過冷却液体合金の分相と多重合金球形成過程の解明

公開 2021年9月 2日

Multi shell sphereStudy of liquid-liquid phase separation of undercooled liquid metals and forming process of multi shell sphere

準備中
研究目的 宇宙実験の目的は、比重差による対流の無い環境下で鉄-銅合金の過冷却液体の液相-液相分離を発生させ、その分離過程や凝固過程の温度変化を精密に追跡することです。浮遊液滴状にすることで、深い過冷却と比重差対流の抑制を実現し、理想的な非平衡状態からの相分離の観察が可能になります。
宇宙利用/実験内容 鉄-銅合金系の過冷却液体状態における液相-液相分離とそれに伴う多重合金球の形成機構について明らかにします。ISSでは直径2 mmの球状試料を用いた相転移温度の精密測定と重無力場において形成される多重合金相を調べ、地上重力下ではショートドロップチューブやガスジェット浮遊法を用いた参照データの取得を行います。両者の比較から重力場の有無と相分離や凝固組織形成の関係を明らかにします。
期待される利用/研究成果 合金の分相に対する重力の影響は宇宙実験における従来からの研究課題です。本実験は、微小重力、ドロップチューブ、ガス浮遊の三種類の実験を組み合わせることにより、重力の有無や試料サイズの影響を独立のパラメータとして明らかにできることから、凝固/分相のシミュレーションにおける基礎データとして重要です。また、微小重力環境を利用して過冷却状態のより高精度の相図が得られれば、そこから新たな物質や材料の探索が可能になります。
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詳細

研究代表者

  • 正木 匡彦(MASAKI Tadahiko)芝浦工業大学 工学部 材料工学科・教授

研究分担者

  • 永山 勝久(NAGAYAMA Katsuhisa)芝浦工業大学 工学部 材料工学科・教授
  • 石川 毅彦(ISHIKAWA Takehiko)JAXA 宇宙科学研究所・教授

要旨

チューブの中に鉄-銅合金の微小融液を落下させて無重力状態で無容器凝固させると(ショートドロップチューブ法)、組成の異なる合金相からなる多重金属球の形成が見出されています(図1)。これは過冷却状態(凝固点以下の温度でも液体のままでいる状態)における液相-液相分離と、分相した液滴の表面張力の差によって生じる対流(マランゴニ対流)による集合合体に起因すると考えられていますが、ドロップチューブにおける自由落下中の微小な金属球の温度測定が極めて困難なことから、詳細な解析は行われていません。

近年、正木教授らはガスジェット浮遊(ノズルの先端から吹き出された高速の気体(または液体)を試料に当てて、周辺に生じる圧力差により浮力を得て位置制御を行う方式)を用いた直径2mmの鉄-銅合金の溶融凝固実験において、ショートドロップチューブ法で得られたものと同様な多重の金属球が得られることを見出し、さらに相分離温度や凝固温度が多重金属球の形成に関係することを見出しました。重力環境下では液相-液相の分離の際に比重差による対流が不可避であり、より相分離温度と多重金属球形成の詳細な解析を行うためには微小重力を利用した比重差による対流の無い理想的な参照データの取得が不可欠です。

宇宙実験の目的は、比重差による対流の無い環境において鉄-銅合金の過冷却液体の液相-液相分離を発生させ、その分離過程や凝固過程の温度変化を精密に追跡することです。静電浮遊法を用いて浮遊液滴状にすることにより、深い過冷却と比重差対流の抑制を実現し、理想的な非平衡状態からの相分離の観察が可能になります。ドロップチューブ法では、試料径が数十マイクロメートルかつ常に落ち続けているために正確な温度の把握ができませんが、宇宙実験では直径2mm程度の浮遊させた合金試料であるため放射温度計での温度変化の追跡が十分可能です。このような実験は正木教授の知る範囲においてはじめてです。

本実験は、微小重力、ドロップチューブ、ガス浮遊の三種類の実験を組み合わせることにより、重力の有無や試料サイズの影響を独立のパラメータとして明らかにできることから、凝固/分相のシミュレーションにおける基礎データとして重要です。また、実験の際に得られる多重構造の金属球は映像としてのインパクトが大きく、宇宙利用の成果として社会の興味を十分に引き付けるものと考えています。

図1 ドロップチューブ実験における多重金属球生成過程概念図

実験の概要

本研究では、鉄-銅合金系の過冷却液体状態における液相-液相分離、それに伴う多重合金球の形成機構について明らかにします。ISSでは直径2mmの球状試料を用いた相転移温度の精密測定と無重力場において形成される多重合金相を調べます。地上では対照実験として、ガスジェット(直径2mm)とドロップチューブ(試料径 数十マイクロメートル)の実験を実施します。

地上におけるガスジェット浮遊実験との比較から、宇宙実験と同じサイズの試料を用いた重力影響の把握が可能であり、続いてドロップチューブ法との比較により、試料サイズの影響の把握が可能です。なお、地上重力下のガスジェット浮遊を用いた実験では、三重の球状組織は極めてまれにしか観察されないため、分離した合金の比重差による擾乱の影響が推測されます。微小重力環境において三重の球状組織の形成頻度が向上するようであれば、重力影響のためであることを確認することができます。なお、ドロップチューブを用いた場合の形成頻度については、今後の地上研究の課題になります。

期待される成果

宇宙実験で得られた相分離温度をもとに、過冷却状態の相図(二元状態図:二成分の系で組成・温度・圧力などの状態量によって安定して存在する領域を図示したもの)を作成し、地上の研究にフィードバックします。近年、合金系の精密な熱力学量(自由エネルギーG:エンタルピー(トータルの熱量)から絶対温度とエントロピー(乱雑さ)の積を引いた値。Gが負の値になる方向に変化が進みます。)の測定をもとに計算状態図が作成されています。計算状態図は、主に平衡状態の物性予測や凝固組織の予測に用いられていますが、熱力学量の正確さや適用温度範囲が広がることにより、今後は非平衡状態の予測に使用されると考えられます。例えば、本実験の対象となる鉄-銅合金系について、これまでに得られている自由エネルギーの関数から過冷却液体の自由エネルギーを計算すると図2のようになります。これから得られる過冷却液体の相分離温度と地上重力下のガスジェット浮遊の実験値と組成依存性の間に何らかの関連性があることが見いだされています。微小重力環境を利用して過冷却状態のより高精度の相図が得られれば、計算状態図の適用範囲を非平衡状態まで広げることが可能となり、そこから新たな物質や材料の探索が可能となります。

得られた自由エネルギー関数は、フェーズフィールド法(材料組織形成過程をシミュレーションする手法)などによる相分離のシミュレーションに利用できます。本研究においてもこれらのシミュレーションを用いて分相から凝固に至る過程の解明を目指します。

図2 過冷却状態(T=1500K)における自由エネルギー関数

正木 匡彦 MASAKI Tadahiko

芝浦工業大学 工学部 材料工学科 教授

1996年から2007年までJAXAにおいて宇宙実験の企画・実施を担当。その後、現職の芝浦工業大学に移り材料工学(主に熱力学)を教え、現在に至る。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
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