船外活動の準備から終了までの概要を教えて下さい
船外活動(EVA)は単に宇宙服を装着して船外に出て仕事をして戻ってくるといった簡単なものではなく、船外に出るには実際には、何時間もかけて周到な準備をしなければなりません。作業を終わって船内で通常の状態に戻るためにも定められた手順を経なければなりません。
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プリブリーズ(Pre-breathe)
プリブリーズは船外活動の準備の中で最も重要な作業です。
宇宙服を着用して作業をするとき、宇宙服が膨れ上がって作業がやりにくくなるのを防止するため、宇宙服内の圧力を約0.3気圧に下げます。
船内の1気圧の環境にいた宇宙飛行士が、宇宙服着用時に約0.3気圧の環境に置かれると、体内組織にとけ込んでいた窒素が微小な気泡となって、それが毛細血管を詰まらせる減圧症(ベンズ)を引き起こす危険が伴います。
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スペースシャトルでの船外活動の流れ
- マスクを装着して100%の酸素を約60分呼吸した後、スペースシャトルの船内気圧を1気圧(14.7psia)から約0.7気圧(10.2psia)に下げ、12時間以上その状態に保ちます。この期間は船外活動をしない宇宙飛行士も同じ環境で過すことになります。
- 宇宙服を装着します。
- 宇宙服内の窒素を追い出し、100%の酸素を40~75分間呼吸した後、宇宙服内を約0.3気圧(4.3psia)に減圧します。
- エアロックを減圧し宇宙空間と同じ状態にします。
- ハッチを開けて、エアロックから船外に出てEVA作業を開始します。
- EVAを終了し、エアロックに戻ります。
- エアロックを再加圧し船内と同じ気圧にします。
- 宇宙服を脱着します。
船外活動中の宇宙服内の気圧を現在の約0.3気圧から0.5気圧程度にまで高く保つことができれば、減圧症の心配もなくプレブリーズも必要ではなくなると言われています。
しかし、0.5気圧にすると宇宙服が風船のように膨らんでしまうので、宇宙飛行士が船外活動を楽に実施することができる動きやすい宇宙服は、未だ完成していません。
ISSでの船外活動の流れ
すなわち、EVA準備開始から4時間半で船外へ出ることが可能となり、スペースシャトルのEVA時の18時間以上と比べて大幅に準備作業を短縮できます。
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この方法は、2001年7月の7Aフライトでテストされた後、2002年4月の8Aフライトから実用化されました。
しかし、この方法にも短所があり、起床直後にエクササイズ・プリブリーズを行うと朝が慌ただしくなり、EVAの開始時間が遅くなることから、スペースシャトルで行われていたような前夜から気圧を下げてそこで眠る方法に、ISSでのEVAも変更されました。ISSの場合は、クエスト(エアロック)内の2人のEVAクルーだけが0.7気圧の環境下で過ごせば良いのですが、食事やトイレの使用、緊急時に他のクルーと分断される懸念があったため、これらの手順が問題なくできることを試験で確認した後、2006年9月の12AフライトのEVAからこの方式(キャンプアウト・プリブリーズ)に切り替えられました。これにより、45~60分ほどEVA開始までの時間を節約できるようになりました。現在では、エクササイズ・プリブリーズは予備的な方法となっています。
エクササイズ・プリブリーズの手順は以下のようなものです。
- 酸素マスクを着用し、1気圧(約101kPa)の状態で自転車こぎを10分間行う。
(上半身は筋力トレーニングを行う)
- エアロック内を約0.7気圧(約70.3kPa)に減圧し20分間維持
(エクササイズ・プリブリーズ開始からここまでで80分)
- 宇宙服(EMU)の装着
(EMUの装着が完了するとエアロック内は1気圧に戻される。)
- EMUを装着した状態で60分間のプリブリーズ(約0.3気圧(約30kPa)で100%酸素を呼吸)を行う。
- エアロック内を30分かけて減圧し、ハッチを開けて船外へ出る。
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA