インクリメント61/62

更新 2020年6月25日

インクリメント61/62期間

2019年10月4日~2020年4月16日

インクリメント61/62キーメッセージ

長期滞在技術実証の拡大
~有人宇宙探査に貢献する技術実証の推進と事業自立化へ向けた利用事業拡大の準備~

インクリメントマネージャ紹介

井上夏彦
インクリメント61/62マネージャ

インクリメント61/62は、JAXAに配分されたクルータイムは平均的であるにも関わらず、新規の大型ハードウェア(次世代水再生実証システム・大型人工重力発生装置)の設置と実験運用に加え、期間中最多の船外活動(以下"EVA"、約半年間に9回)の実施が計画されるという非常にチャレンジングなものでした。これに対し、利用運用関係者と計画設定当初から緊密に調整を行って計画に弾力性を持たせることで、キーメッセージに基づく利用を計画通り実施でき、その結果優れた成果を輩出することができました。

  • 本インクリメント終了時までに行われたEVAは計64回)

本インクリメントでは、「有人宇宙探査に向けた技術実証」と「民間企業等による利用事業拡大」の二本柱を重点課題として設定しました。前者においては、現在のISSのものよりも高機能な次世代水再生システムの宇宙での実証実験(JWRS)を世界に先駆けて開始するとともに、重力勾配の少ない大型人工重力発生機を持つ細部培養装置追加エリア(CBEF-L)を用いて月面重力を模擬した条件でのマウス飼育ミッション(MHU-5)を行い、5ミッション連続全匹生存回収という金字塔を打ち立てています(結果は現在解析中です)。また後者においては、「きぼう」ロボットアームを用いた超小型衛星放出で全3機の放出に成功するとともに、静電浮遊炉(ELF)を用いた実験では新型試料カートリッジ導入により実験成功率を格段に向上させて2020年度から新たに「きぼう利用戦略」に設定された「革新的材料研究支援プラットフォーム」へとつなげました。さらには船外実験プラットフォームで実施した小型衛星光通信実験(SOLISS)では、将来の宇宙探査や超小型衛星間の通信方式へ応用可能な軌道上光通信技術を軌道上で実証。宇宙利用拡大や宇宙ビジネスへの波及効果が評価され、第4回宇宙開発利用大賞(内閣総理大臣賞)を受賞し、いわゆる非宇宙企業の事業拡大にも大きく貢献できました。

これら直接的な利用上の成果に加えて、フライトディレクタとの緊密な連携のもと、「きぼう」利用運用の効率化・強靱化に向けた成果も数多く上げられました。その一つは、宇宙飛行士への実験作業割り当て柔軟化の工夫です。軌道上の実験運用は、事前に地上で行われる訓練を受けた宇宙飛行士に割り当てられますが、その宇宙飛行士に一時的に作業が集中してしまうことがあります。そのような時に、特定の実験運用のうち一般的な訓練を受けていればできるもの、万が一失敗しても安全上影響がないもの等を事前に識別し、さらに軌道上の訓練教材を準備することで負荷が特定の宇宙飛行士に偏らず柔軟に実施できるようにプロセス化を行いました。これは他宇宙機関に先んじて行われたもので、NASAからも高く評価されました。また、新型コロナウィルスが蔓延する中、フライトディレクタの強いリーダーシップのもと、「きぼう」運用要員に新型コロナ感染者を発生させず、万が一発生した際にも基幹業務を止めることなく運用を継続するための事業継続計画(BCP)を制定することができました。両者ともに今後の「きぼう」利用運用に対しても適用可能な重要成果と言えます。

自分にとっては初めてのインクリメントマネージャ(IM)業務でしたが、このようにフライトディレクタをはじめ関係各所の支援・協力により、今後につながる貴重な成果を積み重ねていくことができました。この経験をもとに、次回再びIMを担当するインクリメント64では一層効率的な利用運用と成果の最大化に努めていきますので、引き続き「きぼう」利用へのご声援をお願い申し上げます。

インクリメント61/62のIMを担当する井上夏彦です。

私が宇宙開発の世界に飛び込んだのは、最初の宇宙ステーションの組立フライト打上と同じ1998年。日本では星出宇宙飛行士らが選ばれることとなった宇宙飛行士選抜試験が行われており、この選抜試験における精神心理的評価の支援が私の最初のミッションでした。未知の国際宇宙ステーション(ISS)に向け、みな半ば手探りで道を切り拓いていました。

それから約20年、日本の宇宙実験棟「きぼう」が完成して10年、日本人宇宙飛行士はISSで船長(コマンダー)を任せられるまでになりました。「きぼう」での活動の軸足も、技術開発は有人宇宙滞在に向けたものから将来の国際宇宙探査に向けた技術実証へと、「きぼう」利用は宇宙環境を利用した科学実験から民間企業等による事業化へと、それぞれ新しいステージに移行しています。

このような日本の宇宙技術・宇宙環境利用の発展状況を踏まえ、インクリメント61/62では「長期滞在技術実証の拡大~有人宇宙探査に貢献する技術実証の推進と事業自立化へ向けた利用事業拡大の準備~」をキーメッセージとして掲げました。このキーメッセージの実現に向けた代表的な新規ミッションとして以下を予定しています。

  • 現行のISSシステムより高効率かつ消耗品不要な「次世代水再生実証システム技術実証(JWRS)」
  • SONY社のレーザー光技術を用いて長距離空間光通信技術実証を行う、「小型衛星光通信システム(SOLISS)」
  • 月面ローバ設計や天体成長過程に対する理解への貢献を目指す、「惑星表面の柔軟地盤の重力依存性調査(Hourglass)」
  • 精密な月・火星模擬重力環境実験を可能とする新型インキュベータ「細胞培養装置追加実験エリア(CBEF-L)」
  • 上記搭載の大型遠心機を用いてマウスの1/6G飼育を行う「第5回小動物飼育ミッション(MHU-5)」

これらに加え、既に実績を積み重ねている、「超小型衛星放出」や「高品質タンパク質結晶生成」も予定しており、探査と地上の産業への貢献とを両睨みで見すえたテーマで盛りだくさんです。

これまでのIMからのたすきをしっかりと受取り、本インクリメントで「きぼう」の持つ社会的価値を高めつつ、将来の国際宇宙探査に向けた貢献の礎を築いて次に引き継いでいけるように活動してまいります。

利用ミッション(実施)

長期滞在・探査ミッション技術獲得

新薬設計支援プラットフォーム

  • 高品質タンパク質結晶生成実験
    • 高品質タンパク質結晶生成実験(ロシア打上げ)第3期第5回【JAXA PCG#17】
    • 高品質タンパク質結晶生成実験(中温、米国打上げ)第4回【JAXA MT PCG#4】

健康長寿研究支援プラットフォーム

超小型衛星放出プラットフォーム

船外ポート利用プラットフォーム

革新的材料研究支援プラットフォーム

新プラットフォーム形成(新素材の宇宙実証による信頼性向上への貢献)

宇宙医学

科学研究促進(物質・物理科学)

その他

  • お酒まろやかミッション【Spirits Maturation】

  • 利用ミッションは、「きぼう利用戦略」の具体的取り組みの分類に基づいたマッピング(図1)を基に優先順位を定めています。
図1 インクリメント61/62利用ミッションの「きぼう利用戦略の具体的取り組み」マッピング

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター
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