日本の宇宙開発をリードするJAXAは、いわゆる理系の人たちだけが働いている印象をもたれがちです。もちろん、技術や理科系の知識を持った職員はたくさんいますが、文系の専門を持つ職員もたくさんいます。有人宇宙技術部門で広報を担当する平出安奈さんも、その1人です。
モスクワ生活で日本の高い技術力を知る
Q: 平出さんはどのような仕事をしているのですか。
平出: 私は有人宇宙技術部門の事業推進部に所属しています。事業推進部は部門の事業が円滑に進むように計画策定、予算の分配、広報活動などを幅広く実施している部署で、私はその中でも、広報を担当しています。JAXAには、JAXA全体のことを幅広く知ってもらい、JAXAの認知度を向上させるために活動している広報部もありますが、それぞれの部門ごとにも広報担当が配置されています。各部門の広報担当は、それぞれの部門が行っているミッション、研究、実験などの意義を、たくさんの人たちに知ってもらうために活動をしています。
Q: 宇宙については、もともと好きだったのですか。
平出: 宇宙は人並みに好きという程度で、特別、宇宙に興味があるわけではなかったです。私は大学でロシア地域のことを勉強していました。在学中にモスクワに1年間留学していたときに、若田光一宇宙飛行士の講演会に参加する機会があり、その講演の中で、いわゆる文系学部出身の人でもJAXAで活躍できることを知りました。それまでは、宇宙開発をしているJAXAは、理系の人たちだけが活躍すると思っていて、文系の人たちも活躍できる場があるとは考えもしなかったです。
また、モスクワ滞在中に、日本の製品や技術が認められていることを何度も感じました。そのような経験をするうちに、日本の素晴らしい技術力を世界に広める仕事がしたいと思うようになり、就職活動ではメーカーや報道機関などの他に、JAXAの面接も受け、入社したのです。
宇宙飛行士の活動内容をたくさんの人に届ける
Q: 有人宇宙技術部門の広報というのは、具体的にどのような仕事をするのですか。
平出: 国際宇宙ステーション(ISS)はもちろん、宇宙ステーションへの補給機、「きぼう」日本実験棟の宇宙環境利用、将来の宇宙探査につながる実証実験など、有人宇宙技術部門の事業を幅広く理解してもらうための活動をしています。特に、日本人のISS長期滞在ミッションを通じて、有人宇宙技術部門の事業をより理解してもらえるように広報をしていくことが私の担当業務です。
ISS長期滞在ミッションの広報は、日本人宇宙飛行士の打ち上げ前から、ISS滞在、地球帰還、リハビリを経てミッションの成果報告をするところまでおよそ1年続きます。これまで日本人宇宙飛行士のISS長期滞在が連続することはなかったので、ミッションの広報も1つのミッションが終わってから次のミッションという風に、自然と区切りがありました。
ただ、2020年11月からは野口聡一宇宙飛行士が、そして2021年4月からは星出彰彦宇宙飛行士が相次いでISSに滞在したため、2つのミッションが区切りなく連続していました。これまで日本人宇宙飛行士が連続で長期滞在する機会はなかったので、私は野口ミッションと星出ミッションの両方を担当し、その分大変なこともありましたが、やりがいも同時に感じました。
Q: 長期滞在ミッションの広報というのは、どのような役割なのでしょうか。
平出: 長期滞在ミッションの広報は、宇宙飛行士が搭乗員としてアサインされると、その滞在期間に実施するミッションについて、どのタイミングで、何を発信していくのか、計画を立てて実行していきます。メディアの皆さんに向けては、記者発表や個別の取材機会の調整などをします。また、JAXAを応援してくださる一般の方々に向けて、ISSに滞在している宇宙飛行士との交信イベントなどを企画し、宇宙飛行士の活動を中心としたJAXAの活動が多くの方に正しく理解してもらえるようにしていきます。
交信イベントなどの企画は、「こんなことができるかな」というアイデアベースから考えていき、徐々に具体化していきます。宇宙飛行士は地上から約400キロメートルの離れた場所にいるので、1つの指示を出すのも大変です。計画を早めにまとめて、前広に調整をしていくようにしています。交信イベントなどは、イベント実施日の3〜4か月ほど前から調整がはじまり、使いたい物品がISSにあるのか、安全に実施できるのかといったことを、「きぼう」運用管制員と一緒に、1つ1つ検証して、準備します。
専門性を極めることが自分の力になる
Q: 野口宇宙飛行士や星出宇宙飛行士の打ち上げの際には、現地に行ったりしたのですか。
平出: 星出宇宙飛行士が搭乗したクルードラゴン運用2号機(Crew-2)の打上げのときは、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターを訪れました。打上げまでの一連のクルーの様子を撮影したほか、NASAとメディアイベントの調整などをするためです。
今回の有人宇宙船の打ち上げは、コロナ禍の影響もあったことから、世界の人から静かに見守られている印象を受けました。Crew-2は、フランス人宇宙飛行士も搭乗したこともあり、ケネディ宇宙センターには、アメリカ航空宇宙局(NASA)の関係者、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の関係者、そして日本からはJAXAの関係者が集まって多国籍な空間となっていたのをよく覚えています。いろいろな国の人たちと、同じときを共有した体験でした。
宇宙船を搭載したファルコン9ロケットが打ち上げられた瞬間は、轟音と振動を体全体に感じました。ファルコン9ロケットはゆっくりと打ち上がっていったので、その姿を十分に堪能しました。ロケットに人が、しかも日本人が乗って宇宙まで行くことに純粋に感動しました。
Q: 最後に、文系学部出身でも、JAXAに入りたいと思っている人にアドバイスがあればお願いします。
平出: JAXAには、文系学部出身の職員はたくさんいます。1人1人の職員には、それぞれ専門的に学んできたことがあり、その専門性を活かして働いています。ですから、文系分野においても、1つのことを極めたり、専門性を持って自分の軸にできるものを学生のうちからつくっておいたりすることが大切だと思います。これはJAXAに限った話ではありませんが、社会に出て働き始めると、専門性を持って学んだことが強みになるはずです。
広報の立場で宇宙飛行士を近くから見るからこそ、ISSでの多様な実験からロボット操作などのミッション、地上での事務的な業務からイベントへの登壇など、様々なタスクをこなすすごさを肌で感じています。これからも宇宙飛行士の活動を支えながら、多くの方に有人宇宙活動を知っていただけるように頑張っていきたいです。
有人宇宙技術部門 事業推進部 広報ライン
国際社会学部ロシア地域卒業、2018年入社。経営推進部推進課にて、JAXA全体の資金管理業務を担当。経営層に近い部署で、JAXA事業の方向性を学ぶ。2020年より有人宇宙技術部門の広報業務に従事し、野口宇宙飛行士、星出宇宙飛行士のISS長期滞在ミッション広報を担当。目標は、日本を代表して活躍できる人材になること。
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