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「人工衛星のパラドックス」

 地上数百kmの高度の円軌道を描いている人工衛星も、わずかに残る空気抵抗を受けている。ところが、この影響によって、速度は減少するのではなく、逆に増大するのだ。これは「人工衛星のパラドックス」と呼ばれるが、どうしてこのようなことが起きるのだろうか。

 実はこれは、「エネルギー保存則」に関係している(参照:人工衛星はどのくらいの速さで地球の周りをまわっているのだろうか?)。高いところに物体を持ち上げるには、仕事が必要だ。その結果、高いところにある物体は、低いところよりもエネルギーを持っていることになる。これを「位置エネルギー」という。地球から遠く離れると、万有引力はほとんど0(ゼロ)になるから、いくら離れてもそれ以上位置エネルギーは増えず、右ページの図のようになだらかな曲線の変化をする。

 人工衛星の質量をm、地球の質量をM、軌道半径をrとすると、位置エネルギーUは、万有引力定数をGとして、

U= -GMm/r

で表される。無限遠点を基準(0)とすると、軌道上の人工衛星の位置エネルギーUはそれより低いので、式の上では「マイナス」になる。

 円軌道では、速度vはgs0204a.gifで表されるため、運動エネルギーと位置エネルギーの和、すなわち全エネルギーEは、
  E=(1/2)mv + U = -GMm/2r
となり、グラフの太い曲線になる。←→で示した部分が運動エネルギーである。

 これで明らかなように、軌道半径rが減少すると、全エネルギーEは減少するが、位置エネルギーUが2倍減少するため、その差額の運動エネルギーは逆に増加することになる。

 「空気抵抗で速度が増大する」と言っても、エネルギーを失って高度が下がっていくので、少しずつ軌道修正が必要なのだ。そのための燃料がなくなったときが、人工衛星の寿命である。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA