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2023.03.30
  • プロジェクトリレートーク

豊富な経験と知見でプロジェクトを見守り支える。JAXAの「独立評価チーム」とは

チーフエンジニア室独立評価チーム(有人宇宙技術部門担当)
及川 幸揮、小杉 史郎
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次世代を担う新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発、「HTV-X」をISSに無人で接続させる「自動ドッキング技術実証」、そして「ゲートウェイ」(月周回有人拠点)プロジェクト。JAXAの有人宇宙技術部門では、これまで紹介してきたプロジェクト以外にも、大小様々なミッションが進行しています。

JAXAでは、この数多くのプロジェクトに対して、豊富な経験と知見を活かし評価や助言を行う「独立評価チーム」が活躍中です。独立評価チームはJAXAのチーフエンジニア室に所属し、有人部門だけでなく、JAXA全体のプロジェクトを支えていますが、部門ごとに担当が分かれています。プロジェクトを成功に導くために、見守り支える役割を果たすこのチームで有人宇宙技術部門担当のお二人に、仕事の悩みや喜びについて語り合ってもらいました。  

前回の「ゲートウェイ(月周回有人拠点)」についての記事はコチラ

独立した立場から評価や助言を行うチーム

Q: まず、簡単に自己紹介をお願いいたします。

有人宇宙技術部門の独立評価チーム長をしています。2018年4月から独立評価チーム員になり、2020年4月からチーム長を担当しています。
私は2021年4月から独立評価チーム員を担当しています。よろしくお願いいたします。

Q:「独立評価チーム」では、具体的にどのような仕事をされているのでしょうか。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、日本の宇宙開発利用を技術で支える中核的な機関です。そしてJAXAの事業は、多くのプロジェクトから成り立っていて、そのプロジェクトの成功が事業の成功につながっていきます。プロジェクトの成功のためには、プロジェクトを中から推進するだけでなく、やはり独立した立場から、技術的・マネジメント的な評価や助言を行うことが必要だろうということで、「独立評価チーム」が設立されました。

「有人宇宙技術部門」だけでなく、「第一宇宙技術部門」、「航空技術部門」などJAXAの他部門にもそれぞれに「独立評価チーム」があります。有人宇宙技術部門の「独立評価チーム」には、我々2名の他に、様々な経験や専門的な知見を有する3名の客員メンバーがいます。この計5名で、評価を担当しています。
各プロジェクトの資料を読み込んで、審査会に参加し、評価や助言を行うことが私たちの主な仕事になります。
「HTV-X」や「自動ドッキング技術実証」、「ゲートウェイ」などのプロジェクトはもちろん、ISSの日本実験棟「きぼう」のシステム機器の最新化や、船内・船外での実証実験など、かなりの数のプロジェクトやミッションが対象になります。
独立評価チームについて語る及川さん

Q: つまり、プロジェクトを俯瞰してみて、問題点を見つけたら指摘して助言する仕事ですね。プロジェクトとしては心強い存在ですね。

いや、実は問題点を見つけるというのは至難の業なんです。優秀なプロジェクトばかりで、しっかりとマネジメントされていますし、毎年改善もされていますので簡単に問題点は見つかりません。その中でも長年の経験から、稀に「この結果は、もう少し検討すべきなのでは」という課題が見つかることがあります。そういったことを、助言として取り入れてもらうことがあります。

プロジェクトでは次から次へと新たな問題や課題が発生していて、それを一つ一つ解決しながら開発を推進しているのですが、我々独評チームはその開発管理プロセスが適切に機能して推進されているか、取りこぼしは無いかなどを常に把握し、必要があれば助言することが大切な仕事になります。

Q: 数多くのプロジェクトがありますから、全てをみるのは簡単なことではないですよね。お2人はこれまで、どのような経験を積まれてきたのでしょうか。

学生のときは、通信工学が専門でした。1980年に宇宙開発事業団(現JAXA)に入社後は、沖縄で人工衛星の追跡や管制業務を4年ほど担当し、その後は放送衛星や地球観測衛星などの開発を行いました。2002年4月に「有人宇宙技術部門」に異動し日本実験棟(JEM)の開発を担当しました。ケネディ宇宙センターで「きぼう」日本実験棟の構成要素である船内保管室、船内実験室とロボットアーム、そして船外実験プラットフォームのスペースシャトルによる打ち上げを3回経験しました。

その後は高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)のプロジェクトや、船外の小さなミッションの取りまとめなど、実に様々な経験をしてきました。一度、JAXAを退職した後に、独立評価チームに呼ばれて、3年前からチーム長をしているという経緯になります。
私は学生時代に数学を学んでいました。一般相対性理論の土台となる微分幾何学を専攻するうちに宇宙に興味を持つようになり、宇宙に近づける物づくりの道に進むことを決めました。

1983年に宇宙開発事業団(現JAXA)へ入社し、8年ほどが経ったころにNASAのゴダード宇宙飛行センターで衛星間通信技術を学ぶ機会を与えていただいて、その後は「きぼう」と筑波宇宙センターのデータ通信にも使われたデータ中継技術衛星「こだま」(DRTS)の開発などを担当しました。専門分野は通信・電気系、制御系、軌道力学系、テレメトリ・コマンド処理などになります。

有人宇宙技術センターで定年を迎えた後に独立評価チームに呼ばれて2年になりますが、これまで様々な部署での経験があるので、独立評価チーム向きなのかもしれませんね。
これまでの経験について語る小杉さん

宇宙機開発は、子育てのようなもの

Q: お仕事の悩みは、どのようなことになりますか。

貢献したい気持ちは常にありますが、稀に能力の限界を感じるときはありますね。
軌道上の実験は、物質・物理、生命医科学など、かなり専門性が高いミッションが多くありますからね。評価や審査会でそういった自分たちの手の届かない専門分野の技術がある場合は、システムエンジニアリングやマネジメントの観点で貢献できたらと心がけています。実験については、その分野の研究者の方々による外部評価も行われるので安心はしていますが、自分自身でも、もう少し詳しく理解できるといいなと感じるときはありますね。
宇宙機の物づくりは工学的に共通するところがありますが、「きぼう」日本実験棟などの実験関係は専門性が高いですからね。
今は月一回、JAXA内の他の独立評価チームなども集り、プロジェクトの進捗状況報告会を行って議論しています。そうすると他部門でも起きている共通事項も収集できますし、自分たちの能力以上のことで行き詰まっているときに、他部門の方の意見を聞くことができます。逆に、こちら側から助言をすることもできて、心強い場になっています。
仕事の悩みについて語る及川さん

Q: お仕事のやりがいについてはいかがですか。

審査会で、少し心配だなと思うところを指摘して、まれに問題が見つかることもあります。そういったときに、貢献できたかなと思いますね。
非常に素晴らしいプロジェクトばかりなので、殆どそういうことはないのですが。最後まで気づかないと、宇宙で問題を引き起こすことにもなりかねないので、気が抜けません。
やはり嬉しいのは、関わったミッションが成功することですね。
まだ私はチーム員になって2年ですが、その間に軌道上で運用が始まったものもあります。及川さんもそうだと思うのですが、今、我々が一番楽しみにしているのは「HTV-X」1号機ですよね。もうしばらくしたら打ち上がると思うのですが、ぜひ頑張って成功してほしいです。
宇宙機開発というのは、子育てのようなものですよね。時々、熱を出したり、具合が悪くなったりするので、親が大変な思いをしながら育てていきます。

JAXAとメーカーさんが協力してモノづくりをしていくので、お父さんやお母さんだけではなくJAXAを含めて沢山の親がいるようなものです。JAXAやメーカさんは、親同士、最初はお互いに初対面ですが、段々と議論しながら、時には口論もしながら、絆を深めていきます。途中で、子どもが熱を出したり体調を悪くしたりしますが、打ち上げの期限もあるので、一刻も早く解決して先へ進めていこうと、一体になっていく。そして、打ち上げて社会人になるわけです。その社会人になるまでが、とても大変なことですよね。「HTV-X」のみなさんと話をしていると、非常に良いチームワークを感じるので、期待しています。
「HTV-X」1号機のあとは、2号機の「自動ドッキング技術実証」も待ってますから、楽しみですよね。
仕事のやりがいについて語る小杉さん

新しい技術を支えられる存在でありたい

Q: 今後、独立評価チームとして、どのようなことを目指されていますか。

これから審査を経て、大きなプロジェクトに育っていくだろうプロジェクトの芽のようなミッションが今、幾つかあります。例えば、月面での有人探査活動のための有人与圧ローバや、月面着陸機(ランダ)などは、将来、プロジェクトとして出てくるものだと思います。それ以外にも、現在ISSで実証実験中の水再生システムのように、国際有人宇宙探査で使われるであろう新しい技術を先取りするミッションも、今後多く出てくるでしょう。それを支えられる存在でありたいですね。
今後、月面探査が本格的に動き出すと、ISSでは経験したことがないような新しい技術が出てくるでしょうし、マネジメントも変わっていくと思います。そういった場面でも、フォローができるように、チームで準備をしていきたいと思います。
独立評価チームについて語る(左から)小杉さん、及川さん

Q: 次回のリレートークは、「宇宙食」プロジェクトチームにお願いする予定です。メッセージをお願いできますか。

宇宙食や宇宙での生活用品は、普段の生活につながるアイディアが沢山ありそうで、とても興味があります。お話を聞くのを楽しみにしています!
及川 幸揮(おいかわ こうき)

チーフエンジニア室 参与、独立評価チーム長(有人分野)

経歴

1980年4月に宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。人工衛星の追跡・管制業務に従事。1984年4月以降は、放送衛星3号(BS-3)、熱帯降雨観測ミッション(TRMM)、ミッション実証衛星1号(MDS-1)のプロジェクト等、2002年4月以降は、有人宇宙技術部門にて「きぼう」日本実験棟(JEM)、高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)のプロジェクト等に携わる。 2016年4月からチーフエンジニア(有人分野)及び有人宇宙技術センター次長を兼務。 2018年4月から独立評価チーム員(有人分野)を経て2020年4月から現職。

趣味

卓球、TV鑑賞(スポーツ、お笑い、日・韓時代劇含むドラマ)

座右の銘

人間万事塞翁が馬

小杉 史郎(こすぎ しろう)

チーフエンジニア室 独立評価チーム員(有人分野)

経歴

理学部数学科卒。一般相対性理論の数学的な土台「微分幾何学」を専攻するうちに宇宙に興味を持つように。1983年に宇宙開発事業団入社。1991-1992年にNASAゴダード宇宙飛行センターで衛星間通信技術を学び、データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)の開発でミッション系、姿勢制御系を担当。「こだま」は、ISSの日本実験棟「きぼう」と筑波宇宙センターのデータ通信・映像伝送に活用された。
2021年3月まで有人宇宙技術センターで、「きぼう」の実験・管制システムの開発に携わり、同年4月より現職。専門分野は、通信・電気系、制御系、軌道力学系、テレメトリ・コマンド処理など。

趣味

音楽を聴くこと(最近はHarry Styles、藤井風がお気に入り)、その他いろいろ

座右の銘

特にありませんが、好きな言葉は利休の「花は野にあるように(本質を知り、簡潔に)」

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA