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スペシャリストの声フライトサージャン

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宇宙飛行士の健康状態を把握し、
安全な「宇宙のしごと」を支えるお医者さん

宇宙は地上よりも過酷な環境で、危険とも隣り合わせです。そのような環境で働く宇宙飛行士の健康を医師として支えているのがフライトサージャンです。宇宙飛行士のお医者さんともいえるフライトサージャンの仕事の内容は、あまり語られることはありません。数少ない日本のフライトサージャンの1人である横田航志さんに、フライトサージャンの仕事について聞きました。

フライトサージャン、横田 航志さん

宇宙飛行士の安全な任務のために。

横田さんの所属する宇宙飛行士健康管理グループはどんな仕事をしているのですか。

横田: 名前の通りですが、宇宙飛行士の健康管理をするグループです。このグループには、私たちのように医師として宇宙飛行士と関わるフライトサージャンもいますが、いろいろな企業の人たちと協力していく宇宙食の担当者、看護師資格を持っている健康管理担当者、宇宙飛行士の栄養管理を担当する栄養士など、様々な役割の人がいます。

日本人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在しているときは、宇宙飛行士の医学データをISSと地上でやり取りするバイオ・メディカル・エンジニア(BME)、宇宙飛行士の体力の維持をサポートする生理的対策担当、精神心理面をケアする精神心理担当、放射線の被ばく管理をする担当者など、たくさんの人たちがチームを組んで、宇宙飛行士の健康や安全を管理していきます。

フライトサージャンは、普通のお医者さんとどのような違いがあるのですか。

横田: 病院に勤務している医師は、基本的に健康上の問題を抱えている人を相手にするので、医師と患者の関係がはっきりしていると思います。

一方で、フライトサージャンが相手にするのは、基本的に健康な宇宙飛行士です。病気を治療するのではなく、健康な人が特殊な環境で、場合によって危険な環境で、安全に任務をに遂行できるようにサポートする仕事なので、どちらかというと産業医学や予防医学に近い仕事になります。宇宙飛行士との関係も、病院での医師と患者というよりは、同僚に近い関係になります。

フライトサージャンの業務について語る、横田さん

横田さんは、なぜ、フライトサージャンになろうと思ったのですか。

横田: 名前が「航志」であったこともあり、小さい頃から、航空機やロケットに憧れを持っていました。大学受験のときは航空工学系の学科に進むか、医学部に進むか悩みました。成長する過程で阪神大震災など、命とは何かと思う出来事がいくつかあり、人の命を救う医師にも魅力を感じたからです。

結局、このときは医学の道を選びました。たくさんの人の命を直接救える医師を目指したのです。でも、宇宙のことも気になっていて、宇宙航空環境医学会で宇宙航空医学認定医の資格を取得しました。

宇宙についての情報を集めているうちに、JAXAでフライトサージャン業務支援医師を公募していることを知り、応募して、非常勤の支援医師となりました。実際に支援医師としての業務をする中で、フライトサージャンの仕事を本格的にやりたいと思い、JAXAのフライトサージャン候補者へと進みました。

エリントン飛行場でのT-38ジェット練習機の研修時にて
ISSモニタリングの研修の様子

宇宙飛行士の健康状態を把握

宇宙飛行士が地上にいるときもフライトサージャンの仕事はあるのですか。

横田: 宇宙飛行士は年に1回の医学審査を受けて、それに合格する必要があります。宇宙飛行には医学基準がありますので、その基準に合わせて検査や診察を実施し、医学審査をおこないます。また、訓練の中にはフライトサージャンの立ち会いが必要なものもありますので、そのような訓練に立ち会い、訓練中の安全管理をすることもあります。

医学審査はまず国内でおこない、その結果に基づいてISSプログラムに参加している5つの宇宙機関(米国航空宇宙局、ロスコスモス、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、JAXA)のフライトサージャンの代表者が集まる国際医学会議で審査を受けて、適格かどうかの最終的な判断がなされます。

宇宙飛行士が宇宙に行くときは、フライトサージャンの仕事も増えるのですか。

横田: 日本人宇宙飛行士のISS搭乗が決まると、打上げのおよそ1年前に専任のフライトサージャンが指名されます。この時期から、宇宙に行く飛行士は年に1回の医学検査に加えて、打ち上げ予定に向けてたくさんの検査が組まれます。検査の調整や結果の確認、その他訓練の立ち合い等をおこないます。また、専任フライトサージャンは自分が担当する宇宙飛行士と定期的に医療面談をします。新型コロナウイルスが世界的に流行してからは対面で顔を合わせる機会が減っていますから、医療面談は宇宙飛行士の状態をよく知るための貴重な機会となります。

専任フライトサージャンになると、日常業務に加えてこれらの個別の仕事が入ってきます。宇宙飛行士は訓練のためにアメリカのヒューストンを拠点に活動するので、専任フライトサージャンもヒューストンに赴任して、担当の宇宙飛行士のサポートをすることになります。

無重量環境訓練施設(NBL)での低圧環境の研修を行う、横田さん

それはたいへんですね。担当する宇宙飛行士がISSに滞在している間は、専任フライトサージャンはどのようなことをしているのですか。

横田: ISSに滞在している宇宙飛行士と専任フライトサージャンは、基本的に週1回の頻度でビデオ面談をします。打ち上げ直後から1週間程度は微小重力による身体変化が大きいため毎日通信しますし、船外活動をする前後や帰還前にも追加でビデオ面談を実施します。

ISSに滞在している宇宙飛行士が地上にいる人と話ができる機会は限られています。フライトサージャンは数少ない面談相手の1人なので、宇宙飛行士が困っていることなどに早めに気付いて、問題点をくみ取れるよう心がけます。

飛行士が宇宙から地球に戻ってきてからは生理的対策担当とともにリハビリのサポートをします。そして、リハビリが完了すると専任フライトサージャンの任務も終わります。1つのミッションで宇宙飛行士の専任となる期間は2年くらいですね。

今後の目標を教えてください。

横田: まずは飛行前・飛行中・飛行後において一連の宇宙飛行士のサポート業務を専任フライトサージャンとしてしっかりと経験したいです。また、今後の有人宇宙開発は、月や火星探査へと移っていきますので、宇宙医学も新しい時代に入ります。そのような有人探査活動を通して、宇宙医学の発展に貢献できたらなと思います。そして、何よりも、日本人宇宙飛行士が初めて月面に立つときに、フライトサージャンとしてその健康管理を担いたいです。

横田 航志(よこた こうし)

有人宇宙技術部門宇宙飛行士運用技術ユニット宇宙飛行士健康管理グループ 医長 JAXAフライトサージャン

医学部医学科卒業後、病院勤務を経て、2017年からJAXAフライトサージャン業務支援医師。2019年からフライトサージャン候補者として国内外の基礎訓練を開始。2021年3月JAXAフライトサージャンの認定を取得。目標は、日本人初の月面滞在を医学面からサポートすること。

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※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA