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2024.12.27
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新型宇宙ステーション補給機 (HTV-X)1号機サービスモジュールを報道機関向けに公開

  • 国際宇宙ステーション
  • 宇宙ステーション補給機
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2024年12月10日、報道機関を対象とした新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機サービスモジュールの機体公開が、開発を担当した三菱電機株式会社において実施されました。会場は三菱電機の鎌倉製作所。HTV-Xの仕様や特徴、ミッションの概要説明、質疑応答があった後、衛星工場での機体見学が行われました。
公開されたHTV-X1号機サービスモジュール

機体公開に先立って行われたHTV-Xの概要説明では、三菱電機株式会社 宇宙システム事業部長の市川卓氏、鎌倉製作所 宇宙インフラシステム部 HTV-Xプロジェクト統括の鵜川晋一氏、JAXA有人宇宙技術部門 新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチームの伊藤徳政(のりまさ)プロジェクトマネージャが登壇。HTV-Xは、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)で得た技術を受け継いだ後継機で、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を担うとともに、ISSから離脱した後、実証実験プラットフォームとしても活用可能であることを紹介しました。また、「こうのとり」からの仕様の進化としては、カーゴの搭載質量や容積の拡大、利用者へのサービスの向上、従来のISS近傍通信と衛星間通信に加え、実証実験プラットフォームとして活用する運用フェーズでは地上局直接通信を追加していること、側面に翼のように大きく展開する太陽電池パドルを新たに搭載していることなども説明。さらに後続の2号機では、月周回有人拠点「Gateway」への物資補給を見据えて、自動ドッキング技術実証が計画されていることにも言及しました。

HTV-X1号機サービスモジュール機体公開の様子

報道関係者との質疑応答

HTV-Xの概要説明の後、会場に集まった報道関係者との質疑応答の時間が設けられました。そこでは、「こうのとり」と比較した場合の優位性や開発において大変だった点などに質問が及びました。その概要(一部)と回答を以下にご紹介します。

HTV-Xには、従来の物資補給ミッションに加え、軌道上での技術実証や実験を行うプラットフォームとしてのミッションがあるとのことですが、具体的にどのような実験があるのでしょうか?

HTV-X1号機については3つあり、1つ目が超小型衛星の放出ミッション(H-SSOD)です。ISSよりも高い高度から6Uサイズ(10cm×20cm×30cm)の衛星を最大4機放出します。2つ目は、JAXAにて開発した衛星レーザー測距(SLR)用小型リフレクター「Mt. FUJI」を用いた実証実験です。地上からHTV-Xにレーザー光を照射し、取り付けられたリフレクターから反射して返ってきた光を計測することで、HTV-Xの位置や姿勢を測定します。これは将来の宇宙デブリ除去につながる技術です。そして3つ目が、展開型軽量平面アンテナ「DELIGHT」の軌道上実証実験です。展開中の挙動や展開後の構造特性を計測する他、軽量平面アンテナによる地上からの電波受信実験や次世代太陽電池セルの特性計測も実施します。このような大型アンテナの展開試験は小型の衛星では難しく、HTV-Xの特徴を活かした実証実験と言えます。

ドッキング技術について質問です。HTV-Xは「こうのとり」と同様、ISSにはロボットアームで結合するが、Gatewayには自動ドッキングするという理解でよろしいでしょうか。また、「こうのとり」9号機で自動ドッキングのための無線LAN技術実証を行った記憶がありますが、HTV-X2号機での実証はその延長に当たるのでしょうか?

HTV-XにおけるISSへの物資補給のミッションは、「こうのとり」で培ったロボットアームを使ってISSに結合するという確実な方法で行います。その上で、HTV-X2号機では、ISSを一度離れた後に、再び接近して自動ドッキングの実証を行います。Gatewayでどのようなドッキングをするかは検討中の段階ですが、自動ドッキングは将来のミッションでは確実に必要となる技術ですので、その実証をHTV-X2号機で行う計画を立てています。なお、「こうのとり」9号機で行った、モニタカメラでISSを撮影すると同時に、その映像を無線LANでISSにリアルタイムで伝送し、さらにその映像を地上でも確認するという実証実験の結果は、HTV-X2号機で行う技術実証でも活かされます。

「こうのとり」の場合、三菱電機での開発範囲は電気モジュールだけでしたが、HTV-Xではサービスモジュールを担当されており、推進モジュールや曝露カーゴ搭載部など、担当範囲が広くなった印象です。開発において大変だったことなど、感想があればお聞かせください。

おっしゃる通り、今回は電気系の他に推進系なども含んでいますが、サービスモジュールのすべてを三菱電機の中で作っているわけではありません。例えば推進系は「こうのとり」と同様に、(株)IHIエアロスペースに担当していただいています。三菱電機でも人工衛星開発で培った技術として推進系技術を有しているので、IHIエアロスペースとお互いの技術を持ち寄って議論しながら開発してきました。また、曝露カーゴ搭載部についても、IHIエアロスペースが「こうのとり」の開発で培った技術を持っておられるので、同様にご担当いただいています。担当範囲が広がったことで大変なところはもちろんありましたが、人工衛星の技術などを上手く使いながら、協力して作り上げられたなというのが感想です。
三菱電機株式会社HTV-Xプロジェクト統括の鵜川晋一氏

これまでの「こうのとり」と比べた場合の、HTV-Xの優位性を教えてください。

「こうのとり」に比べてHTV-Xは輸送能力が約1.5倍に増強されています。「こうのとり」も、諸外国の補給機に比べると高い輸送能力がありましたが、それをさらに高めており、優位性としてはこの点が挙げられます。またもう一つ、単に物資を補給するだけでなく、ISSを離脱した後、大気圏に再突入するまでの間に、人工衛星と同じように地球を周回しながら、技術実証を行う機会を提供できる点も挙げられます。これは他社のドラゴン補給船などにはない機能です。物資補給と技術実証機会の提供、この2つの特徴を持つことから、個人的には「二刀流」という表現があてはまると思っています。

HTV-XはGatewayへの補給を含め、様々なミッションでの活用を見据えて開発されていると思いますが、それに向けての仕様や機能としては具体的に何があるのでしょうか?

いくつかありますが、例えばサービスモジュールと与圧モジュールに必要な機能をそれぞれ集約させ、モジュール単位で使いやすくしている点があります。また将来的に主流になるであろう、自動ドッキング技術もそうです。サービスモジュールに関しては、一般的な人工衛星と同じような機能を備えており、単独でも使えるので、さまざまなミッションに応用が利くと思っています。
JAXA HTV-Xプロジェクトチームの伊藤徳政プロジェクトマネージャ

衛星工場でのHTV-Xサービスモジュール実機見学

今回公開されたのは、サービスモジュールのうち、曝露カーゴ搭載部などを除いた本体部分。電気系搭載部と推進系搭載部で構成されており、全長は約3mあります。HTV-Xそのものは全長約8mなので、サービスモジュール本体はその半分にも及びませんが、HTV-Xが宇宙で存在・動作するための衛星バス機能が集約されており、機体の根幹となる部分です。
三菱電機鎌倉製作所で公開されたHTV-X1号機のサービスモジュール本体
HTV-X1号機はJAXA種子島宇宙センターからH3ロケットにより2025年度の打ち上げを目指します。今回公開されたサービスモジュール本体は曝露カーゴ搭載部なども含めて工場での全ての試験が完了しており、今後、射場への輸送など打上げに向けた準備が進められます。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA