大西宇宙飛行士が、9月に行われたESAのPANGAEA(Planetary ANalogue Geological and Astrobiological Exercise for Astronauts)訓練に参加しました。この訓練は、宇宙飛行士が、将来の月や火星への惑星探査ミッションで必要な基礎的な知識と実践的なスキルを身に着けるもので、専門の科学者が指導して、地質学の知識とフィールドワークの手法を学びます。ご存じの方も多いかと思いますが、Pangea(パンゲア)とは、今から2~3億年ほど前に存在した巨大な大陸のことで、現在の四大陸は、もともとパンゲアという一つの大陸であったという大陸移動説に基づく用語です。この用語をもじって、訓練名がつけられました。(微妙に綴りが違うことにお気づきでしょうか?)フィールドワークから月や惑星の歴史を紐解く、この訓練にぴったりの名前ですね。
大西宇宙飛行士は、この訓練の参加を機に、SNSの投稿を再開しました。そのポスト(ツイート)を基に、PANGAEA訓練をご紹介していきましょう。
1日目
“ヨーロッパ宇宙機関ESAが実施するPANGAEA訓練は、宇宙探査を念頭においた地質学訓練コースです。
今年はESAからトマ・ペスケ飛行士、NASAからジェシカ・ウィットナー飛行士候補者、JAXAから私が参加しています“
“訓練初日は地質学概論や地球上における浸食や堆積といったプロセスについて学んだあと、教室に並んだ沢山の岩石サンプルを観察する実習を行いました。
ESAが実施する訓練では2019年のCAVES訓練に参加したことがあります。あちらは身体的にハードな訓練でしたが、PANGAEAは脳みそフル回転な訓練です💦“
訓練はイタリアで始まりました。初日は教室での座学。大西宇宙飛行士はルーペを手にして、岩石サンプルを観察していますね。私たちが今、手にできるサンプルは、当然ながらそのほとんどは地球上のものですが、将来の月・惑星探査でも、地球上でのデータが役立ちます。また、月と地球の組成は、大変似ていることが知られています。
CAVES訓練とは、やはりESAが行う訓練で、洞窟という閉鎖隔離環境下において、宇宙での長期滞在に必要な異文化適応、自己管理、リーダーシップ、コミュニケーション等について更なる能力向上を目的としたものです。
2日目
“パンゲア訓練2日目。
昨日学んだ岩石の見分け方を、早速実際の地形のなかで演練すべく、Bletterbach峡谷へ。
ところが、実際のフィールドに転がっている石たちの、観察の難しいこと。。。
(キミたち、誰・・・? :(;゙゚'ω゚'): )“
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3日目
“パンゲア訓練3日目は終日クラスルームでの講義です。
火成岩や堆積岩といった岩石について、初日よりももっとディープな講義を受けたあと、昨日峡谷で採取してきた沢山の石を観察して、それぞれ峡谷のどの地層に属する岩石か分類する作業をしたりしました。
地質学特有の英単語が盛り沢山です🤯“
4日目
“パンゲア訓練4日目。 最初の訓練地であるイタリアのBletterbach峡谷は、幾層にも重なった地層が川によって深く浸食されているので、峡谷を下から上流に登っていくことで、様々な地層や岩石を見ることができます。
入門編としてはうってつけの場所です。
地層をスケッチングする練習などを行いました!”
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このように、地表に地層や岩石が露出しているところを「露頭(ろとう)」と言います。海岸や河川の沢によく見られ、これを観察することで、その土地の成り立ちを知ることができます。地球外の惑星に露頭があるのかな?と思うかもしれませんが、かつては、火星にも水があったのでは?と言われており、NASAの火星探査車パーサビアランスが撮影した画像には、見事な露頭が映っています。火星の露頭を日本人宇宙飛行士が調査する日が来るかも!と思うとワクワクしますね。
5日目
“パンゲア訓練5日目。
峡谷の更に上流へ。
この日のスケッチは、2人1組になって1人が口頭で地層を描写して、もう1人がその情報だけを頼りにスケッチするという形式です。
月面や火星ではISSと比べて通信リソースが格段に制限されるので、口述での表現力が重要になりますが、はっきり言って激ムズです💦“
これは想像するだけで難しそうです。音声だけの通信で、いかにコミュニケーションを正しく取れるか、というのは、ISSにおいても、宇宙飛行士と地上の管制官ともに求められるスキルです。JAXA宇宙教育センターに「コミュニケーション力をきたえよう」という教材があります。パズルを相手の声の情報だけで指定の形に組み上げるものです。単純なパズルでもなかなかうまくいかないのに、スケッチとは…。どんな工夫をして、特徴を伝えたのでしょうか?やはり、専門用語が大事なのでしょうか。
6日目
“パンゲア訓練6日目はこの地域での総集編。 一帯を見晴らせる丘から地層をスケッチング。最後に専門家の方々が研究した結果と照らし合わせました。
パンゲアのユニフォームは鮮やかな緑です。見事に似合ってるトマを見て、バイコヌールで紫色のポロシャツを着こなしていた彼を懐かしく思い出しました”
7日目
“パンゲア訓練7日目は移動日です。
イタリアから車で、ドイツのネルトリンゲンという街まで移動しました。
この街はリースクレーターと呼ばれる隕石によるインパクトクレーターの中にある、周囲を壁で囲まれた美しい街です。…(後略)“
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8日目
“パンゲア訓練8日目。 舞台をドイツに移して本格的な月の勉強の始まりです。 ここはかつてアポロ14号のクルーが訓練を行った土地でもあります。 月の地形や太古の昔の火山活動、インパクトクレーターの出来かたや構造について学びました。 午後はクレーターの外縁が一望できるダニエルに昇ります。“
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ダニエルというのは、7日目のポストにあるように教会の高い塔だそうです。90メートルほどの塔で、町全体が見渡せます。
9日目
“パンゲア訓練9日目。
隕石によるインパクトで生じたクレーターでは、外縁部の盛り上がりや上空に噴き上げられた岩石による堆積など、様々な地質学的なプロセスが発生します。
ネルトリンゲンでの訓練の目的のひとつは、実際の地層を観察して、それらのプロセスに対する理解を深めることです“
衝突クレーターに見られる特徴的な石としては、衝突で溶けた岩石が周りに飛び散り、急激に冷やされてできる天然のガラス「テクタイト」があります。リースクレーター由来と思われるテクタイトは、遠く離れたチェコのモルダウ川流域で多く産出されており「モルダバイト」と呼ばれています。
10日目
“パンゲア訓練10日目。 教室では月面の衛星写真を見て、地形の特徴からそこで起こったイベントの時系列を推定する演習を行いました。大原則は下に積もってるものが古くて、上のものが新しい、です。 午後はクレーターの外縁リム(輪っか)のさらに外側まで出かけて、地層を観察しました。“
11日目
“パンゲア訓練11日目。
リースクレーターの巡検は今日が最後です。
インパクトの衝撃で盛り上がった1番外側のリム周辺を巡検しました。
この地方は元々石灰岩の地層に覆われていましたが、衝撃で砕かれた石灰岩の間に水が入り込むことで内部が浸食されて洞窟ができていました。
その衝撃に驚きます。“
12日目
“パンゲア訓練12日目は、ドイツでの訓練の総まとめということで、市内のクレーター博物館を訪問しました。
さらに資料保管庫にお邪魔しましたが、地下1000mを超える深さまで、円筒形に掘られた地層サンプルがなんと1m刻みで全て保管されていました😳
棚いっぱいに並べられたサンプルは圧巻です。“
13日目
“パンゲア訓練13日目は移動日です。 ドイツのミュンヘン空港から空路約4時間半で、カナリア諸島のランサローテ島に到着しました。 いくつもの火山によって作られた島で、ここで火山活動やそれによって作られる岩石や地層について学びます。 機内からもその特異な景色を垣間見ることができました。“
14日目
“パンゲア訓練14日目。
ランサローテでの訓練初日は、クラスルームでの授業で火山の仕組みや特徴的な地形について学びました。
そしてティマンファヤ国立公園で直近の火山活動によってできた景色を見学しましたが、火星ってこんな感じなのかなという光景が目の前に広がっています“
15日目
“パンゲア訓練15日目も盛り沢山な内容でした。
島内で見ることのできる代表的な岩石サンプルの観察に始まり、翌日からのトラバース訓練に備えた機材の使用方法習得、島北部の地形を回って、口述による地層の描写や解析の練習をしました。“
16日目
“パンゲア訓練16日目。
午後から始まるトラバース訓練に向けて、まずはルートや目的の確認。
そのあとホテルのすぐそばの空き地で、岩石のサンプリングに使用するツールの、インストラクターによるデモンストレーションです“
https://x.com/Astro_Onishi/status/1707667375053586530?s=20
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“続いて、使うツール類の準備です。 ルートの確認やサンプリングの記録に使用するタブレットや、マイクロスコープカメラ、スペクトロメーター、ハンマー、無線機器などなど。 これらを自分の使いやすいようにセットアップしていくのですが、初回なのでとりあえず何となく決めていきます。“
たくさんの道具がありますね。ハンマーは、地球上の石は空気や水などの影響で風化が進んでいるため、石を割って中の新鮮な面を観察するための道具です。かつて地質巡検と言えば、地層の向きや傾斜を測るクリノメーターが必需品だったのですが、この訓練では 、これらのデジタル機器を使い、専用のアプリケーションで、遠く離れた場所にいるサイエンスチームに情報を送ります。
“午後からいよいよ初回のトラバース訓練。
ルートはあらかじめ決められていますが、訓練生の判断で逸脱は可能です。
ルートに沿って、そのエリアの地層や岩石の種類を観察して、過去にあった地質学的なイベントを紐解いていきます。“
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17日目
“パンゲア訓練17日目。トラバース訓練2日目。
3人で毎回役割を交替していくのですが、今日は私がコマンダー役で
見えている景色を描写したり、周囲の岩石の特徴を伝えたり、難しいですがそれだけ良い訓練になっています。“
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大西宇宙飛行士がコマンダー役!サイエンスチームにいかに正確な情報を伝えるかが、訓練の肝ですね。火星探査で大西飛行士がコマンダーを務めている様を想像してしまいますね!
18日目
“パンゲア訓練18日目。
この日のトラバース訓練は、前日までとうってかわって洞窟の中で行われました。
洞窟といっても溶岩チューブと呼ばれるもので、これは溶岩が流れる時に外側だけが空気と触れて冷えて固まり、内部の溶岩はそのまま流れることでチューブ状の形で空洞が残ったものです。“
https://x.com/Astro_Onishi/status/1708385177326805148?s=20
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溶岩チューブは、日本の富士山麓やハワイにあるものが有名ですが、実は月にもあると考えられており、月周回衛星「かぐや」が撮影した写真には、溶岩チューブと思われる竪穴がたくさん見つかっています。大西宇宙飛行士のポストにもあるように、火星にもあると考えられています。月や火星の竪穴には様々な利点があり、探査と研究を進められようとしている場所です。
19日目
“パンゲア訓練も19日目にしてついに最終日!
最後のトラバース訓練ということで、難易度も今までで1番難しかったような気がします。
この日のコマンダーはジェシカ。強風で無線交信も難しかったのですが、遥か後方のキャンピングカー内に陣取ったサイエンスチームに、根気強く情報を伝えていきます。“
https://x.com/Astro_Onishi/status/1708767664393625602?s=20
“それぞれ微妙に特徴の異なる小さなクレーターがいくつも並んだ地形の解釈に、あーでもないこーでもないと、3人で話し合いました。
最終的にはトマが考えついた解釈のおかげで、地質学者の方々による過去の調査から推定された「答え」に私たちもかなり近づくことができました。
さすが!👏“
“今回、JAXAから初めてパンゲア訓練に参加しましたが、個人的に地質学に関する知識や経験を深めることができたのはもちろん有意義でしたが、宇宙探査に向けた大きな訓練プロジェクトにNASA、ESA、JAXAの宇宙飛行士が揃って参加したことも、今後の探査分野での国際協力を象徴しているように感じました。“
それから、SNSを再開した大西宇宙飛行士の今後の投稿にも、ぜひご注目くださいね!
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA