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2021.03.22
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世界で初めて宇宙と地上の光通信に成功 次世代の宇宙インフラに貢献!

ソニーコンピュータサイエンス研究所
岩本匡平
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従来、宇宙での情報通信には電波が使われてきましたが、電波で大量の情報を伝送することは難しく、今後、光通信が電波にとって代わるのではないかと考えられています。そこで株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所の岩本匡平さんらの研究グループは、JAXAとの共同研究で小型光通信実験装置(SOLISS)を開発。「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置して、レーザー光を用いた地上との通信を世界で初めて成功させました。これにより宇宙インフラに貢献したとして、20203月には第4回宇宙開発利用大賞の最高賞である内閣総理大臣賞も受賞しています。しかし、ほんの数年前まで岩本さんにとって宇宙は縁遠い存在だったそうです。どのような経緯でJAXAとの共同研究に取り組み、世界初の実験に成功したのでしょうか。その経緯と「きぼう」の可能性について岩本さんにうかがいました。

こんな街なかで衛星が……。宇宙開発との衝撃的な出会い

Q:小型光通信実験装置(SOLISS)を用いた世界初の実験に成功されたわけですが、どのような経緯で、宇宙で用いる技術の研究開発に取り組まれることになったのでしょうか。

岩本:私たちは常々、社会にインパクトを与える画期的な研究開発を志しています。しかし、宇宙開発を主体的に担っているのは、日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)、アメリカならアメリカ航空宇宙局(NASA)といった政府系の機関というイメージがあり、宇宙というのはどちらかといえば遠い存在でした。しかし、新領域の研究開発を模索してアメリカのサンフランシスコに滞在していた時に、とてもインパクトのある出会いがあったのです。

Q:どのような出会いだったのですか。

岩本2012年か2013年頃だったでしょうか、サンフランシスコの街なかにある私たちのオフィスの近くに、何の変哲もないレンガ造りの建屋がありました。そこの1階で何かつくっているな、と思っていたら、なんと人工衛星をつくっていたのです。「プラネット」というベンチャー企業でした。自分たちにとって知らない世界、遠い世界だと思っていた宇宙が、こんなに生活に密接した街なかにある。そこまで宇宙が身近なものになっていたのかと、本当に大きな衝撃を受けました。これからの時代、民間企業が宇宙開発に取り組み、世の中を変えていくのだということを肌で感じ、自分たちの技術も宇宙で活かせるのではないかと考えるようになりました。

Q:そうした中で、情報通信技術の開発に乗り出されたのですね。

岩本:はい。2015年に宇宙で利用できそうな技術を持つ企業とJAXAが共同研究を行う「宇宙探査イノベーションハブ」 が始められることになり、共同研究を行う企業を公募するという話をうかがいました。私たちにはCDなどの光ディスクから情報を読み取るレーザー技術がありましたから、これを宇宙での情報通信に利用できないかと提案したのです。光ディスクでは1ミリメートル以下のレベルでの技術ですが、これを宇宙空間のスケールに広げるという発想ですね。宇宙での通信には電波が用いられてきましたが、電波に比べて光には大量の情報を高速で送信する可能性があるため採択していただき、JAXAの皆さんと宇宙で用いる光通信技術の研究開発に取り組むことになりました。

初めての宇宙に関する研究開発は戸惑いの連続だった

Q:宇宙で用いる技術の研究開発に取り組まれた当初には、地上の技術との違いも感じられたのではないでしょうか。

岩本:ええ。光ディスクやレーザー通信の技術は持っているものの、実際に宇宙で機能するかどうかは全く分かりませんでした。それに、地上では必要なくても宇宙では想定しなくてはいけないことがいろいろ出てきます。例えば、電子機器はどうしても熱が発生しますよね。地上で用いる機器なら、通常、ファンを取り付けて対流によって熱を処理します。しかし、空気がほとんどない宇宙では対流を起こせません。じゃあどうすればいいのか、とか、ロケットで打ち上げて運ぶ際の振動についてはどう対処するのか、宇宙線からいかに防護するのか、といったことを考える必要がありました。私たちは宇宙開発の経験はありませんでしたから、宇宙のプロであるJAXAとの共同研究では多くの、的確で有益なアドバイスをいただきました。

Q:宇宙探査イノベーションハブでは、異分野の研究者による共同研究ですね。その点で何か難しいことはありましたか。

岩本:そうですね。宇宙探査イノベーションハブの研究開発は、大きく2つのフェーズに分けられていて、1つ目のフェーズでは地上でレーザー光を用いた長距離通信の要素技術の開発を行い、2つ目のフェーズでは宇宙に持っていく実験装置の開発まで行いました。この2つ目のフェーズではフライトモデルを作製し、その後の「きぼう」での実験に使うため、ISSに運んでちゃんと機能するかを確かめる試験を行います。その時の出来事が印象深いです。JAXAの方からは、「実際に打ち上げるものを使って試験しましょう」と提案されました。

図:SOLISSのフライトモデル©JAXA/Sony CSL

Q:地上で実験に使った装置そのものを打ち上げるということですね。

岩本:はい。私たちの製品開発では通常、試験でうまくいった装置と同じ素材を使って、同じ設計で同様に作製したものであれば問題ないと考えます。ですから、なぜ実際に打ち上げるもので試験するのかと驚きました。ただ、同じ設計、同じ技術で作製していても、どうしても誤差は生じるものです。例えばネジを締めた時にできるわずかな隙間のでき方の違いが地上では問題になることはありません。しかし、真空の宇宙空間だとそれが大きな誤差となり得、このために例えば設計通りの熱処理ができなくなって「きぼう」での実験がうまくいかない恐れもあるといった説明を聞いて、とても合理的な手法だと納得できました。このように私たちがなじんでいた合理性とは違った合理性があることがわかり、とても視野が広がりました。

宇宙と縁がないと思われていた会社の成功は大きなインパクトを与えた

Q:そうして開発された光通信装置が、その後、「きぼう」に運ばれ、地上と光通信を行うSOLISS(Small Optical Link for International Space Station)に使われたのですね。当初からISSと地上の双方向の光通信を目指していたのですか。

岩本:当初、衛星間での通信も検討しました。しかし、そのためには光通信の実験装置とは別に小型人工衛星を開発しなければなりません。また、小型衛星ですと主衛星の打ち上げスケジュールに左右され、制約が大きくなります。「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置した実験装置と地上との双方向通信であれば、衛星開発は必要ありませんし、打ち上げの回数も多いので、フレキシブルに計画を立てられます。それに、衛星間通信を行った場合、最終的に衛星は大気圏に突入させるため、実験装置は燃え尽きてしまいますが、「きぼう」を利用した場合には装置を回収でき、宇宙線に曝露したことで、どのようなダメージを受けたのかを詳しく調べられます。そうした様々な利点があることから、「きぼう」と地上との光通信を試みることにしました。宇宙探査イノベーションハブで開発したSOLISSは、20199月に「こうのとり」8号機でISSに運ばれました。

Q:「きぼう」での光通信の実験はどのように実施されたのでしょうか。

岩本SOLISSは船内で中型曝露実験アダプタ(i-SEEP)に取り付けられた後、「きぼう」のロボットアームで船外実験プラットフォームに設置されました。私たちは地上に光通信施設を持っていないため、口径1.5メートルの望遠鏡を備えた情報通信研究機構(NICT)の光地上局との間で光通信を行いました。宇宙と地上の光通信が成功したのは20203月のことです。SOLISSに搭載されている360°カメラが撮影したハイビジョン画像を波長1.5マイクロメートルのレーザー光で送り、100メガビット毎秒(Mbps)のイーサネットを用いて光地上局で受信することに成功しました。こうした宇宙と地上の間で光通信を行ったのは世界で初めての成果です。

図:「SOLISS」から光通信で伝送されたHD画像©JAXA/Sony CSL
図:宇宙と地上間の双方向光通信イメージ©Sony CSL

Q:成功した時にはどのように感じられましたか。

岩本:打ち上げの時には、「ああ、これでとうとう修理できなくなってしまったな」と思いました(笑)。SOLISSが故障しないか不安しかなく、祈るような気持ちでいましたから、成功した時には信じられず、あまり実感がありませんでした。

Q:世界に与えたインパクトも大きかったのではないですか。

岩本:そうですね。私たちのグループは宇宙に関連する研究開発をそれまで行っていませんでしたから、かなり驚かれたようです。しかし、力のある企業はいくらでもありますから、油断しているとすぐ追いつかれてしまいます。今後も研究を継続して先頭を行くつもりです。

世界と競争するためのプラットフォームとして「きぼう」は欠かせない

Q:宇宙探査イノベーションハブでの研究開発が始まったのが2016年6月。そこから4年弱で通信実験を成功させたのですから、かなりタイトなスケジュールでの研究開発だったのではないですか。

岩本:ええ。宇宙に光通信技術を応用しようというアイデアは多くの研究機関や企業も持っていたはずです。世界的な開発競争が激化する中で、後追いになってしまっては意味がありません。そこで、私たちの方からJAXAの皆さんにいろいろと無理をお願いしました。昼夜を問わず走り回っているような感覚で、JAXAの方々と夜通し議論したこともあります。非常にチャレンジングな状況の中、一体感を抱きながら開発を進めることができ、幸い、世界で初めての実験に成功することができました。

Q:SOLISSで成功させた光通信を、今後、本格的に実用化させていくために何が課題になりますか。

岩本:伝送される情報量は日に日に増えています。今回、100Mbpsで情報を送れたといっても、決して十分な情報量とはいえず、ビットレートを高めていかなければなりません。また、宇宙探査イノベーションハブで検討した複数の小型衛星間の光通信も実現したいと考えています。

Q:今後もJAXAとの共同研究は続きそうですね。その点で岩本さんからみて「きぼう」の存在はどのように評価されていますか。

岩本:「きぼう」は常に軌道上にあって定期的に物資の輸送が行われていますから、世界と競争するためのプラットフォームとして大変魅力的で、欠くことのできない存在だと感じています。それに、私たちのような宇宙開発に携わったことのない者でも「きぼう」での実験ができるようにサポートしてくれるJAXAの支援体制は、民間企業が宇宙開発に乗り出す時代にあっては本当に貴重な存在だと思います。

「きぼう」は単なる実験の場ではない

Q:最後に実際に「きぼう」を利用された岩本さんから、今後の「きぼう」の潜在ユーザーにメッセージをお願いします。

岩本:宇宙は今後、利用するフィールドになっていくことはもはや事実です。開発競争はますます激化していくと考えられ、より早く研究成果を得ていくことは非常に重要です。そのような時代にあって、「きぼう」があるということは、日本としてとてもハッピーなことだと思います。宇宙実験の場があるだけでなく、素晴らしい研究者、スタッフがいる。この協力体制が続く限り、産業技術開発で世界より一歩、先に行けると思います。宇宙の利用には不安も多いと思いますが、多くの人が利用して技術が進歩していくことが重要です。

私たちは当初、このような形で「きぼう」を利用できることを認識しておらず、宇宙に関する技術を開発するといっても、それをどのように宇宙に持っていけばよいのか、分からない状態でした。しかし実際に利用すると新たなアイデアも出てきて、さらに実験したいと考えるようになります。より多くの人に「きぼう」の存在を知ってもらい、「きぼう」を活用してもらいたいと希望しています。

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プロフィール

岩本匡平(いわもと・きょうへい)
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所

ソニーコンピュータサイエンス研究所における衛星光通信の研究リーダー。専門は応用光学。2016年よりJAXA主幹研究開発員を兼任。パロアルト研究所客員研究員、ソニー(株)Distinguished Researcherを歴任。