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2022.03.31
  • スペシャリストの声

「きぼう」の環境を活用し、将来役立つ新技術を研究開発

有人宇宙技術センター 研究開発員
山口 正光 ピヨトル
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「きぼう」日本実験棟にはたくさんの実験装置や電子機器が所狭しと並んでいます。それらの装置や機器など、宇宙飛行士が使用するシステムの開発に大きく関わっているのが有人宇宙技術センターです。研究開発員の山口正光ピヨトルさんに、新しい技術開発の話を聞きました。

ロボット技術と人に関わることが好きでJAXAに応募

Q: 有人技術センターは、どのような役割をする部署なのでしょうか。

山口: 有人宇宙技術センターは、「きぼう」の維持・運用と「きぼう」の中で使うシステム機器の開発、そして将来の有人宇宙開発に必要な技術の研究開発をおこなっています。

Q: 山口さんは、どのような仕事をしているのでしょうか。

山口: 私のメインの仕事は将来の有人宇宙活動で必要となる自動化・自律化技術の研究開発です。例えば「きぼう」自律移動型船内カメラドローン(Int-Ball)の2号機の開発や将来宇宙飛行士の作業を補助できるロボットの研究開発といった業務を行っています。同時に現在の国際宇宙ステーションの維持、高機能化に向けシステム機器の開発や、将来の国際有人探査に向けて、月面有人与圧ローバの検討といった業務も行っています。一見、幅広い業務を行っていますが、それぞれJAXA内外の仲間と一緒に協力しながら仕事をしています。

Q: 山口さんは、もともと宇宙が好きでJAXAに入ろうと思ったのですか。

山口: 元々、特段宇宙に思い入れがあったわけではありませんが、新しいモノを作るということにいつも魅力を感じていました。小さいころからおもちゃがあると、そのしくみが気になって分解していました。

大学ではロボティクスを専門として、災害対応のロボットやドローンの研究をしていました。人が入れない危険な場所で、人の代わりに作業をするロボットを作るうちに、ロボットのサポートが必要な究極の場所は、宇宙ではないかと考えるようになりました。

宇宙技術はいろいろな分野の人たちが交わる必要のある分野であり、ロボット技術も、機械、電気など、いろいろな分野の技術が融合することで新しいものを作っていく分野なので、とても親近感が湧きました。また、私はもともといろいろな国に行くのが好きで、海外に住んでいた期間も長く、国際協力で宇宙開発をすることが、実は自分にとても合っているのではないかと思い、JAXAに応募しました。

ロボットの検証試験用の「きぼう」船内を模擬したモックアップ内にて

人と人をつなげることで生まれる新技術

Q: 今取り組んでいる仕事は、どういうところが楽しいですか。

山口: 楽しいところも難しいところも一緒なのですが、やっぱり新しいことに挑戦するところでしょうか。これまでないものを目指しているので。でも、完全にゼロから新しいものをつくるのではなく、既にあるものの組み合わせなんです。たとえば、地上の技術を宇宙で使ったり、宇宙での技術を地上で生かしたりということもそうですね。このピースとこのピースを合わせるとできるかもしれない!でもそれはまだ、だれもやったことがない!そういうところに挑戦していくのは楽しいです。

Q: 研究開発を進めていくうえで大切にしていることを教えてください。

山口: 仲間づくりといいますか、たくさんの人たちからアイデアをもらうことを心がけています。私のいる部署は、JAXA内外問わず、いろいろな分野の人と話し、一緒に仕事ができるので、とても楽しいです。宇宙技術やロボットに関わる国内メーカーや研究機関の人はもちろんですが、自動車のデザイナーや模型メーカー、建設会社など、一見、宇宙とは関係ないように思える人たちとも関わりながら、宇宙技術の検討をしています。

それぞれの技術を繋げることによりシナジーが生まれて新しい技術が生まれていくと考えています。その技術を持っているのは、人ですから、いろいろな技術を持っている人たちをうまくつなげて、まとめ上げていくことが私の仕事だと感じています。JAXAに入る前は、これほどいろいろな業界の人たちと関わる機会があるとは思っていなくて、いい意味でとても驚きました。

「きぼう」自律移動型船内カメラドローン(Int-Ball)

「きぼう」での実験を繰り返し、新技術獲得へつなげる

Q: 将来、宇宙ではどんな技術が必要になりますか。

山口: 私の業務として目指しているのは「自動化・自律化」ですね。宇宙に行ける人や時間は限られている中で宇宙での実験作業や探査において、定型作業や繰り返し作業に時間をつかってしまうのはもったいないと考えています。人にしかできないことをしっかりとしてもらうためにも、ロボット技術や自動化技術によって宇宙飛行士の活動を補完することを目指しています。貴重な時間を食料や実験器具の荷物の整理に費やさなくてもいいように、将来の有人探査では荷物整理などはロボットに任せるようになるようにしたいですね。

Q: 実際にどのように開発を進めていくのですか。

山口: まずはベースとなる技術を見つけて、実際に宇宙で実現するためにシステムとして成立させることが重要です。宇宙の環境で動作させるための安全や打ち上げられる質量の制約と実現したい技術を上手く両立させる必要があるからです。その中で今、私たちは実際に宇宙で実験することにより必要な技術を試せる環境を持っています。「きぼう」には常に宇宙飛行士がいるので、定期的に荷物を送れ、いろいろな技術をクイックに試すことができます。

たとえば、船内ドローンのInt-Ballは、まさにその例なのですが、1号機は、まず、カメラが付いたドローンからはじめて、次に2号機では、充電ポートへの自動ドッキング機能、自分のいる場所を自動認識する機能などを追加して試していく計画です。このように、軌道上で使ってみて得られるフィードバックを、次の開発に生かしていけるのです。

Int-Ballと金井宇宙飛行士 ⓒJAXA/NASA

Q: これからの目標を教えてください。

山口: 常に新しいものを生み出していきたいと考えています。まずは、現在、安定した運用ができている宇宙の拠点「きぼう」の強みを最大限に活かして、有人宇宙活動をより良くしていく、宇宙飛行士の役に立つ自動化自律化技術を提案していきたいです。将来的には自分で考えたミッションを立ち上げて、実現させたいですね。

JAXAは好奇心いっぱいの人たちがたくさん集まっている組織だと思います。好奇心があって、しかも、自分のやりたいことに向かって主体的に動く人たちと一緒に技術をつくっていくのはとても楽しいです。意見の違いからぶつかることもありますが、その違いを乗り越えることで、いいものがつくられると思っています。自分の専門分野としてロボティクスの技術を深めつつ、宇宙機のシステム全体を見れるように自分の枠を広げていきたいです。

山口 正光 ピヨトル(やまぐち せいこう ぴよとる)

有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員

メカトロニクス専攻&人間機械システムデザイン専攻修了(ダブルディグリー)。2019年JAXA入社。有人宇宙技術センターにおいて、自動化・自律化業務、「きぼう」システムインテグレーション、月面有人与圧ローバ検討の業務に従事。主業務では将来有人宇宙活動で宇宙飛行士の活動を支援・代替するロボットの研究開発と国際調整を担当。目標は多様な人と技術を巻き込み、ワクワクするミッションを立ち上げること。

※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA