
訓練概要
諏訪宇宙飛行士は、2025年9月中旬から下旬にかけて、イタリア、マテーゼ近郊で欧州宇宙機関(ESA)が実施したCAVES “ケイブス”(Cooperative Adventure for Valuing and Exercising human behavior and performance Skills)訓練に参加しました。
参加クルーは4名。諏訪宇宙飛行士の他、ESA、NASA、そしてUAE政府宇宙機関であるムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)の宇宙飛行士で構成された、国際色豊かな編成でした。
CAVES訓練とは、洞窟という極限・閉鎖・隔離環境を利用し、宇宙での長期滞在に必要なチーム行動・意思決定・異文化適応・自己管理・リーダーシップ・コミュニケーションなどの能力をさらに向上することを目的として実施されるプログラムです。これまでJAXAとしては5回の参加実績があり、前回の2019年には大西宇宙飛行士が参加しました。今回は6年ぶりのCAVES訓練実施となり、新しい場所での開催となりました。
CAVES訓練は大きく以下の3フェーズで構成されています:①事前訓練(約1週間)、②洞窟内探査訓練(4日)、③事後訓練(1日)。
① 事前訓練では、洞窟内探査訓練に向けて必要となる様々な知識、装備、技術や安全対策、科学を学習しました。学習した項目(一例)は以下の通りです。
参加クルーは4名。諏訪宇宙飛行士の他、ESA、NASA、そしてUAE政府宇宙機関であるムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)の宇宙飛行士で構成された、国際色豊かな編成でした。
CAVES訓練とは、洞窟という極限・閉鎖・隔離環境を利用し、宇宙での長期滞在に必要なチーム行動・意思決定・異文化適応・自己管理・リーダーシップ・コミュニケーションなどの能力をさらに向上することを目的として実施されるプログラムです。これまでJAXAとしては5回の参加実績があり、前回の2019年には大西宇宙飛行士が参加しました。今回は6年ぶりのCAVES訓練実施となり、新しい場所での開催となりました。
CAVES訓練は大きく以下の3フェーズで構成されています:①事前訓練(約1週間)、②洞窟内探査訓練(4日)、③事後訓練(1日)。
① 事前訓練では、洞窟内探査訓練に向けて必要となる様々な知識、装備、技術や安全対策、科学を学習しました。学習した項目(一例)は以下の通りです。

(出典:ESA- V.Crobu)
- 訓練目的や概要の確認
- 安全に訓練を実施するために遵守する事項や、緊急事態が発生した際の対応の確認
- 洞窟内に滞在するために必要なスキルの習得訓練
・装備品の着脱・点検方法
・食事の選択と調理方法(フリーズドライなど)
・排泄物の適切な処理方法 - 洞窟内探査を実施するにあたり必要なスキルの習得訓練(地上/洞窟内でそれぞれ実習を通して学習)
・各種計測器の使用方法
・洞窟内で使用する有線通話(電話線)の敷設・接続方法
・科学サンプルの採取・記録方法と手順 - 洞窟内を移動するのに必要なスキル(登攀・降下・水平移動・ロープワーク)の習得訓練
・ロッククライミング技術


② CAVES訓練のハイライトである洞窟内探査訓練では4日間を洞窟内で連続滞在しました。洞窟内では、洞窟の測量、滞在するキャンプの設営、そして環境モニタリング・水質調査・微生物サンプル採取などの科学ミッションを遂行しました。洞窟滞在期間中はクルーが電話線(有線)を敷設して地上管制チームと通信を行いましたが、「活動時間中は2時間に1回は地上管制チームと連絡をとる」などといった運用ルールがあり、こうした制約も考慮した上で計画を柔軟に調整しながらミッションに取り組む必要がありました。
③ 4日間の洞窟内探査訓練を実施した後は、地上に帰還し、洞窟で収集したデータとサンプルを整理する作業や、チームディスカッション、活動報告、メディアイベントなどを行い、訓練を締めくくりました。
③ 4日間の洞窟内探査訓練を実施した後は、地上に帰還し、洞窟で収集したデータとサンプルを整理する作業や、チームディスカッション、活動報告、メディアイベントなどを行い、訓練を締めくくりました。
CAVES訓練では、太陽光の届かない洞窟環境において、登攀や降下、岩場のトラバース、水場での匍匐前進など、時には泥まみれになる場面もあります。肉体的にも精神的にも負荷の高い訓練ですがチームが一体となって楽しみながら訓練に取り組んだとのことです。将来想定されている宇宙での任務を見据えて、運用スキルやチームスキルの涵養という観点からも非常に重要な訓練になったことと思います。無事にミッションを成し遂げた諏訪宇宙飛行士、大変お疲れ様でした。
CAVES 2025訓練計画
実施期間 | 2025年9月16日(火)から30日(火)の15日間 |
実施場所 | イタリア、マテーゼ近郊、アベル洞窟 |
訓練参加者 | 諏訪 理(JAXA宇宙飛行士) Marco Sieber(ESA宇宙飛行士) Jasmin Moghbeli(NASA宇宙飛行士) Mohammad AlMulla(MBRSC宇宙飛行士) |

諏訪宇宙飛行士の声
宇宙飛行士が洞窟に入る理由—非日常が日常になる場所で、チームは“宇宙の作法”を学ぶ。
洞窟は「もうひとつの宇宙船」
宇宙船と洞窟—一見、無関係に思える二つの世界。しかし実際に洞窟で訓練してみると、つながりの輪郭がはっきりしてきます。今回のキャンプ地は洞窟の入口から約1km内部、さらにロープで約20m降下した場所に設置されました。入口ははるか彼方で日光は一切届きません。逃げようとしても簡単には戻れない閉鎖環境です。初日、キャンプ地に降り立ち、「ここで三泊か」と感慨にふける暇もなく、タスクは次々に降ってきます。中には制限時間つきのものも。4人のクルーは、限られた時間の中、分担と連携でこの難局を乗り切りつつ着実に仕事を前へと進めていきます。ふと、「これは国際宇宙ステーション(ISS)のモックアップで訓練しているのと同じ感覚だ!」という思いが頭をよぎります。実際、唯一の宇宙飛行経験者であるNASAの Moghbeli 飛行士が、ステーションでの生活との共通点を具体的に解説してくれて、未飛行の3人は「おーっ」と納得。
洞窟内の移動では、登攀・降下・水平移動で必要に応じて命綱を使用し、安全を確保するための手順やルールが徹底されます。これはまさに巨大プールを使って行う船外活動(EVA)訓練そのものです!そして何よりの楽しみは、やっぱり食事です(これはISSに滞在する宇宙飛行士も口をそろえて言っています)。フリーズドライをお湯で戻し、皆で卓を囲む。その光景は、どこかISSのノード1(船内のダイニングがあるモジュール)の食卓を思わせます。そう、洞窟はある意味で宇宙船なのです!
洞窟内の移動では、登攀・降下・水平移動で必要に応じて命綱を使用し、安全を確保するための手順やルールが徹底されます。これはまさに巨大プールを使って行う船外活動(EVA)訓練そのものです!そして何よりの楽しみは、やっぱり食事です(これはISSに滞在する宇宙飛行士も口をそろえて言っています)。フリーズドライをお湯で戻し、皆で卓を囲む。その光景は、どこかISSのノード1(船内のダイニングがあるモジュール)の食卓を思わせます。そう、洞窟はある意味で宇宙船なのです!
フィールドで科学をする喜び
「何気なくそこにある岩石や空気、水から地球の謎に迫る」—私が地球科学というフィールドサイエンスに惹かれた理由は、まさにここにあります。大学院時代、アンデス山脈や南極でのフィールド調査を経験しましたが、非日常が日常になる環境で、日々の調査を終え、疲れた体でその日に取得したデータを整理していくと、体感だけでは見えなかった世界が少しずつ見えてくる(ような気がする)。その瞬間、地球の謎をほんの表面だけでも解いたような、言葉にしがたい喜びを覚えました。洞窟での「科学」も同じでした。これまで地図のない洞窟を専用の器具で測量し、3D地図を作成。さらに洞窟内の大気環境のモニタリングや、私たちの活動が洞窟内環境に与える影響の基礎評価など、今後の研究発展に欠かせない重要なデータを取得していきます。最終日には暫定的な結果を見せてもらいましたが、なかなか興味深い内容でした。いずれ欧州宇宙機関の方々が論文としてまとめてくれるはず—そう期待しています。きっと、他天体での科学調査も、このワクワクは通底していると、そう確信せずにはいられませんでした。
真の暗闇の中で
洞窟内で迎える4日目の朝、「もう終わりか!」という一抹の寂しさがありました。クルーの中には「そろそろ地上に帰ってもやぶさかではない」派と「まだまだ洞窟にいたい!」派がいましたが、私は断然「まだまだいたい派」でした。非日常の中に築かれる日常、その設定に心が惹かれたのだと思います。灯りを消せば、そこは本物の漆黒です。逆を言えば、ヘッドライトが常に手の届く場所になければ大変なことになりかねません。またライトのバッテリー残量の確認も、きわめて重要なチェックポイントでした。
洞窟内は、かつて富良野で体験した「闇の教室」を思い出す暗さでした。漆黒の中で視覚が奪われると、ほかの感覚が研ぎ澄まされる。洞窟でも夜に電気を落とすと、視覚情報は完全に消え、水滴が滴り落ちる音だけが響きます。……と思ったら、隣からは豪快ないびき。翌朝、当人は「昨晩はよく寝られなかったよ」と一言。残り3人全員から即ツッコミが入ったのは言うまでもありません。
体内時計は太陽光がなくても動き続けます。私は毎朝5時過ぎには自然と起床。大学院時代、東南極氷床で白夜のテント生活をしていたときも、いつでも明るいのに不思議と決まった時間に眠くなり、朝には起きていました。洞窟はその逆で暗闇が続きますが、それでも体内時計は確かに刻み続けるのだと実感します。若いころは朝が苦手だったはずの自分が毎朝一番の早起きでしたが、クルーからは「年のせいだね」とのツッコミが。それでも一人、早朝に灯りを落としたキャンプサイトで真の暗闇の中、佇んでいると、「地球には本当にいろいろな場所がある」と、しみじみ感傷的になってしまうのでした。
洞窟内は、かつて富良野で体験した「闇の教室」を思い出す暗さでした。漆黒の中で視覚が奪われると、ほかの感覚が研ぎ澄まされる。洞窟でも夜に電気を落とすと、視覚情報は完全に消え、水滴が滴り落ちる音だけが響きます。……と思ったら、隣からは豪快ないびき。翌朝、当人は「昨晩はよく寝られなかったよ」と一言。残り3人全員から即ツッコミが入ったのは言うまでもありません。
体内時計は太陽光がなくても動き続けます。私は毎朝5時過ぎには自然と起床。大学院時代、東南極氷床で白夜のテント生活をしていたときも、いつでも明るいのに不思議と決まった時間に眠くなり、朝には起きていました。洞窟はその逆で暗闇が続きますが、それでも体内時計は確かに刻み続けるのだと実感します。若いころは朝が苦手だったはずの自分が毎朝一番の早起きでしたが、クルーからは「年のせいだね」とのツッコミが。それでも一人、早朝に灯りを落としたキャンプサイトで真の暗闇の中、佇んでいると、「地球には本当にいろいろな場所がある」と、しみじみ感傷的になってしまうのでした。
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