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2023.03.29
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月周回有人拠点「Gateway」に日本初の技術が貢献。その開発の内容は?

ゲートウェイ居住棟プロジェクトチーム
立原 悟、西城 大、早川 瑛庸
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国際宇宙探査計画「アルテミス計画」の最初のミッションである「アルテミスⅠ」が昨年11月に打ち上がり、本格的に月探査計画が始動しました。このアルテミス計画では月の周回軌道に有人拠点「Gateway(ゲートウェイ)」を建設予定です。
Gatewayは月面や月近傍の探査だけでなく、火星の探査に向けた中継基地などの役割も期待されています。国際協力のもと建設され、日本はその中で、主にミニ居住棟(HALO)へのバッテリの提供、国際居住棟(I-HAB)への環境制御・生命維持サブシステム(Environmental Control and Life Support Subsystem: ECLSS)やバッテリ、カメラ、冷媒循環ポンプの提供などを担当します。ECLSSは、宇宙飛行士が宇宙で生きていくために不可欠な仕組みです。(※Environmental Control and Life Support System: ECLSS と表記する場合もあります)

質量や電力などの様々な制約がある中、日本初の新しい開発に挑戦する「Gateway居住棟プロジェクト」。最前線に携わる3人に、仕事のやりがいや魅力について、ざっくばらんに語り合ってもらいました。

前回の自動ドッキング技術実証チームについての記事はコチラ

花、咲き続けるキャリア

Q: 自己紹介をおねがいします。JAXAに入社したきっかけも教えてください。

私が、このプロジェクトチームに入ったのは昨年6月なので、今、半年ほど経ったところです。大学では、合成したタンパク質を国際宇宙ステーション(ISS)で結晶化する、人工血液の研究をしていました。大学院ではもっと宇宙に関わることをしたいと、隕石の同位体分析に関わる研究室に入りました。卒業後は、他社で製品開発を5年経験した後、JAXAに既卒採用で入社しました。入社試験の面接では、Gatewayに関わりたいとアピールして、入社することができたんです。
それは、それは。今さぞ楽しんでおられることでしょう(笑)
うふふ。はい。それについては、追々、また…(笑)
私は自然科学全般やモノづくりがもともと好きで、学生時代は鳥人間コンテストに出て人力飛行機を作ったり、空力設計などをやっていました。モノづくりをさらに極めたいと、その後、トリノ工科大学へ留学し、より実学に近いモノづくりを学びました。大学院では国際宇宙大学にも留学し、宇宙実利用や宇宙ビジネスなどの宇宙開発全般を広くみました。
JAXAに入社した後は、5年ほど宇宙科学プロジェクトに携わっていて、このプロジェクトの前は、米国のマサチューセッツ工科大学で南極気球に搭載するJAXAの宇宙線観測機器の組み立てをしていました。昨年3月頃、突然電話をもらい「次は、筑波だよ」と言われたときは、びっくりしましたね。昨年5月から、今のプロジェクトに携わっています。
私は、大学で航空工学を学び、その後、川崎重工株式会社に入社しました。そこで配属されたのが、「きぼう」日本実験棟の温湿度制御装置を開発するプロジェクトでした。
温湿度制御装置は、Gatewayで日本が担当する肝となる技術ですね。
そうなんです。入社3年目に、当時の宇宙開発機構(NASDA)に出向になり、温湿度制御装置が完成するまで携わりました。その後、川崎重工株式会社に戻ったのですが、宇宙の仕事にもっと関わりたいという思いがつのり、NASDAに転職することにしました。信頼性評価などの仕事をしばらくしていましたが、Gateway居住棟プロジェクトが立ち上がり、チームに入ることになりました。
青春時代にやってきた経験が、今、花開いている感じなのでしょうか。
たしかに温湿度制御装置を立ち上げたばかりのころは、試験ばかりしていましたね。「きぼう」が無事完成した後は、ケネディ宇宙センターでの打ち上げ準備作業に参加もしました。今は、Gatewayで、その当時の経験を生かして仕事をしていますね。
なるほど、「きぼう」で一度、花が開いたうえで、またGatewayで花開くわけですね。
ということは、花が咲きっぱなしかもしれないですね。(笑)
かっこいい!
Gateway居住棟プロジェクトについて語る立原さん

居住棟を支える縁の下の力持ち

Q: 温湿度制御装置というプロジェクトの内容も少し具体的に出たところですが、「Gateway居住棟プロジェクト」とは、どのようなものになりますか。

一言でいえば、Gatewayの居住棟を支える縁の下の力持ち、でしょうか。
Gatewayでの主な日本の役割は、国際居住棟(I-HAB)において、環境制御や生命維持装置(ECLSS)などのサブシステムを開発することですね。
簡単にいうと、宇宙で閉じ込められた環境の中で、人が活動していくために必要な環境を整える役割になります。人が生きていくためには、空気の供給や制御、二酸化炭素や有害ガスの除去などが欠かせません。実際に、Gatewayでは4名の宇宙飛行士が、年間30日程度滞在することが想定されています。宇宙飛行士が生きていく上で欠かせない大切な機能を日本が任されているのです。
その機能の中では、立原さんも携わってきた「きぼう」の温湿度制御装置が生かされています。そして、今回、日本は、二酸化炭素除去システムと有害ガス除去システムにも新たに挑戦します。
二酸化炭素除去や有害ガス除去は、まだJAXAが獲得できていない新しい技術です。JAXAの将来的な有人探査にもつながる大事なミッションなので、挑む意義は大きいですよね。
このミッションが成功すれば、火星や、さらに遠い天体探査への大きな一歩になると思います。
Gateway居住棟プロジェクトについて語る西城さん

質量、電力、容積など様々な制約がある中で

Q: その中で、3人の役割はどのようになりますか?

私は二酸化炭素除去と、居住棟内の気圧のコントロールシステムの2つを担当しています。主担当と副担当がいて、それぞれの仕事を複数人で担当するようになっています。
私は、リソース課題解決担当です。今まで研究開発してきたものを実際にプロジェクトとして実用化するとなると、どうしても電力や質量などの厳しい制約が出てきます。Gatewayの場合、質量がISSの約6分の1という制約があります。同じように、電力供給にも非常に厳しい制約があります。その制約の中で、いかに生命維持機能を実現するか、全体をみながら技術調整や交渉をしていきます。サブシステム全体を把握する必要があるので、早川さんと一緒に二酸化炭素除去に関する性能向上・電力削減実験にも主体的に参加していますし、有害ガス除去や温湿度制御装置にも部分的にですが開発検討に従事しています。
私の業務は、サブシステムレベル及びアッセンブリレベルの仕様書作成や、安全性や信頼性解析の取りまとめ業務、開発を進めていくにあたって必要となる計画書作りなどです。若手職員には実際の機器設計を担当してもらい、どちらかというと私は上位からの要求や計画をまとめて、開発の体制づくりをしています。

Q: Gatewayの大きさは、どれくらいなのでしょうか?

質量ではISSの約6分の1という制約がありますが、容積(空間の広さ)としてはISSの約半分ぐらいの大きさですね。
西城さんはイタリアのタレス・アレーニア(国際居住棟の製造メーカー)の工場で、製作中のGatewayモジュールの外殻構造の実物を見てきたんですよね。
実際に見てみると、すごく小さい印象でした。直径は3m程度ですね。この図では、日本が担当する機器のみが描かれているので、実際のモジュール内はさらに物が増えて圧迫感がでると思います。
Gatewayモジュール(CG)

厳しい制約の中での、新しい挑戦

Q: 仕事をする中で難しいなというところや、やりがいを感じるところはどのようなところですか。

国際プロジェクトなので、NASAや欧州宇宙機関(ESA)と連携しながら進めています。難しいところは、どの機関にとっても初めての試みなので、Gatewayの前提条件が定まらないことでしょうか。よし、これでいこう!と始めてみたものの、こういうことを考慮しないといけないよね、という追加条件が入ってきて、ターゲットが定まらないことがあります。
今は基本設計の段階なので、まだカチッと決まらない部分があるかもしれませんね。
今回、Gateway全体の取りまとめはNASAで、I-HABのモジュールはESA担当、環境制御や生命維持装置はJAXA担当というのが難しいところですよね。
「きぼう」開発のときは、日本がモジュールをまとめて担当していたので、関係先が絞られていてやりやすかったと思います。今回、確かに関係先が多いのは難しい所ですね。
もう一つは、電力の制約が厳しいことですね。コンビニのレジにいくと、業務用の電子レンジが2台並んでいますよね。そこで使われているくらいの電力よりも小さい電力で宇宙飛行士たちの生命維持装置のシステム全体を稼働させなければならないという大変ハードルの高い要求もあります。今後、調整や交渉を通して、変わっていく可能性もありますが。
容積が小さいことによる課題もありますね。二酸化炭素除去では、空間が狭いため、人の吐く息の二酸化炭素濃度がすぐに上がってしまいます。呼気の二酸化炭素は、日本が開発した剤に吸着させた後、加熱・低圧化する運用をして剤から脱離させて船外排気します。装置としての除去能力が高くないとあっという間に空間内の二酸化炭素濃度があがってしまうのです。そういう点は非常に難しいですね。
一方でNASAやESAのエンジニア達と、こんなにも議論できる機会があるのは、さすが国際プロジェクトだと感じます。貴重な機会に良い刺激を受けつつ、要求される技術はかなりハードルが高いので、日々勉強中ですね。
すごくチャレンジングなことをしている実感がありますね。厳しい制約がある中、日本初のことに挑戦しているので、これを形にできたら、すごく充実感を得られるだろうなと。そういう思いで、今は実験・解析を進めたり、研究者や製造メーカーの知見をまとめて、プロジェクトとしての実現性を高める検討をしています。
開発段階としては、一つ目の節目である基本設計審査(PDR)の真っ最中です。昨年10月に審査会で指摘をもらったことを、今は実験しながら改善しています。今年、その確認会がある予定で、そこまでは山場になります。でも、そこを乗り越えれば、1つ手応えを感じられるかと思います。あと一息、頑張りましょう。
Gateway居住棟プロジェクトについて語る立原さん(左)、西城さん(右)

Q: プロジェクトを進める中で、おもしろかった出来事や、意思疎通で工夫されている点があれば教えてください。

プロジェクトのHPでは、海外メンバー向けに、それぞれのアバターを作ってコミュニケーションしていますよね。
日本のメンバーへの親しみを感じてもらうための一工夫ですね。
他には、毎日、勤怠と自分のタスクをチャットでいれるんですが、近況報告的に、自分のプライベートな情報を添える人も結構いますね。
殆どの人は一言、二言ですが、なごんだり、クスっと笑える情報もありますよね。お互いに人となりを知る良い機会になっているなと思います。その中でも、西城さんはプライベート情報、多めですよね。(笑)
おもしろかった出来事と言えば、私がプロジェクトに入ったばかりで、まだJAXAならではの略語を勉強しているときのことです。メールでの連絡で“GGQの BBQのお知らせ”と来たことがあったんです。一生懸命、GGQやBBQを略語資料で調べたりして、でも分からなくて…。結局、立原さんにお聞きしたら、「あぁ、GGQは“午後休”の略だよ。BBQはバーベキューね。」って教えられたこともありましたね。(笑)
Gateway居住棟プロジェクトについて語る早川さん
何でも略しすぎですよね。(笑) こんな感じで、基本的には和気あいあいとやってます。

月面や火星探査への道筋をつくるために

Q: 今後の目標について教えてください。

まずは、この厳しい制約の中で、生命維持装置を成立させることです。相当に難しいミッションなので、まずは頑張って成功させたいです。
Gateway居住棟プロジェクトは、空間が狭い事による難しい課題があると思います。でも、この先、月面に基地を作ったり、有人与圧ローバーを実現していくことを考えると、Gatewayよりも、さらにモジュールは小さくなるはずです。将来のことを見据え、まずはGatewayとしてプロジェクトを成功させたいです。
技術確立するのが、今回のミッションだと思っています。その新しい技術を日本が獲得して、月面や火星探査への道筋をつけることに貢献したいと思います。

Q: 次回のリレートークは、各プロジェクトに評価や助言を行う、「独立評価チーム」にお願いする予定です。メッセージをお願いできますか。

お手柔らかに…というか(一同笑)
これからお世話になる機会も増えていくはずですので、勉強させていただきながら、一緒に作り上げられたらと思っています。
Gateway居住棟プロジェクトチームのメンバー
立原 悟(たちはら さとる)

有人宇宙技術部門ゲートウェイ居住棟プロジェクトチーム 主任研究開発員

経歴

1990年 川崎重工業に就職。きぼう向け温湿度制御装置の開発に従事。

1993年 宇宙開発事業団に出向。きぼうの環境制御サブシステムの開発に従事。

1997年 川崎重工に復帰。閉鎖型生態系実験施設向け有害ガス除去装置や、成層圏プラットフォームの推進系開発に従事。

2002年 宇宙開発事業団に転職。現有人システム安全・ミッション保証室にて品証、信頼性評価に従事。また、2005年より有人宇宙技術開発 環境制御・生命維持WGに参加し、12年間環境制御システムの研究に従事

2018年 有人宇宙技術センターに異動。きぼう搭載用実験ペイロードの開発に従事。2019年からGatewayプリプロジェクトの立上げにも参加

2020年 Gatewayプリプロジェクトチームに異動。現在に至る。

趣味

野菜作り、山登り、映画鑑賞

座右の銘

雨垂れ石を穿つ

西城 大(さいじょう まさる)

有人宇宙技術部門ゲートウェイ居住棟プロジェクトチーム

経歴

2016年 JAXA研究開発部門 第二研究ユニット (宇宙科学研究所) 配属。熱制御系を軸として、BepiColombo (日欧水星探査機)の打上げ準備支援から始まり、SPICA/LiteBIRD (日欧極低温天文衛星) の冷却システム設計・要素試験やGAPS (南極気球搭載-日米宇宙線反粒子探索計画) の熱輸送デバイスの研究開発・設計製作に従事

2022年 Gatewayプロジェクトチームに異動。リソース課題解決を主眼に、二酸化炭素除去装置、温湿度制御装置、有害ガス除去装置の開発検討・実験・解析などに従事

趣味

カラオケ、DIY 、妻と温泉・海外旅行

座右の銘

明日死ぬつもりで生きよ、永遠に生きるつもりで学べ

早川 瑛庸(はやかわ あきのぶ)

有人宇宙技術部門ゲートウェイ居住棟プロジェクトチーム

経歴

2017年 化学系メーカーに就職。日系とドイツ系の合弁会社にて接着剤の製品・工程開発に従事。

2022年 JAXAに入構。新卒・既卒採用として2か月の研修を経て同年6月より現職。二酸化炭素除去装置ならびに酸素分圧・全圧制御装置の開発検討に従事。

趣味

ランニング、キャンプ、娘と遊ぶこと

座右の銘

終わりを思い描くことから始める

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA