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ISSプログラムマネージャとは
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ISSプログラムマネージャ 酒井 純一

アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本の5極で運用されている国際宇宙ステーション(ISS)。それぞれの極には、ISSプログラムを代表する責任者がおり、ISSプログラムマネージャと呼ばれています。ISSプログラムマネージャとはどのような役割なのか、日本を代表してJAXAでその任を担う酒井純一ISSプログラムマネージャに現在の仕事や今後の展望などについて話を聞きました。

ISSの維持・運用を支える責任者として役割

ISSプログラムマネージャはどのような仕事をするのですか。

酒井: ISSプログラムマネージャは、日本のISSプログラムの責任者です。ISSの運用の責任者でもありますが、運用以外の部分でもISSの関わるところにはプログラムの代表者として関わることが多いです。ISSは、現在、地表から400km上空を飛行し、毎日運用しています。その中で、いろいろと発生する問題や課題に対処しています。

離脱するSpaceX Crew-2から撮影されたISS
離脱するSpaceX Crew-2から撮影されたISS Image by JAXA/NASA

課題にはいろいろな種類があって、たとえばISSの電力系統に不具合が発生した場合は、それぞれのモジュールで使用する電力量の調整をします。また、日本の新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の打ち上げをプログラムに反映させる時期などの最終的な調整、宇宙利用として「きぼう」日本実験棟で実施する実験のスケジュールを、ISS全体のスケジュールの中に組みこむ時期などもアメリカ航空宇宙局(NASA)などと一緒に決めていきます。

ISSプログラムマネージャは日本の宇宙開発実施機関におけるプログラムの代表として発言することが多いので、国の機関として相手と交渉していかなければいけないのが難しいところです。たとえば、ISSには限られたスペースしかないので、地球から持ちこんだ実験機材などの置き場に困ることがよくあります。ときおり、NASAから「一時的に日本のスペースに置かせて欲しい」と言われますが、そのときはその荷物をいつまで預かるのかその期限と、その期限までに荷物を撤去できる根拠を確認し、判断することにしています。個人的には協力したい気持ちになりますが、容積もリソースであり提供国のもつ権利である以上、しっかりと条件を付けて、それを守ってもらうようにしています。

ISSプログラムマネージャ 酒井 純一

ISSに関わる調整をすべてやっているということですね。いろいろな種類の交渉や調整がありますね。

酒井: 私を支えてくれるスタッフがたくさんいますので、各担当者が相手側の担当者と細かい調整をしますが、その調整がうまくいかないときは、プログラムマネージャに話が上がり、話を整理した上で、相手のプログラムマネージャと調整します。それが私の一番の仕事になります。

ISSはアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本の5極で運用していますので、残りの4極に私と同じようなプログラムマネージャがいます。全体的な調整は5人のプログラムマネージャで行っていますが、最も調整が必要な相手はアメリカです。もちろん、他の局のプログラムマネージャと情報交換や調整することもありますが、必然的にNASAのプログラムマネージャとのやり取りが多くなります。

ふだんはどのように仕事を進めているのですか。

酒井: 私はISSプログラムマネージャと有人宇宙技術センター長の二足のわらじを履いています。有人宇宙技術センターはISSの運用の一翼を担うために、「きぼう」の維持・保守などを担当する組織です。「きぼう」の運用そのものだけでなく、運用に必要な地上の設備やネットワークの管理や調整などをしています。また、環境制御・生命維持システム、月面与圧ローバ、自動化ロボットなどの将来技術の開発にも取り組んでいます。

JAXAの有人宇宙技術部門には有人宇宙技術センター以外にも、様々な部署があり、それぞれが「きぼう」と関わっています。ISSプログラムマネージャとしては、それぞれの部署から集まってくる課題の調整をし、最終的には他極のプログラムオフィスなどとの調整をします。有人宇宙技術センターのことも見ながら、全体の調整もしなければいけないので、少し忙しいですね。

ISSプログラムマネージャ 酒井 純一

入社から様々な形で関わってきた「きぼう」

酒井さんがJAXAに入社したきっかけを教えてください

酒井: 私は当時進められていた宇宙ステーション(Space Station Freedom:SSF)計画に参加したいと思い、1990年にJAXAの前身の組織の1つである宇宙開発事業団(NASDA)に入りました。そして、入社2年後に宇宙ステーション取付型日本実験モジュール(JEM=後のISS計画における「きぼう」)の開発グループに配属されました。私が直接担当したのは管制系で、「きぼう」のメインコンピュータとその上で動くソフトウェアの開発に関わりました。

ISSの一部である「きぼう」はISS全体から求められる機能があります。その要求を理解して実現することが求められました。宇宙開発に関わる7つの国内企業と一緒に開発しましたが、1つのシステムとして機能するように分担を調整するのが難しかったです。最終的には、共通の仕様書をつくり、全員で確認しあえるしくみにして解決していきました。

「きぼう」の開発、打上げにはたくさんの苦労があったと思いますが、印象に残っていることは何ですか。

酒井: 「きぼう」の開発段階にあった基本設計、詳細設計、出荷前の最終審査はそれぞれ印象に残っています。私は開発だけでなく、運用手順書の準備、フライトディレクタと、様々な形で「きぼう」に関わってきました。「きぼう」は3回に分けて打ち上げられ、軌道上で組み立てられました。開発時は、完成形としての「きぼう」の機能・性能を求めて進めていたので、分割して打ち上げられ、軌道上で組み上がる過程の機能・性能を想定していなかったので、技術的にも難しい手順で起動することになったのです。「きぼう」が無事に起動し、そのときISSに居たすべての宇宙飛行士が入ってきたときの光景は今でも目に焼きついています。

ISSプログラムマネージャに就任してからは、どのようなことが印象に残っていますか。

酒井: 私がISSプログラムマネージャになったのはコロナ禍の初期の頃だったので、対面での調整がなくなり、リモートでしか話ができなくなったのが少し大変でしたね。また、2021年8月にISSの姿勢が大きく乱れたことには、とても驚きました。実は、「きぼう」では緊急事態を想定し、それらに対処するための「異常処置シナリオ」をいくつもつくっています。その中の1つに、ISSの姿勢が崩れて通信や電力に支障をきたしたときの対処法もあります。NASA側から事象の説明を受け、その場合の対処シナリオや自動処置をつくったときは、「こんなことが起こるわけない」と思っていたのですが、それが実際に起きてしまったのです。そのときは、「きぼう」で異常処置シナリオを起動させることはなかったのですが、軌道上に居た星出宇宙飛行士は「訓練であのシナリオがあることの意味がわかった」と言っていました。私もつくっておいてよかったなと、つくづく思いました。

ISSプログラムマネージャ 酒井 純一

「新しい時代が始まった」宇宙開発に向けての期待と展望

現在、民間企業の宇宙船で宇宙飛行士が宇宙に行く時代になりましたが、今後の宇宙開発はどのように進むと考えていますか。

酒井: 2020年11月に野口宇宙飛行士たちがスペースX社の「クルードラゴン」で宇宙に行く際に、直前のイベントで、私は「新しい時代が始まった」とスピーチしました。これから民間企業による宇宙開発はどんどん進んでいくでしょう。日本も世界に伍して宇宙開発の中で花開いていって欲しいと思います。

日本は「きぼう」と宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)が成功したことで、宇宙開発での存在感を示してきました。「こうのとり」の後継機である、HTV-Xも、まもなくISSの補給を開始します。日本の企業もそれぞれ高い技術力をもっていると思いますので、いくつかの企業が協力して、場合によってはアメリカの企業とも協力しながら、宇宙開発分野で活躍して欲しいです。JAXAとしてもできる支援はしていきたいです。

宇宙空間を利用した事業を計画している民間事業者による先端的な研究開発に対する宇宙戦略基金も始まります。日本の宇宙産業も、ますます発展が期待できると思っています。

JAXAはこれからどのような活動をしていく予定ですか。

酒井: ISSの運用期間が、正式に2030年までとなりました。「きぼう」日本実験棟では、今後も安定した宇宙利用の拡大が期待できますが、その一方でISSのその先も考えていかねばなりません。JAXAは月周回拠点ゲートウェイにおいて、欧州宇宙機関(ESA)のつくる居住モジュールに使用される環境制御・生命維持システムの製作などを担当します。さらに、月面での活動を想定して、月面有人与圧ローバーも、現在、研究開発フェーズに入っています。このような技術を私たちが先陣を切って開発し、有人宇宙探査をさらに広げていくことに貢献していきたいです。

ISSプログラムマネージャ 酒井 純一
酒井純一 ISSプログラムマネージャ

有⼈宇宙技術部⾨ 国際宇宙ステーションプログラムマネージャ

1990年、宇宙開発事業団(現JAXA)入社。 1992年より「きぼう」の管制系担当として開発に従事。「きぼう」フライトディレクタ、ヒューストン駐在員事務所⻑、新事業促進部 産業促進課 課長を経て2020年より有人宇宙技術センター⻑、ISSプログラムマネージャ兼務。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA