米田と諏訪が取り組んでいる基礎訓練は、JAXAが宇宙飛行士候補者に対して基本的な心構えや科学的・工学的な知識及び基礎的な技量等を習得させることを目的に行っているものです。2名は基礎訓練を修了し宇宙飛行士としての要件を満たすことで、JAXA 宇宙飛行士として認定されます。なお、宇宙飛行士に認定された後も、技量や体力を維持・向上するための訓練が続いていくことになります。
2名はこれまで、座学を中心にさまざまな知識を習得してきたほか、体力、語学、航空機操縦、サバイバル技術といった宇宙飛行士として必要とされる基礎能力の訓練、ISSや「きぼう」のシステム操作に関わる訓練、宇宙実験に必要なサイエンス領域の訓練などを重ねてきました。
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今回公開したのは、宇宙飛行士に求められる行動特性の8要素(HBP-8)について習得・強化することを目的とした「心理支援プログラム」です。
HBP-8の内容
② コミュニケーション(Communication)
③ 異文化適応(Cross Cultural)
④ チームワークと集団行動(Teamwork and Group Living)
⑤ リーダーシップ(Leadership)
⑥ コンフリクトマネジメント(Conflict Management)
⑦ 状況把握(Situational Awareness)
⑧ 意思決定と問題解決(Decision Making and Problem Solving)
今回、ボーイング777型機のフルフライトシミュレーターを使った訓練に取り組む様子を報道関係者に公開しました。
訓練では、東京と大阪間を諏訪と米田が機長と副操縦士として交代で操縦し往復しました。途中、システムトラブルや天候急変が発生し、その状況下で目的地変更や引き返す等の対応をお互いに、また地上ともコミュニケーションをとりながら対処し、安全に着陸させるという訓練でした。
質疑応答(一部)
「2月に行われた会見で、米田さんが「自分の名前が入ったブルースーツを手にして、改めて自分が候補者になったという実感が湧いてきた」とお話しされていましたが、あれから時間が経過した今、お気持ちにはどんな変化があるでしょうか?」
米田:ヨーロッパでのパラボリックフライトの際もそうでしたが、今回のフライトシミュレータを使ったプログラムでもブルースーツを着て訓練に臨みました。「憧れ」だったブルースーツが、共に訓練をしていく「相棒」のような形になってきて、少しずつですが、この姿がしっくりきていると嬉しいなと思っています。一方で、着るとシャキッとする感覚はまだ変わらずありますね。
諏訪:サラリーマンをやっていた時、たまにきちんとスーツを着てネクタイを締めると、グッと気合いが入ったのと同じように、宇宙飛行士候補者になってからこれを着ると、やっぱり気合いが入るというか、「頑張っていかないと」という気持ちになります。
「基礎訓練が進み、いよいよ終わりが見えてきました。基礎訓練終了後は審査を受け、候補者から正式に宇宙飛行士になられる訳ですが、それが迫っている今の心境をお聞かせください。」
米田:より具体的になってきたと同時に、そこに達する道のりは簡単なものではないという、その解像度も上がってきたように思います。少し相反する考え方かもしれませんが、ただ漠然と憧れだったものから、具体的に科目を学んだり、技術を身につけたりすることで、そこまで到達する道筋がより明確に見えてきた。それによって、その難しさ、長さも含めて見えてきたというところが、より現実的でもあり、まだまだこれから頑張っていく道のりがあるということを実感しているところです。
諏訪:訓練を始めて大体1年と1か月ぐらい経つのですが、いろいろなことを学んできたなと思う反面、課題も見えてきたなというのがまずあります。やはり、これからもきちんと訓練を重ねて、その課題と思われる部分をしっかり補っていくことが重要なのかなと強く思うようになりました。 基礎訓練の残り期間、密度の濃い訓練がまだ残っているので、1つずつ着実にこなして、認定してもらえるように頑張っていこうと思っています。
「1年近く訓練を受けてこられて、自分の中で宇宙飛行士になる自信のようなもの、選抜された直後と比べて、考え方の違いのようなものはありますか?また、今日の訓練は大西宇宙飛行士のご出身であるANAのトレーニング施設で行われましたが、大西さんから何かお話を伺ったりされたのでしょうか?」
米田:自信というところについてですが、先ほども触れたように、宇宙飛行士になるということについて、より明確に分かってきた。どういったことが必要なのか、どういった像にならなければならないのかが、より明確になってきたというところで、その訓練をさせていただいていることは自分の力になっていると思っています。一方で、まだまだこれからも成長を続けていかなければならないということが、より明確にもなってきたかなとも思っています。
今回の訓練にあたっては、大西さんにお話を伺いました。ANAのパイロットでいらっしゃったので、パイロットと宇宙飛行士の訓練にどういう関わりがあるのか、2人で一緒に聞かせていただきました。エアラインでは、操縦桿を実際に握って飛行機を飛ばす方と、横で経路や、飛行状況をチェックする方の2人が協力してミスを防ぐように訓練されるそうなのですが、それはまさにISSでロボットアームを操作する状況と似ているとおっしゃっていました。
諏訪:選抜された時は、宇宙飛行士は憧れではあったものの、実際にどういう仕事をして、どういう訓練を受けているのか、それほど具体的なイメージは持っていませんでした。ですが1年間、訓練を受けさせていただいて、だんだんと自分の中で具体的なイメージというか、宇宙飛行士というのはこうなんだ、こういう訓練をしていかなければいけないんだというのが分かってきて、そういった意味では、現実味がどんどん湧いてきている感覚もあります。先輩の宇宙飛行士の方々にもいろいろとお話を聞く機会があって、実際のフライトはどうなのか、それに向けてどういった準備をしたらいいのかというような話を聞くことができているので、自分の中ではだんだんとイメージが具体的になってきている気がしています。
その一環で、今回も訓練に臨むにあたって、大西さんにもアドバイスを伺ったのですが、宇宙飛行士にも活きてくる部分がかなりあるよとおっしゃっていました。チームで何かをする時に、お互いに声をかけ合って確認し合って物事を進めていくことや、あるいは何かをやる時にこの順序でこれをするという処理手順に沿ってやることも多いのですが、そういったところでも かなり共通的な部分があるので、非常にいい訓練になるということはアドバイスとしていただきました。
報道陣からの質問に答える両宇宙飛行士候補者(Image by JAXA/ANA)
「今回のように民間企業とJAXAが連携して行う訓練プログラムについて、お二人が実際に体験してみて感じた印象や、良かった点などがあれば教えてください。」
米田:今回、航空会社のANAさんで訓練させていただいて、航空輸送と宇宙飛行には似たところはあるのですが、何が違うかというと、やはり飛ばしている数なんですね。飛行機は1日にすごい数の飛行機が毎日飛んでいて、だからこそ得られる教訓があったりする中で、そこから絶対に学び取らなければならない知識の蓄積がある。それを共有し、そこから得られる学びには、すごく体系立ったものがあるので、それを宇宙に活かすという意味で、我々が学ばせてもらっていることはすごく大きいと思います。 宇宙ではなかなかサンプル数が少ないものに対して、その数が多い民間企業様の力を借りて、我々の訓練に取り入れて、知見を学ばせてもらうというのは、新しい取り組みとして大事ではないかと感じています。
諏訪:今回はANAさんの施設での訓練でしたが、日本のいろいろな企業さんに訓練や研修に対する様々な知見があって、宇宙飛行士の訓練として利用させていただけるようなものは、きっともっとあるのだろうなという思いを強く持ちました。今回は航空分野で開発されたCRM訓練ということで、宇宙飛行を考えた上で非常に親和性の高い訓練であると思いますし、学ぶことも多かったなと思っています。そういう意味においては、今後ますます違った企業様と一緒にパートナーを組んでいくことで、訓練のまた違った可能性が開けていくのかなとも思いました。
「早ければ今年10月頃には認定審査があると思うのですが、それが目前に迫ってきたことへの率直なお気持ちと、今後の残りの訓練への意気込みを教えてください。」
米田:あっという間だったなと思います。10月までまだ数か月あるのですが、おそらくあっという間に過ぎてしまうのではないかと思う一方、それはあっという間で終わらせてはいけなくて、1つ1つの訓練で今以上に成長して、認定していただける日を真摯に待ちたいなと思っています。でも、その日が私自身も楽しみです。
諏訪:やはり、残りの訓練1日1日を大切に。基礎訓練は1度終わってしまうと、もう2度と戻ってこないので、悔いのないように、訓練の間にできること、学べることはきちんと身につけていきたいと思っています。そして、きちんと準備ができたという心持ちで認定をいただけるように、そういった心持ちになれるように、これからの数か月をしっかりとやっていこうと思います。
※特に断りのない限り、画像クレジットは©JAXA