原始太陽系星雲の高温過程で形成されたコンドリュールの再現実験

公開 2024年4月 9日

Space EggReproduction Experiment of chondrules formed during high-temperature processes in the protoplanetary disk

検討中
研究目的 コンドリュールは小惑星や地球の材料物質であるため、太陽系の形成史を解明する上で重要な固体物質です。本研究では、コンドリュールの組織を再現することで形成過程を明らかにします。
宇宙利用/実験内容 コンドリュールは、出発物質が高温に加熱されて溶融した後、宇宙に浮遊し周りとの接触がない状態で結晶化しました。静電浮遊炉では、安定的に酸化物(シリケイト)の模擬物質を浮遊させることができ、天然の環境を再現することができます。本研究では隕石中に含まれる実際のコンドリュールの化学組成の出発物質を用い、冷却率(結晶化温度領域で0.5K/s~100K/s)と結晶化後の加熱時間を変化させ、コンドリュールの結晶組織の再現する温度条件を決定します。
期待される利用/研究成果 コンドリュールが経験した温度の歴史を解明することで、コンドリュール形成を引き起こした加熱イベントの特徴を絞り込むことができます。現在、加熱イベントに関する数多くの理論モデルが提唱されていますが、どの説が最も正しいかはわかっていません。本実験の結果は、太陽系の惑星形成理論に大きな影響を与えることが期待されます。
関連トピックス
詳細

研究代表者

  • 中村 智樹(東北大学)

研究分担者

  • 森田 朋代(東北大学)
  • 小山 千尋(JAXA)
  • 木村 勇気(北海道大学)
  • 三浦 均(名古屋市立大学)
  • 𡈽山 明(立命館大学)

要旨

私たちの住む太陽系は約46億年前に生まれました [1]。太陽系はガスとダストで構成される原始太陽系星雲から出発し、粒子が集積・合体することで微惑星や大きな惑星に進化していき、今日のような惑星系が形成されました(図1)。コンドリュールは直径1 mm程度の球状の結晶物質で、原始太陽系星雲において太陽近くの領域で形成した物質です(図2)。地球のような岩石型の惑星の材料物質であるとも考えられており、コンドリュール太陽系の形成史を理解する上で重要です。コンドリュールは星雲内の無重力環境下で、前駆物質が瞬間的な加熱を受けて溶融し、急冷されてできたと考えられていますが、具体的な形成過程は未解明です。その最大の理由は、地上実験ではコンドリュールの組織や元素組成の分布を完全に再現できていないからです。そこで、本研究では実際に宇宙空間で、非接触・微小重力下での溶融実験を行いコンドリュールの再現を目指します。

図1 太陽系の形成過程(Image by 東北大学)

実験の概要

図2 棒状カンラン石(Barred-Olivine: BO)コンドリュールの光学顕微鏡写真(左)と模式図(右)(Image by 東北大学)

図3 ガス浮遊法で作成したBOコンドリュール。棒状カンラン石は形成されているがリムが形成されていない(Image by 東北大学)

コンドリュールは特徴的な組織を持っており、組織ごとに分類わけされていますが [2]、本実験では棒状カンラン石(Barred-Olivine:BO)コンドリュールを対象としています(図2)。このタイプを選んだ理由としては、(i)前駆物質が完全に溶けた融液から結晶化してできたため、実験で溶融・冷却条件を明確に制約でき、星雲で起こった高温現象を制約できるためです。加えて(ii)BOコンドリュールは特徴的な組織をもっており(細長いカンラン石の結晶と間をうめるガラス、コンドリュールの表面を一周取り囲むリム結晶)、再現実験の成否を判断しやすことも挙げられます。
本研究では棒状カンラン石の組織とカンラン石のリムの再現に着目しています。過去の地上実験では、棒状のカンラン石の組織は再現されていますが、完全なカンラン石のリムは一度も再現に成功しませんでした [3] [4]。私たちの研究グループも出発物質をガスで浮遊させる方法 [5]などによる地上実験を試みましたがリムは形成しませんでした。これまでの失敗の原因は重力にあると考えています。(1)のガス浮遊法においては、ガスでサンプルを浮かすため、溶融したサンプルの表面が強く振動してしまい、かつ、メルト内に対流が起きてしまいます。これらが液滴の表面に沿った結晶化をするリムの成長が阻害されたたと考えられます(図3)。また、最初に晶出した結晶がメルト内に沈殿してしまい、リムの形成に至りませんでした(図3)。したがって、現在はBOコンドリュールのリム組織は、メルトの表面振動や対流が抑えられた、無重力下での結晶化実験でのみ再現されると考えています。

ISSの静電浮遊炉では、安定的に酸化物(シリケイト)の模擬物質を浮遊させることができ、天然の環境を再現することができます。実験では、隕石中に含まれる実際のBOコンドリュールの化学組成を模擬した出発物質を用い、冷却率(結晶化温度領域で0。5K/s~100K/s)と結晶化後の加熱時間を変化させ、コンドリュールの結晶組織の再現する温度条件を決定します。

期待される成果

コンドリュールの組織や化学組成は形成時の温度を反映していると考えられていますが、コンドリュール形成を引き起こした加熱イベントのメカニズムはわかっていません。本研究の結果から、加熱イベントの具体的な冷却率を絞り込み、これらと理論モデルを比較することで、加熱イベントの妥当性を評価することができます。これは太陽系の惑星形成論に大きな影響を与えることが明白です。

参考資料

  • [1] Amelin, Y., and Krot, A. (2007). Pb isotopic age of the Allende chondrules. Meteoritics & Planetary Science, 42(7-8), 1321-1335.
  • [2] Grossman, L. (1972). Condensation in the primitive solar nebula. Geochimica et Cosmochimica Acta, 36(5), 597-619.
  • [3] Lofgren, G., and Lanier, A. B. (1990). Dynamic crystallization study of barred olivine chondrules. Geochimica et Cosmochimica Acta, 54(12), 3537-3551.
  • [4] Tsuchiyama, A., Osada, Y., Nakano, T., and Uesugi, K. (2004). Experimental reproduction of classic barred olivine chondrules: Open-system behavior of chondrule formation. Geochimica et cosmochimica acta, 68(3), 653-672.
  • [5] Nagashima, K., Moriuchi, Y., Tsukamoto, K., Tanaka, K. K., and Kobatake, H. (2008). Critical cooling rates for glass formation in levitated Mg2SiO4-MgSiO3 chondrule melts. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 103(3), 204-208.

中村 智樹 NAKAMURA Tomoki

東北大学理学研究科地学専攻 教授

1991年東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻修士過程を終了、1994年博⼠(理学)。1993年九州大学理学部地球惑星科学科助手。NASA/JSC太陽系探査部門、独マックスプランク研究所・宇宙化学部門に留学、九州大学助教授を経て2012年から現職。初期太陽系進化学研究室を主宰。スターダストより宇宙探査ミッションに関わり、はやぶさ、はやぶさ2では初期分析を担当、MMXでは科学戦略チーム「Origin of Phobos and Deimos」のPI、およびミッションオペレーションワーキングチーム主査を担当。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
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