核形成速度およびその熱物性特性からのエネルギー貯蔵材料開発

公開 2021年9月 6日

Thermal storageDesign of Thermal storage material from the aspect of nucleation and their thermophysical properties

準備中
研究目的 再生可能エネルギーの貯蔵材料として潜熱型の合金系蓄熱材料に着目しました。これは融解・凝固時に潜熱の入排出を利用して熱エネルギーを貯蔵・放出するものです。このシステム設計のために宇宙空間での合金の熱物性測定が必要になります。
宇宙利用/実験内容 近年、蓄熱材としての応用が期待されている相分離系の合金(Si-Al、Fe-Cu)を微小重力環境下で溶融し、1) 凝固過程の観察、2) 溶融状態での物質移動現象を支配する高温融体の密度や粘性、表面張力などの熱物性値を測定します。冷却曲線と核形成した過冷却度との関係から核形成速度を測定します。
期待される利用/研究成果 合金の過冷却状態を含む広い温度範囲での物性値および核形成速度を明らかにすることで、凝固プロセスのシミュレーションや相分離系の熱エネルギー貯蔵材料の設計に応用します。これまで粉末冶金などの方法で潜熱型の合金の熱エネルギー貯蔵材料が多く製作されて研究されていますが、上記の材料設計を有効利用することで短時間に大量の熱エネルギー材料の開発が期待できます。
関連トピックス
詳細

要旨

"Thermal energy storage provides the essential flexibility to integrate high shares of solar and wind power" これは国際再生可能エネルギー機関、IRENAが2020年に発行した "Innovation outlook Thermal Energy Storage" の巻頭言です。太陽光・風力などの再生可能エネルギーは日照時間等の自然状況に左右されるなどの理由から、これまで個別の発電でシェアを伸ばすことができていません。このような現状を克服するため、再生可能エネルギーを大量に導入させるエネルギー貯蔵設備が必要です。さらに、工場、オフィスで熱として排出される未利用のエネルギーを有効活用するため、エネルギー貯蔵技術の確立が急務となっています。

図1は全世界における2015年のエネルギー貯蔵システムの全貯蔵エネルギーと電力容量を比較したものです(ただし揚水力は除く)。世界的にバッテリーによるエネルギー貯蔵施設の数は多いものの、そのエネルギー貯蔵は数千MW-h付近に集中しているのに対し、熱エネルギー貯蔵(Thermal Energy Storage: TES)はその5-6倍のエネルギーを貯蔵する設備として扱われていることが分かります。

図1 世界におけるエネルギー貯蔵ステーション(研究代表者一部加筆)

蓄熱材は、エネルギーを熱として貯蔵できる有用な材料であり、未利用の熱エネルギーを有効活用できます(図2)。工場廃熱や再生可能エネルギーの電力を熱に変換し、一度 "熱エネルギー" として貯蔵すれば、必要に応じてエネルギーを発電、暖房、スチームの生成などに利用できます。そのなかでも、この熱エネルギーを利用して蒸気タービンを回す蓄熱発電が近年注目されています。

図2 熱貯蔵技術の必要性

オーストラリアではシリコンを利用した蓄熱発電のプラントが、また、スウェーデンではAl-Si系合金を使ったプラントが建造されています。これらは対象としている温度帯が1400度、600度と異なるものの、シリコンの潜熱を利用し熱エネルギーとして貯蔵するものです。このように合金系を利用したプラントが世界では稼働しつつあります。 また潜熱を利用した熱エネルギー貯蔵としては、溶融塩を用いたプラントも建造されています。これらは、用いる材料は異なっているものの、それらの大きな溶融時の潜熱を利用しているものです。表1は熱貯蔵材料の候補となる金属ならびに塩の物性データを比較したものです。金属に比べて、塩は熱伝導率が低いことが分かります。このことは、塩は金属に比べて熱を効率的に貯蔵しにくいことを示しています。

さらに塩の融解-凝固時における高い体積変化は融解-凝固の繰り返しによる熱エネルギー貯蔵タンクの破壊の原因になるとも考えられます。一方、金属は融解-凝固時の体積変化が小さいこと、シリコンの負の体積変化と金属の正の体積変化の相殺などの可能性があり、体積変化による設備の破壊を抑制できる可能性があります。そのため、熱‐電気変換効率の向上(≈高温化、応答性の向上)と耐久性の向上を求めた場合、合金を利用した蓄熱材の開発が重要となってくると考えられます。 本研究では潜熱型蓄熱材料のシステム設計実現に向けて、合金系の熱エネルギー貯蔵材料の密度、表面張力、粘性を宇宙空間で正確に測定します。

表1 蓄熱材料の物性値の比較(熱物性ハンドブック、Thermal energy storage materials and system、Thomas Nauser et al 2012より抜粋)

実験の概要

本研究では、近年、蓄熱材としての応用が期待されている相分離系の合金(Si-Al、Fe-Cu)に着目しました。これらは、それぞれ500℃、1000℃近辺に融点を持ち、再生可能エネルギーを熱として貯蔵する場合の温度範囲(560-1414℃)で熱を効率的に貯蔵できると考えられます。

潜熱型の蓄熱材料は、融解・凝固時に潜熱の入排出を利用して熱エネルギーを貯蔵・放出するため(図3)、より効率的な蓄熱材料の設計には、この融解凝固の過程を詳細に明らかにする必要があります。しかし、地上では容器壁面からの不均質核形成や不純物の混入により、融解凝固過程の観察が困難です。この問題を解決するためには、宇宙空間を利用した微小重力環境での 1)凝固過程の観察、2)密度や粘性、表面張力などの物質移動現象を支配する溶融状態の熱物性値の非接触での測定が必要です。また、融解-凝固サイクルによる熱貯蔵エネルギー材料の破損を防ぐため、詳細な密度のデータが必要になります。

凝固過程に密接に関わる核形成速度は、同じ静電浮遊法でも地上と微小重力下で結果が異なります。地上では融体内に対流が生じ不均質核形成が促進されますが、微小重力下では対流が抑制され過冷却状態になります。そのため、両者のデータを比較することで対流の影響を見ることができ、結晶成長のモデル化に役立ちます。

また、粘性は温度に対してアレニウス型の依存性を示し、温度変化に対して指数関数的にその値が変化します。溶融合金の熱物性を正確に評価するためには、広い温度範囲で正確に温度依存性を評価することが不可欠です。しかし、地上実験では高温において試料が容器と反応するため測定ができず、対流の存在により過冷却状態の粘性を正しく測定できませんが、宇宙空間では試料を浮遊させ対流のない状態で実験するため、幅広い温度で粘性を測定できます。

図3 熱貯蔵と凝固・融解現象の関係:凝固(核形成や結晶成長)時にエネルギーを取り出し(左図)、融解時に熱エネルギーを貯蔵する(右図)ことができます。より効率的な蓄熱材料を設計するには、溶融状態での熱物性や凝固時の現象を解明する必要があります。

期待される成果

合金の過冷却状態を含む広い温度範囲での物性値および核形成速度を明らかにすることで、凝固プロセスのシミュレーションや相分離系の熱エネルギー貯蔵材料の設計に応用します。2相分離系の合金は、低温で融解し熱エネルギーを貯蔵する低温相とそれを内包する(容器としての)高温安定相からなります。単一相に比べて低温相の比表面積が増えるため、加熱効率が高くなります。また、低温相が融解しても高温安定相を容器とみなして保持できることから、加熱-放熱効率の高い構造を維持しながら繰り返し使用できる利点があります(図4)。これまで粉末冶金などの方法で潜熱型の合金の熱エネルギー貯蔵材料が多く製作されて研究されていますが、上記の材料設計を有効利用することで短時間に大量の熱エネルギー材料を製造することが可能となります。

図4 単相および相分離系の熱エネルギー貯蔵材料の比較

小畠 秀和 KOBATAKE Hidekazu

同志社大学 研究開発推進機構 教授

2005年3月東北大学大学院理学研究科博士課程後期終了。東北大学多元物質科学研究所助教、ドイツ航空宇宙センター博士研究員、弘前大学准教授を経て2021年4月より現職。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
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