- プロジェクトリレートーク
豊富な経験と知見でプロジェクトを見守り支える。JAXAの「独立評価チーム」とは
及川 幸揮、小杉 史郎
次世代を担う新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発、「HTV-X」をISSに無人で接続させる「自動ドッキング技術実証」、そして「ゲートウェイ」(月周回有人拠点)プロジェクト。JAXAの有人宇宙技術部門では、これまで紹介してきたプロジェクト以外にも、大小様々なミッションが進行しています。
JAXAでは、この数多くのプロジェクトに対して、豊富な経験と知見を活かし評価や助言を行う「独立評価チーム」が活躍中です。独立評価チームはJAXAのチーフエンジニア室に所属し、有人部門だけでなく、JAXA全体のプロジェクトを支えていますが、部門ごとに担当が分かれています。プロジェクトを成功に導くために、見守り支える役割を果たすこのチームで有人宇宙技術部門担当のお二人に、仕事の悩みや喜びについて語り合ってもらいました。
前回の「ゲートウェイ(月周回有人拠点)」についての記事はコチラ
独立した立場から評価や助言を行うチーム
Q: まず、簡単に自己紹介をお願いいたします。
Q:「独立評価チーム」では、具体的にどのような仕事をされているのでしょうか。
「有人宇宙技術部門」だけでなく、「第一宇宙技術部門」、「航空技術部門」などJAXAの他部門にもそれぞれに「独立評価チーム」があります。有人宇宙技術部門の「独立評価チーム」には、我々2名の他に、様々な経験や専門的な知見を有する3名の客員メンバーがいます。この計5名で、評価を担当しています。
「HTV-X」や「自動ドッキング技術実証」、「ゲートウェイ」などのプロジェクトはもちろん、ISSの日本実験棟「きぼう」のシステム機器の最新化や、船内・船外での実証実験など、かなりの数のプロジェクトやミッションが対象になります。
Q: つまり、プロジェクトを俯瞰してみて、問題点を見つけたら指摘して助言する仕事ですね。プロジェクトとしては心強い存在ですね。
プロジェクトでは次から次へと新たな問題や課題が発生していて、それを一つ一つ解決しながら開発を推進しているのですが、我々独評チームはその開発管理プロセスが適切に機能して推進されているか、取りこぼしは無いかなどを常に把握し、必要があれば助言することが大切な仕事になります。
Q: 数多くのプロジェクトがありますから、全てをみるのは簡単なことではないですよね。お2人はこれまで、どのような経験を積まれてきたのでしょうか。
その後は高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)のプロジェクトや、船外の小さなミッションの取りまとめなど、実に様々な経験をしてきました。一度、JAXAを退職した後に、独立評価チームに呼ばれて、3年前からチーム長をしているという経緯になります。
1983年に宇宙開発事業団(現JAXA)へ入社し、8年ほどが経ったころにNASAのゴダード宇宙飛行センターで衛星間通信技術を学ぶ機会を与えていただいて、その後は「きぼう」と筑波宇宙センターのデータ通信にも使われたデータ中継技術衛星「こだま」(DRTS)の開発などを担当しました。専門分野は通信・電気系、制御系、軌道力学系、テレメトリ・コマンド処理などになります。
有人宇宙技術センターで定年を迎えた後に独立評価チームに呼ばれて2年になりますが、これまで様々な部署での経験があるので、独立評価チーム向きなのかもしれませんね。
宇宙機開発は、子育てのようなもの
Q: お仕事の悩みは、どのようなことになりますか。
今は月一回、JAXA内の他の独立評価チームなども集り、プロジェクトの進捗状況報告会を行って議論しています。そうすると他部門でも起きている共通事項も収集できますし、自分たちの能力以上のことで行き詰まっているときに、他部門の方の意見を聞くことができます。逆に、こちら側から助言をすることもできて、心強い場になっています。
Q: お仕事のやりがいについてはいかがですか。
非常に素晴らしいプロジェクトばかりなので、殆どそういうことはないのですが。最後まで気づかないと、宇宙で問題を引き起こすことにもなりかねないので、気が抜けません。
まだ私はチーム員になって2年ですが、その間に軌道上で運用が始まったものもあります。及川さんもそうだと思うのですが、今、我々が一番楽しみにしているのは「HTV-X」1号機ですよね。もうしばらくしたら打ち上がると思うのですが、ぜひ頑張って成功してほしいです。
JAXAとメーカーさんが協力してモノづくりをしていくので、お父さんやお母さんだけではなくJAXAを含めて沢山の親がいるようなものです。JAXAやメーカさんは、親同士、最初はお互いに初対面ですが、段々と議論しながら、時には口論もしながら、絆を深めていきます。途中で、子どもが熱を出したり体調を悪くしたりしますが、打ち上げの期限もあるので、一刻も早く解決して先へ進めていこうと、一体になっていく。そして、打ち上げて社会人になるわけです。その社会人になるまでが、とても大変なことですよね。「HTV-X」のみなさんと話をしていると、非常に良いチームワークを感じるので、期待しています。
新しい技術を支えられる存在でありたい
Q: 今後、独立評価チームとして、どのようなことを目指されていますか。
Q: 次回のリレートークは、「宇宙食」プロジェクトチームにお願いする予定です。メッセージをお願いできますか。
チーフエンジニア室 参与、独立評価チーム長(有人分野)
経歴
1980年4月に宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。人工衛星の追跡・管制業務に従事。1984年4月以降は、放送衛星3号(BS-3)、熱帯降雨観測ミッション(TRMM)、ミッション実証衛星1号(MDS-1)のプロジェクト等、2002年4月以降は、有人宇宙技術部門にて「きぼう」日本実験棟(JEM)、高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)のプロジェクト等に携わる。 2016年4月からチーフエンジニア(有人分野)及び有人宇宙技術センター次長を兼務。 2018年4月から独立評価チーム員(有人分野)を経て2020年4月から現職。
趣味
卓球、TV鑑賞(スポーツ、お笑い、日・韓時代劇含むドラマ)
座右の銘
人間万事塞翁が馬
チーフエンジニア室 独立評価チーム員(有人分野)
経歴
理学部数学科卒。一般相対性理論の数学的な土台「微分幾何学」を専攻するうちに宇宙に興味を持つように。1983年に宇宙開発事業団入社。1991-1992年にNASAゴダード宇宙飛行センターで衛星間通信技術を学び、データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)の開発でミッション系、姿勢制御系を担当。「こだま」は、ISSの日本実験棟「きぼう」と筑波宇宙センターのデータ通信・映像伝送に活用された。
2021年3月まで有人宇宙技術センターで、「きぼう」の実験・管制システムの開発に携わり、同年4月より現職。専門分野は、通信・電気系、制御系、軌道力学系、テレメトリ・コマンド処理など。
趣味
音楽を聴くこと(最近はHarry Styles、藤井風がお気に入り)、その他いろいろ
座右の銘
特にありませんが、好きな言葉は利休の「花は野にあるように(本質を知り、簡潔に)」
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA