
宇宙飛行士の生活をサポート
Q: 高橋さんが所属する宇宙飛行士健康管理グループは、どんなことを担当する部署ですか。
高橋: 様々な側面から宇宙飛行士を支える部署です。グループには十数名ほどのメンバーがいて、医学的な観点から宇宙飛行士を支えるフライトサージャン、栄養管理などを行う管理栄養士もいます。
私は宇宙日本食や、宇宙での生活に必要な日用品の開発を支援しています。宇宙日本食や日用品は、宇宙飛行士の健康や精神などを支える重要なものです。
Q: どんなきっかけで、この仕事に関わるようになったのですか。
高橋: 私は電子工学科出身で体脂肪計などをつくる計量器メーカーに就職しました。そこでは、技術開発や商品開発を担当してきて、昨年、人材交流の一環でJAXAに出向して、今の宇宙飛行士健康管理グループに配属されました。
計量器メーカーでは、エンジニアとして新機能の開発、発売する商品の設計などを担当してきました。そのような業務で培った経験がJAXAの仕事にも役立つのではないかと考えています。
ただ、JAXAに着任してからは、カバーする分野の広さに驚いています。計量器メーカーでは、私が担当するのは電気回路やプログラムなど一商品の技術面だったのですが、宇宙飛行士健康管理グループでは、食品や衣料品、身体をケアする製品など、幅広い製品を扱います。わからないことも多く、戸惑いましたが、上司や同僚にも助けてもらいながら、新しい知識を吸収して対応しています。

慣れ親しんだ味を宇宙でも
Q: 宇宙日本食は、どういうものですか。
高橋: 宇宙日本食は、食品メーカーなどが提案する食品をJAXAが定める認証基準と照らし、基準を満足している場合に宇宙日本食として認証するものです。現在、31社・団体による56品目の食品が宇宙日本食に認証されています。
食事は栄養補給の役割もありますが、精神的なストレスをやわらげたりする効果もあります。日本人宇宙飛行士が慣れ親しんだ日本の味を宇宙でも食べられるように、食品メーカーと協力して開発してきました。
Q: 高橋さんはどういう役割をしているのですか。
高橋: 私は、食品メーカーから提案のあった食品が宇宙日本食として認証されるまで支援するような役割をしています。宇宙日本食は重力がほとんどないISSで食べるものです。そのため、たくさんの基準が設けられています。
例えば、22℃くらいの室温で1年半の長期保存ができる保存性の良さが求められます。さらに、食品が周囲に飛び散ってしまうとISSの機器に悪影響を与えてしまうので、飛び散らないように工夫することも重要です。
他にもISSでは調理方法が限られるため、開封したらそのまま喫食できたり、水やお湯を注ぐだけで食べられるというように、簡単に食べられるようにすることや、梱包材を含めごみがあまり出ないようにすることなども必要になってきます。
また、ISS搭載品を作って頂いたメーカー様が広報活動・地上向け食品の発売をするための資料確認等も行っています。

宇宙日本食認定までの長い道のりをサポート
Q: いろいろな基準があるのですね。
高橋: 地上での食品製造では求められないことにも対応しないといけないので、認証基準をクリアするように食品メーカー様に働きかけていきます。最初にベースとなるサンプルを送って頂き、宇宙食に適しているかを確認します。その後、宇宙日本食の認証を得るための改良をお願いすることになります。
さらに、宇宙飛行士の方にも確認して頂き、宇宙食の適性なども評価します。その際、匂い・味・見た目・量などの調整もしていきます。職員だけでなく2人以上の宇宙飛行士の方にも試食して頂き、その感想をもとに適正な仕様を探っていきます。
そして、宇宙食への道筋が見えたものには、認証への申請をしていただくことになります。
Q: 宇宙日本食を認定するまで、どのくらいの時間がかかるのですか。
高橋: 最初に応募いただいてから約3年くらいです。宇宙日本食認証基準というものがあり、段階的に設けている評価・試験・審査・有識者の確認などを経て、最終的には宇宙日本食として認証されます。食品メーカー様がそれらの検査をしっかりとクリアできるように支援させて頂きます。
宇宙日本食として認証されると、認証書をメーカーや団体に送ります。計量機器メーカーにいたころは、認定書などをいただく立場だったので、それを送る役割になったことは不思議に思えます。認証書を受け取った食品メーカー様が喜んでいただけると光栄です。

地上でも広がる宇宙製品
Q: 認証を受けた宇宙日本食が宇宙で食べられたらうれしくなりますね。
高橋: 宇宙飛行士においしいと感じてもらえたら、とても嬉しいです。宇宙日本食は味・見た目・食べやすさ・匂いなどを考えて作られています。今は、ボーナス食として位置づけられていて、主に日本人宇宙飛行士に提供されています。
また、宇宙飛行士の困りごとを解決するために、たくさんのメーカー様に下着、歯磨き、においの吸収シートなど、ISSで使うための様々な日用品も開発して頂きました。
宇宙に行っても、おいしい食品を食べられて、快適性をサポートしてくれる製品があることを、広く知ってもらうことで、たくさんの人たちが宇宙開発に関心を持ち、いずれは宇宙に行きたいと思ってもらえるようになるといいですね。

Q: 宇宙日本食や生活用品の開発が、宇宙開発などにどのような影響を与えていくのでしょうか。
高橋: これまでお話した通り、宇宙飛行士の方々が宇宙で活動する上で、ストレスの軽減や生活の問題解決に貢献をしていくと思います。
他には、宇宙日本食の認証を受けた食品は、日本災害食学会が認証制度を運営する「日本災害食」に、比較的簡易な審査で認証いただけるという試みもあります。つまり災害食としても運用できる側面があり、地上での利用にも繋がっていくと思います。

有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙飛行士健康管理グループ 主任研究開発員
理工学部電子工学科卒、2007年株式会社タニタ入社。体脂肪計関連の技術開発・商品設計を経てJAXAに出向。配属された宇宙飛行士健康管理グループの宇宙日本食チームにて様々な宇宙日本食・生活用品の開発を支援している。
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA