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宇宙服ヒストリー

Life in Space
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歴史あり、進化の先に

世界最初の宇宙服は、1931年にロシア(当時ソビエト連邦)によって開発されたものと言われています。長い歴史を経て、現在はどのような宇宙服が使われているのでしょうか。いつか人類が宇宙旅行に行くとしたら、どんな宇宙服を着ることになるのでしょう。宇宙服の歴史と、これからの展望を詳しく見ていきましょう。

©NASA

長い歴史の宇宙服、
そこにはたくさんの努力と工夫が詰まっています

The Mercury 7©NASA

1961年にユーリ・ガガーリンが人類で初めて宇宙に到達してから、早60年。実は現在使われている宇宙服は、アポロ時代(1960年代)の技術がベースとなって開発されたもののため、その構成要素は今日の技術から比べるとかなり古い技術が基本となっています。

宇宙服開発の歴史

人類が宇宙で活動するのに欠かせない宇宙服。有人宇宙活動を支え、発展させてきた歴代の宇宙服を振り返ります。

マーキュリー・ジェミニ・アポロ時代の宇宙服

1958年から1963年にかけて実施された、アメリカ初の有人宇宙飛行プロジェクト「マーキュリー計画」。その際に着用された宇宙服は航空機パイロットの与圧服をベースに、アルミなどを加えることで強度と超高低温に耐えられるようにしたものでした。
次に1965年から1966年までの間に10名のアメリカ人宇宙飛行士が地球周回低軌道を飛行した「ジェミニ計画」では、船外活動を行うために大きく改良。宇宙服と宇宙船をホースでつなぐことで、呼吸気を送れるようになりました。しかし、実際に船外活動をすると体温が上昇し、激しく疲労してしまうことが判明。また、湿気でヘルメット内部が曇り、宇宙船から呼吸気を送るだけでは宇宙服を十分に冷却できないことも課題でした。
そして、1960年代から1970年代初頭に実施された、月面に人類を送るプロジェクト「アポロ計画」では、月の表面を自由に動けるようにさらにアップデート。手袋の指先をゴムにし、空気・水・電池などを入れる携帯型のライフサポート・バックパックも開発されました。宇宙服とバックパックの総重量は地上では約82kgもありますが、重力が微小な月面では約14kgまで少なくなります。この時代の宇宙服は空冷ではなく、ナイロンの下着と水を使って宇宙飛行士の体を冷やすというもの。自動車のラジエーターでエンジンを冷やすのと同じ仕組みが採用されていました。

1962年にマーキュリー宇宙服を着用したジョン・グレン宇宙飛行士 ©NASA
ジェミニ4号の搭乗員、ジェームズ・マクディヴィットとエドワード・ホワイト ©NASA
1969年7月20日ニール・アームストロングによって撮影されたバズ・オルドリンの月面での船外活動の様子 ©NASA

与圧服

宇宙船の打ち上げ時とドッキング・分離時、地球への帰還時に宇宙飛行士が着用するのが与圧服です。NASAでは1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故以来、クルーが緊急脱出できるようにパラシュートも備えたオレンジスーツを着用するようになりました。オレンジスーツの重量は、パラシュートも含めて約43kgになっています。
ロシアの宇宙船ソユーズに搭乗する際、宇宙飛行士が着用している白地に青い模様の与圧服は「ソコル宇宙服」と呼ばれています。ソコル宇宙服はお腹の袋部分から内部に入って着用するのが特徴。最後に袋を束ねて紐で縛ることで気密を保ち、表面生地のジッパーを閉じて着用完了です。
2020年、民間の宇宙船クルードラゴンの打ち上げでは、最新の与圧服が使用されました。3Dプリンターでつくられたヘルメットや、タッチスクリーンにも対応したグローブのほか、これまでの与圧服とは一線を画したデザインで話題を集めました。
ちなみに、大気圏突入時のGは、ソユーズTM宇宙船の場合で通常約4〜5G、最大でなんと約10〜12Gもかかります。そこで地球に帰還するソユーズ宇宙船では、着地時の衝撃に耐えるために各クルー専用につくられたシートを使用。クルーごとに石膏で型取りをすることで体にピッタリとフィットさせ、衝撃が一部に集中することのないように工夫されています。

NASAジョンソン宇宙センターで緊急脱出訓練を行う前にオレンジスーツ(与圧服)を着用する野口聡一宇宙飛行士 ©JAXA/NASA
ソコル宇宙服の点検を受けている野口聡一宇宙飛行士 ©NASA
宇宙服を着たSpaceXクルー1の乗組員 ©NASA

船外活動用の宇宙服

現在、ISSでは船外活動用の宇宙服として、アメリカが開発した船外活動ユニット(EMU)と、ロシアが開発したオーラン宇宙服が使用されています。
EMUは宇宙服アセンブリと生命維持システムのふたつの部分から構成され、その重量は約120kg。宇宙飛行士に安全な呼吸環境を提供するとともに、体温の保持、有害な紫外線、宇宙線や微小な宇宙塵から体を守る役割を果たします。EMUは約7時間の船外活動ができるように設計されていますが、酸素の消費量には個人差があるため、実際にはもう少し長時間の作業が行われる場合もあります。
オーラン宇宙服は1971年の使用開始から改良を重ねながら、現在に至っています。宇宙服アセンブリと生命維持システムという構成はEMUと同じですが、オーラン宇宙服はそれらが一体化されているのが特徴。背面にある開口部から宇宙服アセンブリ内に入ることで、ひとりで装着できるようになっています。また、内部気圧がEMUの0.3気圧より高い約0.4気圧に設定されているので、船外活動をしたクルーが宇宙服を着る際、体内から窒素を追い出すために必要な「プリプリーズ」と呼ばれる待機時間が約30分とEMUに比べて短くなっています。

野口聡一宇宙飛行士が船外活動服のフィット・チェックをしている様子。右隣は、アシストしているアンドリュー・トーマス宇宙飛行士 ©JAXA/NASA

各国の宇宙飛行士が期待を寄せる
最新の宇宙服研究

これからの月・火星探査に向けて、NASAをはじめ、大学や企業の研究機関では、次世代宇宙服の研究・開発が進んでいます。
宇宙服には、高度な技術が投入されており、費用的にも高価なものです。しかし、将来宇宙ステーションの活動がはじまるころには、いまよりも安価で機動性にすぐれた宇宙服に工夫・改良されていくでしょう。

NASAアルテミス計画用の宇宙服 ©NASA

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA