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スペシャリストの声フライトディレクタ

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たくさんの運用管制員をとりまとめ
宇宙の実験室を支える

日本、アメリカ、 ヨーロッパ、 ロシアなど15か国が参加している国際宇宙ステーション(ISS)には、日本が運用する日本実験棟「きぼう」があります。「きぼう」の運用を指揮しているのがフライトディレクタです。フライトディレクタの仕事について、森研人さんに聞きました。

フライトディレクタ、森 研人さん

きぼうを24時間365日、安全に運用

フライトディレクタの役割を教えてください。

森: JAXA筑波宇宙センターにはきぼうを運用する管制室があり、地上から「きぼう」のシステム機器や実験装置を監視したり、実験をおこなう宇宙飛行士をサポートしたりしています。管制室で「きぼう」を支えるのは、様々な専門性を持つ技術者たちです。専門の技術者たちを取りまとめ、最終判断を下しながら「きぼう」の運用をしていくのが、フライトディレクタの役割です。

JAXAにはフライトディレクタは何人いるのですか。

森: 現在、私を含めてフライトディレクタは十数名います。「きぼう」は24時間365日休むことなく運用していますから、フライトディレクタは8時間ずつ三交代のシフトを組んで、管制業務をおこなっています。管制業務のシフトに入るのは月に10日くらいなので、勤務日数の半分くらいはシフトに入っている形になります。

「きぼう」の管制室には、何人くらいのスタッフが詰めているのですか。

森: 管制室で働くスタッフの数は、運用内容によって変わります。宇宙飛行士が寝ている時間帯や実験のない時間は4人で運用するときもありますし、複数の実験を同時に実施するときなどは、最大で15人程度になります。宇宙という過酷な環境で、限られた時間で実験などを安全に実施するためには、そのくらいの人数が必要になります。

「きぼう」日本実験棟の運用管制室

「きぼう」は日本のモジュールなので、日本人宇宙飛行士がいるときも、いないときも変わりなく、つくばから運用しています。日本人宇宙飛行士がいないときも、外国の宇宙飛行士がきぼうを使って実験をするので。ただ、日本人宇宙飛行士がISSにいるときは、広報イベントなどが多くなりますので、そのときはいつもより少し忙しくなります。

運用管制のシフトに入っていないときは、フライトディレクタは何をしているのですか。

森: フライトディレクタといえば、管制室に詰めて「きぼう」の運用をしているという印象を持たれるかもしれませんが、実はそれはごく一部で、運用に向けての準備作業や計画調整など、管制室以外での地道な仕事がたくさんあります。

その1つが宇宙飛行士の作業手順書の確認です。宇宙飛行士が実験や作業をするときには、細かい手順を定めた手順書を用意します。作業手順書は専門チームの担当者がつくるのですが、宇宙飛行士が読んだときに、わかりやすいものであるかを1つ1つ細かく確認していきます。また、宇宙飛行士の作業時間は限られているので、その時間を各国で調整しながら具体的なスケジュールを詰める作業も、運用当日まで続きます。

管制室内での業務の様子

憧れの仕事でも、8時間でへとへとに

森さんは、フライトディレクタになりたくて、JAXAに入ったのですか。

森: そうです。小学生のときに「アポロ13」という映画に登場するフライトディレクタに憧れたのがきっかけで宇宙開発の仕事に興味を持ちました。大学は宇宙とは直接関係ない分野を学んでいたのですが、やはり宇宙開発の仕事がしたい気持ちが強くなりJAXAに入りました。最初に配属された部署で約5年間、打ち上げを控えた人工衛星の地上試験に係る仕事をした後に、有人宇宙技術部門に異動して、きぼうの運用管制の訓練を始めたのです。

そして、すぐにフライトディレクタになったのですか。

森: さすがにいきなりフライトディレクタにはなれません。最初はFLAT(フラット)というポジションの認定を受けて、運用管制チームの一員として経験を積みました。FLATは「きぼう」内の環境管理や機器などが発生する熱を制御する担当です。そして、フライトディレクタとしての訓練を受け、審査に合格することでフライトディレクタの認定を受けます。私は2020年末にフライトディレクタとして認定されたので、JAXAのフライトディレクタの中でも一番の新人となります。

フライトディレクタの仕事はどんなことがたいへんですか。

森: フライトディレクタは「きぼう」の運用責任者です。運用管制のシフトに入ったときは8時間、宇宙飛行士や「きぼう」の安全を守りながらも、実験などの計画をしっかりと進めることが求められます。そのプレッシャーはとても大きなものがあります。

運用中にトラブルに見舞われたり、実験などがうまく進まないことが、ときおりあります。1つの実験を実施するだけでも、たくさんの人が関わり、長い時間をかけて準備をして、実際の運用にまでこぎつけています。少しうまく進まないからといって、その実験をすぐに中止するわけにはいきません。安全を確保しながら、限られた時間の中で予定通りに計画を進めるのは、とても大変です。

管制室内での業務の様子

それはたいへんそうですね。1回シフトに入るととても疲れそうですね。

森: シフトの中で起こるあらゆる出来事に対して、最終的な判断をしていくので、ずっと気を張っています。そのため、シフトが終わったときは、精神的にも、肉体的にもかなり疲弊していると思います。しばらく気が高ぶったような状態が続きます。私は今、自動車通勤をしているので、帰りの車内で音楽を聴くことがいいリラックスタイムになっています。

これから、どのようなフライトディレクタを目指していきますか。

森: フライトディレクタは技術職の1つではありますが、宇宙飛行士を含めた国内外のたくさんの人とコミュニケーションを取ることが多く、JAXAの中でも特殊な職種だと思います。きぼうの運用管制でチームを組むメンバーは毎回、変わります。それぞれの人たちが気持ちよく仕事ができるように「前向きで責任感が強く、繊細な心遣いのできるリーダー」になっていきたいと考えています。

日本はこれから、NASAのアルテミス計画に参加して、月軌道や月面での宇宙開発に取り組んでいきます。これまでJAXAがきぼうや補給船「こうのとり」の運用で培ってきた技術やノウハウを、次の宇宙開発へとつなげる橋渡しをしていければと思います。

森 研人(もり あきひと)

有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 研究開発員 フライトディレクタ
(J-Flight)

理工学研究科開放環境科学専攻修了、2013年入社。入社後、宇宙機の地上試験を担当する環境試験技術ユニットに配属されHTV搭載小型回収カプセル等の環境試験を担当。2018年から「きぼう」日本実験棟の運用管制に従事。熱・環境制御を担当するFLATというチームを経て、JAXAフライトディレクタの認定を取得。目標は日本の有人宇宙開発をリードし続ける人材になること。夢は月有人ミッションのフライトディレクタ。

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※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA