宇宙実験ロボティクス実証設備(Test facility for lab-aUtomation System in Kibo: TUSK)※1 は、将来の宇宙実験の自動化を目指して開発された技術実証設備です。2台のマニピュレータ(ロボットアーム)と3台のカメラ(デプスカメラ2台、光学ズームカメラ1台)から構成されており、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機に搭載してH3ロケット7号機で打ち上げ、2026年2月に国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に設置されました。
TUSKは地上から送信したプログラムを実行することにより、軌道上で自在な動作が可能となります。ロボットアームは電磁石で固定する仕組みを採用しているため、取り付け場所を柔軟に変更でき、多様な活用に対応できます。また、民生品(市販製品)を積極的に活用し、地上のパソコン操作の延長線で宇宙実験が行えるよう、一般製品と共通のインタフェースを採用しています。研究利用だけでなく、技術実証やデモンストレーション、民間によるエンターテインメント用途など、多様な活用が期待されています。
今回実施したTUSK PM(TUSK Precision measurement Mission)※2 では、初期機能の確認に加え、微小重力環境を活かした自律実験機能の技術実証および精密機械の微小重力下での精度計測を行いました。
1. 初期機能チェックアウト
TUSKの基本機能が「きぼう」の船内で正常に動作することを確認しました。確認した項目は以下のとおりです。
- マニピュレータの動作
- 電磁石によるマニピュレータの固定・移設機能
- デプスカメラ(対象物までの距離を計測できるカメラ)による画像取得
- 光学ズームカメラによる画像取得
- LED照明機能
これらすべての機能について、軌道上環境で問題なく動作することを確認しました。
2. 自律実験機能の技術デモンストレーション
1台のマニピュレータがもう1台のマニピュレータを持ち上げて移設する技術デモンストレーションを実施しました。通常、地上ではマニピュレータの先端で持ち運べる重さには限界があります。しかし微小重力環境では重力の影響をほとんど受けないため、その限界を突破し、どのような重い物体であっても自在に動かすことができます。今回のデモでは、地上では500g程度の重さしか持ち上げられないマニピュレータが、微小重力下で約5kgのマニピュレータユニットを軽々持ち上げ、別の設置場所に移動させることに成功しました。
このデモは、TUSKが自分自身で構成を変更できる能力を示しており、将来的に宇宙飛行士の作業負担を低減しながら実験設備の配置変更や運用を支援できる可能性を示しました。またこれは、地上では実現が難しい設備の配置や構成を柔軟に変更できるリコンフィギュラブル(再構成可能)なロボットシステムの新しい活用を想起させるものです。
3.精度計測ミッション
TUSK PMでは、「ボールバー」と呼ばれる精度計測機器を用い、マニピュレータの動作精度を評価する実験を行いました。対象となるマニピュレータは、地上では0.05mmの繰り返し精度を保証する精密機器です。本実験では、重力の有無がその動作精度におよぼす影響を精緻に観察することにより、微小重力環境における機器の精密制御にかかる新たな発見を目指すものです。
この実験から得られた知見は、将来的な細胞レベルの精密操作が要求される宇宙実験や、高精度な位置合わせが必要となる宇宙製造などの分野における先行知見として活用されることが期待されます。
実験実施にあたっては、宇宙特有の環境の影響により、地上試験では確認されなかったセットアップ上の課題も発生しましたが、無事にデータを取得し、現在詳細な評価を進めています。
4.TUSKの今後
TUSKは柔軟な拡張性を備えており、さまざまな用途に対応できます。例えば、ROS(Robot Operating System)などのロボット開発環境を活用することで、今後も多様な機能拡張が可能です。技術実証プラットフォームとして、より柔軟で高機能な宇宙ロボットの実現に貢献することが期待されています。
- ※1 宇宙実験ロボティクス実証設備(TUSK)
- ※2 微小重力環境に起因する精密機器の誤差発生に関する影響解析(TUSK PM)
- 参考文献 [1]坂本琢馬 「きぼう」における宇宙実験自動化を支えるロボットアーム技術 -宇宙実験ロボティクス実証設備TUSKの開発と運用-, 強化プラスチックス, Vo.72, No.4.
- Youtube 【TUSKミッションに密着】人とロボットが宇宙で共に働く時代へ





