会見では、まず有人宇宙技術部門宇宙飛行士運用技術ユニット長の久留靖史が、両名が宇宙飛行士候補者として取り組んできた基礎訓練の概況を説明。基礎訓練の目的、プロセス、期間をはじめ、宇宙飛行士に必要な心構え、知識、技術を習得するために、座学や実技を組み合わせた幅広い内容の訓練を行ってきたことを説明しました。
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米田宇宙飛行士、諏訪宇宙飛行士の冒頭の挨拶(抜粋/要約)
米田:この度、JAXA宇宙飛行士に認定されました米田あゆと申します。宇宙飛行士候補者として約1年半にわたり、基礎的な知識だけでなく、今後宇宙に行くにあたって必要な、実際の身体を使った実技の訓練も行ってまいりました。JAXAだけではなく他の企業の方、団体の方、また他の宇宙機関の方にお世話になって訓練を進めることができました。この場をお借りして改めて感謝を伝えさせてください。ありがとうございました。今、宇宙開発は激動の時代にあると思います。今後アルテミス計画のもと、月そして火星に向かっていく中で、私自身がどのように活躍していけるのか、しっかり考えながら、そして何よりこれから活躍していくであろう若い世代に向けて、宇宙の魅力や、何かに一生懸命取り組むことの楽しさを伝えられる、そんな宇宙飛行士になって参りたいと思いますので、引き続き、どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします。
諏訪:私は基礎訓練を2023年の7月に始めまして、2024年10月21日に認定をいただきました。その間、本当に多くの方々に直接的あるいは間接的にご支援・ご協力をいただき、無事に訓練を終えることができました。ほっとしている気持ちもありますが、これからまだまだ訓練が続いていきますので、気を引き締め直して、また一歩一歩楽しみながら訓練に挑んでいきたいと思っています。宇宙開発は過渡期にあり、国際宇宙ステーションの時代から探査の時代に入ってきています。そこに様々な商業的なプレイヤーの参入もある中で、変わっていく環境に適応しつつ、貢献できる宇宙飛行士を目指したいと思っています。また、その中でしっかりと科学的な成果などを創出し、それを地球に届けるといったことにも貢献していける宇宙飛行士になりたいと思っています。今後一層の努力が必要ですけれども頑張っていきたいと思います。
質疑応答(一部)
宇宙飛行士認定の知らせをどういう形で受けられましたか。またそのときの率直な気持ちをお聞かせください。
諏訪:10月21日に認定をしていただいたのですが、その際、私達は控え室で待っている状況で、2人同時に認定のお知らせを受けました。その後、引き続き認定式が開かれ、認定証を授与していただきました。その瞬間は、ほっとしたというのもありましたが、今後まだまだ宇宙飛行士としての訓練が続いていくので、また身が引き締まるような思いでいました。
米田:そのときの感情としましては、嬉しさとわくわく感というところでしょうか。嬉しさとしては、ようやく宇宙飛行士になれた、スタートラインに立てた、というところで、わくわく感は、これからどんなミッションが待ち構えているかわからない。新しいことに挑戦していくのだということに対して感じました。
宇宙開発の過渡期ということで宇宙飛行士の役割・任務の幅が広がっていると思いますが、特にこんな任務につきたい、興味があるということがあれば教えてください。
米田:私たち宇宙飛行士自身が活動の幅をさらに広げていくと言うか、宇宙飛行士はこんなこともできるんだよというのを発信していくことが大事かなと思っています。具体的にこのミッションを…ということはまだありませんが、私自身はどんなミッションであっても柔軟に対応できる宇宙飛行士になりたいなと思っています。
諏訪:状況認識や決断力など、宇宙飛行士としての基礎となる部分は、きっと今後ミッションの目的や行き先が変わっても共通すると思うので、そういった基礎的な部分はしっかりと磨き続けていきたいなという思いがあります。そして今後より一層、難易度の高いミッションが出てくると思いますが、それを成功に導くためにはJAXAの宇宙飛行士チームという強いチーム、どの宇宙飛行士が行っても大丈夫というようなチームを作っていくことが重要だと思うので、私も早くその強いチームの一員になれるように頑張っていきたいと思っています。
宇宙飛行士の活動の場がこれから広がっていくという想定で、この基礎訓練に取り入れた新しい項目などはあるのでしょうか?
久留:今回の基礎訓練には、有人探査を見据えた訓練もメニューの中に取り入れており、そこが新しいところです。具体的には、月探査や火星探査につながる知識や素養を身につけるため、地質学訓練として火山活動が観察できる浅間山でのフィールドワークを行ったり、国立天文台や宇宙科学研究所の研究者たちの協力を得て、その方々の講義を取り入れたりしております。
宇宙飛行士認定を受け、「候補者」から「飛行士」になりましたが、ご自身の中では何がいちばん変わりましたか?
諏訪:何がいちばん変わったかは、難しい質問なのですが、訓練はこれからも続いていきますし、より難易度の高い訓練に挑んでいくことになると思うので、今まで基礎訓練で学んだことをベースに頑張っていかないと、と気分を新たにしたところです。これまでは一方的にインプットをいただくだけであったのが、今後はちょっとずつアウトプットも求められる、そんなフェーズになってくると思うので、今の立場で何ができるのかを考えながらやっていきたいと思います。
米田:候補者だったときには、まず宇宙飛行士になるための訓練を積むところに主眼が置かれていて、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。そして今回、宇宙飛行士になってからの数日間は、宇宙飛行士としての責任は何なのかを考えることがありました。これまで教えていただいたことを糧に、私は何が恩返しできるのか、それを考えながら責任を果たしていきたいと思っています。
お二人は選抜の段階から月面探査を想定した募集・試験となっており、訓練でもそういう内容があったと思うのですが、あらためて、お二人の月面探査への思いを聞かせてください。
米田:おっしゃっていただいたように基礎訓練の間は、国際探査にも目を向けた訓練を行ってきました。具体的には、天文学や惑星科学を学んだり、実際にローバーが開発されている現場で開発者とお話をさせていただいたりしました。日本人宇宙飛行士のうち、誰になるかはまだ分かりませんが、我々のチームの中の誰かが月に行くことになるので、月に行くにあたって何が必要なのか、改めて考えさせられると思っています。
諏訪:ローバーもそうですが、月探査へ向けての技術開発が進む中、それを間近で見ながら基礎訓練ができたというのは本当に幸せなことだったなと思っています。月を目指すことは科学的な意義もあると思いますし、そのこと自体がわくわくすることだと思います。今後10年、20年の大きなプロジェクトになっていくと思うので、その中で自分ができることは何なのかを常に考えて進めていこうと気持ちをあらたにしました。具体的に、月の開発に関することを学んだり、地質学訓練など以前はなかった訓練を行ったりするにしたがって、少しずつ何が必要なのかを考え始めたところなので、今後もそこを考えつつ、訓練に励んでいきたいと思っています。
お二人はもともと宇宙関連の分野にいらしたわけではなく、全く他の分野から宇宙飛行士になられましたが、基礎訓練期間中に実際に宇宙分野のさまざまな経験をしてみて、有人宇宙開発や月探査に対する印象の変化や新しい気づきはありましたか?
諏訪:外から見ていたときは、自分は宇宙開発に割と無機質的なイメージを持っていたのだなと、訓練を受けてから気づきました。さまざまな技術システムの裏には多くの技術者がいること、実現に向けた熱い思いがあること、乗り越えてきた数々のチャレンジがあること、そういうお話を聞く機会があり、宇宙開発を支えている人間の姿が少しずつ見えるようになってきたのが、私にとっては新たな一面でした。それは、この世界に入らないと実感するのが難しかったことだと思いますし、この1年間で非常に学ばせていただいたところです。
米田:宇宙飛行士候補者として訓練を始めたばかりのときには、どんなことを学ぶのか漠然としたイメージしかありませんでした。工学的なことを学んだりするのかな…という印象はあったのですが、宇宙飛行士がこんなにも多岐にわたることを学ぶというのを初めて知りました。また、その裏には、私たちの訓練や宇宙開発に携わってくださっている方々の多さ、その1人1人の思いの熱さをすごく感じました。そして、今の宇宙開発があるのは、そういった積み重ねがあるからなのだと感じました。私も、それを少しでも高く積み上げられるよう貢献していきたいと思っています。
基礎訓練を振り返ってみて、楽しかったことやしんどかったこと、得意だったことや苦手だったことを教えてください。また、お互いに「ここがすごい」と感じたところを教えてください。
諏訪:一番楽しかった、思い出に残っている訓練は、パラボリックフライトです。微小重力の感覚は、ISSの中で宇宙飛行士がふわふわ浮いている映像を見て想像するのと、実際に自分が体験するのとは結構違っていて、本当に不思議な感覚でした。訓練の中で、飛行機の天井に腹を向けて、無重力のときにぐるっと回るような動きをしたときに、天井が急に床になった感覚があり、それが非常に面白かったです。ISSでは、これがずっと続いているのか…と思うと、とても想像力を掻き立てられました。
チャレンジングだった訓練は飛行機での訓練でしょうか。初めてのことが多かったですし、管制官と交信をしながら飛行機を操縦するのは、交信と操縦のどちらかがおろそかになっても駄目で、まさにマルチタスキング。これは慣れるまで時間がかかりました。ただ、楽しもうと自分に言い聞かせていた部分はあったのかもしれませんが、チャレンジングであったと同時に楽しかったです。
米田さんとはいろんな訓練を一緒にやってきましたが、彼女は何事も理解するのが早いクイックラーナー。座学でも私とは違った観点から質問をされることが多く、なるほどこういう考え方があるのかと、バックグラウンドが違うので非常に興味深かったです。
米田:印象に残っている訓練としては、低圧環境施設の訓練があります。宇宙船や国際宇宙ステーションで急減圧が起こったときのことを想定し、医療の適切な管理のもとで行う訓練なのですが、この中ですごく興味深かったのは、急減圧が起きた際になり得る低酸素症は、苦しく感じないままに認識能力や色覚がだんだん落ちていく、そうしている間に意識を失ってしまうことがあるのですが、これは知らないと気づけないなと感じました。座学で聞いてはいても、自分の身体でどんな感覚なのかを知っておくと、初期にすぐに対応できると思うので、そういったことを実際に訓練させていただいたのは非常に興味深かったです。
チャレンジングな訓練としては、日本とアメリカ/NASA、カナダ/CSAで行ったロボットアームの訓練です。先にきぼうのロボットアーム訓練を日本で行い、ステップアップする形でアメリカ、カナダでも行ったのですが、カメラの台数が限られている中、そのカメラの操作をするだけでなく、カメラの位置を把握して、どこから見るとアームの動きが捉えやすいか、それを認識するまで少し時間がかかりました。あとは、90分で地球を1周するISSは、明るくなったり暗くなったりが45分で繰り返されるので、1つのタスクの中で見やすいときもあれば、見にくくなるときもある。そういう実践に応じた難しさを感じたのが、このロボットアーム訓練でした。
諏訪さんがすごいなと感じるところは、常に落ち着いていらっしゃるところです。航空機操縦訓練では、訓練負荷を高めるためにエマージェンシーの状況を作って対応するのですが、どんなケースでも落ち着いていらっしゃって、私はそこに救われました。ですが、ただクールなだけでなく、人が集まったときには場が温かくなるような、笑いが起きるような側面も持っていらっしゃって、そういったコミュニケーション能力は諏訪さんからたくさん学ばせていただきました。
お二人の宇宙飛行士認定のニュースは、子供たちも見ると思います。ニュースを見て宇宙飛行士を目指す、目標にする、そんなやる気あふれる子供たちにメッセージをお願いします。
米田:まず、どんなことにも勇気を持ってチャレンジしてほしいなと思います。そうすると、チャレンジの一つ一つが積み重なり、自分の力となり、1人1人の強み、魅力になっていくと思います。そういった魅力が、将来の夢、目標に向かう際にきっと生きてくると思うので、どんなチャレンジも勇気を持ってトライしてほしいと思います。
諏訪:今すでに興味があるものがある子も、そうでない子もいると思います。何か好きなものがある子は、本当にそれを大切にしてほしいと思います。興味の対象は変わっても良くて、そのときそのときに夢中になれるものがあれば、それはきっと将来の役に立つと思います。興味が持てるものがないときは、がんばらずに何となくいろんなことをやってみる。きっと何かやっていくうちに、一生懸命やろうというもの見つかってくると思うので、焦らずに探して、見つけたら一生懸命やってみると、次に繋がると思います。
その様子は、JAXA YouTubeチャンネルでアーカイブされていますので、ぜひご覧ください。
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