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2024.01.04
  • 基礎訓練

基礎訓練レポート(2023年12月)

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米田、諏訪両宇宙飛行士候補者は、米国での航空機操縦訓練(11月レポート参照)から帰国後、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台(NAOJ)及びJAXA宇宙科学研究所(ISAS)において、天文学、宇宙探査にかかる訓練を行いました。

この訓練は、天文学や宇宙探査の最前線にたずさわる国内の研究者などから直接講義を受講し、宇宙飛行士として必要な素養を身につけることを目的としています。

国立天文台では、人類がどのように宇宙を捉え、それがどのように変化していったのか、また生活にも密接に関係のある暦の誕生、惑星の位置付けの変遷などの講義が行われました。現在の標準的な宇宙像(ビッグバン宇宙論)について、観測から得られたデータに基づき、銀河等の大規模構造の形成や、それらの誕生、進化、星の一生や星の誕生に伴って形成される惑星(特に太陽系以外の系外惑星)などについて、最新の研究が紹介されました。これらの天文学を支える観測技術や、地上からだけでは得られない宇宙からの観測技術等もあわせて紹介されました。また、4D2Uドームシアターにて、地上から見る星空だけでなく、宇宙の広がりを体感しました。

宇宙科学研究所では、宇宙科学における主要な観点/発見、研究の現状、宇宙科学研究所等における宇宙科学研究の概要、及び将来探査に向けた研究の動向や、太陽を含む太陽系天体、および太陽系空間に関する研究概要について講義が行われました。また、宇宙空間からの宇宙物理学観測、次世代の観測装置・観測技術に関する研究の概要とともに、宇宙・銀河・星・観測技術など天文学についての基礎的理解と宇宙空間を活用した宇宙物理学研究について、日本および世界の宇宙物理学ミッションのこれまでの成果と今後期待される成果が紹介されました。

国立天文台 渡部 潤一 特任上席教授の講義を受ける両宇宙飛行士候補者
国立天文台の4D2Uドームシアターで宇宙の広がりを体感する両宇宙飛行士候補者
JAXA相模原キャンパス「宇宙探査フィールド」で探査ロボットを操作する米田宇宙飛行士候補者
JAXA相模原キャンパスで保管サンプルを観察する諏訪宇宙飛行士候補者
宇宙科学研究所 國中 均 所長と両宇宙飛行士候補者

諏訪宇宙飛行士候補者の感想

我々はどこから来て、どこに向かっているのか、そして我々は何者なのか―これは人間という存在にとっての根源的な問いかもしれません。天文学や宇宙科学、惑星地球科学はこういった問いに対して答えのヒントを与えてくれる学問分野だと思いますが、今回の訓練ではこれらの分野に焦点を当てた内容の濃い訓練でした。発展の速い分野であり、大学時代に学んだ教養や専門の講義で得た知識(だいぶ記憶もあやしいのですが)と比較することで、各分野がどれほど進化してきたかに驚かされました。私が大学生だった頃は随分前のことですので、それも当然のことなのかもしれませんね!これまで一見関連性が薄かったように思える独立した分野が、それぞれに発展したことで接点が生まれ、協力の機会が増えているということには強い印象を受けました。たとえば系外惑星の発見によって天文学と惑星地球科学につながりが出てきているという話などは地球科学を学んだ私にとってはとてもワクワクする話でした。

有人宇宙開発は、月や探査の時代がこれから本格化していくという入口に立っています。そういった観点からは月の科学に関する話も非常に参考になりました。日本において、月面での優先度の高い3つの科学分野は月面天文台、月面サンプルリターン、そして月の内部を理解するための地震計ネットワークの設置と運用だそうですが、これらは日本がこれまで築いてきた科学や技術の積み重ねの上に成り立っていると感じました。科学や技術における日本の比較優位を考えつつ、国際協力の枠組みでどう日本らしさを発揮して、時には世界をひっぱり、そして貢献していけるのか。また無人探査と有人宇宙開発が相補的に発展し、科学の進展や人間の生存圏の拡大にどうかかわっていくか、など、様々なことを議論し、将来に思いを馳せる大変貴重な訓練となりました。

米田宇宙飛行士候補者の感想

天文学の授業で、地動説から天動説へ、天の川銀河の発見、他の銀河系の発見と、観測技術が上がり宇宙についてより知れば知るほど、自分や地球の立ち位置や地球のことがさらに分ってきたのだというエピソードが印象的でした。当たり前と考えられていることが、一つの発見により大きく変わりうるのです。現在、X線分光撮像衛星XRISMの打ち上げにより、新たな日本の観測技術のもと、初期宇宙の成り立ちなど未知の事柄について大きな発見が生まれるであろうまさにその瞬間に、我々はいるのだという事実にとても興奮しました。

また、探査の面では無人探査と有人宇宙開発が、それぞれの技術的・学術的な発展によって近づいており、それぞれの強みを相互に補完し合うことで、更なる展開に繋がるということは新しい気づきでした。そのような議論の中で、月面では日本独自の月面科学のアプローチ(月面サンプルリターン・月面天文台・月震ネットワーク)がこれまでの技術や知識の蓄積をもとに進められています。そしてSLIM着陸により、月面に到達するだけでなく、ピンポイント着陸によって分光カメラでの科学意義の高い観測、月面ネットワーク確立での写真データ送信など、月面での活動が行われました。月面で何を行うのかを考え、活動を進める新しい章が始まったように感じます。我々も宇宙飛行士になった際に、有人探査の意義を最大限に高めるにはどうしたらよいのかしっかりと考えていきたいです。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA