国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟に搭載された静電浮遊炉(ELF)を用いたInterfacial Energy※1の研究成果が、International Journal of Thermophysics(Springer Nature)に掲載されました。(論文情報)
溶けた鉄を溶けたスラグで包み込み、その揺れから二つの液体の境目に働く力(界面張力)を調べる。これが、宇宙実験テーマ「Interfacial Energy」が取り組んでいる界面張力の測定です。この研究を進めるには、鉄を包むスラグそのものの性質を知る必要があります。 学習院大学とJAXAの研究チームは、「きぼう」のELFを用いて、界面張力の計算に必要となるスラグの密度を最高1942℃まで測定しました。
- ※1 静電浮遊法を用いた鉄鋼精錬プロセスの基礎研究~高温融体の熱物性と界面現象~(Interfacial Energy)
- 研究代表者 渡邉 匡人(学習院大学)
- 研究分担者 清宮 優作(学習院大学、本論文の責任著者)、他
鉄とスラグの境目を宇宙で調べる
鉄づくりの過程では、溶けた鉄と「スラグ」と呼ばれる酸化物からなる融体が接しています。この二つの液体の境目には、境界面の面積を小さくしようとする「界面張力」が働きます。その大きさや温度による変化は、界面付近の流れに関わり、鉄鋼の製造や加工に影響します。
この力を調べるため、Interfacial Energyでは、鉄を内側、酸化物を外側とする二重の液滴を形成し、その界面張力を測定する手法の確立に取り組んでいます。
微小重力環境は、重力による二つの液体の位置の偏りを抑え、こうした液滴を保持するうえで役立ちます。また、静電浮遊炉を使えば、試料を容器に触れさせることなく加熱でき、容器との反応を避けられます。
最高1942℃までスラグの密度を測定
実験には、スラグの基本的な成分である酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化鉄を混ぜた試料を使い、酸化鉄の配合量が異なる3種類の試料を、直径約2ミリメートルの球にして「きぼう」へ運びました。
静電浮遊炉(ELF)での物性測定では、試料を浮かせたままレーザーで溶かし、冷えていく液滴の影を撮影します。その輪郭から体積を算出し、実験後に測定した質量と組み合わせることで、温度ごとの密度を求めます。
測定の結果、いずれの試料でも温度が高いほど密度がほぼ直線的に小さくなり、同じ温度では酸化鉄を多く含む試料ほど密度が大きくなることを確認しました。試料によって測定範囲は異なりますが、最高1942℃までのデータが得られました。
さらに、回収した試料の成分分析結果と密度データから、一定量の物質が占める体積を表す「モル体積」を求めました。鉄を最も多く含む試料では、単純な体積の足し算に基づく見積もりよりも大きな値となり、組成による体積の変化についても知見が得られました。
揺れから力を読み取るには密度が必要
液滴をわずかに変形させると、元の形に戻ろうとして振動します。この振動の様子を調べることで、界面張力を求めることができます。ただし、振動の速さは界面張力だけではなく、液滴の大きさや、それぞれの液体の密度にも依存します。
そのため、観察した振動から界面張力を計算するには、実験時の温度や組成に応じた密度を知る必要があります。今回の測定によって、高温のスラグの密度が温度や成分によってどのように変化するかを、実測に基づいて表せるようになりました。これは、二重液滴の振動を界面張力の値へと結び付ける重要な情報となります。
今後の展望
今回得られた密度データによって、二重液滴の振動から界面張力を計算するために必要な情報の一つがそろいました。今後、振動の測定結果と組み合わせることで、鉄とスラグの界面張力と、その温度による変化を調べていきます。
こうした研究は、鉄鋼精錬で起こる界面付近の流れや、鉄とスラグの分離を理解することにつながります。また、今回の密度データは、高温のスラグの流れや熱・物質の移動を予測するシミュレーションの基礎資料としても活用が期待されます。




