2019年度「きぼう」での静電浮遊炉(ELF)を利用した材料研究テーマ募集【基盤研究利用コース】として選定された「熱エネルギー貯蔵材料開発に向けた非平衡溶融合金の熱物性計測(Thermal storage)※1」の宇宙実験が、2023年7月に終了しました。
本研究では、再生可能エネルギーである熱エネルギーを安定的に貯蔵する材料として二相分離系の金属(シリコン-アルミニウム、鉄-銅)に着目しました。単一相金属の場合、容器を介して蓄熱材料へ熱の出入りが行われるため、容器での熱損失や体積膨張による容器の破損が懸念されます。一方、二相分離系の場合、融点の高い高温相(固体)を容器とみなし、高温相中に分散した融点の低い低温相を効率よく加熱・放熱することで、低温相のみ溶融・凝固することが可能であり、繰り返し使用にも耐えうる構造を維持できます。
宇宙実験では、静電浮遊炉を用いて二相分離系金属の熱物性を測定しました。今後は、得られた熱物性を使って二相分離系金属の凝固過程のシミュレーションを行い、将来的には蓄熱材料の組織設計や開発に応用します。
- ※1 熱エネルギー貯蔵材料開発に向けた非平衡溶融合金の熱物性計測(Thermal storag)
- 研究代表者小畠 秀和(同志社大学 教授)
- 実験目的
・二相分離系金属の熱エネルギー貯蔵材料のシステム設計に必要な溶融合金の密度、表面張力、粘性を測定する。
・これらのデータを用いて、潜熱型蓄熱材料を使用するためのシミュレーションに基づいたシステム設計を実現する。
ELFの研究テーマに選定されてから、新しいことの連続で戸惑ってばかりでしたが、JAXA静電浮遊炉チームをはじめ、共同研究者の先生、学生さんの協力のおかげで、無事に実験を終えることができました。宇宙空間で浮遊した試料が融けながら試料が真球になっていく様子は感動でした。これからデータ解析を進め、熱エネルギー貯蔵材料の開発につながる研究に発展させていけるようにさらに挑戦していきます。