHAM」です。端的に言うと、船外に試料を置いてくるだけなのですが、長期間、取り付けておくことで宇宙空間に対する耐性を調べることができます。ただし、この曝露実験ではセンサーやカメラなど電子機器の性能を調べることはできません。

そこで2つ目の曝露実験用に、「中型曝露実験アダプター(IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform: i-SEEP)」を用意しています。ここには複数の実験装置を搭載することができ、船外実験や宇宙用機器の実証実験ができます。i-SEEPでは電源や通信も利用できるので、例えば、センサーを搭載して一定期間稼働させることで技術実証を簡単に行うことができます。

松本:船外実験プラットフォームに限った話ではないのですが、「きぼう」の実験設備の利用料金の検討を進めてきました。そして、現在では利用料金を提示できるようになっています。

松本:そう思ってくださる方が増えることを願っています。過去の反省を踏まえて言うと、公的研究機関では受託研究を行っていても、まず利用料金が示されることはありませんでした。ご多分に漏れず、JAXAでも「きぼう」の利用促進に取り組みながらも、その料金を示すことはありませんでした。そのため「きぼうの利用」を「地方の路線バス」に例える人もいました。

松本:都市圏を走る路線バスは運賃が一律で、同じ路線であれば、どれだけ乗っても同じ料金で安心して乗車できますよね。ところが、地方の路線バスは乗った分だけ運賃が上がっていく方式ですから、車内に運賃表が設置されているとはいえ、目的地に着いてみるまで運賃はわかりません。目的地に着いて「こんなに高かったの?」と驚いた経験をもつ人も少なくないでしょう。これと同じようなしくみでは、「きぼう」を利用したくても腰が引けてしまいますね。

そんなことも考えて、「きぼう」の実験設備を利用していただけそうな研究者や企業にヒアリングするとともに、JAXAの持ち出しにならない価格を算出して利用料金を提示するようにしたというわけです。

松本:私が取り組んできた制度改革だけでなく、JAXAでは「きぼう」の利便性を高めるため、今後もできる限り制度改革に取り組んでいきます。何か「きぼう」の利用法をお考えであれば、ぜひとも私たちにご提案ください。

プロフィール

松本 邦裕(まつもと くにひろ)
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 技術領域主幹

慶応義塾大学大学院生体医工学専攻(修士課程)修了。1999年、宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)入社。有人宇宙ミッション本部宇宙環境利用センター(現有人宇宙技術部門きぼう利用センター)で技術領域主幹として高品質タンパク質結晶生成実験を担当。2017年から現職。船外プラットフォーム利用を担当している。趣味はソフトテニス。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA