1. ホーム
  2. 宇宙のしごと
  3. JAXA宇宙飛行士活動レポート
  4. 基礎訓練レポート(2024年5月)
2024.08.02
  • 基礎訓練

基礎訓練レポート(2024年5月)

Share

有人与圧ローバー検討現場(トヨタ自動車)見学

国際宇宙探査計画「アルテミス計画」で日本は、宇宙飛行士が車中で生活しながら月面探査を行うことができる有人与圧ローバーを提供する役割を担っており、現在主にJAXAがトヨタ自動車と検討を行っています。2人はまず有人与圧ローバーの意義や目的、ミッション概要について座学にて学んだのち、実物大モックアップ内でデザインコンセプトについて担当の技術者から説明を受けました。2人は操縦桿を握って月面走行のシミュレーションを体験するなどして、実際に有人与圧ローバーに乗り月面探査を行うイメージを膨らませていました。月面探査ミッションでは、2人の宇宙飛行士が1カ月間、狭い車内で生活することを想定しています。モックアップ見学のあとは技術者と意見交換会を行い、宇宙飛行士への精神的負荷が高い空間の中で、いかに仕事とプライベートのオンとオフを切り替え、リラックスする時間を持てるか、どうすれば宇宙飛行士にとって快適な居住空間を実現できるかなどについて、積極的な議論を交わしていました。

諏訪宇宙飛行士候補者の感想

目の前の有人与圧ローバーのモックアップ。この中で1か月もの間、月面を探査するとはどういうことなんだろう?そんな気持ちで初めてモックアップの中に入りました。洗練されていて、思ったより広い、それが第一印象でした。人間工学の知識を駆使し、いかに狭い空間を広く感じさせ、住みよい空間を作るのか。エンジニアリング的な要求と快適さ追求の両立は微妙なバランスの上に成り立つものだと思いますが、最適解を目指し、数多くの関係者の試行錯誤が日々続けられています。その過程を垣間見させていただけたことに感動し、そして色々な想像も掻き立てられました。日本人宇宙飛行士がこれを運転して、そして月面で調査を遂行する。そんな日が遠くないのだと感じさせてくれました。これからの10年の日本を象徴するプロジェクトの一つになると思いますので、皆様にも応援いただければ幸いです!

有人与圧ローバーの検討現場を見学する 米田あゆ、諏訪理両宇宙飛行士候補者

基礎地質学

2日間の講義において、まず地質学、岩石、プレートテクトニクスの基礎を学びました。後半は地質図学の演習を通じ、2次元の地形図、地質図と3次元的な地形の起伏を結びつける練習を模型を用いて体験し、理解を深めました。翌週には、2泊3日の日程で「日本地質学発祥の地」として知られる秩父盆地にて、基礎地質学野外実習に参加しました。まず河原にて岩石を採取し、それらの種類を確認、上流の地質について考察しました。また、河岸段丘地形、鍾乳洞の地質観察や、堆積岩の露頭での地質構造のスケッチを通して、地質構造の詳細を観察すると共に、発生したであろう地質現象の考察までを行いました。座学で学んだ知識を基に実際のフィールドを観察し、考察、議論することで、地質学的現象をより深く理解することが出来ました。

諏訪宇宙飛行士候補者の感想

人間の一生の中ではそれほど最近ではない昔、といっても地質年代的には極最近ですが、大学で地質学を勉強していたころを思い出し、ワクワクしながら参加した訓練になりました。地質学は岩石に地球の歴史を語ってもらう、そんな学問だと思います。教えてくださった先生には綺麗なハーモニーのような歌声が石から聞こえてくるようでしたが、私が石の声をきちんと聞けるようになるためには、まだまだ修行が必要です。
秩父の地質は複雑です。秩父のセメント産業のもとになっている石灰岩はもちろん、堆積岩、変成岩、火山岩など様々な岩石を見ることができます。一度海溝に沈み込んだ岩石が地殻変動により、秩父の地に顔を出す。秩父は地球の深い場所を疑似的に覗き込める「地球の窓」でもあります。長い時間をかけ、堆積、火山活動、地殻変動そして水の作用により、現在、目の前にある秩父の地形がつくられたかと思うと、その時空と地球の営みの雄大さに思わずうっとりとしてしまいます。月や、そして地質がより複雑な火星で見る岩石は何を語ってくれるのでしょうか?太陽系のどんな秘密がそこに隠されているのでしょうか?地球惑星科学って面白い、と再発見させてもらったそんな貴重な訓練になりました。
模型を用いて地質図学の演習を行う米田、諏訪両宇宙飛行士候補者
基礎訓練(基礎地質学)において秩父巡検を行う諏訪宇宙飛行士候補者
基礎訓練(基礎地質学)において秩父巡検を行う米田宇宙飛行士候補者
基礎訓練(基礎地質学)において秩父巡検を行う米田、諏訪両宇宙飛行士候補者

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA