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2024.03.11
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月極域で水の存在をつきとめる「LUPEX」プロジェクトとは?

月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチーム
麻生 大、勝又 雄史、小坂 真也、西谷 隆介
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近年、様々な観測データから、月の極域には、水が存在すると考えられるようになりました。今後、「アルテミス計画」や月を起点とした宇宙探査活動を持続的にしていくためには、月面での水資源の確保が鍵となります。現在、JAXAはインド宇宙研究機関(ISRO)との国際協働ミッションにおいて、月面の水の存在形態や量のデータ取得を目的とした月極域探査LUPEXプロジェクトを進めています。プロジェクトの詳細や開発への想いを、チームメンバーが語りました。

前回のLAMPEミッションチームについての記事はコチラ

Q: 自己紹介をお願いします。

月極域の水の存在量や存在形態を決めるための観測機器の開発を担当しています。大学では、土星の氷衛星の研究をしていましたが、研究員時代は主に月極域の揮発性成分に関する研究をしていました。その後、月の氷の探査もしてみないかとお声がけ頂き、このプロジェクトに入ることになりました。
私は地上システムや運用系を担当しています。大学では宇宙環境利用工学の研究室に所属していました。このプロジェクトの前は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」の運用管制官を9年間していまして、主に電気通信系を担当していました。
私は、月面を探査するためのローバシステムの開発を担当しています。大学では電気電子系の学科で、半導体の研究をしていました。その後、自動車会社で電気自動車等の開発などを経て、JAXAに転職しました。JAXA入社当時は国際宇宙探査センターで月着陸機など月探査の研究開発を担当していました。
LUPEXプロジェクトの取りまとめ役、プロジェクトマネージャをしています。大学では情報工学を専攻し、人工知能の研究をしていました。宇宙に目覚めたきっかけは、米国と旧ソ連が軌道上ドッキングを成功させた「アポロ・ソユーズ計画」です。たしか小学5年生の頃でしたが、冷戦状態にあった国同士が宇宙では手を取り合える事に感動しました。それ以来、宇宙開発を一筋に目指すようになり、JAXA(当時の宇宙開発事業団)に入りました。このプロジェクトの前は、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ、宇宙ステーション補給機(HTV)の飛行管制チームのリーダ、フライトディレクタを8号機まで務めました。
(左から)チームメンバーの小坂さん、勝又さん、麻生さん、西谷さん

「月極域で水を探す」

Q: LUPEXプロジェクトとは、どのようなものになりますか。

LUPEXプロジェクトは、月の南極に探査機が行き、水(もしくは氷)がどのような状態で、どれだけあるかを調査します。月の極域には、長時間日の当たらない「永久影」とよばれる場所が存在し、水が月表面近くに残っている可能性が高いことが分かっています。具体的には、まず探査機を月に着陸させてローバを展開し、移動しながら水の反応がある場所を探します。水がありそうな場所をみつけたら、そこをドリルで掘り、月のサンプルを採取し、西谷さん担当の観測機器で分析します。

今後の月面での活動に必要な「移動」、「掘削」、そして月面で夜を超えて調査する「越夜」などの技術獲得も期待されています。
LUPEXローバが移動するイメージ(CG)

Q: 月のサンプルを採った後は、どのように水分を計るのですか。

観測機器の1つである水資源分析計(REIWA)では、コンテナで受け取った月のサンプルを加熱し、加熱前後のサンプルの重量測定や、熱されて出てきたガスの分析をしていきます。それにより、サンプルからどれだけガスが発生したか、どんな種類のガスが含まれるかを特定します。また、この観測機器の微量水分計測部では容器に含まれるガス中のナノグラムレベルの微量な水分を検知します。これら機能によって、サンプル中の水分量を計っていきます。
2025年度の打ち上げを目指して、日本は打ち上げ時のロケットとローバ、そして搭載する観測機器などを担当します。LUPEXプロジェクトはISROとの国際協働ミッションですが、ISROはローバを載せる月着陸機を担当します。またローバには、NASA、欧州宇宙機関(ESA)やISROも観測機器を載せる予定です。
現在「アルテミス計画」が進んでいますが、今後月面基地を作り活動するためには、地球から資源を運び入れるのではなく、月にある資源を使わないと成り立ちません。このプロジェクトは、そのためのデータ取得という意味合いがあります。
水の具体的な量や分布が分かれば、月面活動だけでなく、月を起点にした惑星探査活動を活発化する鍵にもなります。もちろん、月の科学的な調査としても大変意味があります。
月球儀を指しながら月面探査について語る麻生さん

人類未踏の地を探査する難しさ

Q: お仕事される中で難しいなと思う事、そして、やりがいについて教えてください。

私は、月と地球間の通信や、月面上での通信の周波数調整を担当しています。通常、電波で通信する場合、他のプロジェクトを邪魔しないように、ある帯域を使うようにという制限があります。また国際機関との連携も必要になります。今回の月面探査では、過去の事例があまりなく、参考になる資料が少ないのが悩ましいところです。実際にやってみないことには分からないということも多く、まさに手探りの状態なのが難しいところです。
プロジェクトについて語る小坂さん
月は地球の重力の6分の1しかない低重力天体で、その環境でサンプルを加熱し、重量を測定するのは世界でも初めての試みです。それゆえに、水資源分析計はとてもチャレンジングな機器だと思っています。採取する土壌も、正直よくわからない状態ですし、それをサンプリングして温めるという過程で、どのような手法を取るべきか悩むところです。
観測機器のメーカーさんや、観測機器の提案をしてくださった先生方と一緒に議論しながら、こういう条件ならばこれがベストではないかと、考える毎日です。開発試験をする中で、思っていたデータがとれない事も多々ありますが、不具合の可能性を一つ一つ洗い出して解決し、これだ!という手法が見えた時は、やりがいを感じます。よかった、なんとかなった!と皆でガッツポーズするような瞬間がありますね。
今回、探査の為に着陸するポイントは、平地ではなく山の尾根のような場所です。これまで月の南極に行ったローバはないので、その場所が、砂一面に広がっているのか、はたまた岩石がゴロゴロあるような場所なのかは全く分からない状況です。
そのため最悪な状態であっても、できる限り走れるようにするための工夫が必要です。月の砂(レゴリス)というのは、とても細かい粒子で、空気もなく低重力の月では、かなりふかふかな状態になっているはずです。その状態であっても、急な斜面に登るなど、様々な動きを実現するために、走行系を工夫しています。今回のローバでは車輪に相当する部分に、農業機械や建設機械でよく使われるクローラと呼ばれるものを使用しております。クローラは一般的な車輪のように丸い形ではなく、月面をガシッと掴めるように、底面を平らにして接地面積を大きくとったものになります。また、ローバの姿勢が傾きそうなときには、自分で判定し姿勢を立て直すなどの自動機能も備えています。
月面探査の難しさについて語る勝又さん
LUPEXローバ
ローバの車輪について説明する勝又さん
私が苦労したのは、人付き合いのところかもしれません。2020年にプリプロジェクトが発足したのですが、ちょうどコロナ禍真っ最中。国際協働するはずのインドは、日本の10倍の感染者数でした。そのため一番調整が必要な時に事業所閉鎖になり、電話もメールも通じない状態になってしまったんです。ISROでは、3ヶ月間の事業所閉鎖が2回あったので、その間は全くメールの返事がこないという状況で、大変でした。今年の4月にようやくインドに行ってもよいことになり、これはチャンスだと日本から8人で行きました。このコロナ禍の3年分を取り戻したと思うくらい、一気に調整が進みましたね。やはりオンライン会議などができるようになっても、最後は人と人が会って話すと調整が進むなと実感し、嬉しかった事です。またぜひ直接会って2回目の調整をしたいと考えていますが、今はオンライン会議で頑張っています。

競争ではない協力の世界を目指したい

Q: このプロジェクトの中で、目標はありますか。

LUPEXプロジェクトのために新たに管制室を用意する必要がありまして、今、筑波宇宙センターの運用棟に整備しようとしています。実は「きぼう」の管制室が完成したときから、自分もいつか管制室に関わりたいという気持ちがあったんです。今回、管制室整備の話が出て、周りからかっこいいと思ってもらえるような管制室を自分も作っていきたいという目標もできました。
観測機器が徐々にできてきているので、まずは、それをしっかりと作り上げて、試験を行っていきたいです。また、月面で取得したデータを最大限活用できるように、地上でできる準備は、全部やりきりたい気持ちです。
個人的には、着陸機が月面へ行った際には、管制室で画面を見つめながら、どのタイミングで、どんなガッツポーズするかは、よく考えていますね。笑 着陸機が月に降りた瞬間なのか、ローバが走り出した瞬間なのか、サンプルをコンテナに入れた瞬間なのか。
サンプルを分析し終わった瞬間もありますし、ガッツポーズするタイミングは沢山ありそうで迷ってしまいそうです。
プロジェクトの目標について語る西谷さん
そろそろローバの基本設計が終わろうとしているので、来年度はエンジニアリングモデルと言われるものを作り、それをしっかりと評価していきたいです。月面で性能が発揮できるかは、模擬して作った環境も含めて、エンジニアリングモデルが鍵になると思います。ここで着実に詰めて、月面でしっかりと走ったり掘削したり、機能性を発揮できるものを作り上げたいです。
水の存在を突きとめるということに関しては、世間では国同士の競争があるように報道されることがあります。私は、その一歩先を成し遂げたいと考えています。
LUPEXプロジェクトが月の極域で水を発見したとして、他にもNASAの月面ローバ「バイパー」や、ヨーロッパ、中国、色々な国も調査したデータを持ち寄り、お互いに協力できるような世界を目指したいです。そして、皆で、こういう条件の所を掘れば一番効率よく水資源がとれると確認し、月面基地の場所を決めるような国際協力で探査を進める世界をぜひ、作っていきたいですね。

Q: 次回のリレートークは、ISSで活動する船内ドローン「Int-Ball2」のチームにお願いする予定です。メッセージをお願いできますか。

Int-Ball初号機では、実際にコマンドを打ち運用していました。2号機では、どれくらい進化しているか楽しみです。
私もフライトディレクターを担当した経験から、Int-Ballが空気循環のある「きぼう」の中で自立して止まることができるのは、技術的にかなり難しいことだと感じてきました。それに、Int-Ballは顔のように見えて、すごく可愛いですよね。最初から、その可愛さを狙っていたのか気になっています。笑
開発の難しさをどのように克服して、皆に愛されるInt-Ballを作り上げていったのか、ぜひお聞きしたいです。
プロジェクトについて語り合う小坂さん、勝又さん、麻生さん、西谷さん
麻生 大(あそう だい)

有人宇宙技術部門 月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ

経歴
1989年、宇宙開発事業団(NASDA。当時)中央追跡管制所配属。人工衛星の運用・地上システム開発(日/ESA職員交換制度で1年間ESAに在職)、国際部調査課を経て、2000年に有人部門へ異動。セントリフュージ開発(生命科学グローブボックス担当)、HTV開発・運用(1~8号機のフライトディレクタ担務)兼JEM運用管理業務を経て2020年に現職へ。

趣味
旅行、写真(主に愛犬の)、バードウォッチング

座右の銘
雲外蒼天
(藤井聡太名人とカブってますが、私は名人がこの世に生を受ける前から…)

勝又 雄史(かつまた ゆうじ)

有人宇宙技術部門 月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチーム
主任研究開発員

経歴
自動車会社での勤務を経て2019年にJAXAに入社。自動車会社では主に電動車両関連の制御・車両システム・電動コンポネント開発に従事。JAXA入社後は、月着陸航法誘導制御系の検討や月面探査ローバの検討など月探査技術の研究開発に携わり、LUPEXではローバシステムのシステム検討を担当する。

趣味
アウトドア

座右の銘
自己を発見し、自己に徹しよう。

小坂 真也 (こさか しんや)

有人宇宙技術部門 月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチーム
研究開発員


経歴
2013年より9年間JEM運用に従事。JEM運用では電気通信担当として、シフト業務、手順書などの運用プロダクトの作成を行っていた。2022年よりJAXAに出向し、月極域探査機プロジェクトチームにて、運用、地上システム、計画、周波数調整などを担当している。

趣味
将棋(3歳の頃から双子の兄と将棋を指していました)、スポーツジム(最近体重増加が気になり始めたので昨年からジムに通っています)

座右の銘
本気の失敗には価値がある

西谷 隆介 (にしたに りゅうすけ)

有人宇宙技術部門 月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチーム
研究開発員

経歴
大学での研究員を経て2022年にJAXAに入社。研究員時代は主に月の揮発性物質について研究。LUPEXミッションではローバ搭載の観測機器開発や掘削機構の試験等に従事。SLIM搭載のマルチバンド分光カメラ(MBC)の運用にも携わる。

趣味
銭湯、喫茶店、レコード集め、バスケットボール

座右の銘
The first principle is that you must not fool yourself, and you are the easiest person to fool.

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA