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2022.12.21
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進化した新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」。その開発の魅力とは?

新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチーム
原田 基之、小林 裕希、深川 竜太郎、山田 耕史
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2020年、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)が長きにわたる役目を終えました。現在は、その次世代を担う新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発が佳境を迎えています。2017年にプロジェクトチームが発足した「HTV-X」は国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶだけにとどまらず、様々な実証実験もでき、ゲートウェイ(月周回有人拠点)への発展も見据える補給船。
開発の最前線に携わる4人に、宇宙ステーション補給機の進化や、仕事の魅力についてざっくばらんに語り合ってもらいました。

様々な宇宙イベントがJAXA入社のきっかけに

Q: 簡単に自己紹介をおねがいします。JAXAに入社したきっかけも教えてください。

私は入社4年目で、「HTV-X」の与圧モジュールの開発を主に担当しています。出身が宮崎県なのですが、実は種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所からのロケットの打上げが実家から見える環境で育ちました。
えっ。すごい!
インターネット中継で打ち上がった様子を確認してからベランダに行ってみると、宇宙へ向かうロケットが光の点のように見えるんです。そんな環境で育ったこともあって、子どもの頃は理科全般が大好きでした。大学では宇宙の成り立ちについて知りたいと思い、素粒子物理の研究をしていたのですが、ロケットや宇宙開発にも興味があったのでJAXAに入りました。
入社して5年目で、HTV-Xプロジェクトでは主にサービスモジュールの電源系の開発を担当しています。宇宙に初めて興味を持ったのは中学生の頃です。NASAの火星探査車「キュリオシティ」が火星に着いたニュースを見て感動したのです。自分もいつか宇宙機器を作ってみたい!とCPUボードを使った電子工作にのめりこみました。宇宙機というと私の中で電子機器の塊というイメージがあって、学生時代は電気を専攻しました。
中学生の興味からJAXAに一直線ですか?
ずっとJAXAに入社したいと思い続けてきて、運がいいことにJAXAに入社できました。実は就職活動ではJAXA以外受けていないんです。
すごい!
私は2008年に入社して、15年目になります。学生時代は超伝導材料の物性や薄膜の研究をしていました。学部時代には学生ロボコンに出場したりもしていました。学生時代からずっと最先端の技術に携わりたいと思っていたため、宇宙の先端技術を主導するJAXAに入社しました。
入社後は、研究開発部門にて太陽電池および太陽電池パドルの研究開発を担当し、宇宙ステーション補給機に関わるようになったのは「こうのとり」4号機からです。
みなさんJAXAに入社する動機が立派ですよね。僕は1997年入社なので、もう25年ぐらいになります。「こうのとり」の開発には1号機の最初から3号機まで13年間携わりました。だから宇宙ステーション補給機には愛着がありますね。
「こうのとり」の後、しばらく補給機プロジェクトからは離れていましたが、また「HTV-X」プロジェクトが始まり舞い戻ってきました。僕の役目は「HTV-X」の取りまとめですが、「こうのとり」の開発を見てきた人間として、今までの経緯をみなさんに伝えることだと思っています。
プロジェクトのファンクションマネージャの原田さん

補給機からのさらなる進化。技術を試す場としての「HTV-X」

Q:「HTV-X」のプロジェクトについて教えてください。「こうのとり」の運用が終わり、「HTV-X」の新しさはどのようなところにありますか。

これまでの「こうのとり」というのは、国際宇宙ステーション(ISS)に物を運ぶ役割が使命でした。でも「HTV-X」では物資の補給はあくまでも使命の一つで、すべてではないのです。
もちろんISSへの輸送能力は向上させます。でも、それに加えて新しい技術を試す場を提供することも使命です。さらにはゲートウェイ(月周回有人拠点)構想に対して、「HTV-X」で物資補給する未来も見据えて開発を進めています。

Q: 新しい技術を試すというのは、具体的にはどのようなことでしょうか。「こうのとり」との違いについてもう少し教えていただけますか。

例えば「HTV-X」はISSへ輸送する荷物以外にも、宇宙で技術実証を行う機器を搭載する能力を持っています。曝露部や空いているスペースに機器を搭載し、必要な電力や通信を供給することによって宇宙で新しい実験をしたいユーザーさんが技術実証のプラットフォームとして使えるようにしています。有人のISSは、安全上の制約も多く、また高度や姿勢も簡単には変えられませんが、無人の「HTV-X」ではそれらのハードルが低くなるメリットもあります。「HTV-X」1号機では、この特長を生かして、展開後に2m×4mほど大きさになる折りたたんだパネルを広げる実験や、ISSより高い高度から、2Lのペットボトルを横に2本並べたくらいの大きさの超小型衛星を放出する実験などを行う予定です。
新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)からの超小型衛星の放出の様子(CG)
「こうのとり」との違いと言えば、見てわかるように「こうのとり」にはなかった、左右に広がる太陽電池パドルです。「こうのとり」では信頼度やISS構造との干渉などの懸念を考慮して”ボディマウント”と呼ばれる方式を採用し、ボディに大小の太陽電池パネルを50枚ほど巻きつけて発電していました。「HTV-X」では、その実績を踏まえて”展開型パドル方式”として、太陽電池を左右の太陽電池パドルに集めています。

Q: この左右に広がる太陽電池パドルは、打上げのときは、折りたたまれているのでしょうか?

そうですね。山折り、谷折りで折りたたまれていて、ロケットから分離された後に開かれます。「HTV-X」の姿勢をうまく制御し太陽の方向に向け、より充電を重視する期間も作りながらISSまで行きます。
ISSへは、スラスタと呼ばれる小型のロケットエンジンを使って軌道の高度を徐々に上げながら接近します。ISSの真下約500mに着いたあとは、まっすぐ上昇して、最後にISSにいる宇宙飛行士がロボットアームで「HTV-X」をつかみます。太陽電池パドルは、その後もずっと開いたままです。
「HTV-X」の大きさは「こうのとり」とほぼ同じですが、荷物をより多く積めるようになりました。それは「こうのとり」のとき、予備でたくさん積んでいたバッテリ蓄電池を「HTV-X」では下ろしたのが一因となっています。「こうのとり」ではISSに対する安全面も考慮して予備の畜電池を搭載していましたが、実績から必ずしも必要でないとわかり、本体を軽量化できたのです。
HTV-Xについて語る深川さん
そのため飛行中の電力確保が必要で、太陽電池パドルをわざわざ太陽に向けることもやります。これをISSに行くまで数回,1回6時間程度の充電期間を取りますが,その間は通信が一時的に取れなくなります。姿勢を変えたり通信が取れなくなるのは宇宙機の運用では大変なことなのですが、これまでの「こうのとり」の実績から問題なくできると判断しています 。

悩みは約千語ある略語

Q: 打上げがとても楽しみです。日々の仕事している中で、大変なことも多くあると思うのですが、悩みはありますか?

入社直後に一番驚いたことで、今でも悩みの種なのですが、略語が多いことでしょうか。3文字ほどのアルファベットの略語が、仕事の中でたくさん出てくるのには戸惑いました。略語集も渡されましたが、なんと1000語ぐらいリストがあるんです。
ありとあらゆる部品や機器、機能を、我々はすべて略語で呼ぶんです。例えば、ただ電池と言えばいいところを、Battery(バッテリ)からとってBATとか。それを全部覚えなければならないのは、たしかに悩ましいです。
CBMにCCU、UPCSSにPVGF……。FC、HAMやDOMなどの略語がありますね。たしかに入ってきたばかりの人には難しいかもしれないです。

(*) CBM:Common Berthing Mechanism(ISSとの共通結合機構)、CCU:Cabin Control Unit(与圧モジュールのキャビン制御装置)、UPCSS:Unpressurized Cargo Support System(曝露カーゴ搭載支援系)、PVGF:Power and Video Grapple Fixture(電力・ビデオインタフェース付把持機構)、FC:Flight Computer(サービスモジュールのフライトコンピュータ)、HAM:Height Adjust Maneuver(高度調整マヌーバ)、DOM:De-Orbit Maneuver(軌道離脱マヌーバ)
新しく開発した機器の名称を決めるときは、略語にしたときの語感や読み方にも気を遣います。深川さんの名前になぞらえた略語もありますよね。
はい。新しい名前をつけるときに、遊び心で自分の名前を少しもじって入れるみたいなことをしたり……。
もちろん、真面目な意味はちゃんと持たせてありますけどね。(笑)
HTV-Xプロジェクトについて語る、原田さんと山田さん

Q: 小林さんは、働き方の面で悩みはありますか?

そうですね。仕事の悩みというより働きかたの面になりますが....。私は今、3歳になる子どもがいるのですが、すぐに熱を出したりしますし、送迎の時間だったりと、時間の制約があるのは悩みですね。病気で保育園を休んでいた息子が、テレワークの会議中に「ママー!」っと勢いよく抱きついてきてくれたのですが、まさに発言中だったため焦ったこともありました。会議がお迎えの時間にかかってしまったり、電話対応中だったりと、小走りでお迎えに向かいながら発言したりすることもたびたびあったり。
でも「こうのとり」も「HTV-X」も、チームに小さいお子さんがいる方が多くて、チームでフォローしてくださる体制ができているのがとてもありがたいです。みなさん、仕事と同じくらいプライベートも大切にされるので、、例えば「子どもの行事で休みます」というのも違和感なく許容される雰囲気なのは嬉しいですね。深川さんはどうですか?
「HTV-X」プロジェクトは、NASAや国内外のメーカーなど関係者が特に多いプロジェクトなので、調整が必要なことが多いことでしょうか。関係者の中で折り合いをつける必要があるのは、難しく感じる部分です。
調整が多いので、会議が一日中あったりもしますよね。時差もあるNASAとの打ち合わせでは、JAXA側は早朝、NASA側は夕方という変則的な時間で会議したりするのも大変です。
HTV-Xプロジェクトについて語る、小林さんと深川さん

太陽光の中で光り輝く「HTV-X」を見たい

Q: 「HTV-X」はまだ開発の途中にはなるのですが、お仕事をする中で、やりがいを感じたことや嬉しかったことがあれば教えていただけますか。

やっぱり、与圧モジュールの1号機が完成したことじゃないですか?
そうですよね。
「HTV-X」は、大きくは与圧モジュールとサービスモジュールという2つの部分に分かれます。与圧モジュールというのはISS船内で使う物資を積み込むモジュールで、地上と同じ気圧に保たれていて、宇宙飛行士も出入りできます。サービスモジュールは宇宙空間を「HTV-X」が飛行するために必要な機能、たとえば誘導制御機器や通信機器、電源・太陽電池パドル、スラスタ(小型ロケットエンジン)、実証実験のための機器などを載せる機能があります。
そのうちの与圧モジュールの1号機が先日、完成したんですよね!
与圧モジュールはメーカーの開発は完了し、今年の夏に種子島に輸送しました。一つ大きい仕事を終えて、やりがいを感じています。まだNASAの開発完了審査を控えているので、その準備や調整はまだ残っていますが。
審査会はNASAも来日して筑波で行うのですが、様々な説明資料を当日までに準備する必要があるんですよね。
僕のほうは、HTV-Xのサービスモジュールは開発途中なので、まだ喜びまでには至っていないです。でも「こうのとり」には7号機から9号機まで3回関わってきたので嬉しい瞬間がたくさんありました。「こうのとり」が打ち上がってISSに近づくと、ISSのライブカメラからその様子を見られるんです。それまで手元で作ってきた「こうのとり」が、キラキラと太陽光を浴びて輝いていたり、背景に地球が見えるのは、すごく感動です。その管制室に自分がいるというのも嬉しかったですね。「HTV-X」でもぜひ見たい景色です。
「こうのとり」9号機 ISSからの取外し〜ISSのロボットアーム(SSRMS)による放出位置への移動の様子 Image by JAXA/NASA
こうのとり4号機に最初に担当したミッション機器が搭載されていたのですが「こうのとり」が打ち上がって、ライブカメラでISSからのクリアな映像が見えたときには、私も感動しました。自分が携わった「こうのとり」7号機の小型回収カプセルが戻ってきたときも、大変だったなという思いや成功した安堵とともに「すごい!」と心から思いましたね。
今、私は「HTV-X」のサービスモジュールの全体取りまとめも担当しているのですが、今まさに開発は佳境なので、正直、喜びよりも頑張らなくては、という気持ちが強いですね。
「HTV-X」の打上げに向けて、運用管制チームの訓練も始まっています。運用メンバーには忙しい開発スケジュールの合間をぬって訓練に参加してもらうので、調整の難しさもありますが、頑張っていきます。

成功したという手応えを味わってほしい

Q: それでは最後の質問ですが、このミッションが達成された後に、自分としてどうありたいか、どう成長していたいか、よろしければ教えてください。

HTV-Xが打ち上がったのを見届けた時に、自分はこの部分をやり遂げたぞ、という実感を持っていたいです。
今はまだ、JAXAが「こうのとり」で培った知見を吸収し、目の前の開発をひたすら進めていくフェーズだと思っています。ミッションが終わる頃には、ゲートウェイ(月周回有人拠点)への補給に向けた検討が本格化していると思いますので、その頃には自分から積極的に提案できるようになりたいと思います。
「こうのとり」から携わってきて、気づけば古株になっていました。自分が若い頃にはマネージャの皆さんに見守ってもらいながら自由にやらせて頂いたなと思っています。若いメンバーには同じようにのびのびと成長してもらいたいと思いますし、自分が吸収してきたことを中堅として若い方にしっかりと伝えて、成功に向けた道筋を作っていけるようになりたいです。
とにかく計画されている3号機まで成功に導くことです。とても幸いなことですが、これまで自分が関わってきた「こうのとり」などのプロジェクトも成功してきました。この達成感は、ぜひ若い人に味わってもらいたいですね。
成功までの過程の中で、ギリギリの力を振り絞る局面も、これからあるかもしれない。
でも、そこも乗り越えて最終的には成功するという経験を皆さんにはしてもらいたい。そして、「HTV-X」の開発をキャリアの一つとして持ってほしい、その手伝いができれば本望です。

Q: 次回のリレートークは「HTV-X」2号機に搭載する自動ドッキングシステムの実証プロジェクトチームにお願いする予定です。メッセージをお願いできますか。

わたしたちは「HTV-X」1号機を確実に成功させます!そして、2号機での自動ドッキング技術実証に向けた準備を整えて待ってま~す!

メンバープロフィール

原田 基之(はらだ もとゆき)

有人宇宙技術部門 HTV-Xプロジェクト ファンクションマネージャ

経歴

1997年宇宙開発事業団入社後2年間、企画室・企画部にて宇宙開発委員会関連業務に従事。
その後13年間「こうのとり」の通信・データ処理系、近傍通信システム開発等を担当した後、3年間、高エネルギー電子・ガンマ線観測装置 (CALorimetric Electron Telescope: CALET)の電気システム開発及び運用準備を担当。
その後3年間、チーフエンジニア室にて、JAXAプロジェクト審査及び進捗評価を担当。
2020年から現職。HTV-Xの統合化制御系・推進系サブシステム開発、NASAインタフェース調整、運用の取りまとめを担当。

趣味

食べること、レトロビデオゲーム、音楽鑑賞(’80-‘90年代ポップ)、読書、プラモデル作り

座右の銘

継続は力なり

小林 裕希(こばやし ゆき)

有人宇宙技術部門 HTV-Xプロジェクト 主任研究開発員

経歴

理工学研究科物質生産工学専攻博士後期課程修了。2008年入社。
入社後研究開発本部電源グループにて、太陽電池/太陽電池パネルの研究開発に従事。
HTV4号機より、電気系技術全般およびミッション機器担当としてHTVの運用・開発業務に従事し、HTV7号機では小型回収カプセルの開発・支援にも携わる。現在HTV-Xのサービスモジュールインテグレーション、電源系技術全般などを担当している。
宇宙の電力系にこの人がいれば安心できると言ってもらえるような幅広い知識と深い技術を有する人材になれるよう日々努力中。

趣味

ドライブ、Café巡り、本を読むこと。

座右の銘

始める前からあきらめない。
焦らず。腐らず。諦めず。
謙虚にして驕らず。

深川 竜太郎 (ふかがわ りゅうたろう)

有人宇宙技術部門 HTV-Xプロジェクト 研究開発員

経歴

電気情報工学科卒(高専本科)。2018年入社。
入社後は2020年まで有人宇宙技術部門で宇宙船「こうのとり(HTV)」の運用に従事し、その後は現在まで後継機となるHTV-Xの開発に参加。業務では一貫してHTV/HTV-X電源系の運用・開発を担当。具体的にはNASAとの技術調整を実施し、それに基づく設計への反映などを行う。

趣味

ドライブ。(最近は動物に愛車のバンパーを壊されたので修理中です…)

座右の銘

やってみせ、言って聞かせてさせてみて、誉めてやらねば人は動かじ。

山田 耕史(やまだ こうじ)

有人宇宙技術部門 HTV-Xプロジェクト 研究開発員

経歴

理学系研究科物理学専攻修士課程修了。2019年入社。
HTV-Xプロジェクトチームに配属後、技術実証ミッションのインテグレーション業務、衛星放出機構の開発に従事。また、与圧モジュール全般の開発担当として、メーカーやNASAとの技術調整、安全審査・設計審査対応などを行う。さらに、「こうのとり」9号機の運用管制に携わったほか、現在HTV-Xの管制員として訓練中。

趣味

カメラ、アーチェリー

座右の銘

千里の道も一歩から

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA