機能性高充填密度ガラスの融液物性計測による機能発現メカニズムの解明

公開 2024年4月 9日

Unconventional GlassInvestigation into the origin of functionalities emerged in functional densely packed oxide glasses by thermophysical properties measurements on the melts

準備中
研究目的 高屈折率・高硬度・高透過性・低熱膨張など優れた機能性をもつ高充填密度酸化物ガラスがなぜガラス化するのかを、宇宙実験でしか得られない融液の密度や粘度の温度依存性データをもとに、構造学的に解明します。
宇宙利用/実験内容 さまざまな機能性高充填密度ガラスの融液の密度や粘度の温度依存性を、静電浮遊炉(ELF)で計測し、熱膨張係数やFragility Index(ガラス形成能)を求めます。地上では融液とガラスの構造解析を行い、宇宙と地上の実験データを再現する構造モデルを構築します。融液から過冷却液体を経てガラス化に至る各段階での信頼性の高い原子配列と、機能との相関を調べることにより、高充填密度ガラスのガラス形成と機能発現のメカニズムを原子レベルで明らかにします。
期待される利用/研究成果 わたしたちが無容器法によって創り出した様々な機能性ガラスは、ガラスの常識をはるかに超える特性を示していますが、ガラス構造が従来型ガラスとは大きく異なっているため、なぜガラスになるかという根本がわかっていません。ガラス形成や機能発現のメカニズムを原子レベルで解明することで、新規高機能性ガラス、例えばダイヤモンドを超える超高屈折率低分散ガラス、硬くて割れないガラス、温めると縮むガラスなどの創成に繋がります。学術界だけでなく社会に与えるインパクトや、産業創出等の波及効果は大きいです。
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詳細

研究代表者

  • 増野 敦信(京都大学)

研究分担者

  • 小原真司(物質・材料研究機構)
  • 手跡雄太(京都大学)
  • 小山千尋(JAXA)
  • 石川毅彦(JAXA)

要旨

本研究では、これまでに私たちが浮遊炉を用いて創り出した優れた機能を示す高充填密度ガラスが、なぜそうした機能を発現するのか、そしてそもそもどうしてガラスになるのか、について、宇宙と地上の実験を組み合わせることによって、原子レベルで明らかにしようというものです。ISSの「きぼう」に搭載された静電浮遊炉(ELF)では、高充填密度ガラスのもととなる融液の密度や粘度の温度依存性を精密に計測し、熱膨張係数やFragility Index(ガラス形成能)を求めます。一方、地上では融液とガラスの構造解析を行い、宇宙・地上実験データを再現する構造モデルを、分子動力学シミュレーションなどにより構築します。融液から過冷却液体を経てガラス化に至る各段階での信頼性の高い原子配列と、高充填密度ガラスの機能(高硬度、高弾性率、高屈折率、高透過性、低熱膨張など)との相関を解明し、さらなる高機能性ガラスの創製につなげます。

実験の概要


図:一般的なガラス(上)と高充填密度ガラス(下)のネットワーク構造(Image by 京都大学)

わたしたちの身の回りにはガラス製品があふれていますが、その主成分が限られた組成の酸化物であることはあまり知られていません。数少ない種類の主成分酸化物に、各種添加剤を加えることで様々な機能性ガラスが生み出されてきました。食器、照明、装飾品、窓ガラス、フラットパネルディスプレイ、スマートフォン用カバーガラスなどの目に見える用途以外にも、光ファイバー、断熱材、ハードディスク用基板、医療用骨代替素材、放射性廃棄物固化原料など、その応用範囲は幅広く、社会を支える基盤材料として私たちの生活を豊かにするために欠かせないものとなっています。

この先、さらに画期的な機能をもったニューガラスを創り出すには、新たな組成系の開発が必要となります。しかしながら、ガラスを構成する主成分の種類が限られているという点から、組成探索範囲に制限があることは受け入れざるを得ないと考えられてきました。近年、ガラス科学におけるこうした限界を打ち破る手法として、無容器法が注目されています。

無容器法とは、融液を空中に浮遊させて保持したまま冷却・凝固させるという、文字通り容器を使わない手法です。不均一核生成の起点となり得る容器壁面との接触界面が無いことから、浮遊融液は結晶化しないまま過冷却液体状態を経て凝固、すなわちガラス化します。容器を用いている限り結晶化していた組成の融液でも、無容器法を用いることでバルクガラス化させられるという点で、無容器法は一種の究極的なガラス合成手法であると言えます。わたしたちは無容器法を用いて、高誘電率、高屈折率、高弾性率、高クラック抵抗、赤外透過・発光、大きな磁気光学効果など、これまでのガラスの常識をはるかに超える優れた機能を有するガラスの開発に成功してきました。

興味深いことに、無容器法で合成した機能性ガラスの構造は、いずれも従来のガラスとは大きく異なっていることがわかってきました。従来の酸化物ガラスとは、主成分であるSiO2やB2O3などの網目形成酸化物が頂点共有三次元ネットワーク構造(図(上))をとる物質であるとされています。隙間の多いネットワークを形成しているため、充填密度は低くなります。それに対して無容器法で合成したガラスは、構造中に頂点共有ネットワークが形成されておらず、非常に充填密度が高い構造(図(下))となっていました。この高い充填密度が、優れた機能性の発現に繋がっていることはわかるのですが、原子配列との相関は現時点で不明です。またネットワークを形成していないにもかかわらず、そして高い充填密度にもかかわらずガラス化する理由もわかっていません。ガラスは融液を冷却して得られることを考えると、室温で機能発現を担う構造学的特徴を明らかにするだけでなく、そうした特徴ある原子配列がどのようなプロセスを経て形成されるのかを知ることは極めて重要です。そのためにはまず、融液や過冷却液体の構造と、粘性などの熱物性との相関を明らかにする必要がありますが、この課題に正面から取り組んだ研究はありません。

本研究の目的は、これまでにわたしたちが合成した機能性高充填密度ガラスについて、融液から過冷却液体を経てガラスに至る過程で物性計測と構造解析を行い、機能発現を担う構造学的特徴の形成プロセスを明らかにすることです。本実験では、高屈折率、高硬度、低熱膨張などの特色ある物性を示す様々なガラス系を対象としています。ISSきぼうのELFでは、密度と粘度の温度依存性を取得し、熱膨張係数とFragility Indexを算出します。これらはガラスになりやすさの定量化に重要なデータです。地上では、融液のラマン散乱分光や放射光X線・中性子回折実験、さらに計算機実験により融液の構造解析を行います。このとき、宇宙実験で得られた密度を用いることで、より信頼性の高い構造モデルの構築が可能となります。構造モデルは様々な幾何学的解析手法を駆使して解析し、機能発現を担うような特徴ある原子配列を抽出します。本研究で得られる物性と構造情報の相関は、高充填密度ガラスのガラス形成過程や機能発現メカニズムの解明に利用されるだけでなく、今後の機能性高充填密度ガラスの組成設計と合成条件の最適化に繋げることができます。

期待される成果

地上でのX線・中性子回折実験で得られる強度データを二体分布関数などの実空間データに処理する際や、計算機実験に、信頼性の高い密度の値が必要となります。融液から過冷却液体、そしてガラス化に至るまでの密度の温度依存性から、各状態における熱膨張係数を算出できます。また融液の粘度の温度依存性が計測できれば、Fragility Indexを求められ、ガラス形成能の定量化が可能となります。これらのデータは地上では原理的に得られないものであり、これまでは推定値しか使えなかった研究の信頼性を格段に向上させられます。本研究の成果はガラス科学の発展のみならず、機能発現のメカニズム解明を通じて、新規高機能性ガラス、例えばダイヤモンドを超える超高屈折率低分散ガラス、硬くて割れないガラス、温めると縮むガラスなどの創成に繋がることから、社会に与えるインパクトや、産業創出等の波及効果は大きいと考えています。

増野 敦信 MASUNO Atsunobu

京都大学 特定教授

2004年に京都大学大学院理学研究科化学専攻博士課程単位認定退学。京都大学化学研究所研究機関研究員、宇宙航空研究開発機構宇宙航空プロジェクト研究員、東京大学生産技術研究所助教、弘前大学大学院理工学研究科准教授、教授を経て、2023年4月より現職。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター
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