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2023.11.16
  • プレスリリース等

JAXA大西卓哉宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に係る記者会見

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2025年頃のISS長期滞在が決まった大西卓哉宇宙飛行士が、20231115日、訓練中のヒューストンから記者会見に臨みました。大西宇宙飛行士は、ISS長期滞在クルーとして、「きぼう」を含むISSの各施設の維持・保全、利用ミッション(科学実験など)を実施する予定です。

JAXAヒューストン駐在員事務所で記者会見に臨む大西宇宙飛行士

大西宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)

「昨日リリースされました通り2025年頃のISS長期滞在が決定いたしました。

私たち宇宙飛行士にとって宇宙というのは一番の現場ですので、またそこに戻れることをとても嬉しく思っております。この場をお借りして、日頃JAXAの宇宙開発を支えてくださっている日本国民の皆様、また今回のミッション決定にあたり、国内外で調整にあたってくださった関係者の方々に厚くお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

私は2016年にISSに長期滞在をしましたが、滞在が終わった時に感じたことが2つありました。1つは、いつかまたISSに戻って、様々な新しい実験を行いたいということ。2つめは、その長期滞在中にフライトディレクタや仲間たちと一緒に仕事をする中で、宇宙飛行士とフライトディレクタの仕事が、車の両輪のように息を合わせて回ることで初めてISSという大きな車が前に進んでいくことを感じましたので、そのフライトディレクタの仕事をぜひ経験したいと思っていました。

2つめのフライトディレクタの業務については、2016年以降に実現し、今、約4〜5年の経験を積んだところですが、今回、1つめのISSに戻って仕事をするという目標が叶い、私自身非常に嬉しく感じています。

前回滞在中、小動物飼育ミッションや静電浮遊炉といった今のJAXAを象徴するような2大ミッションの初期検証・初期実証を担当しました。そういったミッションはその後回数を重ね、進化した姿で「きぼう」で行われています。7年間、私がいろいろな経験を積んだのと同じように、「きぼう」のミッションも進化を遂げているので、そうした新しいことに対応できるよう、これから準備をし、ISSに戻ってしっかりと仕事をしていきたいと思っています」
記者会見に臨む大西宇宙飛行士

質疑応答(一部)

「前回に比べて社会の状況やフェーズが変わっていく中、ISSの存在価値がどういうものになるのか、その中で大西さんが宇宙に行かれることの意義や課題をどのように受け止めていらっしゃるのか教えてください」

「まず大局的な流れで申し上げると、人類の宇宙開発というのは、商業宇宙ステーションの誕生とそこでの様々な利用活動、そこから外に広がる宇宙探査の時代に拡大していく、というのが大きな流れだと思います。

一方で、そういった大局的な流れの中で、私達1人1人の宇宙飛行士が成し遂げるのは、おそらく小さい役割だと思っています。その小さい役割をみんなが1つ1つ積み上げた結果が、大きな時代の変化を生んでくると思うので、私に任された仕事というのは今回のISSでのミッションをしっかりと着実に遂行してくることだと思っています。

ISSについては、そこでの研究が地上の方々の生活を改善させるような成果につながる実験の場であると同時に、宇宙探査につながるテストベッドとしての役割も生じてきているので、そういった様々な活動に私も宇宙飛行士の一人としてしっかりと貢献できるようになりたいと思っています。

また宇宙飛行士としては、そこで1つのミッションをしっかりと完遂させることが、この先もし自分に宇宙探査に挑むチャンスがあるとしたら、自然とそこにもつながることになると思うので、着実に焦らず取り組んでいければと思っています」

「ISS長期滞在ミッションに就かれるにあたり、大西さんご自身としての今回のテーマをお聞きしたいです」

「テーマはまだ自分では決めていないものの、私の宇宙飛行士としての強みは、宇宙飛行士と地上のフライトディレクタの二足の草鞋を履いて、両方の世界をしっかりと経験してきたことにあると思っているので、そこを生かして自分のISSでのミッションで活躍できればと考えています」
記者会見に臨む大西宇宙飛行士

「前回のミッション後、フライトディレクタとしての経験を積まれて、宇宙飛行士のときには気づかなかった事柄があったか、それは具体的にどんなことか、そしてそれを次のミッションでどのように活かしていきたいと思っていらっしゃるか、教えてください」

「フライトディレクタの経験を積んだことで大きく私の中で財産になっていることが2つあり、まず1つは地上の動きがしっかりと分かっているということです。私たち宇宙飛行士がISSで担当している作業は、ISSの運用全体から見たらほんの一握りの作業です。その作業の裏で一体どれだけの作業が地上で計画され行われているのかを、しっかりと自分の肌で感じることができているので、そこを意識して仕事ができるだろうと思っています。

うまく仕事が回っているときにその経験が活きてくるかどうかは分かりませんが、おそらく何かトラブルが発生したときにこそ、この経験が生かされると思っています。計画通りにタスクが進まず、予定も遅れているときに、その日の他の作業になるべくインパクトが出ないように、どういうリカバリーをしていくかというのが地上の管制員の腕の見せ所にもなりますが、そういった思考プロセスを私もフライトディレクタとして日常的に行ってきましたので、自分が滞在中に軌道上でトラブルが起こったときにも、ここからリカバリーするには自分の今日のタイムラインのどこをどうアレンジして、地上とどういう連携をすれば良いか、自分なりに考えて私から地上側に提案できるようにしたいと思っています。
地上の管制員たちもいろいろ考えてはいるのですが、それをそのまま軌道上にいる宇宙飛行士に伝えないような、いい意味での気配り、遠慮といったものもあるので、軌道上にいる宇宙飛行士の側から提案することで、その垣根を取り払うことができることは、私の大きなアドバンテージであると思っています。

もう1つは、実際フライトディレクタとして大きなチームを率いて、日々の仕事を行っている中で、100名を超える「きぼう」の運用管制員の方々などの1人1人の名前や顔、どんな人たちかというのが私の中ではっきり分かっているということです。彼らも私のことを分かってくれていると思いますので、そういったお互い気心の知れたメンバーと宇宙と地上とをつないで仕事ができるというのは、私にとって大きな財産になると思っています」

「まだ具体的な「きぼう」での実験ミッションなどは決まっていない中だとは思いますが、大西さんが関心を持たれている分野や、ISSで見てみたいことなどがあれば教えてください」

「私は学生時代に航空材料の勉強をしていたので、材料系の実験というのがやはり一番興味があるところです。例えば静電浮遊炉は、自分が初期検証をした思い入れのある装置でもあります。その後の改良の積み重ねで安定的に動くようになっており、たくさんの企業に有償でご利用いただいたりもして、「きぼう」を象徴するような実験装置になっています。その静電浮遊炉をまた自分が扱って実験することをとても楽しみにしています」
報道陣からの質問に答える大西宇宙飛行士

「最近SNSでの発信を活発にされており、地質学訓練の投稿も拝見しました。このあたりは月探査を意識しての内容かと推察しますが、月への思いをどのようにお持ちでしょうか?」

「宇宙飛行士の1人として、また子供の頃からアポロ計画、月面着陸に憧れを持っていた1人として、月面というものにすごく興味を持っているというのは、確かにあります。そこに向けて私もチャンスを持っている1人だとは思うので、機会があれば狙ってみたいと考えています。

月面を目指すにあたって、どういったスキルが必要なのか日頃からよく考えたりしますが、おそらく宇宙を舞台にして仕事をする上で、宇宙飛行士として月面で求められるスキルとISSで求められるスキルは、大きな部分ではそれほど変わらないのではないかなと思っています。例えばプレッシャーのかかる場面でしっかりと自分のパフォーマンスを発揮することだったり、冷静に状況判断する力だったり、閉鎖的な空間でチームワークを発揮して活動していくような、そういったスキルは変わらず、違いが出てくるのは枝葉の部分ではないかと思います。その枝葉の1つが、先日参加させていただいたヨーロッパのPANGAEA訓練で磨かれるような地質学の知識であったり、個々の技術的なスキルであったりすると思います。

将来の月面を見据えて、私が今回のISS滞在で何を成し遂げたいかと言われると、ひとつ具体的な目標としては、船外活動のチャンスを獲得することです。私は前回の長期滞在の時に船外活動を経験できていないのですが、この先、月面での活動となると船外活動のスキルは必須となります。このため、今回の長期滞在でぜひその経験を積めればいいなと思っています。もちろん、船外活動は非常にチャレンジングなタスクですので、そこでしっかりと自分の役割を与えられるためには、地上での訓練が非常に重要になり、訓練でしっかりと成績を残さないとなりません。長期滞在に向けてしっかりと船外活動の訓練をしていきたいと思います」

「今年、宇宙飛行士候補者に選抜された諏訪さん、米田さんと、どんなお話をされているのか紹介していただければと思います」

「米田さんが今年の4月から、諏訪さんが7月からJAXAに入構して以降、同じ部署で一緒に仕事をしてきました。彼らは基礎訓練に本格的に取り組んでいるところなので、私はそれを横から眺めながら、こういうところは苦労したなとか、こういうふうにするとうまくいったなとか、こういうところをしっかり頑張っておく必要があったなと思っているところを彼らに伝えるようにしています。先日、彼ら2人もヒューストンに来て、アメリカでできる基礎訓練に取り組んでいる最中です。彼らから自分もすごくいい刺激を受けていますし、私にできるアドバイスを引き続き彼らにできればなと思っています。

それから先輩・後輩という意味で言うと、もちろんJAXAの中でも知見の継承というのは非常に大事なのですが、私が初回のフライトのときに一緒に滞在したアメリカのジェフリー・ウィリアムズ飛行士という本当に偉大な大先輩から、私は本当にいろんなことをISSで、またそこに行くまでの地上にいる間も勉強させていただきました。私も今回2回目のフライトに臨むにあたって、おそらく初回のフライトというメンバーもきっといるでしょうから、国籍を問わず、そういったメンバーに対して私が過去蓄積してきた知見を継承していくこともできればと思っています」

大西宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

「私がこの7年間、地上の仲間たちと一緒に仕事をしてきた経験を、今度は宇宙に持っていって、宇宙という現場で宇宙飛行士として仕事をできることを本当に嬉しく感じています。それが私にとってプラスになるのは間違いないのですが、どれだけプラスになるのかというのは正直まだ分からないところがあり、そこは自分でもすごく楽しみにしています。今後も引き続き訓練に真摯に取り組んで、しっかりと準備をした上で、長期滞在に臨みたいと思っていますので、これからも引き続き応援をよろしくお願いいたします」
ガッツポーズする大西宇宙飛行士
会見には18社21名のメディアが参加し、他にも多くの質問が寄せられました。また、JAXA YouTubeチャンネルではライブ配信がされ、200名近くの人にご視聴いただきました。

この様子は、同チャンネルでアーカイブされていますので、ぜひご覧ください。
大西宇宙飛行士の活動に今後もご注目ください!
※本文中の日時は全て日本時間

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA