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2023.12.01
  • 基礎訓練

基礎訓練レポート(2023年11月)

  • 諏訪 理
  • 米田 あゆ
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今月は航空機操縦訓練を中心にご紹介します。
米田、諏訪両宇宙飛行士候補者は、11月中旬からの約1か月間、米国テキサス州ヒューストンにて小型軽飛行機を用いた航空機操縦訓練を行いました。
この訓練は、宇宙飛行士に必要なマルチタスク能力(通信、計器チェック、操舵などの複数のタスクを同時に行う技量)、英語による無線でのコミュニケーション能力、ストレス環境下での状況認識力や判断力などを向上させることが目的です。

航空機の計器を使った操縦訓練により、将来、宇宙機に搭乗するための必要な技能を身に着け、環境の変化が生じても冷静に状況を判断し、安全・確実にミッションを遂行するなど、宇宙飛行士に必要な基礎的な資質を修得します。

また、米国滞在中には、NASAジョンソン宇宙センターにおいて語学訓練(英語、ロシア語)、体力訓練を行っています。
有人宇宙活動の中心であるヒューストンでは、NASAや各国の宇宙飛行士との交流ができ、国際宇宙ステーション(ISS)運用や宇宙飛行士の訓練現場を訪れることもできます。
航空機操縦訓練を行う米田宇宙飛行士候補者
航空機操縦訓練を行う諏訪宇宙飛行士候補者

米田宇宙飛行士候補者の感想

飛行機を初めて自分で操縦した感覚は、これまで地上で過ごしてきた感覚と大きく異なり、印象深いものでした。地上では前後左右という二次元で動くことが当たり前ですが、上空に行くと縦方向の新しい軸も加わります。動くことのできる空間が自分の目の前に三次元的に大きく広がる様子は非常に新鮮でした。これまでの環境に、別の角度から新たな軸を加えることは、物理的な空間の話だけでなく、様々な分野においても活動の領域を大きく飛躍的に広げる上で大切なことだと感じました。

一方で、自分が三次元に動く飛行機を操縦しなければならないとなると、考えるべき事柄も増えてきます。また操縦だけでなく、天候の変化への対応、自分の位置の把握、管制官との交信、複数の機器操作など、パイロットはすべてを担当します。時には瞬時の判断が求められることもあります。飛行機は上空で止まることができないため、何か問題が発生しても、機体の姿勢と高度を維持しながら飛び続けなければなりません。どのような状況でも、様々なタスクをこなしながらその瞬間の最優先の行動は何かを常に意識し続けることは、非常に良い訓練となりました。自分が飛行機の操縦桿を握ることは、同乗者や自分の命が乗った飛行機を飛ばす責任者になることであり、その意識を身につけることは、一人前の宇宙飛行士になるために不可欠です。意識のさらなる向上を図るため、飛行訓練を引き続き頑張ります!

また今回の訓練期間では、天候や機体の不具合により思うように訓練が進まない時もありました。しかし、前向きに待つ際の心構えや、限られた飛行機会で最大限の学習効果を得るための準備、そして機体のシステムや整備手順など、飛べない時だからこその学びが多くありました。宇宙飛行士になってからも、ロケットの打ち上げなど天候によって左右されることは多くあるので、今回学んだ心構えは忘れずに活かしていきたいです。

諏訪宇宙飛行士候補者の感想

「じゃあ、操縦してみて」。航空機操縦訓練の初日、セスナ機で上空に連れていかれた私は、教官から突然そう言いわたされました。若干の戸惑いの後、覚悟を決めて操縦桿を握りました。手には汗、空を自由に翔けるとか景色を楽しむといった余裕はなく、がちがちに緊張したままなんとか初日の訓練を終えました。

操縦は思った以上に色々なことに気を配りながら行わなければなりません。まずは飛行機を飛ばし続けなければならないし(当たり前ですが、車みたいに一旦停車して落ち着いて考えて、ということはできません!)、計器で飛行機の針路や速度、高度、姿勢を確認して制御する。そして管制官との交信をして必要なクリアランスを得たり情報を得たりする。こういった様々な作業を同時並行に行う「マルチタスキング」の能力は宇宙飛行士に求められる重要なスキルとされ、航空機操縦訓練は非常に貴重な訓練の機会です。とはいえ、最初の2週間は思うようにいかないことばかりで、落ち込む日が続きました。趣味のランニングで気分転換をして次の日に備える、そんな日々が続きました。

幸運なことに、同時期にはパイロット出身の先輩宇宙飛行士、油井さんと大西さんがヒューストンで訓練中でした。彼ら自身も毎日大変忙しく訓練をこなされているのですが、そんな中でも、大変ありがたいことに参考になる助言を惜しみなくくださいました。そういった先輩たちの支えもあって、飛行時間を重ねるにつれて、少しずつ、操縦訓練にも慣れていきました。着陸など、まだまだ練習が必要な項目ばかりなのですが、それでも3週目くらいからは少しずつ操縦も楽しめるようになって、やはり何事もあきらめずに取り組み続けることは重要だと感じた次第です。何度か夕刻に飛行訓練をする機会もあったのですが、マジックアワーに空の色が茜色から紫紺に刻々と変わり、やがて夜の帳の中にヒューストンの街の灯が浮かび上がり、訓練を行っているエリントン空港の滑走路を示す光の列がふわっと浮いてくる、これには言葉では言い表せない感動を覚えました。もちろん、その間も計器はちらちらと見ながら飛行機の状態はチェックしていましたけどね!

また次の操縦訓練が今から楽しみです。

その他の訓練報告

医学運用に関する講義

宇宙飛行士の健康管理、ISS滞在中の運動処方やISS内で使用する運動機器、宇宙飛行士が健康に生活するために必要な栄養管理や環境衛生の概要等について講義を受講しました。

地上での試験や検証に関する講義

ISSに搭載しているシステム機器は、打ち上げ前に様々な試験や検証を行っています。ISSにおける宇宙飛行士の活動を支え、実験を行うための機器が、どのような試験を行い、安全・適切に動作・機能するのかを確かめるプロセスなどの講義を受講しました。

「きぼう」運用管制員向け訓練の活用

ISSに滞在する宇宙飛行士が作業を行う際に交信を行うのが、「きぼう」運用管制チームのJ-COM(JEM Communicator)です。J-COM訓練を受けることにより、これまでISS/きぼうシステムに関する知識・技能を修得してきました。今月は、実際のISS運用を模擬したシミュレーションへの参加など、実践的な訓練を受けました。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA